たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話

この話についてはじっくり書こうと思ってたんだけど、こんなのが出てきては見過ごせないのでもう一気に書いちゃうよ。

音楽CDと有料音楽配信の売上をグラフ化してみた  →  ここ数年は音楽そのものの売上が低くなってた|やらおん!

これの元ネタ。

縮み、変容する市場…音楽CDなどの売れ行きと有料音楽配信の売上をグラフ化してみる(2011年版) 2012/03/30(金) 15:15:32 [サーチナ] 

とりあえず元ネタの方をちゃんと読まないと「音楽マジやべえなwwwざまぁwww」みたいな残念な結論になっちゃうので、ちょっとこの話に色々と補助線を入れてちゃんと理解して欲しい、というのが今日の趣旨。まあ実際の売り上げ数値が変わるわけではないのが残念なんだけど。まあ希望もあるんじゃないかなとかそういう話。

んで、元ネタの元ネタがこれ。

2012年3月29日「日本のレコード産業2012」を発行 一般社団法人 日本レコード協会|プレスリリース

日本レコード協会が出している、「日本のレコード産業」という業界のホワイトペーパー。まあレコード業界白書みたいなもんですな。これ自体は先週に読んでいてうんうんとだいたい内容は把握していて、今週もっと読み込むかなって所だったわけだけど。

というわけで、本論に行きます。元ネタくらいまでは読んでおいてもらえると嬉しい。

1:1ミュージシャンでかろうじてもってるけど地盤沈下が止まらないCD売り上げの話

これに関していうとわりと元ネタのままなんだけど、だいたいまとめると以下のような感じ。

  • CD全体の売り上げは前年度比で5%減
  • シングルCDは前年度比116%
  • アルバムが前年度比89%

というわけ。

個別の話をしていくと、シングルCDの売り上げ増加は記事にははっきり書いていないけどぶっちゃけた話AKB48が主要因。2011年のミリオン認定シングルは前年が1枚(ちなみにこれもAKB48の「Biginner」)しかなかったのに5作に増えてて、それが全てAKB48の作品(「桜の木になろう」「Everyday、カチューシャ」「フライングゲット」「風は吹いている」「上からマリコ」)。前年度比で60億円伸びているうちの殆ど((500-100)万枚×1500円というすごくざっくりした計算)を占めてしまっている。そう考えるとすごいな。投票券の効果たるや……!!

※7/23追記:投票券だけじゃなくて握手券もありましたねぇ。握手券の効果についてはそんなに書いてないけど、近い話としてAKB48をはじめとするアイドルとファンの話のエントリをこの後に書いたのでそっちをあわせてみてもらえると良いかも。

因みに、元ネタにもその元ネタにも書いていないけど、AKB48をはじめとするアイドル全般に言えることとして「シングルCDのパッケージバリエーションが多い」というのがあって、同じシングルCDでも通常盤と初回限定盤と通常限定盤があって更にそれにA・Bとかあって全て中身が微妙に違うという売り方が恒常化している。これがシングル全体の売り上げをかさ上げしているという面も大いにあるところ。

一方でアルバムは今年もたいしたヒット作はなく全体的に縮小気味。ここには特に書くことはないかな。あえて言うと縮小幅は拡大してる。これは東日本大震災の影響。3月に物流がぐしゃぐしゃになって発売の延期などが多数起こったりその後の自粛ムードや不景気による販売低迷みたいな物は多少ありそう。シングルの方は完全にAKB効果にかき消されてるけどね。因みにこっちにもいわゆるアイドル商法というのは炸裂してるけど、極端に中身の違うのは少ないし、元々限定盤・通常盤商法はあったけどまあ比較的かわいいもん(例えばAKB48の「ここにいること」は通常盤も限定盤も収録曲は同じ。ももいろクローバーZの「バトル アンド ロマンスは2種類の初回限定版の特典が全然違うけど、本編は同じCD」)。

今年に関して言うと、AKB48前田敦子卒業は意外とインパクト甚大なのかもしれない。まがりなりにもグループの中心メンバーだった訳で。とりあえずシングルCDの売り上げが下がると一気に全体も落ちるね。相当AKB48でもっている、というのが現状。

2:音楽配信は今どうなっちゃってるのかの話

音楽配信に関しては、まとめサイトでは「減りました」としか書いてないので、これじゃ全く何が起きてるのか分からない。僕が一番補助線を引きたかったのはこの辺。何故かというと、僕のもう一つの興味関心分野と物凄くリンクしているからね。

まとめサイトの元ネタであるサーチナに書いてあるのは以下の通り。

  • 2008年から音楽配信の売り上げが減り始めた
  • 2010年になって、売り上げが急激に落ち込んだ
  • 現在はスマートフォンへの移行期。スマートフォンからの売り上げも含んでいるインターネット配信は前年度128%と伸長している

ここら辺には物凄く補足が必要。まず、一つ目の2008年から音楽配信の売り上げが減り始めた話だけど、この間減ってるのは基本的にモバイル配信だけ(唯一の例外として、2010年はインターネットダウンロードも売り上げが落ちている。トラック数ベースでは落ちてないんだけどね)。

