たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

業界の気持ちを汲みつつもチケット #転売NO にNOを唱える

最初の話が出てから随分経っているので今までの議論の繰り返しになるかもしれないけど、やっぱり書かずにはいられないと思ったので書く。

チケット転売NOとは、9月くらいに多くのミュージシャン及びプロダクションが連名で出した声明であり、とても簡単にいうと「各種転売サイト使わないでください」というようなもの。これが出て以降、ユーザー側や実演家側だけでなくオークション・市場取引などが専門の経済学者まででてきてそれぞれ主張をしてそれぞれの論が総じて賛否両論を巻き起こしている。なぜどんな論も賛否両論を巻き起こすのかというと、この問題が単純なチケット転売の是非だけではない、ライブエンターテイメントビジネスにとって根本的な複数の問題が絡み合った事案だからだ。なのでその辺を整理しつつ深掘りしていきたい。既視感ある議論が多いかもしれないけどご勘弁を。

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先に僕の立場を表明しておきたい。僕は所謂ダフ屋行為は許されないものだと思うのでもっと取り締まられるべきだしチケットキャンプをはじめとする非公式二次流通サイトの最近の広告攻勢は目に余るものがあると考えているが、そういったダフ屋行為を防止するために実演家側ができることはもっとたくさんあるはずだとも考えている。なのでこの宣言については自分達の怠慢をユーザー側に転嫁するとても残念な呼びかけだと捉えている。

 

さて、本件に関連する問題というのは一体どんなことがあるのだろうか。

  • チケットの値付けと販売システム
  • 関連する著作権料の制度
  • 公式リセール制度の不備?と二次流通サイトのスタンス
  • 本人確認や電子チケット

 ひとつひとつ解きほぐしていきたい。

 

 まず、なぜ高額な転売が起きるかというと、チケットを買いたい側の人が「このチケットを得るためならこれだけまでなら払う」と思う金額と実際の販売価格に大きな差があるからだ。こういう経済学の理論っぽいことを言うと怒る人がいるが、極めて抽象化するとこういう話にならざるを得ないのだから仕方がない。要は値付けの失敗だ。特に演者がよく見える最前列エリアの席は特に値上がりしやすく、販売価格と購入者側の考える価値との開きが大きいことがわかる。

これを助長しているのはJ-POPの多くのライブで行なわれている「ほとんどの席種で値段が同じ」である現象。1万人規模の会場でも1階最前列と3階最後列の価格が同じ、ということはザラだ。海外アーティストでは最前列エリアが一番高い状態で遠く・見辛くなるほど席の価格が安くなるようになっている。

この辺の話については津田大介さん・福井健策さんの対談にうまく話がまとまっているが、プレミアム席を作れないというのは実演家側の「観客を値段で差別したくない」というロマンティシズムもあるのだけど、著作権料の算出方法が影響している一面もある。JASRACのサイトによると、基本的にライブの著作権料は「平均入場料×会場の定員」に一定の比率をかけて算出されるもの。なので入場料を部分的に高くすると減収してしまう、というジレンマに陥ってしまう。この辺は修正されるべきだろう。まさに業界全体で考えるべき問題、というわけだ。(レンタルCDの話で調べたときにも思ったのだけど、JASRAC著作権料徴収・配分ルールははっきり言って現代の多様化した実演・視聴形態やデジタル時代に対応しているとはとてもいえないと感じる)あと、第1期BiSの解散ライブでチケット代1円の見えない席というのがあったけどこのシステムを逆手にとったものなのかな、とか。因みに洋楽の著作権料はJASRACが管理していないのでこのメカニズムは働かずそれなりに席種ごとに料金がわけて設定されるようになっている。

 今言ったような話を業界の人が認識してないのかというと全くそんなことはなくて、コンサートプロモーター協会会長のディスクガレージ中西社長はインタビューで「席種だけでなく曜日などからも柔軟に価格設定された方がいいのではないかなど考える時期だ」という旨を話している。じゃあなんで最終的にああいう声明になったんだという向きも出てくるが、そこはまあ利害者賛同者が多種多様すぎるのではないかと考えられる。事業分野が多岐にわたる会社の全社方針が全事業部門を意識しすぎて「がんばろう」的なスローガンめいたものになってしまうようなものだ。参加者が増えれば増えるほど全員を満足させる提案は難しくなる。ただ同じディスクガレージの人でも主張のトーンが違うのはどうなのかと思うけど。

まあそんなわけで中西さんの言うように色々考えるべき点があって人気公演では先行販売が事実上の一般販売になってる中で「先行→一般」の販売順序には意味があるのかとか、電子チケットを活用できないかとか色々話が出てくる。特に後者は後述。ただ、需給が水モノになる以上先行で確保できることにプレミアつけるのかが正しいか、安く売るのが正しいか、というのはどっちも成立するので一概にどっちが、という話でもない。ちなみに前者の観点に立つとチケット販売サイトの先行手数料も説得力を持つのだがそれはもうすでに一度書いたしここでは改めては触れない。興味がある人は下記記事を読んでみてくれれば。

tanimiyan.hatenablog.jp

そんなわけで値付けを高くして売るのが困難、となると需要と供給のミスマッチによる値上がりが発生しやすい状況になる。そこで出てくるのがリセール、という話になる。ただ、3大チケット販売サイトでリセールシステムを設けているのはぴあだけで、しかも定価のみとなっている。定価だけでも「行けなくなってしまった!」という自体への対応としても十分働くのだけど(特に近年は大箱ライブを半年以上前からチケット予約開始するケースも多々あるので尚更)、ここでチケットキャンプなどの「サードパーティ」転売サイトを使うと買った時より高く売れることもあるし、ピアの公式リセールよりも一目につきやすいし定価譲渡といいながら手数料取られるしそもそもあれ発券済みチケットには使えないから、てなことでチケットキャンプとかの方がはるかに使う気になる、というわけだ。それを追い風であるかのように捉えてチケットキャンプが(そうでないのに)公式のものであるかのように捉えさせるネット上の「〇〇のチケットが1,000円〜!?」というのは倫理的にはアカンやつだと思う。ああいうCMを打つってことは彼らも「非公式であること」がアキレス腱なのであるということがわかっているということなんだろうけど。

