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中田ヤスタカからの1990年代と2010年代へのアンサー〜ディスクレビュー:きゃりーぱみゅぱみゅ「なんだこれくしょん」

Music きゃりーぱみゅぱみゅ ディスクレビュー

本来前エントリの「上半期の5枚」で入れるべきだったんだけど、もう全部書くこと決めたあとに入ってきちゃったので枠外紹介。しかしまあ、やっぱこれおもしろい作品だよなあ。


なんだこれくしょん(初回限定盤)

きゃりーぱみゅぱみゅのファーストアルバム「ぱみゅぱみゅれぼりゅーしょん」は極めて完成度の高い作品だったわけだけど、そこから4枚のシングル(うち1枚は両A面につき合計5曲が本アルバムに収録)を経て丸1年経ったところで発売されたのが今作。前作のクオリティ高かっただけにどうなるんだろうとは思っていたけど、今回までに発表されたシングルがどれもこれも隕石級のインパクトをもつ作品だったわけで、しかも今まで中田ヤスタカがあまり手を出してきてなかったような楽曲群だったというと転がすごく面白かった。というわけでアルバムの話をする前にそのシングル群の話をちょこっとしとこう。

まずファッションモンスター。この曲はヤスタカの新機軸だと直感的に思ったのは、日本ではおなじみの所謂「ガールズロック」のフォーマットに沿った楽曲だったから。古くはレベッカPRINCESS PRINCESSLINDBERGJUDY AND MARY、そしてチャットモンチーいきものがかりなどを経て、「けいおん!」に見られるようにポップソングの一つのフォーマットとなりAKB48の「ヘビーローテーション」に結実した、というレジーさんのブログエントリはぜひ読んでください。その流れの延長線上にきゃりーのこの曲が位置付けられるんじゃないかと思うわけ。ヤスタカ流ピコピコサウンドがジャパニーズガールズロックという「超ど真ん中」を取り込んだ瞬間。まあ何というかこの曲大好きだ。ヘビーローテーションも(僕はあのMVが大嫌いなんだけど)相当サビが耳から離れないタイプの曲だと思うんだけど、この曲も同様に耳から離れないタイプの曲であり、それは単純に歌詞とメロディだけでなくアレンジ自体がこれまで日本のポップミュージックにおいて基本的なフォーマットであったことも助けているのではないだろうか。

youtu.be

そしてふりそでーしょんにんじゃりばんばん。この二つの曲のテーマは「ニッポン」そのもの。お仕着せの「クールジャパン」じゃなくて若者目線でニッポンを発信するよというのがテーマ。ふりそでーしょんである程度手応えをつかんでそれがにんじゃりばんばんに結実してるんじゃないかと。そしてその先にこのアルバムがあると思う。少なくともあの1曲目は。

んでもってインベイダーインベイダー。この前TBSの音楽の日ではダブステップ部分がごっそり削られてて普通のピコピコ曲になってたけど、ももクロの「Neo Stargate」同様アイドルソングにダブステップを入れるのが流行ってるんですかね。それまでのシングルと違って逆に実験色の強い、ある種ヤスタカらしいシングル曲。まあこの曲の一番の肝はワールドツアー中に発表された新曲で「世界征服」って高らかに言ってることだよね。

というわけでようやくアルバム曲の話に入る。1曲目の「なんだこれくしょん」。5秒で爆笑。太鼓の音と「ぱみゅぱみゅ」の音頭。これを何の準備もせず笑わずに聴けるのは相当の剛の者。というか今回の一つのテーマとして「ふりそでーしょん」「にんじゃりぱんぱん」から続く「ニッポン」の発信というテーマがあって、それが更にアジアという枠に拡張されているというように感じた。アルバムの中でも(このアルバムの中でも!!)異彩を放っている「み」と「のりことのりお」がまさにそんなサウンド全開なもんだから。「み」は最初で鳴る銅鑼っぽいサウンドからしてチャイナ感がするし、「のりことのりお」はインドっぽい。まああくまで「っぽい」なんだけど。いずれにせよ「世界征服!」のためのサウンド作りをしてる感が見て取れる。比喩的表現ですよ。インベイダーインベイダーからの引用ですよ。ワールドツアーとか含めて日本以外の国に発信することを意識したサウンドになっているなあということを感じさせるということ。

