たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

2014年の音楽パッケージメディア(CD・レコードなど)の売上読み解き

例年通り、2014年の音楽パッケージメディア情勢についてレコード協会さんの生産実績統計が発表になったのでそこに対する分析など書いていきたい。生データはこちら。

一般社団法人 日本レコード協会|各種統計

先に何のためにこの記事を書いているかを示しておく。結論を先取りしてしまう形になるけど日本の音楽パッケージビジネスは前年比減でかなりどん詰まりだ。だからといってそれを煽るためにこの記事を書いているわけでは無いし、「今の音楽がダメだからCDが売れない」みたいなくだらない結論を書くつもりも無い。この売上集計を元にした記事はそれこそ2012年から書いているけど、正しい情報を書いてその背景に何が起きてるかを客観的に分析するだけだ。なぜ僕がやるのかというと誰もやってないからだし、自分自身にとってこの深掘する作業が面白くて楽しいからだ。というわけでよろしく。

※この記事書いてから指摘を受けて気付きましたが、上記の生産実績統計は小売りで売れた分とは若干一致しないところがあります。ただ、マクロなデータを元にしたマクロな話が中心なので、その辺りはほぼ同一な物と捉えて頂けるとありがたいです。

因みに過去の記事はこちら。

2011年:音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話
2012年:レコード業界のゆくえ2013(音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話 Part.2)
2013年:2013年の音楽パッケージメディア(CD・映像・アナログ等)売上まとめ

●サマリー

ではCDと映像メディアについて、まず数量ベースで暦年単位での推移を比較。

volume-years

CDシングル:5,546万枚(前年比91%)
CDアルバム:11,493万枚(前年比90%)
CD合計:17,038万枚(前年比90%)
音楽DVD/Blu-ray:5,368万枚(前年比94%)

これは何度も言ってるけど、日本だけでなく全世界では音楽パッケージメディアとしての主流はシングルではなくアルバムなんです。なので実は音楽配信というのはそういう観点からすると音楽商売における大きなパラダイムシフトなんだけどその話はまた今度。続いて金額ベース。

sale-years

CDシングル:418億円(前年比97%)
CDアルバム:1,423億円(前年比93%)
CD合計:1,481億円(前年比94%)
音楽DVD/Blu-ray:677億円(前年比94%)

枚数の減少に比べて金額の減少はそれほどでもない。これは買う人が初回限定盤などの高付加価値商品にシフトしているというような話と考えることが出来る。しかし全体のパイが減っているので、より「好きな人たちのための娯楽」つまり閉ざされた物になっているとも言うことができ、(個人的には大嫌いな言い方であるのだけど)「最近の音楽よく分からない」みたいな話に繋がるのではないかと感じるところである。

というわけで、お約束なんでこれ置いておきますね。何かえらくタイムリーになってる気もしますが。

www.youtube.com

アイドルばかり聴かないで / Negicco

因みに、レコード協会側が公表していないからよくわからないのがミュージックカードの位置付け。額面通りそれぞれシングル・アルバムに編入するということであればミュージックカードで安く売ってチャート順位上げるみたいな売り方が言うほど浸透していないんじゃないかという気がする。

●CD売上の前年比較詳細

年間を通じたパッケージメディアの売上に関して言えば「売上が減っている」以外の何もいうことはなく、とりわけ今回は書くことが無くて困る。敢えて言えば洋楽が前年並みをキープできていたってことくらいかな。といっても、これは「アナと雪の女王」のサウンドトラックが100万枚売れたことによる物。この1枚(正確には複数形態あって「日本語版」と銘打たれた形態もあるので、これを単純に洋楽に振り分けるのは抵抗があるけど)だけで今年の洋楽CDの売上の約1割を占めているのだ(それが無かったら…とか考えるのはやめよう)。というところで例年通りの月別比較。

