たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#04 「オトナのコード学」

毎週恒例のNHKEテレ亀田音楽専門学校の第4回目です。前回は随分好評だったようで、柴那典さんのブログにも取り上げて頂きました〜。どうもありがとうございます。

というわけで引き続き流れを作るべくがんばっていきたいと思います。とはいうものの、音感のない僕には前回よりも更に難易度の高いお題がやってまいりました。そう、コード。しかし番組見たらとりあえずいけそうな気がしたのでがんばっていきます(今後コード進行やるっていってたけどそれこそ大丈夫かって気がするが今は気にしないことにしておこう)。

参考までにこれまでのケーススタディはこちら。

それでは第4回「オトナのコード学」。例により前半で講義内容の要約、後半でその講義内容に合った実例を提示するという構成。ゲスト講師は前回に引き続き秦基博さん。

●講義内容の要約

まず最初に、コードとは3つ以上の音を同時にならしたときの響きで、ピアノの左手の音がコード。校長によると、JPOPには「オトナのコード」があるという。

ここで流れるはあまちゃんオープニングテーマ。

この曲の最後の「ふぁーん」って音(動画だと2:00辺り。ワザと頭出ししてるのですぐ聴けます)がオトナのコード「メジャー7th」。

ド・ミ・ソ・シと同時に弾く和音がCメジャー7th。メジャー7thの音の響きは青空に一点の雲があるように思わせる。Cのコードはすっきりした感じの音だが、メジャー7thにするとちょっと憂いが出てくる。次に何かが起きるのかな、という気持ちにさせる。7thでないとオープニングでなく、エンディングっぽくなってしまう。

次の例はシュガーベイブの「DOWN TOWN」。この曲から連想されるのはドライブをしている風景。メジャー7thを使うことでシティ感が出ている。この曲の伴奏をメジャー7thにしないとドライブに行きたくならない。JPOPにおけるメジャー7thの源流はキャロルキング等が私小説的感覚で歌うときにメジャー7thを多用していたのを山下達郎オフコース荒井由実などが取り入れたのが始まり。ここで荒井由実の「中央フリーウェイ」を例にして、またコードをメジャー7thにしたりしなかったりして説明。メジャー7thでないと昼と夜くらい違う。具体的に言うとメジャー7thでないと昼間のように聞こえる。それはなぜか。CM7はドミソシで構成されるが、ミソシはマイナーコードでドミソはメジャーコード。つまりマイナーの陰りとメジャーの明るさを併せ持っているのがメジャー7thのコードなので、聴く人によって色々な感想を抱かせることができるのである。

秦基博の選ぶメジャー7thの名曲

  • ORIGINAL LOVE「接吻」 サビ始まりの一発目でメジャー7thにすることでアーバンな大人な雰囲気に一気に引き込む効果がある。
  • aiko三国駅」 サビの入り口がメジャー7th(2拍だけ)。それまでメジャー7thのにおいをさせずに曲が進みながら、本当に一瞬だけ使うことで一気に切なさが増すという効果がある。
  • オフコース「YES-NO」 これもサビの入り口でメジャー7th。揺れるコードと歌詞がぴったり(maj7になったり戻ったり。)。

サビでもよし イントロでもよし

サビでメジャー7thのコードとメロディーのダブル攻撃をする曲を紹介。

メジャー7thの音(コードのてっぺんの音)からメロディーが始まる。これをメジャー7thでなくしようとする試行をするも失敗(上手く歌えない)。メジャー7thのコードに乗ったメジャー7thのメロディは崩すと別の物になってしまうくらい強固に結びついた物である。

また、サビでいいメロディーを使っているならイントロで使ったら威力抜群では(第1回の講義の「サビのメロディーをイントロに使うパターン」の応用編)、という校長からのお話。ここで使われた例が、秦基博の「初恋」。デモテープの段階でメジャー7thが入っていたのを、亀田校長が強調するメロディを付けた、世界が始まっている感じを出そうとした。元々秦さんはメジャー7thに透明感を感じていて「初恋」というタイトルとマッチしていたので使った、とのこと。

校長によると、このコードは微妙な空気感があってあらゆるシーンを演出できる。YES、NOのいえない日本人らしさを表現できる、底の深いコードである。そのためこのコードを今回の題材として選んだとのこと。

結論

メジャー7thは、きっぱりとした3つの和音にメジャー7thという音が加わることで、爽やかさ・切なさ・痛み・シティ感など大人になるうちに経験していく表情をコードが提案してくれ、それに引き寄せられるメロディが切なさを引き立たせる、JPOPの中でも魔法のような音。

ケーススタディ

今回も引き続き音感が無い僕は検証作業をしながら進めることに。正確を期すべく@ELLISEさんぷりんと楽譜さんご提供の楽譜と楽器.meさんというところでやっている歌詞+コード提供サービスを見て検証。殆ど楽譜の方でやったかな。たまに複数の楽譜つきあわせたときに楽譜によって同じ部分のコードが微妙に違うときがあって困ったね。

メジャー7thを使った名曲

東京スカパラダイスオーケストラ「銀河と迷路」

www.youtube.com

東京スカパラダイスオーケストラの歌物(特に欣ちゃんボーカル物)は結構メジャー7thを使っていて、この曲はサビの頭の部分がD♭M7。その後もG♭M7なんかがサビに使われている。スカパラのアダルトなイメージを表現するための音としてメジャー7thコードが多用されている物だと考えられる。まさに、オトナのコードのお手本みたいな曲。

