たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

2015年の音楽パッケージメディア(CD・レコードなど)の市場読み解き

例年通り、2015年の音楽パッケージメディア情勢についてレコード協会さんの生産実績統計が発表になったのでそこに対する分析など書いていきたい。生データはこちら。

一般社団法人 日本レコード協会|各種統計

去年この協会のWebサイトがリニューアルしたのだが、はっきり言ってUI的には改悪そのものである。標準の文字の大きさでアクセスすると、表のセルの中で多桁数字に対する改行が入っており、数がわかりづらい。バカじゃないのか。しかもWindowsで文字を小さくすると1行に収まるがMacでは収まらない(SafariChromeFirefoxどれでもだ)。担当者の方には即刻修正してほしい。ていうかこのデータ見てほしくないのか???

さて、例により前口上。ぶっちゃけた話、この記事には景気のいい話は余り出てこない。だからといってそれを煽るためにこの記事を書いているわけでは無いし、「今の音楽がダメだからCDが売れない」みたいなくだらない結論を書くつもりも無い。この売上集計を元にした記事は今回で5回目になるけど、正しい情報を書いてその背景に何が起きてるかを客観的に分析するだけだ。なぜ僕がやるのかというと誰もやってないからだし、自分自身にとってこの深掘する作業が面白くて楽しいからだ。そして原典のデータが見づらいから、という新しい理由も加わった(笑)。というわけでよろしく。

因みに、上記で参照しているのは生産実績統計なので、小売りで売れた分とは若干一致しないところがあります。後でちょっと触れるけど今年は12月の生産が多い分野もあり、元日発売日製品は12月のうちに作って出荷(さらにはフラゲもあるけど)するため年内の実績になる、みたいなことも発生する。

因みに過去の記事はこちら。

2011年:音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話
2012年:レコード業界のゆくえ2013(音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話 Part.2)
2013年:2013年の音楽パッケージメディア(CD・映像・アナログ等)売上まとめ
2014年:2014年の音楽パッケージメディア(CD・レコードなど)の売上読み解き

毎年タイトルをマイナーアップデートしてるんだなwそして今年も……

●サマリー

ではCDと映像メディアについて、まず数量ベースで暦年単位での推移を比較。

volume1

CDシングル:5,514万枚(前年比99%) CDアルバム:11,269万枚(前年比98%) CD合計:16,783万枚(前年比99%) 音楽DVD/Blu-ray:5,407万枚(前年比101%)

毎年同じ話をするけど、日本だけでなく全世界では音楽パッケージメディアとしての主流はシングルではなくアルバムなんです。金額だけでなく枚数もアルバムの方が上回っている、という話です。ただし、それでも日本は世界的に見てシングル比率が高いというところはあります(昔国際比較の記事載せましたが、基本的には変わってないはずです)。

volume2

CDシングル:417億円(前年比100%) CDアルバム:1,384億円(前年比97%) CD合計:1,801億円(前年比98%) 音楽DVD/Blu-ray:719億円(前年比106%)

枚数と同じで微減、といった感じ。今年の日本の音楽ビジネスにおけるトピックはApple Music、Google Play Music、LINE MUSIC、AWAといった定額制音楽配信が始まったことであり、それにより音楽の聴取形態が大きく変わることは間違いないのだけど、これでCDはますます売れなくなるとも、ひとまず定額制のストリーミングからパッケージ販売への導線が作られるとか両方の説があった。それで結果はどうなったかというとCDの販売数量及び金額は増えも減りもしてもいない。まあたかだか1年でドラスティックに変わるわけでもないし、定額制音楽配信自体日本で本格的に出てきたのは今年後半で浸透度はまだまだ低いので、こ年の数値が底打ちなのか足踏みなのかを含め、色々結果が出てくるのはこれからだろう(これら含む配信の話はまた来月に)。ただ、僕個人の話をすればCDを買う枚数が去年の後半から確実に減ったのは間違いない。

因みに、ここで挙げられている数値は日本レコード協会の集計数値であり、その加盟社が対象となるのでいわゆる「メジャーレーベル」の数値に限られたものになる(日本におけるメジャーレーベルの定義は日本レコード協会加盟社であること、です。詳しくは山口一郎さんによるラジオでの解説を参照あれ)。とはいえ、インディーズレーベルも生産や流通の一部をメジャーレーベルたるレコード会社に委託しているケースは極めて多いので「ほぼ」市場規模の数値、といってもそんなに問題ないんじゃないかと思う。

●CD売上の前年比較詳細

年間を通じたパッケージメディアの売上には殆ど去年と同じということになったために、去年以上に書くことがない。因みに洋邦別に前年比を出すと邦楽が104%、洋楽が73%くらい。その結果、パッケージメディアにおける洋楽比率は過去最低の14%にまで落ち込んだ。去年がアナ雪特需で一時的に盛り返していたとはいえ、ちょっとびっくりな数字ではある。では実際傾向どうだったのかということで、例によりオリコントップ100の属性比較。集計期間が1ヶ月ズレており、さらにシングルは4割くらいカバーできるけどアルバムは15%程度だから参考程度にしかならないことをご承知置きくださいませ。それからジャンル分けだけど、例年通りポップスとロックの境界線が曖昧な気がするけどそこはまあ気にすんな。

genre

やっぱり洋楽の数値は少なくなっていた。心配だ。あと、ジャニーズと48G以外のアイドルによるアルバムは一切トップ100にランクインしなかった。ただし、今年はPerfumeももクロBABYMETALの三者が春にアルバムを出すことが発表されているので一時的なものでしょう。でんぱ組.inc等もランクインしなかったことは意外だけど、よくよく考えるとこの辺りも上記3グループと異なりCD売上が接触頼みな面があるなので、単価の高いアルバムはなかなか売りづらいんだろうなあと思わされるところ。シングルのアニメ・声優については「ラブライブ!(サンシャイン含む)」「THE IDOL M@STER」の関連作品がほとんど。また、去年やってみたオリコン100位作品の売上枚数推移はこちら(去年5年分しか作らなかったので気合い入れて10年分に延ばしてみた)。

