TWEEDEESニューアルバム「DELICIOUS.」から考えるバンドの「進化」

沖井礼二というベーシストは自分にとっては特別な存在だ。大学生の時にCymbalsというバンドを知り、独特というか唯一無二のベースラインに惹きつけられそれからずっと聴いてきた。Cymbals自体はライブを見に行ったことはなかったけどその後は事あるごとに行ってたし、今沖井さんがやってるバンドであるTWEEDEESについては前にもブログで書いたりしている。

そのTWEEDEESのニューアルバム「DELICIOUS.」が先日発売された(もう随分前の話になってしまった…)

なんか発売までに事前情報をほとんど入れる余裕がなくかなり素な気持ちで聴き込んで、それでナタリーのインタビューを読んで、サイン会に参加して、そこからリリース時恒例の芋煮会(みんなで同時刻にアルバムの再生を始めてTwitterに感想を書き合う会)に参加したりして色々見えてきたことがあるのでそれについて書きたいなーと思う。

芋煮会振り返りの名を借りた全曲レビュー

まずはアルバムの曲たちはどんなのだったのか。芋煮会で書いたことを多少アップデートしながら書きます。Apple Musicとかで聴きながらどうぞ。

  1. DELICIOUS.
    TWEEDEES以前から沖井さんの作るアルバムのオープニングナンバーはそのアルバムのイントロダクションとしての機能を十二分に果たすような曲が来ることが多いが果たして今回はなんとシューゲイザーっぽい感じの楽曲に。つかみはバッチリ。イントロの雰囲気が今までのTWEEDEESとは確実に違った。それでいてなんだか霧がかかってる感じのイメージがあり、さあここからどうなる!?と感じさせる曲。
  2. 花束と磁力
    さあアルバム始まるぞってことで名刺がわりの一曲としてこの上ない沖井節ポップミュージック。ベースがブイブイ言うところとかほんと沖井ファンみんな大好きなやつ。メロディの駆け上がる感じなんかも沖井節120%みたいな。そしてボーカルも高音域多めで曲のパワーを感じる。
  3. 少年の見た夢は
    ビートルズ的・ブリティッシュロック的なミドルナンバー。サウンドだけではなく歌詞も「鐘」「石畳」とかのワードで外国の港町(というかリバプールじゃないかなこれ!?)を歌っているかのような印象。そして他の曲に比べて清浦さんのボーカルがはっきりと言葉を伝えようとしているような印象を受けた。
  4. 昼夜逆転の歌
    これまたピアノ主体のしっとりしたミディアムナンバー。から曲の途中でスウィング調になるところがめっちゃ良い。一曲の中に昼と夜を同居させ、夜を派手なサウンドにしたところはまさに昼夜逆転!見事な構成です。ピアノの井上さんはじめ演奏陣も素晴らしい仕事をしている。
  5. エトワールはオルゴールの中で
    これまたTWEEDEES初期からあった洋風趣味の曲。三拍子のワルツ調で進むおもちゃ箱みたいなサウンドと清浦さんの声にうっとりしてると曲があっという間に終わる(1分)
  6. Medley: 東京は夜の七時~21世紀の子供達
    今作最大の驚きかもしれない。メドレーだから曲と曲を繋ぐのかなと思ったら書き下ろし曲を「東京は夜の七時」で挟むという驚きの構成。そして清浦さんのボーカルは今まで聴いたどの「東京は夜の七時」とも違う。これは意義あるカバーです。
  7. 不機嫌なカプチーノ
    前がかりなイントロから始まるハイテンポ曲(GENさんの妙技!)。そしてめっちゃ沖井メロディだしこのツンとした感じの歌詞は清浦さんだよな〜〜。なんだかお茶目な感じもあり。今作で一番「TWEEDEESっぽい」曲かも。
  8. 美しい歌はいつも悲しい
    タイトルからは意外なハイテンポと込み入ったドラムパターン。しかし何よりこの曲の聴き所はしっとりさの中に凛とした存在感を放つ清浦さんのロングトーン。とにかく声がよく伸びる。TWEEDEESとしての一つの到達点。文句なしのリードトラック。MV見てね。
  9. 間違いだらけの神様
    これまでの曲のテンションの高さとは打って変わっての三拍子のミディアムバラード。最後の方のコーラスが冬っぽさとエンディング感を出しててアルバムが終幕に向かうことを暗示してる。優しげな清浦さんの歌声が木管主体のオケとピッタリで聴いてて落ち着く。
  10. 作戦前夜
    クリスマスソングにこのタイトルつけちゃうのがとてもよい。他の曲でも思ったけど今までのTWEEDEES作品に比べると歌を通して生活の情景が浮かんでくる作品であるようにも思えるところ。タイトルとか途中のテンポチェンジとかはらしいなって思っちゃうけどw

全般的にアレンジが冴え渡っている楽曲が多く感じた。

バンドの進化・変化

TWEEDEESが3rdアルバムを作ると発表した時、自分は率直にrdアルバムはすんごい変化が欲しいな〜と思ったしいっそのこと「sine(Cymbalsの3rdアルバム。バンドサウンドから一気に打ち込み主体に変わってリスナーを驚かせた)」みたいに2人のバンドであることを活かすのもありなんじゃないかなとか思ったりしていた。それは直近の新作だった「a la mode」が、かなり良い出来だった「The Second Time Around」との違いがあまり見られなかったように感じられた(ミニアルバムだからある程度は仕方ないが)ところが大きかったと思う。果たして出てきたものはどうなったかというと、そこまで劇的な変化とはならなかったわけだけど、そうは言ってもこれまでのアルバムからもまた確実に違うものに仕上がったな、という感想を抱いた。