 とはいえ、非公式のものの方が公式のものよりも使いやすい、というよりも公式のツールや仕組みがえらく使いづらいというのはこの国のエンタメ産業が抱える問題でもある。この前宇多田ヒカルの「Fantôme」を買ったときに「プレイパス」というレコチョク謹製のアプリでスマホ用データ手に入るよってことで早速使ってみたんだけど、よく落ちるしライブラリの検索機能ないし使えないな〜という感想を抱かざるを得なかった。リセールもそうだし電子チケットもそうだ。ぴあやイープラスはそれぞれしか備えてないし両方備えている電通系のticket boardは取扱公演数がめちゃくちゃ少ない。じゃあPeatixとかがいいかと言われるとインフラ貧弱だしそれはそれで厳しいんだけど。そんなわけで最近は電子チケットはファンクラブ連動にしてファンクラブ運営業者がやったりしてる。サカナクションとかもそうだった。ただしそれだとファンクラブ入らない人にはその仕組みが使えないことになったりもするしやっぱり共通の基盤があった方がいいんじゃないかという気がしてくる。というか電子チケットのみならず本人認証の仕組みやリセールなど、各種チケット販売プラットフォームで揃えてパッケージ化してもらった方が行き渡りやすくなるだろうなと思うところ。そういったサービス料金への転嫁をきちんと説明すれば各種手数料だって長期的には受け入れられるのではないだろうか。

結局転売がどうだって話より、業界側がユーザー側に説明することを怠っているように見受けられること、ユーザー側の行動変化に期待しててシステムで縛ろうという意志が弱いあたりが問題の根源にある気がする。本気で解決したいなら、ロジカルに施策を打ってほしい。少なくとも現状ではユーザーに責任を丸投げする行為とも捉えられかねない。日本の音楽をめぐる環境が厳しさを増す中、ユーザーへの説明責任を怠ってはいけない。音楽業界は音源販売の規模が縮小しているのでライブで稼ぐ方向にシフトっていうのはすでに色々なところで言われている話だけど、値付けからしてビジネスとして未成熟な部分が多い。それに大規模ライブなんかだと半年以上前からチケット申し込みを開始しておいてその後行けなくなった場合のキャンセルなんかも受け付けていない、というのは一方的な面もあるしそこまで万難を排せる人以外は来なくてもいいですよと言っているような感じでもある。ここからライブが文化として落ち着くためにはまだまだやらなくちゃ行けないことがたくさんある。そしてそれはあくまでも実演家及びチケット一次流通会社が努力するべきところである。別に銭ゲバになるんじゃなくて長期的に顧客を繋ぎとめられる真っ当な商売をしてほしい。まずはそこからだから、今の状態での「転売NO」には私はNOと主張したい。

ブログの移転とこれからについて

ここ2ヶ月くらいの話なんだけど、ブログのURLをTwitterで投稿しようとすると弾かれる事案がずっと続いていた。色々なサイトを見てみたところ「各種URLチェッカーでスパム扱いされてないかチェック」「Twitterのサポートサイトから解除依頼をする」の二つが必要、とわかった。前者は大丈夫だったので後者をやってみたが全然音沙汰なし。

 

というわけで埒があかないので暫定的ながら移転することにしました。はてなブログにしたのは単純にはてなユーザーだから。エクスポートしてインポートするだけだとどうにもいい感じにならなかったのでエクスポートしたファイルを直接編集してリンク修正などしてインポート。それでも個々のページが完全にインポートできなかったので個別に修正。ひとまず2015年までの記事はほぼ直しました。

 

色々これまで作ってきた資産が惜しい感じがあるけど、ひとまずはてなブログの方を当面更新していきますんでよろしくでし。

「好きな曲が1曲だけのCDアルバムをタダであげます」と言われたらどう答えるか

昨日TWEEDEESの沖井礼二さんが、奈良のレコードショップであるジャンゴレコードの店主のツイートを取り上げてこんな疑問を発していた。

実は引用した上記ツイートには下記の通り前段がある。

それがあまり読まれていなかったからか、沖井さんに来たリプライ自体は「CDがいい、配信がいい」「今時音楽は無料」的な繰り返されてきたテンプレトークが殆どだったのだけど、この問い自体は結構面白いんじゃないかと思って少し考えてみることにした。「好きな曲が1曲だけのCDアルバムをタダであげます」と言われたときに、どう答えるか。

僕の回答はおそらくこうだ。「1枚目はたぶん喜んで受け取る。ただ何枚ももらえると言われると却って躊躇してしまう」。それはなぜか、という個人的な意見から色々迷走しながら話を膨らませていきたい。

なぜ最初はいいのか。多分あまり考えてないということもあるけど、CDが増えていくと取扱に困る、というのはある。ジャンゴの店主がミニマリスト的、と述べてたけど実際この辺は多くの音楽好きには由々しき問題で、僕自身引越しの時にCDをケースから分解してKOKUYOMEDIA PASSというソフトケースに入れて体積を1/3くらいまで減らしたくらいだ。(全てのCDをインポートしている訳ではないのでとりあえず残した)