No100

アルバムは前年からさらに減少、シングルは微増という予想通りな感じ。面白いのは、シングルは2009年を境にオリコン年間100位の数値が盛り返し、アルバムは一貫して下がっているというもの。ちなみに2010年からAKB48が年間チャート連続1位を続けており、いわゆる「複数買い」が定着した時期とオリコン年間100位作品の枚数が下げ止まった時期は一致している。シングルは複数枚買いしやすいのでこういう結果になったのかなという感じだけど、一貫して売り上げが小粒化しているアルバムの数値を見るとちと易きに流れていやしないかな……という気持ちにもなる。シングルとアルバムの利益率の違いなどがわかれば色々見えてきそうな気も。

さて次は例年通りの月別比較で少しブレイクダウン。

single album

去年ほど月ごとのばらつきは少ないかなって感じ。10月と11月のシングル売り上げが大きく落ち込んでるのが気になる。

●映像メディアの先行き

映像メディアについても月ごとの比較を。ここ数年は「DVDからBlu-rayへのシフトが進んでいるがDVDの落ち込みが大きすぎ」という傾向。しかし今年はDVDの落ち込みが微減に止まった結果、トータルの数字は伸びました。

video

単価が高くタイトル数が少ないので、ヒット作品が出るとものすごく伸びるのがこの邪なるの特徴。Blu-ray1作7,000円とすると5万枚売れれば3.5億円(上記グラフでは350)になる。それで市場の0.5%だからね…2015年は2・4・12月が高いが、2月はキスマイ・安室奈美恵、4月は嵐と関ジャニ∞、12月は3代目JSBゴールデンボンバーなどが作品を出ている。また、嵐が元日にライブDVD/Blu-rayを一緒に出したのだけど、12月のうちに生産され出荷され販売が開始しているのでその数値も入ってのことだろう。ちなみに嵐はDVD・Blu-rayともに30万枚ほど売れるので1作だけで30〜40億円。下手な月の1ヶ月分の実績を軽々と叩き出すモンスターコンテンツなのである。

去年からNetflixや先行していたHuluをはじめとする定額制動画配信サービスがにわかに盛り上がってきたけど、コンサート放送というのはあまりカバーされていないこともあり、音楽映像市場はしばらくこのままなのではないか、という感じである。iTunesで売られている作品も少ないしね。

●アナログレコード、本格立ち上がり?

さて去年も独立した項を一つ設けたアナログレコード。暦年比較はこんな感じ。アナログレコードについては中古市場の存在は欠かせないのだけどそもそも把握が極めて難しい上、生産を伴わない流通取引であるため新譜と一緒のマーケットとして考えることには個人的に抵抗がある(メーカー脳)。

analog1

2015年の売上金額は、去年を大幅に上回った。今年はカセットテープよりも相当上の枚数・金額を叩き出している。ちなみに気になっていたので今年は月別推移も作ってみることにした。

analog2

全世界でRECORD STORE DAYが行われ日本も追従した4月よりも、「レコードの日」と銘打ちメーカー側がキャンペーンを行った11月のほうが生産高が上。因みに僕はどっちの月にも1枚ずつ買いました。なんとなく市場が立ち上がりつつあるのかな、という感じのするアナログレコード。ただ、どうしても高付加価値商品ではあるので幅広く売れる商品ではないと思うし、ブームと言っていい市場規模なのかいまいちつかみかねているというのが実情。今後どこまで伸びるのかは正直よくわからない。

●総括のような物

今年は音楽聴取にとってターニングポイントとなる1年になりそうけど、本格的に影響が出てくるのはこれからなのかもしれない。もしかしたらならないかもしれないけど。毎年言ってるけどレコード会社は「音楽を聴く人」をどれだけ増やすかということが最大の命題であることは間違いない(どの業界でも多かれ少なかれ言えることではあるんだけど)。かといって長期的な視野でどうこうしている余裕なんてないわけで、複数枚商法・特典商法でのパッケージ商品延命でなんとか目の前の状況をやりくりしているのが現状。

ただ、CDを売るのか、音楽を売るのか、本当に大事なものはどちらなのかということはほんとよく考えた方がいいと思う。僕自身、Apple Musicを使い始めてからCDを買ってリッピングするのが超面倒になってしまっている。本当に好きなもの以外はほとんど配信(Apple MusicもiTunes Storeも使っている)で買うようになった。なんというか音楽を載せるメディアがついに本格的に変わろうとしているんじゃないか、という気がしてきている。

というわけで来月定額制含めた配信の話をしますのでお楽しみに。