んで、これが何故かという話だけど、2007年の秋から携帯電話の端末販売に販促奨励金を積むのに規制がかかり、携帯電話端末の単価が上がり、買い換えサイクルが長くなったから。その根拠は下記画像をよく見ると分かる。

つまり、

  • バイルのダウンロード数量を見ると、一貫して初期設定の時に入れる割合が多いと思われる「Ringtunes(着信音)」が下がり続けており、2011年は「Ringback tunes=着うた(フルじゃないよ)」も下がっている。
  • その裏付けとして、「着うた」「シングルトラック=着うたフル」で2011年にミリオン認定されている物の中に2011年の曲は一つもない。

なので、買い換えサイクルが長期化すると必然的に着うた消費量が減る。そこに2010年辺りからiPhoneなどのスマートフォンが本格的に浸透してきて一気に着うたフルも含めて激減するという話。モバイル→モバイルの場合、NMPか番号切り替えの場合は買い直し、同キャリア内番号引き継ぎの場合はSDカードの著作権保護機能で引き継ぎ可能という形になるけどそもそもiPhoneとかにしたら買い直しどころの話ではなくなるので、素直に市場はシュリンクしていくわけ。

そんなわけで、逆にインターネット配信は2011年に急成長してる(iPhone4/4Sの普及効果)。そして、この流れは今年の2月に突如行われたiTunes Storeの3G通信対応によりいっそう加速することと思われる。

とはいえ2011年ではインターネット配信の伸びが20億円でモバイル配信の落ち込みが160億円と、桁が一つ違うのですぐにカバーするにまでは至らないと思う。あと、Androidは基本的に音楽が買いづらい(日本系CP以外はPC必須とか…とはいえあまり使ってないのでこんな使いやすいのあるよ!とかあったらごめんなさい)。そして買いやすいiTunesはクレジットカードが必要。プリペイドカードという手もあるけど、基本的に日本人がクレジットカードを使いたがらなかったが故にいわゆる「ケータイ払い」が発達したという面もあるので、この辺はどういう風に着地するのか正直分からない。緩やかにインターネット配信が伸びるけど中期トレンドは市場縮小ということなのかな。

3:やっぱりライブなのかという話

音楽コンテンツ単体に関していうと、正直今後の見通しとしては市場縮小以外はありえない。そこに対して言いたいことは後で言うことにするけど、サーチナの方にも書いてなかった話題が一つある。それが「音楽ビデオ」。実はこれの売上金額って、年々伸びている(2010年はちょっと落ちちゃってるけど)。

おそらく、ライブの映像作品が増えてるのが理由なのではないだろうかと思う(データをとろうと思ったけどちょっと失敗したのでまた今度)。ビデオクリップは基本的にCDの高付加価値化に利用されているのでパッケージ化作品としてはライブ物が多くなる。そしてよくライブに行ったりするヘビーリスナー層がその瞬間の思い出をとっておくアイテムとしてライブDVD/Blu-rayを購入しているのではないかと推察。

そうなってくると、やっぱりライブがこれからの音楽業界のビジネスの中心になっていく(あるいはもうなっている)という見立てはほぼ間違ってないと思う。この、音楽映像ソフトが伸びるという傾向はこれからも続くように思う。

 4:で、レコード業界はどうすればいいのかみたいな話

これはわりと前から言ってることだと思うんだけど、簡潔にまとめると

辺りになると思う。とりあえず「音楽作品を手に取る機会」を増やすことが大事。今のCDの単価は高すぎる。国際比較でアメリカより出荷本数が少ないのに一人あたり購入額が世界一高いという事実がそれを証明しているように思う。ていうか単価比較したら一発だと思うんだけど書いてないね。

日本の音楽ソフト1つあたりの単価は23.2ドル、アメリカは15.4ドル。この中で日本の次に一人あたり購入額の高いイギリスも13.15ドル。シングル比率高いのにこの価格は何。というか単価20ドル超えてるの日本くらいじゃないか。

手軽に色んなミュージシャンを見られるロックフェスの隆盛とか見ても、「今、人々が何を求めているか」なんて普通に考えれば気付きそうな物で、結局どれだけ間口を広げるか、顧客を創出するかという話につきると思うんだけどなあ。もうこの辺の話は1年半くらい前にしてるけど。ミュージシャン側は意識の変化が見られるもレコード会社側は少し鈍いように思う。

あとYouTubeね…プロモーション機能としては非常に有効なツールなんだけど、これをダウンロードして音源の代わりにできちゃうということもあり、ちょっと微妙な感じがする。ストリーミングを捕捉するのはなるべくならできないようにしといた方がいいんじゃないかなあと思う。その分コンテンツ販売をもっとしやすくするとかはあった方がいいと思うけど。

音楽はまだやばくない。ライブがあるから(これもなかなか大変だけど。去年の震災での自粛とか)。でも、このままだと本当にレコード業界は沈むよ。その解決策なんてのは、業界独自の事情とかあまり関係なく、単純に顧客をもっと広げることに尽きる。基本的なことだよ。売上=顧客数×単価だけど、これ以上プレミアム付けられるほど音楽の価格弾力性(たばこみたいに価格を上げても顧客が逃げにくいかどうかという度合)は小さくないよ。