もう一つは、1曲のために入手したCDはその曲以外あまり聴かないだろうなあという予感があることだ。僕の家にはフリーサンプラーでもらったCDが十数枚(いやもうちょいあるかな)あるが、それらの中には一度も聴いていないものも相当数ある。なので最近はサンプラー受け取るのも躊躇しがちだ。なんでかというと他に聞きたいものがたくさん出てきてしまうからだ。この「音楽好き(なんでカッコ付きなのかは後でわかる)」特有の「聞きたいものが湧き出てしまう」現象は本当に厄介。旧譜も含めると聴ける音楽の量は増え続けていて、さらに大抵のものが古びない(これはあらゆる芸術・エンタみに言えそうだけど音楽は特にそうな気がする)ので、終わらない旅をずっと続けられる。なので好きな曲がただ1曲だけ入ったCD貰うなら他の聴かないし配信で1曲買いますよ、となるなあとこの話を眺めながら感じた(それはそれでレジーさんがよく言ってる「手癖で音楽聴く」みたいな話になってしまうのでよくないなあというのはわかっているのだけど)。とか言いながら同じCDを何枚も買う行為自体も引き続きやってるのであまり説得力がないかも。笑

そんなことを考えていたわけだけど、この理屈だとこの答えに「1曲だけのためにCDを買うのは…」と思ってしまうのはむしろ音楽好きな人の側なのではないかな、という気もしてくる。数多くの曲を聴く習慣がない人にタダでCDをあげること自体は割とアリなのかもしれない。僕は「最近音楽好きの人が減った」的な言説はあまり信じていない。今の新しい音楽に興味を持つ人(これだけ捉えて「音楽好き」と呼称するのもなんか変な話だ)は減ったけど好きな曲や歌が全くないという人はそんなにいないと思っているので、その人が新しい音楽に会うきっかけになればタダであげるのも悪いことではないのではという気もする(個人的な体験で恐縮だけど、複数枚買ったCDを周りにいる新曲とかあまり興味ない人に渡しても割とすんなり受け取ってくれる)。

 

とりとめもなく考察と言えるのか微妙な考えを巡らせていたけど、この質問は結構面白いなあと思った。その人の音楽に対する姿勢が垣間見える質問な気がする(当然だけど、どんな答えが出てきても悪いことは全くない)。さて、「好きな曲が1曲だけのCDアルバムをタダであげます」と言われたら、あなたはどう答えますか?

 

あ、それから沖井礼二さんと清浦夏実さんのバンドTWEEDEESのニューアルバム、先行曲がよくて期待できるのでお楽しみにだね!!

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武藤彩未さんの発表を見て現代に生きるソロアイドルの大変さを改めて思う

昨日5月31日、アミューズのWebサイトにて、活動休止中だった武藤彩未さんが同社とのアーティスト契約を解除したことが唐突に発表され、それを受けて本人からツイッターでコメントがあった。

これを読んで僕が考えている楽観的な仮説を以下に記す。

  • 「アーティスト契約」は終了したけどアミューズがまだマネジメントしている可能性は高い 今年3月末に卒業して即芸能界引退になったさくら学院卒業生がアミューズのサイトでは「契約終了」と記載されていたことと比べると違いがある。武藤彩未の所属レコード会社はアミューズA-Sketch(ここもアミューズの子会社なんだけど)の共同設立レーベルであるSHINKAIなので、要は事務所直系。わざわざご丁寧に「留学後の活動は未定」とまで書いてあることやTwitterのアカウントはこれからも残るっぽい(またツイートしますと言ってるし)。これまで契約がなくなったらアイドルのアカウントが消えるのを何度も目撃してきた身としては、「これはちょっと違う」という気になっている。多分留学が長期化するので「◯年で◯枚CDリリース」みたいな縛りから解放した、ということなのではないか。
  • 本人は歌手やる気。ただしアイドルとして、ではない・・・? 書いてある通り本人はボイストレーニングを受けたりしててるしまだ歌手としてやっていく意思を示している。しかし、自分をどう表現したらいいのかと言っているように迷いがあり、おそらく活動休止前と同様の形態は望むべくもない。歌唱力・表現力については抜群なので、正直事務所もどうしようかわからないのではないだろうか。そんな中我らがベースマスターがこんなことを言っていたので期待しとくw

そんでもって、彼女が活動休止を発表した時に感じた「ソロアイドルが現代で活動することの厳しさ」というものを改めて実感した次第。現代はアイドルブームだとか何だとか言われているけど、あくまで「グループアイドルの時代」であり、ソロで大成したアイドルは文脈の違うところから出てきたきゃりーぱみゅぱみゅを除けば皆無に等しい。どうしてだろう。数え上げたらきりがないくらい理由は出てくる。

  • 一人だからダンスが少ない。ゆえに見栄えしない。(きゃりーちゃんはキッズダンサーとかいっぱい入れてステージが簡素になるのを避けている)
  • 握手や何やでCDを売ろうとした時に、メンバー数が少なくて多くのお客をさばけない。
  • グループは誰か一人でもひっかかればOKだけど、ソロだと0か1かになってしまう。
  • 女性ソロ歌手と区別が曖昧

4番目は深刻な問題ではないか。miwaや大原櫻子とソロアイドルはどう違うの??という疑問が出てきてしまう。

miwaは自分で曲を書いているからシンガーソングライターだよねって区別できるけど(それでも彼女たちSSWをアイドル的に見てる向きは多い。とか言ってると小金井の事件に当たってしまうので深くは語らない)、大原櫻子は自分で曲を書いていない(歌詞は一部共作している)。そういうあやふやな状況下で「私はアイドルです」って言い切っちゃうことでかえって自分の客層を狭めていないかな、ということを考えたりしてしまった。中田ヤスタカプロデュースで海外ウケしてティーンが好きそうなファッションをしているきゃりーぱみゅぱみゅみたいに引っかかりどころが沢山あるならまだしも、だ。前回「〇〇系」みたいな話して「アイドル」もそういう音楽性とは別レイヤーのカテゴライズだという話をしたけど、それゆえに、曲の感じで引っかかるかもしれないけど「アイドルだから」敬遠するという人は確実にいる。武藤さん自体の80'sアイドル路線が正しかったかどうかは述べない。個人的には素晴らしいステージングだと思っているのだけど。

