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作り込みが初期衝動を超えるとき〜ディスクレビュー:モーモールルギャバン「僕は暗闇で迸る命、若さを叫ぶ」

最近は先月に届いたFISHMANSのライブDVDをずーっとかけてる毎日だったわけだけど、そんな中先週買ったモーモールルギャバンの新譜がめっちゃ良かったよという話。

僕は暗闇で迸る命、若さを叫ぶ

モーモールルギャバンといえば「サイケな恋人」でのパンティーコールで有名だと思うし、「ユキちゃん」とかのポップな楽曲が人気。だけど去年に出したシングル「Good Bye Thank You」は彼らが今まで殆どやったことのないような直球のバラードだったから驚いた。と同時に次のアルバムどうなるんだろうと思った。

https://twitter.com/tanimiyan/status/144072169570308096

でも杞憂だった。今回の完成度めちゃめちゃ高いわ。ていうかあまりにも満足したので、感じたよいポイントをつらつら書いてみようかなあと。

1:アレンジ力の爆発

1曲目の「スシェンコ・トプロリスキー」。この曲はめちゃめちゃ荒削りで、正直に言えば次の「サノバ・ビッチェ」の方が曲としてまとまってるわけで、オープニングとして微妙に感じる向きもあるかもしれない。でも、このとっちらかったアレンジこそがこのアルバムの魅力を最も象徴していると思っている。

モーモールルギャバンのアレンジを作るにあたって、ユコ・カティのアレンジに対するアイディアは相当豊富らしい(ゲイリー談。弾き語りした後に直接聞いた)。あのキーボードの音色のバラエティからも想像はつくことだけど。今まではギターがいないことを想像させない歪んだ音色が頻繁に使われていたけど、その辺りが今回は純粋にピアノっぽい音色やオルガン的な、どちらかというとクラシカルな感じの音色を活用する傾向のように思える。

「それは悲しい唄のように」という曲はまさにその傾向の典型的な物で、昨年末のシングル曲「Good Bye Thank You」からの流れを汲んだ一つの完成形なのかも。音をあえてシンプルな物にして、旋律とか構成とかで勝負する、というような感じ。もちろんリード曲(と思われる)2曲目「サノバ・ビッチェ」のようにテンションが上がるゴリゴリの「これぞモールル!」っていう曲も合ったりするので、今作はかなりアレンジの幅が広くなってきたように思える。

https://twitter.com/yuco_cutty/status/178863375252594688

そして最終曲の「気まぐれのように揺れる世界から」。クイーンの「Bohemian Rhapsody」、サカナクションの「ナイトフィッシングイズグッド」を思わせるような多重構成の曲。基本的に旋律は同じなのでこの2曲と並べるのはそこまで適切ではないのかもしれないのだけどリフレインさせて様々なアレンジで魅せてくれる曲は、モーモールルギャバンの現時点における集大成にあたる物なのではないだろうか。

2:ユコ・カティの歌唱力

年々上手くなっているよね。そろそろ「サイケな恋人」再録して欲しい。ライブで聴くと前半部がめちゃ上手くなっててめちゃ声がかわいくて萌え死ねる。ていうか、今回はユコ曲の声のつやがよりいっそう出ていて味わいがある。「午前二時」とか。

そんでもって、今回のアルバムではツインボーカルの曲が物凄く増えている。ユコがコーラスで入るだけではなくゲイリーと交互にボーカルをとる。これで曲によりいっそう動きが出てきている。さっきのアレンジの話と合わせて、曲やその集合としてのアルバム世界を広げているのだと思う。

僕はユコ曲大好きなので今回はユコボーカル多くて満足!笑

3:大人になった(?)歌詞

iTunes StoreだかAmazonだかの感想で「パンティーという言葉が歌詞に入っていない!」という指摘があって、ああ、モールルを聴く人のうち相当数はそういう要素を求めているんだなあとすごく思った。相対性理論が「ハイファイ新書」を出したときに「スマトラ警備隊みたいなのが全然ない!」っていう酷評が結構散見されて、みんなやっぱ現状維持派なのかな、とか感じたりしたのを思い出す、奥ゆかしい感想でございました。

それはさておき、そういう意味で今回は歌詞の面ではあまり冒険をしなかったなあ、という印象。「僕は暗闇で迸る命、若さを叫ぶ」というタイトルの通り、若者の心の叫びというコンセプトで一貫しているように思える。歌詞の面ではそこまで奇をてらっているわけではないけど、その分今回は曲の作り込みで勝負している、ということなんだろうな。このアルバムにおいてそれは成功していると思う。アレンジが強烈なだけにね。

 

バンドにおいて「代表作」というのは武器であり、壁でもある。ライブでやって絶対に盛り上がる鉄板の曲は、逆にそれを超える曲が作れるかというプレッシャーにも繋がるところがある。サカナクションが「ナイトフィッシングイズグッド」を超える曲を未だ作れていない(と僕は思っている。エンドレスは相当良い線行ってるけど、武道館公演であの曲をやらなかったのはその点をかなり意識していたからであるように思う)ように、オアシスが「Morning Glory」を超える作品を作れなかったように。モーモールルギャバンの場合、「サイケな恋人」「ユキちゃん」のような初期衝動丸出しの曲が人気だし、ものすごく良い曲だと僕も思うけど、バンドを続けて変化と進化を重ねて、別の次元からそれらを抜き去るかのような完成度の物を彼らは作ろうとして、おそらく成功した。

 

これは良いアルバムだ。この中から次のモールルのアンセムが出てくるかというのはまた別のお話だろうけど。