たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

VIVA LA ROCKは「ウケるロックフェス」だという話を今更する

すごく今更なんだけど、ゴールデンウィークさいたまスーパーアリーナで今年始まったVIVA LA ROCKに行ってきたのでその話をする。もう1ヶ月以上経った状況での後出しじゃんけん感高い記事だけど、そこはご勘弁ください。笑

●演目の簡単な感想

行ったのは2日目のVIVA LA GARDENでのKeishi Tanakaと撃鉄のフリーライブ、それから最終日。サカナクション星野源ceroか〜。まあ最近は色んなフェスに出るようになったよねceroもさ、とか思ってたら追加でフィッシュマンズと森は生きているが入ったため急遽行くこと決定。というと慌ただしく見えるけど、実際には各日1日券は最後までソールドアウトしなかった(中でも最終日にあたる5/5のチケットは一番売れなかった、と言うことが今月号のMUSICAでのサカナクション山口さんと鹿野さんの対談で語られてる。この辺は後述)。まあ始まったばかりだしARABAKIとMETROCKという既に実績がある同程度の規模のフェスが近い日程にあって競合したことがあるように感じた(この両者はチケット完売)。

さて感想。見たのはSPECIAL OTHERS→The Fin.→BOOM BOOM SATTELITES(最後だけ)→昼休憩→POLYSICS(最後だけ)→きのこ帝国(前半)→cero→森は生きている→星野源(中盤)→フィッシュマンズサカナクション

目当てで行ったフィッシュマンズは相変わらず良かった。フロントマン佐藤伸治・実質メンバーともいえたバイオリニストHONZIの二人が既に亡く、もはやフィッシュマンズとは認めたくないファンの人も多数いると思うけど、茂木欣一は昔からのを最大限保つ人選をしていると思うわけですよ。特に2年前にさいたまスーパーアリーナでやったときからはゲストボーカルが代わる代わる出てくる、カラオケ大会とも揶揄された形式を廃してバンドとしての一体感、連続性を重視しているのでこれがすごく効果出てると思っている。選曲も良かったし、満足。MELODY良かった(映像は20年ほど前の奴だけどw)。

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ツアーやってくれないかなあ。今年はスカパラ25周年とクラムボン20周年で難しそうだけど。

あとサカナクションなんだけど、「ミュージック」の前奏がめちゃくちゃ良く響いてて驚いた。さいたまスーパーアリーナの音響の良さはPerfumeのJPNツアーなどでも体感してて、サカナクション音にこだわりあるんだからここでもっとやるべきだよと思っていたんだけどまさにその通りだった。しかし事務所の社長の好みにより同規模なら幕張メッセ優先、ということになるわけで残念。しかしホント音良かったな。逆に2番目に大きいVIVA STAGEは天井高すぎて反響が意図通りにならなくて音が良くないなあと思ったけど。

あとは、まだ見たことがなくて評判は聴いていたバンドも結構あったのでそれも楽しみにしていった。やっぱりフェス行くのであれば3割〜4割くらい初めて見る人達がいないと面白くないなと思ってて。半分以上だとポカーンとなる危険性あるけど。具体的にいうときのこ帝国、The Fin.、HAPPYあたりが初めてだった。The Fin.とHAPPYはサウンドが洋楽然としているなあと感心した。どういう風にして何に影響受けてバンド始めたのか興味ある。きのこ帝国はものすごく良かった。途中でcero見るために出ちゃったんだけど、ギリギリまで離れられないくらいの引力があった。

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という感じで満足度高いフェスだったんだけど、そこかしこに「ウケる」ロックフェスだなあと思えるポイントがあったのでそのことについて書いておきたい。

●「ウケるロックフェス」たるインフラ

さっきさいたまスーパーアリーナは「音が良い」って話をしていたけど、会場自体コンパクトというのも特徴として挙げられる。最初のアナウンスでは、ジョン・レノンミュージアムの跡を利用している多目的スペース「TOIRO」も使うと出てて、エレベーターとエスカレーターでしか行けないそんなところにステージ作ったら大変だなあと思っていたんだけど、最終的に高校生軽音楽部のコンテストに使われたようだ。そんなわけでメイン会場に出来た3ステージはとても近い。それでいて中心地となるSTAR STAGE(メインアリーナ)は扉が厚く音漏れを防げるために音かぶりなんかも殆ど無かった。VIVA STAGEの音響がいまいちだったこととCAVE STAGEのキャパが少ない(一応パブリックビューイングがあったけど、通路の中にある分音量も出せないので申し訳程度、という感じだった)ことを除けば各ステージの設計は良かったんじゃないかと思う。歩いた距離はフェスにしては少なく、一日中いたけど足疲れなくてそのまま歩いて家帰ったくらい。野外じゃなくて道がぼこぼこしていないこともあったけど。

それ以外にもトイレが多いというのも長所としてあげられる。そして駅から近く(個人的には徒歩圏だったので最高の立地だった)、ロックフェス初心者が敬遠するポイントは見事なまでに排除されてたと感じた。そして一番ポイントが高かったのはメインステージにスタンド席があるということと、車いす・子供席が小さなステージでもちゃんと確保されていたこと。後者は最近珍しくないけど、