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武藤さんにはまた歌って欲しいと思っている。因みに、アミューズには阪本奨悟という「一度抜けて数年して復帰した」タレントがいる。だから気を長くしてまっとけばいいかな、という楽観的な気持ちでいるのがよろしかろうと思うわけです。

あと、ポニーキャニオンに3年間飼い殺しされた南波志帆さんもそうだけど色々と呪いになってしまうので「10代のうちに武道館」とか無理目の目標立てさせるのはやめよう(武藤さんについてはそれなりに練っていたのだろうけど)、ということを改めて思いつつ、特に結論はなく終わる。

音楽における「○○系」はジャンルなのか、という話

ネットでは定期的に渋谷系について盛り上がることが多いけど、つい最近もこんな話があった。

lit.hatenablog.jp

mohritaroh.hateblo.jp

僕が1つめの記事にはてなブックマークでコメントしたことを起点として2つめの記事が書かれているので、なんとなく乗っかりたくなった。

2つめの記事では渋谷系の源流となっている音楽として「ポストパンクとインディムーブメント」「モッズおよびそれを経由したソウルミュージック」「DJカルチャーとクラブミュージック」を挙げている。その結果渋谷系と一口にいっても多種多様な音楽がそこに含まれるしその中には共通性を見いだしにくい物も多い。もっとも記事中にて「ジャンルについて考えるときは代表的なバンドの共通点ではなく、全部を包含する物(集合でいう和)を考えた方が良い」という旨書いてあってそこはまあ頷けるところではあるんだけど、個人的な感覚からすると「渋谷系」に共通する物は音楽性ではなく創作姿勢なんじゃないか、という気がしている。この辺は僕が敬愛しているCymbals沖井礼二さんがテレビ出演して話した渋谷系講義の内容に影響を受けてる面が強いけど、若杉実さんの「渋谷系」でもDJカルチャーをベースとした温故知新のムーブメントっていうとらえ方をしているし、そんなもんなんじゃないかな、と。

そこで思ったんだけど、「○○系」と言われる物って音楽的特徴でくくるのが難しいけどその一方で「ジャズ」とか「メタル」(これらも最近色々定義が拡張して揺らいでるけど)とかと同様に音楽を分けるジャンルとして使われるのって、なんか色々不具合を起こしてるんじゃないかという風に思った、というのが今回の趣旨です。

●幅広い「○○系」とカテゴリ音楽

渋谷系と並んで(いやむしろそれ以上に)使われることの多い「○○系」と言えば「ヴィジュアル系」だ。ゴールデンボンバーが「†ザ・V系っぽい曲†」という曲を出しているが、確かにこの曲は「V系っぽさ」のある部分が端的に出ている。

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ヘヴィメタルっぽいリフとドラムにどちらかというとハードロックっぽいリードギター。この激しい感じがヴィジュアル系音楽の特徴として一番分かると思う。今だとthe Gazetteあたりがそんな感じか。しかしながら、これは割と純化したものでLUNA SEAなんかはハードコアパンクっぽい感じだしGLAYとかシドになってくると特徴とも言われる激しさみたいなものも控えめな感じになってくる(あくまでこのカテゴリーで、という話だけど)。あとはゴシックロック的なMALICE MIZERやら枚挙にいとまがない。2003年とちょっと昔に出版された「ヴィジュアルロックの時代」という本では、ヴィジュアル系バンドの音楽的特性について源流など含め分析しており、多くはヘヴィメタル・ハードロックと位置づけているがパンクやグラムロックなどからの影響も示唆している。

というかそもそも「ヴィジュアル系」という名前からして、共通項は音楽性よりもその外見や立ち振る舞いの方にフォーカスされる方が多かったりする。音楽はその日現実感を増幅させるような使われ方をするので激しいものになるのではと考える。というかそういうもんでないと「V系っぽい」なんてタイトルの曲はネタだとしても成立しないよな、って感じはある。「アンビエントテクノっぽい曲」とか「シンフォニックブラックメタルっぽい曲」というタイトルの曲は出せるのだろうか。笑

一方で、狭義のジャンルは細分化が進んでる。新しいものが出てくるとそれを言い表す言葉が必要になるということがずっと続いている。でも今全く新しいものが生まれるかというとそういうことはなく、基本的に今あるものからの分派みたいな感じだ方仕方ない。メタルなんか典型的で「ヘヴィメタル」のサブジャンルに「デスメタル」があり、そのサブジャンルとして「メロディックデスメタルメロデス)」や「シンフォニックデスメタル」となったり…という風になっているし、テクノとかクラブミュージックも日々新しいジャンルが出来ている。そういった話に対して、「○○」系はむしろ言葉はそのままでそれが包括する対象がどんどん拡大している、というタイプのものなんだなあと日々感じるところである。

●日本において「○○系」とは何か

こうして考えると「○○系」とは、音楽的特性ではなく、そのアティテュードや外部特性などによって規定される類の音楽なのではないか。そう考えると、そういう類の音楽が日本では他にも隆盛を誇っている。アイドル・アニソンといったものがそれに当たる。以前「アニソンやアイドルといった分類はジャンルではなくタグでは」という議論があったけど、それはその通りで、ジャンルより一段上のレイヤーというかカテゴリーというかそんな感じ。「渋谷系っぽいアニソン・声優ソング」とか「メタルアイドル」とか、組み合わせで語られることは多い。

海外在住経験が無いので一概に日本ではこうだよみたいな事は言えないけど、マーティ・フリードマンなんかもよく言ってるとおり「ジャンル」に対する帰属意識みたいなのが薄いからこういうカテゴリーベースの音楽が色々出てきて面白くなっているんじゃないかな、と思うところ。混ぜたりするのに躊躇しないし、リスナー側も何でも聴いたりするから何やってもいい感じがある。あとはかな文字から何から、異文化を取り入れてアレンジして自分たちの物にしていく貪欲な国民性かな。ちょっと風呂敷広げすぎたかも。

