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レキシの「レシキ」に見える音楽の「温故知新」

レキシの4枚目のアルバム、「レシキ」が発売された。

  レシキ(DVD付)

ただ日本史のことを歌い、そこに古今東西のポップミュージックのエキスを注入して全力で「音楽で遊ぶ」というコンセプトのユニットがここまで続くとは驚きというほか無いけど、今作もそのコンセプトを忠実に守りつつとてもクオリティ高く、それでいて笑える作品群に仕上がっている。過去最多とも言えるゲスト達がその素晴らしい「遊び」に花を添えている。レキシネーム考えるの大変だっただろうな…それにしても「旗本ひろし」とかクール過ぎる。

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と書くとそこで終わってしまうので、今回のアルバムではレキシが音楽的にもレキシである面が一層際立ってたなあと思うわけで、その辺りについていくつか説明したい。音の温故知新。

●レキシとシティポップと江戸時代

今回のアルバムを聴いて感じたのは これまでSUPER BUTTER DOG時代から続いてきたファンク的な曲に加えて、70〜80年代辺りのポップス辺りを参照しているなと思われる曲が多かったこと。先日「魁!音楽番付」で鹿野淳さんがレキシの音楽性についてこんなことを言っていた。

音楽的な才能は本当に凄いです。アメリカでの昔の「AOR」っていう音楽を、今の時代なりの、日本の街に響かせる音楽として再生させていくシティポップというムーブメントと呼んでも良い、そういう音楽の流れがあるんですけど、それこそ今回のアルバムの中でも、もうねえ、なんかそこのAORっていう昔の、スティーリー・ダンっていう神のような存在がいたんですけど、そのスティーリー・ダンを超えるんじゃないかみたいな、これはなかなか日本人には出来ないですよね。

まさにその通りで、本人も「今回はポップ」って言ってるけど、今回の曲はAOR~シティポップの流れに位置づけられるものがこれまでより多いように感じる。1曲目の「キャッチミー岡っ引きさん」なんかはサビの後半の展開からして80~90年代の女性シンガーソングライターが歌ってもおかしくないような曲だし、9曲目の「ドゥ・ザ・キャッスル」なんかはホーンアレンジとか含めて率直に言うとY.M.C.A.っぽいと思った。

この辺、意図したかどうかは別として曲の殆どが近世(戦国・江戸)になっていることからというのは大いにありそうだ。10曲の内戦国より前が1曲、戦国時代が2曲、江戸時代が6曲、戦国〜江戸の辺りが1曲。江戸時代というのは大都会江戸(東京)が成立した時期でもあって、そういう文化史的な側面も踏まえてのアレンジ……というのはさすがに大げさに考えすぎかな。

とはいえ池ちゃんの中で今のモードがファンクよりもAOR/シティポップ方面にありそうなのは、私立恵比寿中学への提供曲からも浮き出ている。特に初提供作「頑張ってる途中」以上に昨年秋の「U.B.U.」は70〜80年代辺りのポップスを参照している感じがする。イントロなんてフィンガー5っぽいと思う。

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こういったシティポップ回顧みたいなものについては別にレキシだけの話ではなく、最近インディー界隈で何度も言及されたはっぴいえんど回顧もそうだし、tofubeatsが引っぱった90年代回顧もそうだ。特に最近の話で言うと、Especiaのアルバムなんかはサウンド的には80'sのフュージョンベースのシティポップを思いっきり参照してきてるわけで。(個人的にはそこからヴェイパーウェイブだ!とかもてはやすのは違和感があるんだけどそれは別の話。仕掛け人が意図的にやってるのは理解してるけど)

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YouTubeやネット配信で昔の音楽へのアクセス環境が向上したとかもあるけど、そこからシンプルに「カッコいいと思うポイントを抽出してアップデートする」ことの才能、というのがここ最近で評価を得ているんじゃないか、ということも思ったりする。

●全曲簡単レビュー

お気に入りのミュージシャンだとこういうのをやるのが定番になってる気がするけど、語りどころが色々あるアルバムなので早速。試聴も付けときますね(環境により聴けないこともあるかも)。

