たにみやんアーカイブ(新館)

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亀田音楽専門学校SEASON2のケーススタディをしてみよう〜#08「揺れる心のビブラート」

毎週恒例アップの亀田音楽専門学校ケーススタディ第8回です。今週は随分遅くなりましたが、これほどの遅れは残り最終回まではないんじゃないかと思います。たぶん。12月は年間ベスト的な物が色々入ってくるので別の意味で心配だけどw

過去の記事はこちら。第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第1部の最終回

さて、第8回はゴスペラーズ先生をお迎えして「揺れる心のビブラート」。歌唱技術といえばファルセットをテーマにした「胸熱のファルセット美学」という回が昨年ありましたね。どちらもタイトルがハート繋がり。

●講義の内容

まず単刀直入に説明。ビブラートとは、「声を震わせるテクニック」。というわけで、ビブラートを使った名曲として、浜崎あゆみ「Voyage」、HOUND DOG「ff(フォルティシモ)」、MISIA「Everything」、広瀬香美「ゲレンデが溶けるほど恋したい」、山崎まさよし「One more time,One more chance」が流れる。

さて、声を震わせるテクニックと言ったけれども、正確には「音程が外れて聞こえない聞こえ方で、声を一定の周期・振れ幅で震わせる」という物。実際に先生にビブラートを出して周波数系に書けたところ、所謂波形の高さも波の幅もいずれも等間隔になった。子言う言う状態になっているのがビブラートだ。さて、なぜビブラートを使うのかというと、歌がうまく聞こえるようになるから。ではなぜうまく聞こえるようになるのか?そこを深く突っ込んでみることに。ためしにゴスペラーズの「ひとり」の歌い出しをビブラートある/無しの両方の場合で歌って見た。そうするとビブラートのあるなしで心がこもっているように感じるかどうかがかなり違う印象になった。因みに、「ひとり」のこの部分は歌の始まりなので意識してビブラートありにした、とのこと。声の振れ幅=感情の振れ幅なのだ。

ビブラートの名曲

  • 深いビブラート:クレイジーケンバンド「タイガー&ドラゴン」 すっとして消えていくビブラート、しかし最後は深いビブラートで余裕を見せる感じ。深い/浅いなど使い分けされている。ビブラートはロングトーンの中で使うと効果的。
  • 泣きのビブラート:内山田洋とクール・ファイブ長崎は今日も雨だった」 こみ上げる泣きの感情をビブラートで表現している。その途中でビブラートをかけることもある。少し焦らすような校歌。感情が抑えられなかった、という歌詞を後押しするような効果をもたらす。
  • 細かいビブラート:JUJU「やさしさで溢れるように」 前二つは強力にかけている。ビブラートの波の周期が細かい。さざ波のような、熱すぎないビブラート。
  • 坂本九上を向いて歩こう」 歌い方ではなく声そのものにビブラートが内蔵されているかのようだ。優しく聞こえる。記名性のある声でもある。ビブラートがなかったら明るすぎる声になると推測され、震えで影を表現するため敢えて残したのではないか。ビブラートは日本人独特の湿り気を感じさせる。それはもしかしたら民謡や演歌を通じて受け継がれている、歌に気持ちを込めるテクニックなのではないか。

楽器のビブラート

声だけでなく、楽器もビブラート指せることが出来る。例えば、校長がプロデュースした椎名林檎の「本能」サビの頭でボーカルとユニゾンしている音があるが、そこにビブラートを仕掛けている。所謂「泣きのギター」等、楽器でも歌と同様の効果が得られる。