そうすると、いわゆる現代ジャズ(ジャズを起点に拡張された、クロスオーバーな音楽)のミュージシャンが日本でも一定の人気を持ち、それらのミュージシャンにフォーカスを当てたムックシリーズ「Jazz The New Chapter」が2016年春時点でシリーズ3まで出版されているということはそういった日本人リスナーの気質とマッチしたから、ということが言えるのではないだろうか。(この前提としてはこれらのミュージシャンが本国での認知度がめちゃくちゃ高いというわけではないという背景がある。ロバート・グラスパーエスペランサ・スポルディンググラミー賞を取ったけどその割にはSNSのフォロワーはたかだか十数万とか数十万だ。まあそれをもって有名とするかどうかに疑問の余地があるのは認めるけど。因みにエスペランサの方がバラク・オバマノーベル賞受賞祝いのこともあってフォロワーやいいねの数は多い)これ自体まだ名称が定まっている訳ではなく「JTNC系」「今ジャズ」「リアルタイムジャズ」など様々な呼ばれ方をしている。これらは温故知新的かつクロスオーバー的な音楽性もさることながら、その包含範囲の広さも日本の音楽リスナーと相性が良かったのではないかな。

そんなところでNHKの「ニッポン戦後サブカルチャー史」で渋谷系についてやるそうなので、これを見ながらまた色々考えようかなあという感じ。

宮沢章夫、風間俊介らによるサブカル史番組の第3弾、テーマは90年代

今日はこんなところで。ちなみに僕は渋谷系も現代ジャズも好きですw

大手チケット販売サイトの手数料とかについて僕が考えていること

ぴあ・イープラス・ローチケの3大チケット販売会社は、音楽ファンからの評判がすこぶる悪いことでも有名である。いや、たぶん音楽だけじゃなくて取り扱っているエンタメ全般のファンに嫌われているといった方が正しいのかもしれないけど、とにかく嫌われている。僕もこれらの事業者のサービスに満足しているわけではないが(ここ重要)、なんか文句がいちゃもんに聞こえるときもあるので、自分なりに考えていることを整理してみたいなと思った。次のことについて書こうと思う。

  • 各種手数料
  • 土曜午前10時のサーバーダウン
  • その他

繰り返しだけど、僕はこれらのサイトの回し者ではないしお金ももらってない(だからステマなどでは決してない)ということ。

●手数料は正当なものなのかという話

とにかくまず挙がるのが「色々手数料を取っている」という話。ここで挙げた3社やイベンター(DISK GARAGE・ウドー等)の直営サイトなんかで行われる先行販売の際にはとにかく話題に上がる。先行販売に申し込むとチケット代以外に特別先行販売手数料500円+システム利用料250円+発券手数料108円で合計1000円近く加算よ、なんてことはざらだ。お財布の中身は有限なのでそりゃあ高いより安い方が良いよ、というのは心情的にはよくわかる。じゃあこれらの位置づけって何なんだろう、というのが最初のお題。まず、ぴあイープラスローチケそれぞれのサイトの説明を見ても、それが何かということは殆ど書いていない。なので、ここからは推測なのだがほぼ間違っていないと思う。手数料の内容・意味は下記の通りだろう。

  • 発券手数料:実際のチケット印刷や封詰め代+(店頭行けば)どこでもチケットを買える事への対価
  • 決済手数料:その名の通り。コンビニとかからチケット販売業者への送金とかの手数料
  • システム利用料:各種サイトに(文字通り)どこからでもアクセスしてチケットを予約できる事への対価
  • 先行販売手数料:一般販売よりも前にチケットを押さえられる権利への対価

発券手数料。これを考える際には手売りされているチケットとの比較が一番わかりやすい。手売りされているチケットは、既に印刷もされているのでその場で手渡しされればすぐ使える物になる。しかし、みんなが興行者なり出演者から直接チケットを買うことは出来ないのでこういったチケット販売業者が出てくることになる。そうするとその場でチケット印刷をして手渡しすることになるのでそのための対価(材料+人件費)とそもそも店頭に行けば興業者から直接買える事への対価だろう。そしてシステム上で即完結するクレジットカード以外は出先と販売業社間の送金が発生するので手数料いりますよ、と。恨むなら金融機関を恨もうw

とはいえ店頭に素早く行けるわけでもない事情というのは存在する(最近はコンビニが取り扱いしてくれるから良いものの、昔はチケット販売業者の出先でないと買えなかった)。なのでネットや電話を通じて押さえて後で店頭に行って発券したいというニーズが出てくる。その対価がシステム利用料だろう。電話でもネットでも同じ価格である場合が多いが、まあいちいち分けたりするの大変だろうな、という感じはする。

ここまではあくまで一般販売されているチケットについての考察だが、最近は行きたい人が多く販売時に人が殺到するケースもたくさん存在する(実際は昔からそうだったんだけど)。そうするとシステム側でも捌けないし、そもそも発売日に即完売では公平に行き渡らないよねってことで最近増えているのが先行販売。この制度自体はそれこそインターネットでのチケット販売がなかった20年前位からあったけど、ファンクラブやぴあカード会員など「一定の対価を既に払っている人」向けの施策だったと記憶している(違ったらすみません)。なので、一般販売よりも前にチケットを確保できる権利への対価として先行販売手数料という物が出てくる、と考えられる。そして恐らく各社ここで稼いでいるのだろう。特に大物アーティストのツアーを丸ごと独占先行!みたいなのは販売業者の営業さんがアーティスト側に頑張って営業かけて獲得した案件、ということでしょう。今は先行で取るのが当たり前みたいになっているけどそもそもは一般販売がベース(この精度が良いかどうかはさておき)とすると、合理性はあるのではないか。

