たにみやんアーカイブ(新館)

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「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#07 「ツンデレのシカケ術」

さて、第7回となりましたNHK Eテレ亀田音楽専門学校ケーススタディ。だんだんケーススタディ部分が長くなってきているような気がするけど気のせいでしょう。まあそれが目的だからいいのか。

さて、これまでの回のケーススタディはこちらから。だんだん長くなっているのが伺えるかとw

さて第7回「ツンデレのシカケ術」。今回から講師は槇原敬之さん。例により前半は講義内容を要約して、後半はその内容に従ってケーススタディということでその手法が実際に使われている曲を解説するという形で。

●講義内容の要約

今回取り上げるのは、リスナーを引きつける戦略的音楽テクニック「シカケ」。番組では二つの仕掛けが紹介される。

シカケ1:キメ

伴奏のリズムを変えて、アクセントを揃えて演奏するテクニック。例として出されたのがいきものがかり「ありがとう」。サビ前の歌メロと一緒にはいるジャンジャンっていうリズムの束がシカケ。これはサビが来るよっていう合図。サビへのジャンプ台(第2回参照)のひとつ。これは伴奏のリズムを変えるという種類のジャンプ台にあたる。キメの効果として、リズムの強調で歌と伴奏が合体した「デレ」の効果が出てくるということがある。その間のメロディは突き放されて「ツン」になる。リズムが変わることでちょっと戸惑わせるような感じになって心惹かせる効果がある。

キメはサビ前だけじゃなくて色々なところに使える。槇原敬之「どんなときも」のイントロから歌メロに入るときの音は典型的なキメ。さて、このシカケはどうやって生まれたのか?実は、この歌が元になっているとのこと。

http://www.youtube.com/watch?v=iIiAAg-63HY

23秒あたりの音に注目(子供の声で隠れちゃってるけど)!実は出前一丁の曲から生まれたのだ。笑。本来Aメロのために作ったキメだけど実はサビのための予告、のろしになっている。このキメがリスナーの心を一つにして曲が歩み寄ってくるような印象を与える。まとめると、合図・強調・心を一つにまとめる効果があるわけだ。しかし、最近はキメが敬遠され気味ぎみである?洋楽はコード感などを重視してスムーズにサビに移行したりするがJPOPでは親切に曲作りをしていた。ただ若い人には王道過ぎて気恥ずかしく、最近は洋楽の影響でキメを使わない曲が増えている、とのこと。

槇原敬之が選ぶキメの名曲

  • 田原俊彦ハッとして!Good」 キメの中でも3連符を使ったりする難易度の高い、歌舞伎のようなキメ
  • 流星のサドル「流星のサドル」 行こうぜみんな!と思わせるキメ。笑
  • Kinki Kids「硝子の少年」 ブレイクしてから「Stay With Me〜」でキメを入れている。歌詞付きのキメ。

シカケ2:ブレイク

演奏中にリズムやメロディーを一時的に停止させる空白部分。先ほどの「硝子の少年」での「Stay With Me〜」の前の無音部分がブレイク。ここまでいい感じで流れていた音楽が断ち切られることにより起きる「ツン」の手法。この手法がドラマチックな展開を生むために使われている。

例としてあげられたのは、B'z「ultra soul」。Do It連呼(キメ)のあとにブレイクする。押して押して押し足す画にいきなり音信不通になるような感じ。笑。ブレイクが緊張感や不安を生む。そしてサビで大盛り上がり。

そしてそのキメとブレイクをふんだんに使ったツンデレの極みの名曲が山口百恵「プレイバック part 2」。何度も無音が続き、不安を煽り、そこから更にサビを起こす(そして「プレイバック!」のところがキメ)。それを山口百恵のクールビューティーなイメージとの合わせ技で曲世界を存分に味わせる曲。この繰り返しがだんだんツンなのかデレなのかわからなくして錯乱に近い状態になるくらいに曲にどっぷり浸らせてしまういう効果もあるという。

というわけで、この曲を槇原先生+亀田校長BANDの面々で演奏。

結論

シカケで一致団結することもできるし、曲から放り出されて自分の感覚で音楽に触れることもできる。シカケが音楽を聴くいろんなきっかけ、チャンス、いろんな場面を演出して雰囲気作りもできる。シカケのおかげでJPOPの幅を広げることができている。シカケは感情の振れ幅を作ってくれる特効薬。ここから曲のメッセージを感じ取ってほしい。

ケーススタディ

今回ケーススタディの素材を探す中で気付いたんだけど、槇原先生と校長 の言っていた「最近はキメは使われない」ということには、異議あり。というのも、特に去年や今年は80年代や90年代のポップスの意匠が巡り巡って普通に使われるようになっているので(その最も代表的な例がtofubeatsでしょう。今回は出てこないけど。)、キメもブレイクも今のポップスには大胆に使われているのだ。というわけで、今回のケーススタディでの使用楽曲は全部今年リリースされた曲です。

キメを使っている曲

私立恵比寿中学「頑張ってる途中」

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まずはももクロの妹分として目下ネクストブレイク候補私立恵比寿中学。来月にはさいたまスーパーアリーナ公演も控えているということで、平均年齢15歳ちょっとながらお姉さん達のあとを物凄い速さで追っかけている状態。そんな彼女達の保護者的存在としてTOKYO MX冠番組で共演しているレキシこと池田貴史が書き下ろした曲がこちらの「頑張ってる途中」。