  1. キャッチミー岡っ引きさん feat. もち政宗(江戸時代) 明るい曲調と大々的に取り込まれたホーンズ、そして後半のサビ展開など、今作の方向性を端的に示している曲だと思う。しかしもち政宗の声のかわいらしさは反則ですよね。後半コーラス抜きで歌うところがたまらなく好き。 曲名の元ネタはスピルバーグ監督の映画「Catch me if you can」か。
  2. 年貢 for you feat. 旗本ひろし、足軽先生(江戸時代) シティポップ調で綺麗な声で歌わせるならまさにこの人!という人選。そして「年貢の納め時」からきた祝言ソングという構図は恐れ入る。
  3. お犬様 feat. 尼ンダ(江戸時代) まさかのジャズ調。因みに生類憐れみの令は喧嘩両成敗的な思想から来る「安易に人殺ししちゃう風潮」に釘を刺す側面が強かったという説。その辺も踏まえたという池ちゃんの弁(今月のQuick Japanより)。ほんまかいな…w 参考文献↓ 生類をめぐる政治――元禄のフォークロア (講談社学術文庫) 喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)
  4. RUN 飛脚 RUN(江戸時代) 曲名の元ネタはスターウォーズで霊体化したオビ=ワン・ケノービがルークに向けて発したセリフ「Run Luke Run」だそうな。1作品1曲くらいはあるドライブソングっぽい曲。これもまたシティポップ感ありますな。
  5. salt & stone(江戸時代) 元ネタは1970年代のファンクロックバンド「Sly & Family Stone」なのだろうか。QJの池ちゃんコメントによると「何かを動かす原動力について歌ってる、FIGHT THE POWER(パブリック・エネミー)な曲」とのことで、「へいへいはいちろー!」とか歌ってるとなんか楽しくなってくるし力が沸いてくるような気がする。笑。あと少し「ジンギスカン」っぽくもある。
  6. 僕の印籠知りませんか?(江戸時代) 昨年の冬のライブツアーで披露されていた曲で、QJではニール・ヤング&クレイジーホース風と紹介されてた。なるほど確かに
  7. 憲法セブンティーン feat. シャカッチ(飛鳥時代) 5曲目と同様の、今回のファンク枠。ワンコード繰り返してグルーブ感出す、という意味ではよりこちらの方がファンク感強いかな。シャカッチもいて、という辺りも含めバタードッグ的な感じする。
  8. Takeda' feat. ニセレキシ(戦国時代) 腹筋崩壊。 一発録りでやっているだろうからライブでの再現は極めて困難なのではないかと思うし、やったとしたら多分全く違う物になりそうな気もする。
  9. ドゥ・ザ・キャッスル feat. 北のパイセン問屋(戦国〜江戸時代) 「Y.M.C.A.」的なディスコチューン。増子さんだけににオファーしたはずなのに「俺にもレキシネームくれ」とついてきた怒髪天メンバーのコーラスが良い味を出している。特にハゲノウズメ(坂詰さん)の「大手門!」が最高。増子さんが「俺の城〜」と歌う部分のメロディも素晴らしい。Tr1・Tr5と並ぶ今作のベストトラック。
  10. アケチノキモチ feat. 阿部sorry大臣ちゃん(戦国時代) レキシのアルバムは、最後に比較的落ち着いた曲が入る傾向があるのだけど、今回もしっとりとしたバラード。ちょっと男色を連想させる歌詞は1st「レキシ」の「兄じゃ、I need you 」を意識していたりするのかな。

●レキシの未来

「歴史の未来」なんて矛盾してるんじゃないかという話はさておき。アルバムはオリコンウィークリーランキング7位、ニューアルバムと同時に発表された日本武道館公演は一般発売されたチケットが即日完売。本格始動後初である、3年前の新代田FEVERのライブの頃から見てた身としては率直に驚きだけど一度見たらまた見たくなるのは間違い無しなのがレキシのライブ。CD音源以上に音楽で遊び、しまいにゃ色んな歌を勝手に歌ったり変え歌したりするために権利関係に引っかかってしまうため映像パッケージ化されたこと無いしこれからもされる可能性は低い。でも逆に、「一期一会の保存不可能なライブ」が重視されていると言われている最近の世の中で、レキシは圧倒的に正しいことをやっているのではないだろうか。音楽で遊ぼう、歴史と遊ぼう。キャッツ!