この前にリリースされた歌物3部作(田島貴男チバユウスケ奥田民生)からこの曲辺りでスカパラの認知度ってすごく上がったと思うんだけど、例えば「美しく燃える森」もサビの入り口でFM7を使ったりするなどしていて、この辺一貫してるんだなあ、と感じた。まあこの辺はベストアルバム「BEST OF TOKYO SKA 1998-2007」で聴き比べて頂くといいんじゃないかと。

クラムボン「ララバイ サラバイ

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Clammbon - ララバイ サラバイ (Lullabye Sullabye) [JAPANCIRCUIT]

クラムボンの曲の中でも静と動の差が激しく、そしてトップクラスに長い曲(「Long Song」というその名もズバリな12分超の曲がダントツ1位w)であるこの曲。ライブでの没入感がたまらないのでぜひ一度ライブで聞いてみて欲しいところ。

さて、この曲の中心となっているのはAM7。イントロの頭の音からAM7なんだけど、歌の中で語気が強まる部分、強調する部分には必ずと言って良い程AM7が使われているのがこの曲の特徴。まずはAメロ冒頭の「もういくよ~」の部分。そしてBメロ途中の「離れたくないの」の「ないの」の部分。そしてサビの冒頭、「からみあう」の「か・ら」の部分。そしてサビ最後の「ララバイ~」「サラバイ~」の部分。ことごとく歌を強める部分に登場し、この歌独特の寂寥感を強調しているのが特徴。

因みにこの曲が収録されているアルバム「ドラマチック」は亀田校長のプロデュース作。ただし彼らと校長の路線は合わずにその後彼らはどんどん室内楽・ポストロック的な音楽を志向していくわけで、その端緒がこの曲に出てたりする(その後の流れは別エントリにまとめてあるのでご参照くだされ!)。とはいえこのアルバム、結構人気曲多いんだよね。この次の「id」でワーナーレコードを離れるんだけど、後日ワーナー時代のベストアルバムの選曲のために人気投票をしたところ15曲中5曲がこのアルバムから選ばれたくらい。

サビにもよし、イントロにもよし

YUKI「長い夢」

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個人的にはYUKIの曲で一番好きな曲がこれなんだけど、サビの「バーイバイ」のところの音はシの音。そしてコードはCM7なので7thの音はシ。というわけでぴったり一致する「HANABI・さくらメソッド」。これはアダルトな雰囲気強調というよりも切なさ強調するアプローチのメジャー7thの使い方、というところなのかな。

因みにこの長い夢の前後、蔦谷好位置さんと組んでいた時期(2004〜2007くらい)というのが彼女の代表曲「JOY」、そしてアルバム「joy」がヒットしてその後この「長い夢」を含むキラーチューンの連続リリースでJUDY AND MARYを離れた彼女のソロシンガーとしてのポジションが確立された時期だと思うんだけど、とにかくこの時期の蔦谷さんと組んで作られたシングル曲はメジャー7thが多用されている曲が多い。例えば「ドラマチック」も「長い夢」同様にCM7で「HANABI・さくらメソッド」が使われているし、他の曲もサビではない部分ではあるにせよメジャー7thがふんだんに使われている。蔦谷さんの好みなのか、それともYUKIとの相性を見てなのか。その後の「うれしくって抱き合うよ」なんかにもメジャー7thが多用されているから後者なのかなとか安易に推測。

蔦谷さん、「メッセージ」以来もう5年もYUKIに曲書いてないけど、そろそろまた書いてくれないかなあと思うくらいにこの二人は黄金コンビだったわけで。まあeorとかthe dayとかも好きではあるんだけど。

この曲が入ってるアルバム「WAVE」は曲順が壊滅的に残念。まあ蔦谷曲まとめ買いする意味でもベストアルバム「POWER OF TEN」をオススメしておこう。笑

ねごと「サイダーの海」「カロン

 

最後はただいま大人の階段を登り中のねごとから2曲。いやもう成人してるし大学卒業してるからその言いぐさは失礼だな。

さてねごともかなりメジャー7thを多用しているバンドで、サイダーの海は殆どDM7とGM7だけで構成されている。というかこの曲はねごと史上最強、ガールズロック界ここ5年で最強くらいの名曲と言っても過言でもないと僕は思っているくらいすごくいい曲なのにYouTubeになかったためちょっと無理矢理こちらにしてるのはご容赦を。そしてカロンのサビのコードはE♭M7。イントロのコードも同じくE♭M7。そう、これはイントロでサビと同じメジャー7thをいきなりかき鳴らしてるパターン。イントロのE♭M7はシンセ音のあとの残響音含むギターの音で、結構印象的な響きだ。ニコニコ見られない人はカロン単曲をこちらからどうぞ

このねごとのメジャー7thの多用具合だけど、なんというか微妙に背伸びした感じが表現されているのだろうか。ただ2ndアルバムではその背伸びしてる感というかみずみずしい感じが減退している気がするのはなんでなんだろう。シングル曲での使用頻度見るにメジャー7thを多用するのはそんなに変わってないと思うから、別の部分なのかな。

因みにこれが入っている「ex.negoto」も曲順が残念なんだよなー。

前回のヨナ抜き音階もそうだけど、今回も明確にミュージシャンごとに傾向が出たなあというのが率直な印象。結構な割合で「これはそうだろう」と思った曲が当たっていたので、やはり音楽はかなり理論にのっとって作られているんだなあという当たり前のことを認識した次第。

さて次からゲスト講師はKREVAさんに変わり、次回は「七変化のテンポ学」。おお、なんか今度は少し楽そうな気がするぞ(怠惰)!