たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

レコード業界のゆくえ2013(音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話 Part.2)

今年もやってまいりました。年に1度のこの季節。

2013年4月3日「日本のレコード産業2013」を発行 一般社団法人 日本レコード協会|プレスリリース

昨年のこの年鑑についてじっくり説明した記事がものすごっく大好評頂いたので、今回も気合い入れて書く次第。このときに話した認識を所々に引用しているので、読んでいただけるとすごくわかりやすいかも。

そんでもって、去年は音楽業界って書いてたんだけど、ちょっと広義にとらえすぎていろいろもやもやするので、今回はレコード業界のゆくえという名前で、きっちり範囲を規定して話を進めたいところで。そんなわけで、はりきっていってみましょい。長いよ。

因みに、この1年間でずいぶんいろんなことがあって僕の考え方も変わっているので、昨年の主張との矛盾みたいなものもあるかもしれんが気にしないでくださいませ。

1:全体的な話:レコード会社は息を吹き返したのか?

ざっくり数字的な結果だけサマリー。

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金額ベースではCDの売上は昨年度比8%増、ミュージックビデオは18%増で音楽ソフト全体としては 10%増。その一方で有料音楽配信は前年度比25%減(詳細は後で述べるけど悲観する話じゃない)、んでトータルのレコード業界の市場規模は前年度比3%増加な訳。レコード会社もずいぶんホッとしているみたいで3月は例年並みの人ビッグタイトル乱発もなく、なんか驚くほど拍子抜けした感じで例えばサカナクションは4/3時点で未だにオリコンチャートのトップ10以内に居座っている。

とはいえこの詳細を見ていくと、配信も含めたレコードビジネスというものが今ものすごく大きな変節点にいるということがわかると思われる。では早速詳細を見ていこう。

2:CD・ビデオ売上:結局何が起きているのか?

この説ではCDシングル、CDアルバム、音楽ビデオの3カテゴリについて詳細に分析する。まずざっくりとしたことを金額ベースでいうと、

  • CDシングルは前年度比103%と微増
  • CDアルバムは前年度比109%とけっこう増
  • 音楽ビデオは前年度比118%ととっても増

といった感じになる。「CD売上が上がったなんていったって、どうせAKB48の握手券商法だろ」みたいな話が来ると思ったら、その源泉たるシングルはそんなに伸びていない……?どういうことかな…?という話になる。ではシングルCDのここ最近の推移を見てみよう。

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前年からはそこまで延びていないことがうかがえる。2010年、2011年と前年度比10%以上伸びてきてたんだけど、ここに来て勢いがちょっと衰えたのかな、という感がある。ここでは細かい話は抜きにして先にアルバムの方も同じように見てしまおう。

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こちらについては前年度比10%以上の伸びとなっている。去年の記事で説明したとおり、そもそも単価が高いアルバムはそんなに多数買ってもらうことを前提とした商売の仕方は出来ないところがあるのだが、そっちのアルバムの方が伸びている。

まあこれでは本当に表層的なデータしかなめてないのでもう少し詳細に考えたいところ。

というわけで、オリコンの去年一昨年のトップ100作品をざっくりジャンルで分類してそれぞれの売り上げ構成がどう変化したかを見てみたい。結果は下の方にあるけど。シングルの方はトップ100を合計すると全シングルの35%程になる。その一方でアルバムはトップ100を合計しても全アルバムの15%弱。とはいえ、サンプリングとして傾向はつかめるかなー、と。本当はもっと長期でやった方がいいんだろうけど、根気が無かった……

一応まず定義の説明。

  • ポップス:ものすごく範囲が広くて安室浜崎EXILEからGReeeeNとか加藤ミリヤとか、さらにいきものがかりまで含んじゃってる。まあいろいろ考えたけどしょうがないというかなんというか。事実上その他みたいな感じにもなってしまってるかも。でもまあそれが日本のいいところじゃないですかね。
  • ロック:主にバンド形態のミスチル・BUMP OF CHIKEN・ASIAN KUNG-FU GENERATIONRADWIMPSサカナクションとバンド形態ではないB'zやYUIまで含んでる。サウンド面とあとはロックフェスに出てるかどうか位で分類しているのでポップスとの境界についてはまあ曖昧なところはあるっちゃあある。
  • アイドル:まあ言わずもがなというか。当然ながらPerfumeきゃりーぱみゅぱみゅもここに入っている。
  • 大御所:その道25年以上のベテランさんたち。主にソロ。
  • K-POP:まあいわなくてもわかると思うけど韓国のミュージシャンたち。
  • 洋楽:K-POPが母数として多かったので独立させたので、それ以外の国のミュージシャンたち。