何が違うのかというと、2人のメンバー沖井礼二と清浦夏実の関係性あるいは楽曲の中での清浦さんの存在感。今からして思うと1st「The Sound Sounds.」において清浦さん「沖井礼二主宰のバンドにおける新たなボーカリスト」という感じであったように感じる。それが2nd「The Second Time Around」ではお互い触発し合う制作パートナーという一面が強くなり(念の為言っておくとそういう面は1st時にもある程度見られた)、3rdである今作においてどうなったかと言うと、清浦夏実成分が強くなり名実ともにフロントマン然とした佇まいを備えるに至ったなあという印象を抱いた。

そかある程度聴いて感想がまとまったところでナタリーのインタビュー見たら、なんか自分の考えを見透かされていたかのような気持ちになった(自意識過剰)。

TWEEDEES「DELICIOUS.」インタビュー | 正常進化のためのあくなき戦い - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

──先日、アルバム発売前に新曲をお披露目するライブが行われました(参照:TWEEDEES、3度目のプレミアムショウで新作「DELICIOUS.」を産地直送)。二十代のプレイヤーがサポートで参加して、沖井さんが常々言っていた「ポップスは若い人のためのもの」をサウンドでも体現するような試みだと思いましたが、同時に「沖井さんがTWEEDEESを突き詰めると、最終的な理想形は“沖井礼二がいなくなる”なのではないか」とすら感じました。

沖井 ライブを終えたあと、僕もまったく同じ印象を受けました。ポップスは若い人のためのもので、TWEEDEESはこの人(清浦)が歌ってくれていて……最終的にはおじさんが視界から消えたほうがいいんですよ(笑)。

ー中略ー

沖井 アルバム制作の半ばぐらいかな。「今できつつあるアルバムは、清浦夏実のボーカルアルバムだな」と感じた瞬間があって。たぶん僕が作ってきたアルバムの中で初めてじゃないかと思うんですけど、このアルバムは僕の声が一切入っていない。コーラスは全部この人の声なんですよ。僕の声のように聞こえるところも、この人がオクターブ下で歌っている。「花束と磁力」と「少年の見た夢は」は一度僕の声でコーラスを入れたんですけど、結局納得がいかなくて全部ボツにして。僕の声が夾雑物に聞こえてしまう何かが、この人の声の中に生まれているのかなという気がしています。

 

清浦 それは私もそうかもしれない。

沖井 やっぱり私の声が嫌ですか?(笑)

清浦 いや、そうじゃなくて(笑)。TWEEDEESの3枚目を作るにあたって、もちろん私も一生懸命ボールを投げてたんですけど、それよりも沖井さんの曲をより純度の高いものにする努力をしたほうが、TWEEDEESにとって幸せかもしれないって。お互い委ね合ってた、持ち場を守っていたみたいな。

 

沖井 前世の話になりますけど……3rdアルバムの作り方として、そこまでの経験を踏まえてグッと新しい方向に踏み込むというのが1つあって、前世で僕はまさにその方法を取ったんです。

──Cymbalsのメジャー3rdアルバム「Sine」(2002年7月発売)ですね。

沖井 ただ、それをやることは正常進化から逃げることにもなると思うんですね。今回はそれをきちんと受け止めよう、逃げずにやろうと(笑)。そのためには、とにかく曲の芯が強くなきゃいけない。それに尽きるのかなあ。「ポップスは若い人のためのもの」という言い方をしていますけど、僕はSex Pistolsが好きで音楽を始めて、ブラックユーモアや皮肉ったらしいものから大きな影響を受けていて。でも今回は違うところで勝負しなきゃいけないなと。そういうレコードを自分が聴きたかった。なんとしてもそれを自分の手で作りたい。「今、自分が聴きたいものしかこのアルバムには入ってはいけない」というところにこだわったんだろうなあ。

──TWEEDEESの3rdアルバムは、てらいのない作品じゃないといけないと。

沖井 てらい、作為を排除したところで何ができるか、というのが今回の勝負どころだと思っていたので。

うーむまさかsineの話がここまで明確に出ているとは笑。いやあそれでここまでいいんだったら全くもってそれでよいですよね。とりわけ「美しい歌はいつも悲しい」の衝撃的なまでの完成度の高さは驚きを通り越して嬉しかった。そしてこの曲はこのアルバムの特徴を最も端的に表現している曲だし、「清浦夏実だからこそ表現できる歌」だし、TWEEDEESとしての一つの到達点、この二人だからこそ作り得た曲である。

同じバンドを継続して見ていると色々な変化が起きることに立ち会う機会が増えるんだけど、TWEEDEESはとてもダイナミックに変化しているバンドだなあと思うし、意味がある変化をしているなあと思う。そしてボーカルとベースの2人であるにもかかわらずバンドを名乗っている意味というのもここにあるのかな、と。比較的メンバー間の関係が緩く希薄なイメージを漂わせる「ユニット」という言葉ではなく緊密な関係性を持つ「バンド」という名前を称するだけの強固な関係性がこの変化、いや進化を引き出してきたと言っていいのではないか。

主にボーカル面での沖井成分が薄くなるのは寂しさもあるけど、清浦さんが言うようにその分サウンド面での強度が高まる方向に行けばこの先もっと面白くなるだろうなと思う。今作のアレンジ面でのこだわりは今までの沖井ワークスの中でも随一だったので、ホントにホントにTWEEDEESのこれからが楽しみです。