たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

テクノロジーはライブ・エンターテイメントをどう拡張するのか

最近はリリスクばかり見に行ってるたにみやんさんですが、もちろん他にもいろいろ行ってるわけで、今日はその辺の話をしたい。特に9~10月に立て続けに行ったBABYMETALとサカナクションの大箱ライブがなかなかテクノロジー駆使した演出をしていて面白かったのでその辺の話。あとそれとはちょっと異なるけど先日話題を博した実証実験なんかの話も交えたい。

●空間を演出するテクノロジー、演者にフォーカスするテクノロジー

時系列的には後になるんだけど、まずはサカナクションの話をしたい。関東では幕張メッセ2DAYS、大阪では大阪城ホール2DAYSでおこなわれたうち、僕は幕張メッセの2日目に。以前からレーザー光線や可動式LED照明(NINJAR LIGHT)にオイルアートを活用した視覚的効果をライブに積極的に取り入れ、音楽だけにとどまらない総合エンターテイメントを志向していたけど、今回のライブはその集大成的な意味合いもあったように感じた。

サカナクションはテクノ・ダンスミュージックとロックの融合というコンセプトを掲げていることもあり、クラブなりレイヴ・パーティーなりを連想させる空間作りを各種テクノロジーで実現しているように感じるところで、事務所が同じなBUMP OF CHIKENやしばしばその演出の壮大ぶりが話題になるSEKAI NO OWARIなどと同様、空間をテクノロジーで演出している、といえそう。大箱になればなるほどこの手のテクノロジーは増えていく。そうしないと空間がスカスカになってしまうので、これからもそういうのは増えていくしサカナクションについては大箱になったことに伴いスピーカーの数も相当増やしてさらに6.1chのサラウンドにしたという点でもこれからの大規模ライブのお手本になっていきそうである(ただし、個人的な所感としては6.1chサラウンドについては楽曲本体にはあまり活用されていなかった。スピーカーの数の方が重要でしょう)。

 

ただし、どんなミュージシャンも大規模になったらそんな演出をしなくてはいけないのか、という話も出てくるのではないかと思う。その辺向き不向きもあるだろうし…というものだ。そこに対する一つの回答になっていたと思われるのがBABYMETALのワンマンライブ「巨大キツネ祭り」だ。さいたまスーパーアリーナでの公演に2日連続で行ったんだけど、このライブではステージの背景に巨大ディスプレイを用意してメンバーを大映しにするというのが演出の核だった。

いつものBABYMETALのライブだとステージセットが大胆だったりで結構演出に気合が入っていることが多く、どちらかというとさっき挙げたような「世界観をブーストする」ような演出が主体だったのだけど、それとは真逆の構成だった。実際行った人達からは「演出が少なめ」と捉えられた方が多かったようにも見受けられたけど、僕は逆の感想を持った。これは「演者にフォーカスする」演出だと。ステージの背景をまるまる使ったマルチディスプレイは可動式な上にアリーナ備え付けの設備よりも解像度が高くてめちゃくちゃ鮮明に映るものであった。高さは10メートルくらいはあっただろうか。これでメンバーが大映しになればどんな端席からもBABYMETALの3人のことがよく見える(実際2日目は200レベルの最後列だったが、それでもメンバーの表情がよく見えたのでかなり満足感高かった)。特にBABYMETALのように「まずはメンバーの姿を見たい」アイドルならばこういう演出はよくハマるのではないかと思うところだ。VRやARの一歩手前みたいな感じだなとも思ったし。実際BABYMETALは東京ドーム公演でも360度ステージに合わせた360度ディスプレイを採用しており、演者を遠くの観客にも見せるということに対してとても積極的だ。規模に関わらずシンプルにライブを見せたいと考えるバンド・ミュージシャンにとっても大いに参考になるのではないか、と思うところだ。 

Perfumeがトライした「距離を超える」ことの意義

少し前になるけどPerfumeNTT docomoとコラボレーションして技術デモのようなライブをやった。東京・ニューヨーク・ロンドンの3カ所にメンバーが分かれ、ニューヨークとロンドンのパフォーマンス映像を東京でリアルタイム編集してYouTubeを通じて世界に流した、というものだ。アーカイブが残ってるので見てほしい(もっとも、アーカイブではその時の衝撃は伝わりづらいかも。僕もそれで見たクチだけどw)。

