たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#10 「玉手箱のマイナー術」

年も押し迫りつつあるところで、毎週恒例、NHK Eテレ亀田音楽専門学校ケーススタディ第10回目です。なんというかもうあと4回で終わりなので、年間ベストをまとめる作業と並行しつつもう一踏ん張りと思う次第。一応今までケーススタディはミュージシャン重ねずにやってるのでそこを継続できるかが個人的ポイント。

さて、これまでの回のケーススタディはこちらから。ここだけでもずいぶんな量になってきたなあ。

さて第10回「玉手箱のマイナー術」。また苦手な音階・譜面がテーマですが内容はいかに。前回に引き続き講師はJUJUさん。例により前半は講義内容を要約して、後半はその内容に従ってケーススタディということでその手法が実際に使われている曲を解説するという形で。

●講義の要約

マイナー(短調)というと悲しい、憂いというイメージがあるが、実はそうでもない。J−POPには色々な使われ方をしている。その使われ方が今回のテーマ。

例として、石川さゆり津軽海峡・冬景色」、サザンオールスターズエロティカ・セブン」、AKB48「フライング・ゲット」、子門真人およげ!たいやきくん」が流れる。ここに挙げられているように、意外な曲にも使われている。

ところで、メジャーとマイナーの違いとはなんだろう。低い方から数えて3・6・7番目の音が半音下がるのがマイナー調。特に3番目が下がるのが暗いイメージを表している。例として、およげ!たいやきくんをメジャーで弾いてみると、明るく聞こえてくる。「嫌にならないよ!」

さて、1970年代と1980年代の各年間シングル1位を表にして比較した表がここで出てみる。メジャー:マイナーの比率は70年代では3:7、80年代では2:8。圧倒的にマイナー比率が多い。マイナー曲は大人の世界みたいなイメージがある。元々演歌にマイナーのメロディが多かったことや、日本人のDNA自体にマイナーのメロディへの親和性が強いのでは?

というわけで津軽海峡・冬景色を歌ってみる。思いの丈を込めやすい。広がらない、押さえつけるような音階だから日本人の心・情感を怨念のように閉じ込めやすいのではないだろうか。

「悲しみだけじゃないマイナーの表現力」

  • 中森明菜「飾りじゃないのよ涙は」→怒り・強がり 「涙」と出てくるけど悲しみを歌ってるわけではない。山口百恵の「プレイバック Part.2」も同じようなもの。
  • 中島みゆき「わかれうた」→自暴自棄・嫉妬・愚痴 マイナーメロディーに相性のいい言葉がある?ということで試しに校長が即興のメロディに「うらんで〜ま〜す〜♪」という歌詞を付けてみる。マイナーだとハマるけどメジャーに直すと全くハマらない。むしろ逆に怖い。
  • 前川陽子キューティーハニー」→お色気・エロス 人間の様々な感情に対応できるのがマイナー。

JUJUが選ぶマイナーの名曲

  • 黒澤明ロス・プリモス「ラブユー東京」 「あなただけが生きがいなの」はマイナーでないと表現できない歌詞。
  • 奥村チヨ「恋の奴隷」 誰かに振り回される位にひたむきな気持ちを表現する曲。「そういうの、いいですよね(by JUJUさん)」
  • 五輪真弓「恋人よ」 怖いぐらいに暗い曲。破壊力が凄い。

今どきマイナー術

1990年代以降のマイナー楽曲は新しい要素が加わっている。各年代から代表例を上げてみる。

今どきマイナーは「せつなさ」の要素が強い。「胸キュン」ラインといえるのではないだろうか。JPOPに今までなかった要素が加わったと言えるのかもしれない。

結論

短調=悲しい」ではなく、幅広い表現ができるのがマイナーのメロディ。この日本語とマイナーのメロディーの相性の良さを使って名曲をたくさん産み出していることは世界に誇っていいことなのではないだろうか!

ケーススタディ

というわけで、苦手な音階系ということなので、これまでの階と同じように正確を期すべく@ELLISEさんぷりんと楽譜さんご提供の楽譜を見て検証。

「これマイナーなの!?」な曲

Perfume「レーザービーム」

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昨日から東西ドームツアーにのりだしたPerfumeの2011年リリース曲「レーザービーム」。この年に出たアルバム「JPN」ではバージョンが変えられていて更にダンスチューンとしての色を強めるなどして、そのアルバムのツアーでのつかみとなるキラーチューンとなったわけだけど、これもマイナーの曲だ(ハ短調)。確かに言われてみると、バーンと広がるような感じではないので、マイナーのメロディっぽい曲なんだなと思わされる。

アルバム「JPN」では「レーザービーム」→「GLITTER」の「光系」の曲が先述したとおりアルバムミックスとなって繋がっている部分が圧巻。ここでいきなりテンションがマックスまで振り切れるんだけど、その端緒がマイナーの曲というのが面白い(まあGLITTERはマイナーの曲ではないけど)。

マイナーならではの暗い歌詞の曲

Linked Horizon「紅蓮の弓矢


進撃の巨人OP 【紅蓮の弓矢】高音質

紅白歌合戦に出場が決まったリンホラによる「進撃の巨人」オープニングテーマ。まあ今年出たアニソンとして最高の売上を記録してるのでまあ紅白選出は妥当な線だと思うんだけど、この「紅蓮の弓矢」もマイナーの曲(嬰ハ短調)。「家畜の安寧 虚栄の繁栄」「囚われた屈辱は 反撃の嚆矢だ」っていう歌詞、これはマイナーのメロディに向いてる歌詞だろうねえ。それに重厚感があり、どちらかというとおどろおどろしい感じの曲調もマイナーの方が相性がよかったりする。まさにマイナーメロディの典型的な例といっていいんじゃないかな。テンポはBPM181とかなり早いけどね。

因みに進撃の巨人は僕も見ていたけど、後期オープニングの「自由の翼」は全く逆の方向性の曲で(タイトルからしてわかる)、これはメジャー(ハ長調)の曲なんだよね(何度も転調するけど)。その対比が面白い。紅白楽しみだね。僕は録画で見るけど。

いまどきマイナーの現在進行形

斉藤和義「やさしくなりたい」

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こちらは紅白歌合戦に去年出た斉藤和義。その時に歌ったのがこの曲なんだけど、これ実際はレーザービームと同じ2011年の曲。この年彼はホント色々なことをやったけどその締めにふさわしい良い曲だよね。んでこれもまたマイナーの曲。これは番組で触れられていた「切なさを表現するいまどきマイナー」の正統進化形なんじゃないかな。西野さんや一時期雨後の筍のように大量発生した着うたソングみたいに考えなくても情景がわかるような単純な歌詞ではないけど、男目線からの切なさに近い複雑な感情がにじみ出ているので、とてもマイナーのメロディと相性が良い。

今年も積極的な活動でオリジナルアルバム2枚同時発売。今年のCDJで見る予定だけどそういえばライブ見るの初めてだったw

さて、次週からは最後の講師森山直太朗さんが登場し「胸熱のファルセット美学」。いよいよあと2回!!