「市場を創る」ー楽しい経済学の理論書

大学が商学部だったこともあって、経営・マーケティングの本を読むのはかなり大好きで、さらにそこにITと来るとアドレナリンがだらだら流れた状態になるのだけど、いわゆる(自己啓発紛いの)ビジネス本の類は好きでない。そんでもって、もう一つ類書と思われる経済学の本。これもそんなに得意ではない。でも嫌いではない。そんなに頻繁に読むのは疲れるけど、たまに読むと抽象的なその内容と現実を行き来することで新たな知見が出てきたりして面白いのだ。

そんな本を久々に読んだ。

市場を創る―バザールからネット取引まで (叢書“制度を考える”)

この本は2ちゃんねる経営学版の「おすすめの経営・マーケティング本スレッド」で去年の頭くらいに絶賛されてたもの。このスレッド、僕は大学時代から愛読していて本選びの参考にしているんだけど、ものすごくヒット率が高い。まあそんなわけで去年の3月くらいに買ったけどそのまま寝かして今にいたり、先月思い立って読んだという次第。そんな本他にもいっぱいあるけどね。

内容は経済学の舞台である「市場」。この「市場」というものについて生い立ちだったり、色々なパターンの姿だったり、性質だったりを様々な切り口から考察しているという本。参考になる部分が多く面白かったので、今日はその内容を紹介してみようと思う。

最初は11章の「公衆に対する陰謀」。 この章で取り扱っているのはズバリ「汚職」。政府と市場の関係っていうのはいつも適切とは限らなくて、それが故に政府が市場相手に嫌がらせしたり収奪したりすることもあるよねっていう話。一般的に汚職は悪。多くの国では法律で犯罪と規定されている。汚職によって経済活動、特に投資活動が阻害される。みんなそういう理解だと思う。基本的に間違っていない。しかし、スハルト政権下のインドネシア汚職が蔓延していたにも関わらず、30年近く高い経済成長率を維持したという。理由は、スハルト一族が「汚職を独占」したからだと。汚職が起こることが所与であれば、その汚職の起き方をコントロールするという話。私腹を肥やす官僚はクビにされた。税関は廃止された。どちらも、スハルト一族の利にならないから。おかげで、スハルト一族の利になる様な汚職や賄賂さえしてしまえば保護されるので、投資が抑制されないのだという。 なんと。そんなことがありうるのか。汚職が逆に経済活動を効率化するなんて。 でもこれはあくまで例外であって、その章の後半分でページを割かれている日本における談合(ボトムアップ汚職)も含めて、基本的に汚職は経済活動を非効率化するというのは間違いない。 そりゃあそうか。

しかし、ここで書いてある通り、市場が上手く動く様にする方法っていうのはいくらでもあって、今の政治家さん達みたいにいたずらにマーケットを押さえつけにいこうとするんじゃなくて上手く機能させるにはどうすればいいのかという観点で考えなくてはいけない。

その上で非常に示唆的なのが16章の「貧困撲滅の戦士達」。この章は実に痛快。「グローバリゼーションにより貧しい国がさらに不幸になる」という反グローバリズム論をばっさり切り捨てている。貧しい国が貧しいままなのは、経済成長に失敗したからだという。グローバリゼーションの中で成功している新興国もあるし、失敗している先進国もある。投資が少ないとか、制度が未整備だとか、まずグローバリゼーション以前の問題が殆どであるという。

そこにさらに僕から付け加えるとしたら、グローバリゼーションっていうのは、いろんな国や地域の人達が一つのコースに集まってレースをする様なもので、ちょっと手を抜いたら一気に抜き去られて順位が下がってしまうというところに恐ろしさがあって、その影響を恐れる人達が、貧困国との格差の拡大という「もっともらしいこと」を持ち出してる様にも思える。汚職の話もそうだけど、「もっともらしいこと」を正論でいわれると反論し辛いけど、解きほぐしてみる事が大事だと思う。安易な正論に流されない様に。

他にも「特許料による高い薬代がAIDSの特効薬をアフリカに行き渡らせるのを阻害しているけど、特許を廃止したら栗の研究開発のインセンティブがなくなるというパラドックス(無理矢理過ぎて長いな…)」など、すごくわかりやすい事例と一緒に「市場」について考察が色々されている。難しそうだけど、数式とかは殆ど出てこなくて、あくまで文章で説明してくれるので、楽しんで読める。すごく面白い理論書だった。

僕は経済学って、社会分析ツールの一つと思っていて、理論を元に色々考えを巡らすのが結構好きだったりする。Web関連のこととこの本の論理を結びつけて考えて見ると面白いんじゃないかなと思っている。なんかまとまったらまた書いてみよう。