たにみやんアーカイブ(新館)

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彼女は倍速(が良い)〜ディスクレビュー:ナンバタタン「ガールズ・レテル・トーク」

南波志帆タルトタタンのコラボユニット、「ナンバタタン」のファーストミニアルバム。


ガールズ・レテル・トーク

南波志帆ファンである僕としては、共催ライブからのユニット結成・アルバム発売の報に驚いたと同時に、「えっ、ソロ名義1年間ほったらかしなのに…?」という気持ちにもなった。そう、彼女はソロ名義の音源を1年以上リリースしていないのだ。去年リリースされた彼女が歌う歌はtofubeatsのアルバムの表題曲「lost dacade」とアニメ「夢見る森のアマールカ」に提供された「青の時間(羊毛とおはなとのスプリットシングルの形でタワーレコード限定発売)」の2つだけ。ライブは活発に行っているけど、単独ではなく主催の対バンイベントが殆ど。「10代のうちに日本武道館でライブをやる」という目標を掲げていたけどそれを達成できずに昨年20歳になった彼女は悔しさと申し訳なさをブログで吐露していた。何が良くないのだろう、これまでは僕もそう思ってた。そもそも10代のうちにソロ歌手で日本武道館公演をやるなんて殆ど前例もなく難しいにも程があるのだけど、それは置いといて人気の伸び悩み感はあったのでどうしてかな、という気にはなっていた。

ただこのアルバムを聴いて思った。もしかして今までの彼女のソロ楽曲はその魅力を十分に引き出せていなかったんじゃないか?ということに。それぐらいこのアルバムはいい。正直言うと全く期待してなかったんだけどその驚くべきかわいらしさに心を鷲掴みにされている。

タルトタタンは「テトラッド」を数回聴いた程度だけど、完全に西浦&真部で初期相対性理論みたいな感じの曲調だなあという印象を持っていた。ただしそんなにハマらず今回に至る。メンバーがもう2回も替わってしまったので正直相対性理論以上に匿名性の高いユニットになってしまっているような印象もある。ナンバタタンが発表されたこと自体もその2度目のメンバーチェンジと同じイベントでの発表だったことも期待値を下げてた一因かもしれない。

そんなわけで「西浦・真部サウンドと南波志帆?」みたいな認識で発売日までいたけど、蓋を開けたらそうじゃなくて、プロデュースはふぇのたすのヤマモトシュウ。驚きなのは昨年ようやく全国流通盤を発売したばかりのバンドが実験的新ユニットとはいえ他の、しかも新人でない歌手のプロデュースをいきなりすることになるなんて。しかし果たしてこの起用、結果的に超大当たり。ふぇのたすよりバンド色を強め、更に高速に。いきなり最初の曲の「ズレズレニーソックス」はBPM180弱のハイテンポナンバー。どちらかというと表題曲「ガールズ・レテル・トーク」よりもこっちを表題曲にしてほしかった。因みに表題曲は単曲で聴いたときはピンとこなかったけどアルバムの流れの中だと「ああ……いいね!」と思えた。

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その後も更に早い「R.T.S.」、ミディアムチューンを2個挟んだあとにとにかく小節中に言葉を詰め込んだ歌メロの「コミュニケーション過剰です」、やはりBPM180弱の「彼女は留守電」、そして早い上にサビで早口まで詰め込んだ「超スピードチューン」である「恋は倍速」と続く。この曲のサビはものすごいインパクトがあるけど、ここまでテンポを上げた曲に慣らされてることもあってすんなり入ってくるもんだ。そしてこの高速チューンを歌ってる南波志帆の歌声を聞いてて思い出したのは、南波志帆が古典的ロックの名曲をカバーするビルボードコラボアルバム「"CHOICE" by 南波志帆」のライナーノーツにてスパイス・ガールズの「WANNABE」のカバーについてRHYMESTER宇多丸さんが言ってた話。

南波さんはリズム感がいいし、オールひらがなの歌詞で子供向けのラップの曲とか歌ったらハマりそう。

まさにそれがこれだ。彼女は倍速で歌わせるのがいい(すごくどうでもいいけどこの後「スラングも入ってる歌詞だけどそこも意味がわからず日本人がストレートに歌うと響きだけでかわいくなれちゃう感じ」といっていたプロデューサー矢野さんに「あんたはセルジュ・ゲンスブールかよ…」とツッコミを入れたくなった)。 http://www.youtube.com/watch?v=TbgyWFwTPcU

というか、彼女の楽曲でピンときてる曲はだいたいそこそこのスピード感があるんだよね。大名曲「水色ジェネレーション」、末光篤のピアノポップ「乙女失格。」、そして赤い公園津野米咲が歌詞を書き元東京事変伊澤一葉と共同でアレンジをした「ばらばらバトル(この曲はBPM180Overだ!)」。そもそも彼女は速い曲・早い歌との親和性が高いんじゃないかな。

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そしてこれらの作品はアレンジに矢野Pが参画していない。Cymbalsのドラムとしては大好きだったのであまり言いたくないんだけど、彼のプロデュースワークは微妙だよなあと思う。市井紗耶香のソロとかもね…(モーニング娘。現役時大好きだっただけに結構がっかりした)

あと一時期の赤髪はなあ…「MUSIC」は曲も良くなかった。結果「乙女失格。」の方が水色ジェネレーションより売れてないんだよね。それもかなりわかりやすく。今の南波ちゃんめちゃめちゃかわいいだけに、ちゃんと良い新曲出してプロモーションで多少露出すればかなり引っかかる人多いと思うんだけど。「ちゃんと良い新曲出す」のが難しいのはわかってるよ…

そんな訳でかわいらしいポップスの一つの理想型みたいなこの作品なんだけど、あくまでもナンバタタンは「南波志帆タルトタタン」であり、「南波志帆+葵+優希」ではない。というのは、タルトタタンの二人はこのアルバムで殆ど二人セットで歌っているのだ。一方南波志帆パートはコーラスは入らない。そのコントラストがまたこの作品に独特の味を付けてると思う。ヤマモトショウの仕込んだギミック盛り沢山でフックに満ちているものすごく面白いアルバム。今年聴いた作品の中では今のところダントツにオススメです。