読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

カメダ本新旧比較から「ヒットの理由」を探る

亀田誠治さんが「ヒットの理由」という本を出したので、亀田音楽専門学校マニアの僕としてはこりゃ買わないと!読まないと!ってことで早速読み終えました。


カメダ式J-POP評論 ヒットの理由 先に言うと、この本は「亀田音楽専門学校」のように細かく曲中の仕掛けなどを紹介したりする本ではなく、「オリジナル・コンフィデンス(オリコンの業界向け週刊誌。1週4,900円と高い)」に亀田さんが2002年から連載している「ヒットの理由」というコラムをまとめて書籍化した物。そのコラム自体は比較的短いもので、毎週オリコンチャートにランクインしてる曲をどれか取り上げて、その曲の魅力はどこにあるのかを亀田師匠が分析する、という内容。ただし業界向きなので断りなくコードの話とか音楽用語が出てくる(その点は枠外に解説が付いてる)。

実は書籍化は今回初という訳ではなく、連載が始まった2002年〜2003年のものをまとめた物が過去に出版されている(今は廃刊)。


ヒットの理由―人気音楽プロデューサーが読み解く ヒット曲は偶然生まれない 前の方もちょっと前に入手したので、せっかくだから両者を比較して亀田さんが考えるヒットの理由の特徴や時代を経ての変遷とかを見てみようじゃないかと思った。なので、改めて両方の本を読んで、どんなことを亀田さんが「ヒットの理由」と考えているかを分類してExcelに書き出して眺めてみた。そこから見えてきたのはだいたい以下にまとめられる。

  • 「アレンジ」「歌声」「音作り」が3大評価ポイント
  • CD販売低下兆候がはっきり見えてきた2008年頃から「売り方」についても言及するようになった。
  • それを反映して、近年ミュージシャンの「コンセプト」「キャラクター」の打ち出し方が一つの評価軸になった
  • 「歌詞」「メッセージ性」を評価する向きは、2011年に多い(ただし、この年の作品が取り上げられてる数自体多い)。

それぞれについて話す前に注釈を入れておくと、旧版の本は1年分丸ごと通しでコラムが収録されている一方、新版の方は10年分から厳選されたコラムを、「時代を映す歌」「バンド」「ソロ・ユニット」「洋楽」の4軸に分類して掲載しているので、ある程度意図が働いていると考えられる。とはいえ、むしろ、それだからこそ比較してみるのは面白いかな、と。

さて1つめ。アレンジはそのまんまで、「歌声」は声質からボーカル技術から色々、「音作り」はどんな印象で聞こえるかという所謂サウンドプロダクションの部分。やはり音楽業界向けの専門誌ということもあってまさに音楽的側面からの分析が主。しかしながら、そういった音作りの匠の技みたいなのもわかりやすく紹介しているので、そんなに詳しくない読者でも理解できるようになっている。例えばaikoの曲は言葉を聞かせることを重視したドライな音作りをしてるんですよ、という話を読んでから実際にaikoの曲を聴いてみるとなるほどをと思わせるところがあったりとか。

www.youtube.com

2つ目については配信とフィジカルのポートフォリオをどうしているかとかそういう話なんだけど、CDの価格を下げているケースなんかも取り上げている。特に挙げているのはfflumpoolの1stアルバムが79分58秒というCDサイズギリギリまで入っていて2480円であることに触れて、「徹底した顧客志向」と言っていておまけつけて値段を引き上げただけのCDにちくりと一刺ししている。それ以外にも色々な例を取り上げて「ただCD売れないって行って売り手目線のままあぐらをかいている」ミュージシャンを牽制している。

3つ目については、何よりも2007年のPerfumeの「ポリリズム」。その後2010年台になってからこの点について取り上げるレビューが多い。コンセプトについてはサカナクションきゃりーぱみゅぱみゅ・世界の終わり(現SEKAI NO OWARI)など、キャラクターについては星野源MAN WITH A MISSIONナオト・インティライミなどが取り上げられている。 アイドルブームとかも意識してるのかなと思ったけど、その辺に言及したのはない(因みにグループアイドルについては、私立恵比寿中学について取り上げてる回があるけど、そこでは殆どももクロの「行くぜっ!怪盗少女」の楽曲の構成およびメロディと歌詞の話で終わっている)。この辺は「物語性」の話やマキタスポーツさんが書いた本と併せて話したいことたくさんあるんだけどまたそのうち。

そしてこの本で取り上げられたものの約2割強が2011年なんだけど、これこそ時代性を反映して「歌詞で何を伝えるか」「どんなメッセージ性を持たせるか」というところにフォーカスするようになっている。とはいえ直接震災と絡めて言及しているのは猪苗代湖ズくらいで、miwaや家入レオのような若いシンガーソングライターがどんな歌詞で共感を勝ち取るか、みたいな話がメイン。これはこれで、ミュージシャンならではの視点で興味深い部分が多い。

www.youtube.com

ここに挙げてる例はほんの一握りで、コード進行にメロディーやグルーヴ感なんかの話も含め、多面的に分析しているのでぜひ読んでみてほしい。取り上げられたミュージシャンはオリコンチャートである程度の位置にランクインしている人達なので、特定ジャンルを深く突っ込んで聴いている人にとっては色々言いたいことがあるかもしれないけど、「歌は世に連れ、世は歌に連れ」というのを上手く表している本だなあと思った次第。今聴いてる音楽についてもうちょっと突っ込んで聞いてみたいな、という人にはお勧め。