ファンクと共にゴダイゴなどの80年代的な王道JPOPも大好きな池ちゃんのポップセンスが存分に反映されているこの曲、直球でいい曲になっているんだけど、0:54辺り、サビの直前の「でも ほら 空を見上げて」の太字のところでメロディとリズムが全部揃っている。これがまさにキメというやつですね。いいですかここテストに出ますからね。で「everybody!」でテンションを一気に上げてサビに突入することでより盛り上がるというわけだ。

これも収録されている私立恵比寿中学のメジャーファーストアルバム「中人」、すごく良かった。ももクロがストイック路線みたいな感じになってしまったところでどちらかというと正統派のポップスなのですんなり聴けるし。

 

余談なんだけど、今度出るニューシングル「未確認中学生X」のカップリング曲「U.B.U.」も池ちゃんが作詞作曲してるんだけど、やっぱりキメが入ってる(「頑張ってる途中」の方がはっきりしてるけどね)。 ふくろうず「テレフォンNO.1」

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今年2年ぶりのアルバムをリリースして活動に再度ギアを入れ始めたふくろうず。この曲はその2年ぶりのアルバムの表題曲にしてリード曲。この曲はイントロが終わってAメロに入るところ(0:07)とサビの前(0:36)の「デンジャラス!」のところで同じキメを使っている他、2番Bメロ(1:13)では「たんたらたんたらたんたららん」のところでも歌ととリズムが揃ってる。そして最後のサビでも歌とリズムを揃えたりしている。まさにキメまくりの曲なのだ。

ふくろうずの今年出たアルバムについては前にも書いたんだけど、今作では「ビートルズのように」広く聴かれる、エヴァーポップを志向していると発言していて、その中で、このようなキメの多用というか「王道ポップスのテクニックの引用」をしてみたんじゃないかと考えられる。ひとまずそれもあいまってすごくキャッチーになってると思う。

 

ブレイクを使っている曲

ブレイクを使っている曲はキメとの組み合わせが多い、今回挙げる二つもその例と同じような形。番組で紹介されてた硝子の少年やUltra soulもそうだしね。

ザ・なつやすみバンド「サマーゾンビー」

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前回紹介したceroにサポートメンバーとして参加しているMC.sirafuが所属している東京のインディーズバンド、ザ・なつやすみバンド。「毎日がなつやすみだったらいいのになあ」と思わすのどかな曲が魅力。この曲では、48秒辺りの「気になってたんだよ〜」のところでキメが入り、その後57秒あたりで短いブレイクが入る。なのでちょっとわかりにくいかもね。この後おとなしい展開から曲を徐々に盛り上げていって、再度2:10あたりのサビ前の「逃げ出したいの〜」でキメが入ってサビ経突入してそのまま大団円という感じ。

ふわふわしてて超うっとりする曲なんだけど、一旦ブレイクで切って突き放してから再度寄り添ってくるような展開がまたその効果を加速しているようにも思えてくる。まさにツンデレ曲。夏の夕方くらいに女の子とライブで聴きたい曲NO.1ですね。

因みに今時珍しい8cmCDの形態で発売。

 

Shiggy Jr.「Saturday night to Sunday morning

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最後は今週リリースしたてほやほやの新曲。注目の新人バンド、Shiggy Jr.の初めての全国流通盤「Shiggy Jr. is not a child」のリード曲。さっきのなつやすみバンドのブレイクがわかりづらかったかもしれないけど、今回のブレイクはサビ前に配置されていて、超わかりやすい。 0:48辺りからキメが入り始め、0:51あたりのところでブレイク。そしてドラムのフィルが入ってサビに入る。サビがものすごくポップで盛り上がるものなので、一旦ブレイクでジャンプのために足をかがめて準備するような感じかな。

しかしこのShiggy Jr.なんだけど、またすごい新人が出てきたなあという驚きに包まれている。めちゃめちゃポップで最高に好み。毒気のないCymbalsという感じというか(決して悪い意味では無いんだけど)、明るいギターバンドでポップソングやって女の子がかわいく歌うってホントここ数年お目にかかってなかったので、既にレジーさんが「アイドルブームを通過したaikoみたい」と評してたけど、それこそ色々な音楽的要素が一回りした2010年代だからこそ出てきたバンドな感じあるね。それゆえキメもブレイクも違和感なく。この曲以外だと3曲目の「Oh Yeah!!」とかもめちゃ良い。

というわけで、古くさいキメなんかは最近使われなくなった!?そんなことないない!むしろ今の最前線のポップスには大胆に使われてる例が結構ありますよ、ということで敢えて今年の曲に絞って紹介してみました。今年だっていい曲いっぱいあるし、それらはきっちり考えて作られてるんだなと。そして昔は音楽聴いてたけど…という人達にこそ、今のポップスを聴いて欲しいところ。懐かしさと新しさが同居していてきっと魅力を感じられるんじゃないかと思うんだよね。

さて次回も槇原さん講師で「フライング・ゲットのメロディー学」。AKB48フライングゲットかと思ったけどどうも違うみたいで。