その上で駅からアリーナの途中にあるけやきひろばではさいたま市の後援を得て「VIVA LA GARDEN」という並行開催のお祭りを作るという工夫。後発のフェスながら地元に根付くイベントにしようという意気込みが感じられた。これはアリーナ内で飲食物を売るスペースが少ないという会場起因の欠点を埋める工夫でもある。敢えて言えば、GARDENとフェス会場の間に何もないスペースが出来ていたのでそこはつなげた方がイベントとしての統一感が増してより良いだろうなあと感じた。開場前の混雑を考えると難しいのかもしれないけど。

そしてもう一つの新しい試みであった音楽同人オトミセ… これに関してはMUSICA上でも大きな課題として捉えられていたけど、率直に言って今回の形は出店者へのインセンティブが欠けていたように感じた。とても詳細に改善点を提起してくれている出店者がいたけど、その意見や主催側でキャッチできてる声を元にして改善できればいいのではないかな。1日目にはクローク周りなどで多少混乱があってTwitter上で騒がれてたけど2日目以降は鎮火してたようでそういう声は聞こえなかった。色々場所の制約はありながらも、随分とよくできていたなあというのが率直な感想だ。

●「ウケるロックフェス」たるブッキングとスポーツ化するロックの話

ブッキング自体は競合フェスと同じようなもんだった(というかARABAKI・METROCKとこのフェスの3つに出たミュージシャンは実に8組もいる)。なんだけど、MUSICAではぶっちゃけトークで「最終日が他の日よりもチケットが売れず、他の日より1,000枚ほど少ない17,500枚くらいだった」ということが語られている。その話を聞いてから再度ラインナップ見直したら、なんとなく最近読んだ本と符合するところがあったので、書いてみたい。

その本とは、これ。

オルタナティブロックの社会学オルタナティブ・ロックの社会学」ということで、1990年代以降のロックミュージックの音の変化と受容の変化について論じている本なんだけど、ポイントとなる概念が2つある。まずはそれを紹介。

  1. 「波」の音楽から「渦」の音楽へ 端的に言うとギターソロの衰退とリフ重視。パートパートが代わる代わる主張をする(次から次へと波が寄せてくる)音楽から各パートが密接に絡み合って塊として音を鳴らすような音楽へと変化した。MY BLOODY VALENTINEなどが一つのルーツとなっており、技術的背景としてはエフェクターの進化なんかも。
  2.  ロックはスポーツ化した アート的表現としての音よりも体感できる音へのニーズの高まり。そしてそれをロックフェスの一期一会的構造とステージ規模・動員数の競争原理が駆動しているという話。スリップノットなどのハードコアな音楽が踊れる音楽として市民権を得たこととか、近年のロックミュージシャンがスポーティーな格好していることとか。そしてそういう現代的なバンドの勝負を描いた漫画「BECK」とか。

この本はホント色々気付きがあるのでお勧めしたいし、前著である「ロックミュージックの社会学」も、ロックミュージックの構成要素をモデル化するというとても野心的な本なのでどっかでまた別途紹介したい。それはさておき、今回のフェスについて言えば、「ロックフェスとスポーツ化した音楽の相性の良さ」という物を凄く感じた。そして最終日はそのスポーツ的色彩が弱かった故にチケット売上で相対的に苦戦したのではないか、と考えている。初日はBIGMAMA・SiM・KANA-BOON、2日目はゲスの極み乙女。・TOTALFAT・the telephones等が挙げられるけど、5日のSTAR/VIVAにはこの手の若くてスポーツ化した感じの音楽を奏でるミュージシャンはいない。そこが大きな違いだっただろう。

そういった流れは別にこのフェスでだけ起きているわけではないのだけど、このフェスでは際立っていたように感じる。立地・インフラ面の充実によって若い世代が多かったこともあるのだろうか。そしてそういった流れへの、特に「早い」という点への指摘は各所で挙げられた。

d.hatena.ne.jp

レジーのブログ 「日本のロック」はまだまだ面白いと感じた先週の話

そしてライターの宇野維正さんからは「日本のロックフェスは体育会系女子主導」という指摘があって、まさにさっき言ってたスポーツ化という話と符合する。そして先頃フジテレビの「魁!音楽番付」でVIVA LA ROCKの風景を何度か取り上げていたわけだけど、初回で俳優の小柳友が実際に参加する、という企画では楽曲演奏風景もさることながら、サークルに混ざったりウォール・オブ・デスっぽいモッシュをやったりする風景が実際に客席密着アングルで撮影されており、フェスの「体感する面」というのが切り取られている意外に貴重な映像だ。主催側とテレビ局側で撮影・編集について何か話があったのかはわからないけど、「こういうのが今ウケている」ということは恐らく間違っていないだろう。サカナクション山口一郎Base Ball Bear小出祐介など、ミュージシャン側からもこういう流れに違和感を表明する流れは出てきているが、出てきているということ事態それなりにこの流れが大きくなっていて定着しつつあることの証左だろう。

とはいえ、そういう流れをきっちり取り入れつつも、最終日ではそういう流れとは違うブッキングをしたことは恐らく意図的なもの。しっかりシーンを見つめながらそのシーンを多面的に切り取るフェスを提示しているVIVA LA ROCK。来年もこうしてやってくれるなら行きたいな。どちらかというと文化系的なラインナップの日にw