さて、このパフォーマンスのテクニカルな面での特徴は国を横断する通信であるということ以外に通信経路の一部にdocomoが実証実験を進めている5Gモバイル回線を使っているということが挙げられる。この5Gモバイル回線とはどんなものなのかdocomoのホワイトペーパーを確認してみたところ、次のような要求条件を引いて開発しているという。

  • 低遅延(理論値1ms以下)
  • 大量の収容数(2010年比1000倍のトラフィック流量・100倍の同時接続数を実現)
  • 高速通信(1Gbps)

今一般提供されている光回線とほぼ同等の通信環境がモバイル回線で可能になるというわけだ。マジかよ。その辺パフォーマンス後にNTT docomoの担当役員の方が囲み取材で答えててその中になかなか面白い話があったのでここで紹介。

 

話の中で特に興味深かったのは次の点。

  • 5Gを使ったのはロンドンからの映像が日本に来て建物に入ってから映像デコーダーまでの部分(いわゆるラストワンマイル)。ただし多少距離が離れても低遅延性は維持できる
  • 動画はフルHD×4本を送っているので4K相当のデータ量。
  • 動画の中に埋め込まれた絶対時刻を基準にして東京のスタジオで出力映像をシンクロしている
    (注:いくら光の速度でも大陸間通信では1秒未満にしても遅延は不可避だしNYロンドンそれぞれ東京との距離は違う。なのでこういった処理を施している。ただしあまりにも遅延が大きいと補正のしようがなくなる。今回の環境では幸いにして遅延は許容範囲)
  • 5Gは今の所スペック通りの性能を出せている(もちろん検証環境だからだけど)。国内での通信ならかなり遅延なしで使えそう

このパフォーマンスのテーマだった「距離を超える」パフォーマンスができたわけでエンタメ的には凄く可能性を秘めたものになったと思う。

例えば今回のように演者が離れたところにいてもコラボレーションできる。技術じゃなくてPerfumeがすごいみたいな意見も聞かれたしそれはもちろんだと思うけど、ある種このレベルの同期を体得して表現できる人であれば複数会場で別々のことをして合わせるというのも可能なのではないだろうか(余談。おそらく5Gが本格的にローンチするとインターネットの輻輳は避けられないだろう。そうなるとエンタメ用にIP-VPNのモバイルVPNを使うという選択肢も出てきそう。モバイルルーターに5GVPN SIMの刺したのを置いてインターネットを避けた安定した通信をするというのもありうる。もちろん5Gのキャパシティがスペック通りでかつそれを超えるデバイスが集合しないことが条件にはなるけど……)。今まで中継挟むとどうしても遅延みたいなのが発生してた(それがある種味になってるところもあった)けどリアルタイム同期につなげる可能性がかなり出てきたのではと感じた。ライブビューイング的なものも、今までは大きな設備・固定の回線が必要だったものがもっと手軽になる可能性もある。この辺面白いソリューションいっぱい出てきそう。

 ●テクノロジーがエンタメをエンパワーする

テクノロジーは今までできなかったことを可能にしてくれる。ただ、月並みな意見だけどやはり主であるのはライブアクト・パフォーマンスであるべきだというのは言うまでもない。あくまで、テクノロジーはエンターテイメントをエンパワーするものでしょう。その辺を見誤ってテクノロジーの導入が先に立つ、倒錯したようなライブも時には出てくるかもしれない。でもそういうのはお客さんにはすぐわかると思う。そういう目的と手段が入れ替わったようなものでは持続しない。「巨大キツネ祭り」みたいにひたすら演者にフォーカスするようなテクノロジーの使い方は新鮮に感じたし、「何のためにテクノロジーを使うか」の回答として、これからの新しい基準になりうるものではないかと感じた。テクノロジーでライブ・エンタメがもっと豊かで楽しいものになることを願ってやまない。