7/23追記

気がついたら過去見たことのない数のブックマークがついてて驚きました。まずは物凄く沢山の方々に読んでいただきどうもありがとうございます。はてなブックマークのトップページに自分のブログエントリ(しかも3ヶ月も前の)が載っているのを見たときには正直目を疑いましたww

ここからはみなさんから指摘頂いたところ中心にちょっとだけ補足です。

元々このエントリはやらおんが結構いい加減なまとめを作っているところ+その元ネタのサーチナ自体統計情報への踏み込みが甘いという状況を見てきっちり整理し直したいという思いで書いたので、そこについてみなさんからお褒め頂き大変嬉しいです。その一方で具体策踏み込み甘いという言葉多数。ですよね!自分でももにょりながら書いてたしまあ実際「自分にとって都合の良い」解決策の提示ばっかだなあと今見てみると思ったり。著作権どうにかという指摘があり、その辺は僕もまあもちろん賛同するところなんだけど、それ以前に音楽が他の娯楽に負けたのはなぜかという話があって、純粋にまずはマーケティングの問題というか商売の問題だよねと僕はずっと思っているので(この辺大学で経営学やってた影響が強い)、そこを優先したというのもあります。著作権の話は別エントリで書いてます。ちょっと消化不良気味なんだけど…(そういえば裾野を広げるならテレビ・ラジオがーという指摘があったような。このエントリでちょっとだけ触れてはいます。)

それからレンタルの話がないこと。まあこれは僕が単純にレンタル使ってなかったのですっぽ抜けてただけです。考え足りなくてごめんなさいね(笑)。そんなわけで資料をほいっと。

…あれ?横ばいだ…。なんだろうか。レンタルの売上げはそんなに変わってないってことなのかな。CCCが上場やめて最近IR情報出してくれなくなったので、この辺のデータは若干乏しい感があるところ。そう、低価格化の前にレンタルがあるだろうっていう指摘は結構正しいんだけど、レンタルがあるが為にセルCDが高止まりしている現状というのもまたあるわけで。まあレンタルって電機メーカーの子会社でありあくまで「親会社のハードを売る道具」でしかなかったレコード会社が渋々認めたために産まれた業界のゆがみみたいなもんだと僕は思っていて、これがあるから問題はすごく複雑なんだよなあ…別エントリではレンタルはむしろ値上げだろといったけど、それだと多分レンタル店死ぬしね。

あとSpotifyとかVEVOとかMusic Unlimitedとか。最後のはまだこの文章を書いた時点ではローンチしていなかったわけだけど、これも自分が使ってないのですっぽ抜けてしまった観点。Music Unlimitedは色々言われているけど、間口を広げるという観点からすると、有効なんでしょう。でもNapster日本版の時もそうだったんだけど、聴きたい曲にいかにアクセスできるか問題というのがどうしても残っちゃうような。まあこの辺は体感してみないとダメだな。

最後にアメリカダメだったじゃん、という話。ここも資料見てたら確かにその通りだった。読み込み浅かったですね。同じ資料にアメリカの音楽ソフト売上げの数字の推移があったので記載すると、

  • 2005:11,195百万ドル
  • 2006:9,651百万ドル
  • 2007:7985百万ドル
  • 2008:5,977百万ドル
  • 2009:4,562百万ドル
  • 2010:3,635百万ドル

と物凄く気持ちいいくらいに落ちている。じゃあ配信は?という話だけど、今はアメリカだと配信とCD売上げはほぼ同数だそうな。下記参照(これだけは6月に出た日本レコード協会「THE RECORD」という冊子からの引用)。

4位までしかあげてないのは恣意的なんじゃなくて単純な場所の都合。説明するのに必要なわけではないから。見て欲しいのは右側の数値。それでも確かに2005年水準のソフト単体の売上げの半分くらいになっている米国の現状。悩ましいなあ。この辺は米国での音楽の浸透具合とかがどんな感じだったのかをすごく知りたいところ。確かにこの現状ではCD値段下げてDRMフリーにしても…って感じなのは確かにその通り。

悩ましくて何にも解決策が見つからないところですが今日の追記はひとまずおしまい。また色々気付きを見つけたら書いていきたいなと思います。業界関係ない1ファンですが、何かお役に恩返ししたいところ。まあまずはもっとお金落とせって話でもあるんですが。

それにしてもすごくいっぱいコメントもらえて、嬉しかった!お褒め頂けたのももちろんだけど、反論もあーなるほどとかそれ見逃してたわーとかすごく気付きがあってむしろ厳しい意見の方が嬉しかったかもwwマゾですな。音楽以外の話題も多いブログですが皆様何とぞよしなに。

 

※今回の図表はそのままPDFからキャプチャさせていただきました。関係者の方、もしこれがよろしくないということであればご指摘願います。作り直します。あといつもながら計算ざっくりです。