余談だけど、この特別先行手数料の価格は概ねチケット代に比例しているようだ。そのため同じ公演で極端に価格差がある場合(ポール・マッカートニー日本武道館公演など)には安いチケットの特別販売手数料が高いチケットの手数料に引きずられてチケット同額とかいう冗談みたいな状態になってしまう。それは何とかしてよ、と思ったり。(よくヤフオクなんかでダフ屋行為が問題になるとプレミアム高額チケットを出した方がいい、という議論が出るが現実にそうならないのは公平性の確保以外にこういう融通の利かないシステムに原因があるのかもしれない。)

そういう風に考えると、ある程度手数料類も納得いくんだけど、正直に言って各チケット販売会社はここら辺についてもっと周知するべきだろう。通販(特にAmazon)の送料についてダンピングとか下請け締め付けとか話題になるけど、そういう心配をする人達もチケット販売の手数料については一様に文句を言っているというのが率直な印象だ。PR大事。

●土曜朝10時になるとサーバーが落ちる件について

各種チケット販売サイトの一般販売開始が土曜日の朝10時なのはなんでかというと、やはりその時間帯が一番「人の活動が少ない」即ち店頭にチケットを買いに来られる人が多く、なおかつ電話や何やらが他の用途で使われてて邪魔になることが少ない時間帯であるということだろう。以前は日曜の朝10時、というのもあったような気がするけど、週休2日が普及してからは土曜日が主になったはず。それこそ20年前に、母親と弟が大宮ソニックシティでやるtrfのライブチケットを取りに駅の反対側にある西友にあったぴあだかチケットセゾン(今のイープラス)の店に朝から行ってたのを記憶している。ただ取り扱い点数が増えた上にインターネットでの販売も普及した今ではその時とは比較にならないくらいのリクエスト量が集中して電話は繋がらない(昔もだったけど)わネットではサーバーからエラーメッセージが出るわで購入メニューに行くのも一苦労、というわけだ。それゆえに先行販売をする公演が昔に比べて広がったという側面もあるんだけど、それにしても土曜朝10時は地獄の時間だ。

IT業界の隅っこにいる人間からしたらクラウド化して負荷に応じてリソースを増やしたり減らしたりするElasticな形態にすればいいじゃん、と思ったりもするんだけど、そうも許さない事情があると考えられる。まず一つは価格比較をして多分クラウド化した方がまだ運用含めて高くつく、という計算になっているということ。もう一つはぴあが2008年にシステム入れ替えに失敗して各興行主に敬遠されて大赤字になり希望退職を募集するまで至ってしまったことの記憶が業界に残っており、業界全体として若干保守的なのではないかと見られること。あとは電話とかはどうにもならんじゃんとかあるけど。

じゃあPeatixとかのスマホチケットはどうなのよみたいな話が出てくるけど、その昔ももクロのイベントを先着順で受付用としたらサーバーが落ちて半日復旧できなかった事案があったように、規模的な面を考えるとそれだけのリソースを用意できないという事情がある。そしてやっぱりそういう投資余力を手数料収入で確保してるんだろうなあというかんじ。スパイク(突発的な負荷上昇)への対策というのは、クラウドでやるにしても意外と面倒なものだし、普通のサーバーだと平常時との乖離が激しければ激しいほどどこに合わせてリソース設計するかという話になる。例えば土曜日午前のアクセス数が平常時の5倍だとしたら、それに合わせて設計すると1週間のうち160時間以上は8割もリソースの無駄が発生することになる。それは企業として取れる選択肢なのか。因みにぴあは上場企業なので決算書が公開されているから見てみる(PDF)と、いろいろとチケットサイト特有の特報が出ていて面白いです。「固定資産の中に占めるソフトウェアの金額比率の高さ」とか。

●結論のようなもの

この記事で言いたいのは殆どが「手数料は別にそんなに不当な物ではない」なんだけど、事業者側も寡占事業になっていることにあぐらをかいてサービス品質の向上にあまり取り組んでなさそうなところや説明不足なところについては「それでいいの?もっと頑張れよ」という気持ちだ。実際ネットからの購入大変だし、ローチケとか個人情報入力させすぎ(Pontaおサイフケータイ登録すると格段に楽になるけど)だし。因みに僕は新興勢力のスマホチケット系にはそんなに期待していない。先に挙げたシステム障害もさることながら、全国各地の公演をカバーしていくのはネットだけではしんどいんじゃないかなあと思っているところがあるからだ。

それでも定価リセール(ぴあ)とか電子マネー対応(ローチケ)とか少しずつ良くはなっているので、まあもっと頑張れ、って感じ。まあ何事もそうだけどダメなところは参考にせず、良いところを見習わないとね。あまり締まらないけどまあそんなところです。

BABYMETAL「METAL RESISTANCE」はどういうアルバムなのか

BABYMETALの新しいアルバム「METAL RESISTANCE」、びっくりするくらいに売れている。

 

日本では3代目J Soul Brothersのニューアルバムと同時発売だったため順位は2位だったが、1週間で前作の累計売上を上回る13.7万枚の売上をたたき出し、2週目も2万枚3週目1万枚でもしかしたら20万枚行くんじゃないの、ってペース。さらには日本だけにとどまらず米ビルボードで39位(日本人のベスト40入りは坂本九以来53年ぶり)、英オフィシャル・チャートでは15位など、各国で高順位につけている。南米や北欧などのメタルが盛んだけどプロモ足りてない地域ではそれほどでもないけど、それにしてもすごいセールスであることは間違いない

このアルバムのインパクトについては(かなり大風呂敷広げた記事だけど)柴那典さんが書いているし、全世界同時発売日の翌日に行われたウェンブリーのライブについても行った方が空気感の伝わる参加記をしたためてくれている。そしたら僕はアルバム自体についてまるっと書いてみますか、という結論に至った。なので書く。