compare-single compare-album

アルバムはさみしいグラフに。シングルは2・3月は比較的売上は良好。とは言っても48Gがこの時期に全部シングル出しているというのが大きい気がするけど(決算対策かな)。そういえば、年明けあたりに「オリコンチャートから48Gとジャニーズを抜いたら金爆とモーニング娘。'14が残り、多種売りを抜いたらアニソンが残った」って話があった(ただしアニソンでも店舗別特典があったり各店舗での握手会があったりする)。では実際どうだったのかと言うことで例によりオリコントップ100の属性比較。集計期間が1ヶ月ズレており、さらにシングルは4割くらいカバーできるけどアルバムは1割ちょいだから参考程度にしかならないことをご承知置きくださいませ。因みにジャンルわけ再編してて昨年まではアイドルひとくくりだったところから48Gとジャニーズを抽出し、EXILE TRIBEを独立した分類にしました。

compare-genre

シングルでEXILE TRIBEが減っているのは昨年行った「EXILE PRIDE~こんな世界を愛するため~」のコンサートチケットとの抱き合わせを今年は行わなかったため。ただしトップ100ランクイン作品自体は増えている。また、アイドル(48G・ジャニーズ以外)が2014年にがた減りしてるのはトップ100にランクインした作品が少なくなっているからで、2013年に旧作含め3作品でランクインしたももクロ、20万枚以上売り上げたPerfumeが今年アルバムをリリースしなかったのときゃりーぱみゅぱみゅのアルバムが2013年の「なんだこれくしょん」の25万枚から2014年の「ピカピカふぁんたじん」で7.2万枚にとどまったのが響いている。その一方で新規にトップ100入りしたのはBABYMETALの8.2万枚だけ、ということで差し引き75万枚の減少というわけ。また、「アニメ・声優」や「演歌」の売上が増えているように見えるが、これはどちらかというと「全体的にヒットの小粒化が進み、Top100へのハードルが低くなった結果固定ファンがいるジャンルがトップ100入りするようになった」という物だ。というわけで次のグラフは、オリコン年間100位になった作品の売上げ数の推移。

100

とてもわかりやすい推移をしている。2014年のシングルにおけるアニメ・声優の伸張は妖怪ウォッチラブライブ!なんだけど、このうちラブライブ!関連作品の内3作品は昨年のトップ100では圏外になるくらいの売上だったりする。

●映像メディアの先行き

映像メディアについても月ごとの比較を。ここ数年は「DVDからBlu-rayへのシフトが進んでいるがDVDの落ち込みが大きすぎ」という傾向。そしてそれは今年も変わらず。

video

見てみればわかるように2013年より2014年の方がだいたいの月でBlu-ray比率は高くなっている。

そうなると音楽配信の着うた→PC配信みたいに何処かでシフトチェンジするんじゃないかなと思ったりもするところなんだけど、正直なところ、DVD/Blu-rayについては市場はこれ以上伸びないだろうという印象。なぜかというと再生環境が少ないままだから。下記のグラフは内閣府が行っている「消費動向調査」の3月度調査から光映像ディスクを再生できる機器のデータを抽出してグラフ化した物。Blu-rayレコーダーが統計に乗り始めた2010年から去年までのデータを取っている。

disc

Blu-rayレコーダーの普及率は実は2012年以降そんなに伸びていない。その一方で光ディスクプレイヤー・レコーダー全体の普及率は2013年から2014年にかけて下がっているという結果になっている。PCはDVD再生可能な物とBlu-rayまで再生可能な物と両方あるがその比率まではわからず。しかしここから言えるのは「光ディスクを再生可能な環境は頭打ち」という事実。特に光ディスクプレイヤー・レコーダー全体の普及率が下がっているのはテレビにハードディスクをつなげれば録画できるようになったことが要因として大きいだろう(溜めておけば良いのでダビングのニーズも少ないし)。