ビブラートしない歌声の魅力

荒井由実「卒業写真」、奥田民生「イージューライダー」、AKB48ヘビーローテーション」等は逆にビブラートを使っていないため、澄んでいる感じがし、まっすぐな歌声が歌詞をストレートに伝えることができる。ビブラートがないことでピュアで無垢な感情を表現できるのだ。ただし、ノンビブラートは正確な音程が要求されることに注意。ノンビブラートの歌声は純粋さ、かわいらしさ、まっすぐさを表現する。逆にビブラートが入ると必然的に情念がこもってしまう。なので意図的にビブラートを外したりすることが増えてきた。例えば、きゃりーぱみゅぱみゅ「ファッションモンスター」、SEKAI NO OWARI「スターライトパレード」、Perfume「Magic Of Love」等はオートチューンで調整してビブラートをなくすことで非現実的なイメージを象徴している。アニメーションなどで培われた日本人ならではの手法ではで、所謂「クールジャパン感」を出すことが出来る。

ゴスペラーズが選ぶビブラートの名曲

  • 美空ひばりジャッキー吉川ブルーコメッツ「真っ赤な太陽」 全てにおいて完璧なビブラートのかけ方。若い頃だったので、細かかった。計算されている感じがする(繰り返しのビブラートが全て同じ幅)。「お客様はレコードを聴いてきてくれるわけだから同じことをします」ビブラートはアーティストの個性を表現する。

ビブラートを使うと単純に歌がうまく聞こえる。ただ、一番大事なのはビブラートを使うと楽曲に様々な表情をつけられることだ。日本人は貪欲にビブラートを導入していて、色々活用しているけど、なくならない。アップデートして最適な表現をしていってほしい。

●補足・コメント

校長が指摘しているとおり、最近J-POPのヒットソングにビブラートのある曲が少なくなったというか、ビブラートのない曲が増えたな、というのは実感としてあります。まあ自分がそういうの聴くのが増えたと言えばその通りなんですが(短くてすみません)。

 ●ケーススタディ

そんなわけで、番組で示された例と同じのを最近の曲から拾っていきますよ。

深いビブラート:安藤裕子「アロハオエ」

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ロングトーン+ビブラートといえば安藤裕子でしょう。なんとなく余韻を残しながら消えていくビブラートの歌声。なんか最近歌い方が変わった気がするけどここは前から彼女の魅力の一つなのではないでしょうか。

泣きのビブラート:aiko「くちびる」

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「あなたのいない世界にはあたしもいない」。もうこのフレーズだけでやられてしまうんだけどここにビブラートが挟まってるために感情が増幅されてしまう。aikoは本当に効果的にビブラートを使って歌う人だけどこの曲はホントうっとりきちゃう。まさに大人な感じの一曲。

細かいビブラート:秦基博ひまわりの約束

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秦基博の歌声は凄く浸っていたくなるときがあるけど、その理由の一つにビブラートがあるだろう。この曲ではAメロからビブラートを使っているんだけどそんなにロングトーンを使わず短く区切ってビブラートで歌っている。その後のサビも基本的に短めな感じ。若干あっさりしたような、余韻を残したような感じに仕上がっている。

歌声自体がビブラート:宇多田ヒカル「Goodbye Happiness」

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一応このケーススタディには「2010年代の曲を選ぶ」というルールを定めているんだけど、この曲はちょうど4年前の、人間活動入りする前のベスト盤に収録された書き下ろし曲。てかそんなに前なのか…

宇多田ヒカルは「ちりめんビブラート」といわれるくらいにビブラートが細かく、そして歌声に自然に入り込んでいる。それが彼女の歌声に独特の質感を与えている。そして、その声は番組中で上げられた美空ひばりと同等の「1/fゆらぎ」を備えていると言われているのだ(説明は長くなるのでしません)。その辺り堪能してほしいです。(個人的には彼女が番組中で出なかったのには少々驚いている)

12月10日にはソングカバーアルバムが出る彼女だけど、やっぱりこの歌声聴きたいので、また音楽活動してほしいなあ。せめて単発での曲作りでも良いので。

 

さて、次回はゆず先生を招いての「無敵のボーカル術〜相棒編〜」。掛け合いとかをやるみたいですね。全体的な印象として、SEASON2は楽理的名物よりも技法的な物の方が多いですよね。フォーカスする角度が変わっているなあという印象。