「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#02「アゲアゲの転調学」

というわけでNHE Eテレ亀田音楽専門学校」のケーススタディ第2回。前回はこちら。

前回はイントロだったから楽勝という体でこなしたところ、いきなり次の回は転調とかなってておいおい大丈夫か自分あんな毎回連載とかぶち上げといてと思っていたけど、番組を見た限りではなんとかやれそう。というわけで、前回同様最初に講義内容の要約をして、後半にケーススタディをするという構成で。

さて、第2回「アゲアゲの転調学」。ゲスト講師は今回もアンジェラ・アキ

●講義内容の要約

転調とは、曲の途中で調を変える音楽テクニック。

(例示として椎名林檎の「本能」を使用。)曲の展開に刺激が与えられ、見えてくる風景が変わる効果がある。

ここで、転調の実演として「蛍の光」を転調させてみることに。この曲の基本の調はKey=F 。それを一つ上のKey=Gに転調させると爽やかな感じでちょっとラジオ体操っぽい感じに。更に一音上げてKey=Cにすると、もっと爽やかになって朝っぽい感じに(ラジオ体操は朝じゃないのかというツッコミは置いておこう)。

んで、今回紹介された転調の種類は二つ。

1:王道テクニック、最後のサビでキーを上げる転調

まあそのまんまの話。例として出たのはMr.Childrenの「Tomorrow Never Knows」。この曲は通常のサビがKey=Cなのが最後のサビだけKey=Dになり、全音上がってる。キーが高くなることで声を張る必要が出てきて、その結果、歌が明るく、力強くなる効果が出てくる。因みにアンジェラ・アキは「サクラ色」でKey=Fのサビを最後だけG♭と大げさに(1音半)転調するという離れ業をやってのけた。その際に、大きく転調するときにはジャンプ台のようなフレーズを用意するケースも多い。

サビは何度も出てくるフレーズをバージョンアップする効果がある。サビは一番聴いて欲しい部分だけど、それだけに何度も出てくると飽きるので最後にはバージョンアップして聴かせることで新鮮な味わいを持たせる効果があるのだ。

ここでアンジェラ・アキより転調の名曲を紹介。

  • グレープ「精霊流しさだまさしによる、歌詞の展開をサポートする文学的な転調。起承転結の転の役割を果たしている。
  • MISIA「Everything」 上がるのは半音だけなんだけど、最後の最後まで転調を渋ることで歌の表現力を高める効果を出している。
  • 宇多田ヒカル「First Love」 転調によって出た歌声はかなり苦しそう。しかしこの極限の歌声を引き出すことで歌い手に共感させる効果もまたある。

2:J-POPの新潮流!シークレット転調

最近のアイドルソングでよく使われている手法。事例として紹介されたのは。下記2曲。

最初のサビでいきなり転調すること、そしてその転調がわかりづらいことが特徴。「ポニーテールとシュシュ」の場合、転調前のキーはAメジャーで、転調後はG♭メジャー。なんと上がるのではなくて下がる。そして、Bメロとサビの間にバトンとなる受け渡しのメロディーがあるので転調がわかりづらい(水しぶき〜のところ)。

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このサビの部分を転調しないで歌うととんでもなく高い音になってしまい、とてもじゃないけど並の人間には歌えないような歌になってしまうわけだ。シークレット転調で音を下げることによって歌いやすいメロディに直すことができる。

因みに「行くぜっ!怪盗少女」の場合は「Oh Yeah!!」のところがバトンのメロディになっている。

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懐かしいですね、6人バージョン(番組ではZになってからの映像が使われていて、年号表記も2011年、CDジャケットも「バトル アンド ロマンス」の物になっていたのはわかりやすさ重視のためご愛敬というべきか。後で気づいたんだけど、この2曲ってリリース年月一緒なんだよね。それにしてはMVのクオリティが全然違ってて、当時の両グループのポジションの違いがよくわかる。)。

ところでなんでわざわざ転調までしてこんな歌を作るのかという疑問が生じてくるわけだけど、歌はサビに向かって高揚していく物なので、それに合わせて作ると平歌が低くなってしまうというデメリットがある。なので、Aメロ・Bメロ・サビと全てのパーツに良いメロディを与えるためにこういった技法が編み出されたというわけ(逆に洋楽は基本的に転調しない)。

因みにこのシークレット転調の起源は、実は小室サウンド(ここで篠原涼子の「愛しさと切なさと心強さと」が流れる)。特に渡辺美里の「My Revolution」は「これこそ本当に転調しないと歌えない」曲だとか(シークレット転調によって1.5音下がる。)。