Blu-ray再生機器としてはもう一つ、PS3/PS4についても触れておこう。世界のゲームデータの販売チャートを作っているサイトからデータを取るけど、昨年末でPS3国内販売台数は1,020万台。ただし、発売してから8年経過しているので故障やHDD容量増大等による買い換え需要なんかもそれなりにあったりするわけで、1000万台全部が使われているということはなさそう。その上で下記のグラフ(同サイトからダウンロード)を見ると、現状新規台数はそんなに増えていないということがわかる。PS4が昨年発売されたが、現時点では国内販売台数はまだ100万台に届いていない(PS3は発売後3〜4ヶ月くらいでその数字に到達している)。

game

個人的にはBlu-rayで一度見るとDVD画質はしんどいなあと思っちゃう口なのでもっと移行してほしいなあと思うんだけどこの数字を見る限りは厳しそうだ。かといってライブビデオなどの配信が伸びてるわけでも無いのがつらいところではある。

●どうなる?アナログレコード

さて去年も独立した項を一つ設けたアナログレコード。暦年比較はこんな感じ。

record

2014年の売上金額は、ビートルズ特需のあった2012年だけでなく2003年も上回りここ10年ほどで最大になった。特にHMV Record Shop渋谷オープン後の9〜12月の販売量は非常に増えており、邦盤・洋盤共にこの4ヶ月でそれぞれがおよそ10万枚・1億5000万円ほどの売上を上げている。ざっくり言うとこの4ヶ月で1年の半分の売上を稼いでる計算だ。ただし、HMV渋谷は「新品も取り扱っている中古レコードショップ」という位置付けであり、レコード市場自体も(数字が出てないがほぼ間違いなく)中古の方が市場規模としては大きい。どちらかというと、HMV渋谷効果と言うよりは専門店が出るくらいの勢いをキャッチアップした各レコード会社が力を入れたことによるタイトルの充実の方が大きいのではないかというのが率直な印象ではある。

ちなみにRecord Store Dayがあった4月は邦盤8,000枚、洋盤15,000枚なので、年間実績からすると全く多くはない。ただし前年同月の2.5倍(邦盤に至っては8倍)売れているので今年はどうなるのかが注目どころではある。

それでも、カセットテープの年間100万本、売上9億円以下であるということは厳然たる事実。この市場を新譜だけで比較するのが正しいとはあまり思わないけど事実。

●結論のような物

最後に自分が考えていることを。毎年言ってるけどレコード会社が「音楽を聴くこと」をマーケティングできてなかった結果が今だ。その上で日銭を稼ぐために各社必死な状態で、今年はそれがさらに進んだ感じはある。オリコン初動目当ての先食い商法なんかはその典型でしょう。自分も好きなアイドルのCDを複数枚購入しているので偉そうなことは言えないのだけど、今のこの商売は確実に曲の賞味期限を縮めているように見受けられる。そういう手法で売った曲は、過去曲よりもチャートインしている期間が短くなっており、人々の記憶に残らないのではないか。アイドルにせよそれ以外にせよそれなりに武道館とかアリーナ公演を成功させてる人達はそれなりのロングヒットを出して、それを足がかりにセールスや動員を上げている印象がある。そうやって売上を増やしても育成とはとうてい言えない。何のためのレコード会社なのか、という気持ちになることもある。

しかしながら、tofubeatsのここ1年ちょい位の展開なんかを見ていてもやっぱりレコード会社(特にメジャーレーベルの)にしか出来ないようなことというのは多くある、という印象であり、レコード会社各位は長期的なことも含めてがんばってほしいです(僕なんかに言われずともわかってると思うけど)。んでもって、1リスナーに何かできるのかと言われると周りの「音楽が趣味じゃない人」にも波及させるよう日々やっていくことくらいかな〜。ということでたまたまこの記事を見た人におかれましては、他の記事も是非見てくださいね(宣伝)。

さて、1ヶ月後には音楽配信のことやるよ〜。お楽しみに。