まず全曲簡単に総ざらいして、そのあと全体の方向性とかを読みたい。

●ド・キ・ド・キ☆全曲解説

これでは前のアルバムではないかというのはその通りだと思います。MVと参考動画でYouTubeを貼りまくったために重くなっちゃってごめんなさい。

1:Road of Resistance

この曲については前に解説記事を書いてるから詳しくはそっちを参照してちょ。初出は2014年の1stワールドツアー追加公演ファイナルにあたるロンドン公演。ドラゴンフォースのサム・トットマンとハーマン・リが参加しているバリバリのパワーメタル。シングアロングで盛り上がるんだけど、背中を押してくれるかのような力強さを持つメロディがシンプルに好き。いい曲だと思います。

www.youtube.com

2:KARATE

MV作られてるのでこの曲が多分リードトラックその1。初出は2015年のJAPAN TOURファイナルの横浜アリーナ公演。ゆよゆっぺによる、彼が前作で手がけた「悪魔の輪舞曲」みたいなメシュガーっぽいジェントにソイルワークみたいなメロデス風味を足し合わせた重厚な曲。MIKIKOMETALによるMVの振り付けは、同時期に出たPerfumeFLASH」のそれと好対照になっていて面白い。

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3:あわだまフィーバー

「ギミチョコ!!」を作曲した上田剛士による、MAD CAPSUKE MARKETSを彷彿とさせるインダストリアルメタルチューンその2。初出は2014年の12月に開催されたファン限定イベント「APOCHRYPHA−S」。「ギミチョコ!!」と同じで、歌詞にほとんど内容はない(笑)。それからBPMが220から180に落ちてるがその分ドラムの音数が増えているのでそんなに遅くなったようには聞こえない。

4:ヤバッ!

「KARATE」同様ゆよゆっぺ編曲によるエレクトロニコア/ピコリーモ(メタル・ハードコア+エレクトロチューン。例:Fear, and Loathing in Las Vegas、Crossfaith)チューン。スカのリズムが入っているのはメタルとしては珍しいかもな、と感じるところ。初出は2015年6月の2ndワールドツアーファイナルの「巨大天下一メタル武道会」で、その後ファンクラブ限定ライブにあたって行われた楽曲リクエスト投票時には「違う」というタイトルだったので、長らくそっちの方で呼ばれていた。なんだかんだで未だにレコーディング音源の半数以上が打ち込みで作られているベビメタの曲だが、その中でも一番打ち込み要素が高いと感じられる曲。

5:Amore - 蒼星 -

扱いとしてはSU-METALのソロ楽曲(YUIMETALとMOAMETALの声が入っていない)。「イジメ・ダメ・ゼッタイ」や「紅月 - アカツキ -」のアレンジをしていた教頭による、それこそ「Road Of Resistance」以上にDragonforceっぽいド直球のパワーメタル。いたるところにDragonforceっぽい早弾きやピロピロギターが出てくる。タイトルから察しがつくと思うけど「紅月」と対になるような曲。歌詞もそんな感じで、紅月同様ベビメタにしては珍しいラブソング。

6:META!メタ太郎

タイトルから「いったいどんな曲なのだろう…」と思われてたこの曲、蓋を開けてみたらヴァイキングメタルだった。ヴァイキングメタルというと僕はコルピクラーニばかり思いついてしまうんだけど、そこまでフォーキー(民謡風)でもないなあ。因みに、日経エンタテインメントのインタビュー記事によると、男声バックコーラス(と言っていいのか)は実際にスカンジナビアのヴァイキングの人たちに歌ってもらったとのこと。SU-METALの今作のお気に入りソングだとか。曰く「BABYMETAL史上最もかわいい曲じゃないですか(笑)?」と。お、おう……

ただやっぱヴァイキングといえばこれだよな〜〜あんまり近くないけど(貼りたいだけ)

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7:シンコペーション

7曲目は国内盤と海外盤で全く違う曲が収録されており、こちらは国内盤限定収録の曲。シンコペーションとは何かということについては前に書いた記事を読んでください。次の小節から音を先取りすることで結果的に前のめり感を出す効果があるわけだけど、そのシンコペーションをメロディに多用しつつ歌詞もその「前のめりな心情」を出したものになっているという、ダブルミーニング的な楽曲。楽曲については実は一番メタルっぽさが薄いというか、V系メタルとかジャパメタとかそういう感じで、わりかし普通のJ-POPっぽいなあって感じの曲。いたるところに入っているシンセはcoldrainとかCrossfaithあたりにありそうな感じ。

7:From Dusk Till Dawn

海外盤で「シンコペーション」の代わりに収録されている、全編英語詞の曲。ディスクユニオンとかHMVで普通に輸入盤売ってるからそれ買えば聴けるわけですが。ちなみにタイトルは某映画からそのまま持ってきているという…笑。楽曲の分類としてはゴシックメタルという感じで、エヴァネッセンスとか辺りが近いかも。

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実際の曲はこれの10倍くらい緩急がついた感じです。

8:GJ!!

YUIMETALとMOAMETALの「BLACK BABYMETAL」の楽曲。前作収録の「4の歌」を彷彿とさせる三三七拍子からのスタートだが、中身は「おねだり大作戦」を彷彿とさせるラップメタル。今回もやっぱりリンプ・ビズキットっぽいですねwwちなみにこの曲は実質ファンクラブである「THE ONE」のメンバー限定盤では歌詞が全く違う「GJ!-ご褒美編-」というバージョンが収録されている。

9:Sis. Anger

こちらもBLACK BABYMETALの楽曲。というかタイトルだけでわかる人にはわかるんだけど、タイトルはメタリカの「St. Anger」をもじったものだ。

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実際の曲調は高速にした「St. Anger」って感じ。最近のメタリカが重厚感を増している代わりにテンポの遅い曲が増えてるのを「こうしてほしい!」ってKOBAMETAL(プロデューサー)が言っているようにも感じた。最初のサビの後に「きらいだ!」連呼が「気合だ!」連呼に変化して「バカヤロ〜」ってなるのは本当に最高だ。冗談の温度感が変わってないと、なんか安心する。