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全部が刺激的じゃないと!というバブル時代が生んだ刺激的な「転調」ある種J-POPらしい発明品で、それを現代の作家が、聞き手が常にハッピーでいられるように応用しているのだ、とのこと。一方で伝統的な最後のサビで転調する技術は王道の技術として曲のエンディングに向かって思いの丈を伝えていくための技術として受け継がれていくだろう、とのこと。

結論:転調は、歌う側にとっても気持ちが入る瞬間。そして、シークレット転調は、J-POPの行きを集めた日本独特の技術。

 

ケーススタディ

さてケーススタディ。今回は2つパターンなのでそれぞれについて自分の周りから例を2つずつ探してきた。まあ音感無いからめちゃめちゃ苦戦したわけだけど……

1:王道パターン、最後のサビでの転調(音階上がるパターン)

こっちはまだなんとか判別がついたよ。一応答え合わせ的に色々譜面サイト的なところで答え合わせもした結果。

チャットモンチー「染まるよ」

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一つ目はチャットモンチーの屈指の名ロックバラード「染まるよ」。これは最後のサビで半音上がっていて、所々声が張るような感じになってるのがわかると思う。

3人時代のチャットモンチー、一度だけ見たんだけどその時一番良かったのはこの「染まるよ」だった。圧倒的にライブで映える曲。というかチャットモンチーはこの曲を収録している「告白」とその前の「生命力」がやっぱりダントツで素晴らしいんだよね。


告白

LINDBERGevery little thing every precious thing


every little thing every precious thing

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初出が超古いのが来たわけだけど。笑。1996年のナンバー。後期LINDBERGを代表する楽曲で、阪神タイガースファンの方々にとっては藤川球児の登場曲としてお馴染みな曲なのではないかと(因みに藤川球児のジャケットで「球児の歌」として再発版が発売されたときにもそこそこの売上を記録している)。この曲は最後のサビで1音上がっている。ストリングスが入っていることとかも含めて、物凄く典型的なJ-POPバラードのフォーマットに即した歌。まあとてもいい曲なんだけどさ。

実は僕が生まれて始めてライブを見たミュージシャンがこのLINDBERG。まあこの曲が出るよりも2年ほど前の話なのだけど、なんだかんだでガールズバンドやその手の曲が大好きなのは(きゃりーぱみゅぱみゅだとファッションモンスターが一番好き、とか)多分にLINDBERGの影響が大きいんじゃないかと思う次第。ちなみにこの「every little thing every precious thing」が収録されているアルバム「LINDBERG IX」はレコード会社移籍に伴うアグレッシブなイメージチェンジ戦略が功を奏してヒットしたわけだけど中身も伴ってる良作。彼らのアルバムでは一番好き。


LINDBERG IX

2:新潮流、最初のサビでのシークレット転調

これは予想通り探すのがものすごく難航した。そんな中からバトンのメロディの様なものがあるもの、それなしで続けて歌おうとすると音階がおかしくなりそうなものを「きっとこれがシークレット転調のある曲だろう!」ということで選んでみた。

竹達彩奈「ライスとぅミートゅー」

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けいおん!」のあずにゃんこと中野梓役でおなじみの声優竹達彩奈の1stアルバムのリードソング。本人作詞の食欲炸裂頭脳破壊系ソングとして有名で、一度聴いたら頭から離れない歌大賞2013の有力候補。1:07辺りの「始めよう〜」の部分がバトンのメロディになっている(はず)。そして「ABC〜」のところから転調、と推察。音が下がってる。

因みにこの曲でベースを弾いているのは前回のケーススタディの時に出てきた元Cymbalsの沖井礼二さん。

この曲は転調していない、とのことでした。ご指南くださった柴さん、どうもありがとうございます。

 

やくしまるえつこ「ヴィーナスとジーザス」

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やくしまるえつこ相対性理論はこういうことやってるだろうなあと思ったらやっぱりあった。アニメ版「荒川アンダーザブリッジ」の主題歌。0:29辺りの「ごめんね」がバトンのメロディーになってサビで思いっきり下がるというのがこの曲の特徴。これは比較的わかりやすいんじゃないかな。

そういえばこれが収録されてるアルバム「RADIO ONSEN EUTOPIA」、一発撮りのバンドアレンジで録られてるんだけど非常にタイトな感じになっていてかなり良い感じ。因みにレコーディングエンジニアがzAkさんのためドラムの音が妙にフィッシュマンズっぽいw



RADIO ONSEN EUTOPIA

こうやってJ-POPの盛り上げテクニックを分析しつつ実例探しするのは面白いね(シークレット転調に関しては合ってるか少々不安だけど)。

そして次回は秦基博をゲストに迎えて「ヨナ抜き音階」ですか……大丈夫かな……