そしてもう一つ。それが「ファッションモンスター」に見られる「ど真ん中」サウンド。その象徴が「さいごのアイスクリーム」。この曲最初に聴いたときは「ヤスタカらしくないクソダサい曲だな」と思った。わけだけど、よくよく聴いてるうちにだんだん気付いてきた。ああこれ小室哲哉とか浅倉大介による90年代的王道ポップスのリスペクトじゃないの?と。このわざとらしいシンセ音の入れ方なんかはまさにきゃりーと仲良しのT.M.Revolutionをプロデュースしている浅倉大介のユニットaccessをすごく意識している感じがする。例えばこんな感じ。


access - Moonshine Dance

その一方で。このアルバムには中田ヤスタカ自身のユニットCapsuleの「Super Scooter Happy」も収録されている。きゃりーによるCapsuleのカバーは「jelly」に続き2回目なんだけど、個人的にはこの曲が収録されたのはすごく驚きだった。 なんでかという話をちょこっと解説。

今のというかここ7年くらいのCapsuleを聴いている人からしたら、彼らがかつては「ピチカート・ファイブのフォロワー」といわれるくらいバリバリのポスト渋谷系の音楽を出していたということがいまいちピンとこないんじゃないかと思う。彼らが今のクラブミュージックみたいな音楽になったのは2006年に出た「FRUITS CLiPPER」から。その前作の「L.D.K. Lounge Design Killer(「jelly」はこのアルバムのiTunes版ボーナストラックだった)」は境界線的な作品として位置付けられるけど、その前の所謂「前期Capsule」はわりとヤスタカ的には無いことになってるのか、2009年にCapsuleのベストアルバムが初めて出たときには「レトロメモリー」だけしか収録されないという扱いだったわけ。「Super Scooter Happy」はその「レトロメモリー」と同じ「S.F. space furniture」の収録曲。(因みに今年にレコード会社移籍に伴ってCapsuleのオールタイムベストを年代別で2パッケージ出すことになり、「FRUITS CLiPPER」以後と「L.D.K. Lounge Design Killer」以前という分け方で2作品が3月にリリースされてアーリーワークスが陽の目を見ましたとさ。めでたしめでたし。)

まあそんなわけでまさかこの曲使うのかーって感じだったのだけど、この本人プロデュースによるある種のセルフカバーを原曲と比べてみると面白い。

youtu.be

アルバム収録曲につきMVないのでアイマスのMADで勘弁ね。んでこちらがきゃりーのカバー。


Kyary Pamyu Pamyu - Super Scooter Happy | en Paris, Francia

スクーターのSEとかそういうのはそのままだからかなり原曲を忠実に再現しているように見せかけてそうじゃないんだよね。ピチカート・ファイブを意識させるような所というか渋谷系を感じさせるような所(バックのベースと特にドラム部分)を削ぎ落としてピコピコ的な部分だけ残してる。このカバーの仕方、なんというかカトキハジメによるガンダムのリファインデザインみたいな感じだ(特にHi-νみたいな…ってこれ以上はやめておこう)。こういうカバーの仕方自体は中田ヤスタカの「L.D.K.」より前の楽曲に対する扱いからしてあまり不思議に思わないのでまあそんなもんかって感じだけど、わざわざこのアルバムでやるという辺りが、他の楽曲と合わせた「こういう音楽でやってきますよ」っていう意思表示になっているということで。

という色々な要素をまとめると、

  • ニッポン(さらにはアジアも?)を背負って世界に発信していく
  • ど真ん中の王道ポップスをどんどんやっていく(もちろんヤスタカ風味のスパイスをきかせて)
  • 後ろは振り返らない

というような「世界征服!」の所信表明なんだろうなあというのが今回のアルバムから感じられたこと。単純にかわいくて楽しいアルバムなんだけど、それだけじゃなくて深く味わえる面白い一品。まあ笑ったり微笑んだり深読みしたりしながら楽しく聴きましょう!