10:NO RAIN, NO RAINBOW

今回収録されている楽曲群の中では最も古くから存在していた曲で、初出は2013年のNHKホール公演「LEGEND “1999” YUIMETAL&MOAMETAL聖誕祭」。呪いにより蝋人形にされてしまったYUIMETALとMOAMETALを救うためにSU-METALが歌った曲というのが公式設定。なぜかファーストアルバムには収録されず、その直後の武道館公演で演奏されたけど、その後も見かける機会はなかったところで復活。武道館のライブが映像パッケージ化された時に初めて曲名がわかったのだが、それまではサビの歌詞から「止まない雨」と呼ばれていた。そう、Xの「Endless Rain」である。

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11:Tales of The Destinies

タイトルが運命のRPGなのは色々大丈夫なのか。複数形だからいいのか。それはさておき、変拍子・テンポ変化などめまぐるしく色々変わっていく、ライブでやるのがめちゃくちゃ大変そうなプログレッシブメタルチューン。というかもろにドリームシアターっぽい曲である。笑

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この後次の曲に間髪入れずに突入していくので、2曲繋がっているように聞こえるが、それもそのはずで元々一つの組曲みたいにしようと制作していたとのことである(なので作詞作曲アレンジ演奏、全て同じメンバーでやっている)。

12:THE ONE

アルバムのグランドフィナーレを飾る壮大なメタルバラード曲。初出は「KARATE」同様に2015年のJAPAN TOURファイナルの横浜アリーナ公演。MVもそのときの映像がベースになっている。

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タイトルは勿論メタリカの「ONE」から取っている。ただタイトルとして拝借した程度の印象が強く、実際には大団円の締めのために練り込んで作った曲、という感じ。これも「Road of Resistance」と作曲者が同じなのでメロディが良い。Mish-Mosh氏、何者なんだろう…と思って調べたら出てきた。二人組のユニットなんですね。

因みにこの曲には3つのバージョンが存在する。国内盤の通常バージョン、海外盤の「English Ver.(英語バージョン)」、ファンクラブTHE ONE限定盤の「Unfinished Ver.(ピアノ+ストリングスアレンジ)」だ。先日NHKで放送されたドキュメンタリー「BABYMETAL 少女達は世界と戦う」では、Unfinished Ver.が披露された。

因みに今作では一部楽曲において楽器もスタジオ録音されている。特にドラムが生録されてる曲が3つあるというのは相当な進歩だろう。因みにライナーノーツにはその辺何も書いていないので、参加ミュージシャンの自己申告しか当てにならない。Dragonforceの二人以外だと、神バンドのメンバーでもあるLedaさんとゴールデンボンバーの楽曲もアレンジしているtatsuoさんの2名が参加曲をツイートしている。

●アルバムの狙いを勝手に読み解く

先に全体的な感想を書くと、「今までの流れを維持しつつスキル・会場のスケールアップに伴って曲を作った、世界に向けたアルバム」というものだ。

このアルバムで核になっていると考えられる曲は、「Road of Resistance」と「THE ONE」の2曲だ。この2曲のMVはどちらも、日本国内で行われた大会場ライブの映像を使っている。「Road of Resistance」のシンガロング(合唱)の部分なんかは特にそうなんだけど、とにかく大会場で映えることを念頭に置いて作られている曲だという印象を受けた。率直に言うと今ツアーのスタート会場であるウェンブリー・アリーナとファイナル会場である東京ドームを相当に意識して作っていると言える。逆に、それ以外の曲についてはそこまでやることが変わっているわけではない、という感じ。新たにやったヴァイキングやゴシックも、前作の「メギツネ」とかの飛び道具的な曲の位置付けかな、という印象。例えばGJもおねだり大作戦のアップデートっぽいし。なので、今までの流れを維持しつつ会場規模に合わせた、という話になる。あとはバラードが入っているので前作より緩急ついてて聴きやすく感じる人も多いような気がする。

じゃあ何が世界に向けた要素なのか。それは海外盤の内容、というより海外盤限定で収録されている全英語詩の2曲。聴いて感じたのは英語の発音を相当トレーニングしたんじゃないか、ということ。非公式なのでいつ消えるかわからないけど↓をご覧くだされ。

最近だとワンオクやセカオワなんかが歌唱時の英語の発音を鍛えてネイティブから聞いても不自然さをあまり感じないようにしているって話が聞かれる(セカオワについてはリアルサウンド柴さんが指摘してる)けど、ベビメタもそうしているんだろうな、と。そして今指摘した3組の共通項はアミューズ(もしくはその関連会社)所属であるということ。もちろん他にも英語を鍛えて世界に繰り出しているバンドはあるんだけど、アミューズは会社として狙ってるんだな、という感じ。(なのでPerfumeも今作で1つくらい英詞曲出すかなと思ったけどなかった。)なので、全体の構成とか英語詞曲のクオリティとかを考えると海外盤の方がPRIMERY VERSION、つまり表バージョンなのではないかな、というのが率直な感想。まあ自分が「From Dusk〜」好きなだけかもしれないけど。

そして4月20日〜21日に行われたファンクラブ限定イベント「APOCRYPHA - Only The FOX GOD Knows -」に行ってきた。国内では初演奏となるアルバム新曲も何曲か演奏されたが、ウェンブリーの時も含め、まだやっていない曲が数曲ある。おそらくダンスの振り付けがまだできていない(Tales〜に関しては練習も終わってない?w)ということだろうけど、既に発表された曲達も同様にインテンシティの高いパフォーマンスだった(それから「THE ONE」がEnglish Versionだった!!)ので、未発表の曲を見るのが楽しみ。そして今月のライブで初披露された曲達もツアーで練度が高くなっていくだろう。東京ドームまであと5ヶ月、当面見る予定はないけど期待して待ちたい。

いろいろ書いてきたけど、ベビメタに関して思っているのは突き詰めると一言に集約される。

 

行けるところまで行ってくれ!!!