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まず昨年と去年を比較したうえでシングル・アルバムを通じて見えるのはアイドルの伸張とK-POPの退潮。前者については前の年から連続した現象として出ているだろうが、後者はおそらく昨年に夏あたりから急に風向きが変わってきた感がある。まあ夏あたりの竹島上陸・オリンピックのサッカー日韓対決後の騒動などがあった辺りから日韓関係が冷えておいそれと活動展開しづらくなったという側面がありそうだ。オリコントップ100のデータについては別途見てほしいのだけど、去年の下半期に出したアルバム作品がトップ100入りしているのはKARAと少女時代の2者だけど、いずれの作品もロングセラー化している昨年の作品に売上が及んでいない。

シングルはほかのジャンルが退潮したところを丸ごとアイドルがすくう形で売上を伸ばしているが、アルバムの事情はそうではない。一緒に伸びているのが「ロック」と「大御所」。まあトップ100なので1つの作品で相当動くからねと前置きした上で説明すると、ロックについてはミスチルの2枚組ベスト(2枚で227万枚)が大きく寄与していて、大御所については桑田佳祐ユーミン山下達郎といった面々がこぞってベストアルバムを出した(この3枚で181万枚)ことが大きく寄与している。なのでアルバムの方はちょっと傾向つかめないな…という感じがあるんだけど、若干たまたまいい作品がたくさん出ただけといえなくもない。あとはカタログ数が2011年の10382種類から11625種類に増えたというのもあるかもしれないけど、2003年〜2007年くらいまではカタログ数が増えているのに売上が下がり続けているのでそんなに関係ないんじゃないかな。とはいえ、PRINCESS PRINCESSの再結成が非常に好評だったように、大御所が元気という要素は傾向としてあるんじゃないかな、とは思うところで、「普段音楽に金使わないけど買うとなったらCDで」の中高年世代にアプローチする作品が多かった、ということではないかな。

まあCDについてまとめていうとやっぱりアイドルシフトは本物だったということと、来年も持ち直すかは未知数だということ。ただ一つ心配なのはAKB48が最近いろいろありすぎて結構揺らいでいる話。峯岸みなみの坊主騒動や秋元康の様々な炎上発言、そして前田敦子引退後の絶対的エースの不在とか考えると今年はどうなんだろう、というところはある。毎年曲の出し方がほとんど同じだしそこも飽きられてくるんじゃないの?という懸念はある。「ギンガムチェック」以降初動・累計の売上も減っているし。なんだかんだでシーンを牽引している存在なので、大きく落ち込むとものすごい変動が起きる可能性はあるかも。シングルCDでは他のジャンルが総じて落ち込んでいるだけにね。

さて音楽ビデオだけれども今年もずいぶんと伸張。ひとまず統計を取り始め(2002年)てからは過去最高の売上になっている。

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ここに関してはやはり傾向を見てみようということでオリコン年間トップ50を2年分比較したところ、 2011年がライブ40作品MV集10作品だったのに対して、2012年はライブ47作品MV集3作品と、ますますライブビデオの存在感が増えている。かつてはMV集が売れ線であったがCDのおまけとしてつけてしまっているのでそもそも商品数が少なくなっており、映像作品として販売できるのがライブ映像集しかないという事情もあるけど、このライブ盛況の時代の中で自分が行って楽しかったライブ・行きたくても行けなかったライブ(2年連続で年間TOP1になっている嵐はその典型だろう)を後追いで見られるライブ映像作品が売れるというのは、比較的納得のいくものである。

そんな中、L'Arc-en-Cielが13種類のパッケージを持つライブDVD/Blu-rayを出したりするなど、音楽ビデオは「ロイアリティの高い客向けの商品」にどんどんなっている(まあラルクはあまりに極端な例だが)。ただCDと併せて「ヘビーユーザー向け」の商売に業界全体として依存しているようにも思え、あまり健全な構造とは言えないのではないだろうか。というのも、次の配信の話で述べるようにアルバムという音楽作品の構造が解体され続けている中でライブ作品とは「数時間映像コンテンツの前に座っていられる位ロイアリティの高さを持ち合わせている」客のためのものであり、ユーザー層的にも比較的頭打ちになるのは早いと考えられるからだ。そういうユーザーを増やし続ける工夫をしていくのであれば話は別だけど…

3:音楽配信売上:着うた死亡宣言?そして…

音楽配信に関しては2ヶ月ほど前にニュースになってて、それを見かけた人も多いかと。

http://twitter.com/tanimiyan/status/305122991535185920

そしてその話をグラフで見てみると何とも感慨深いことになっている。

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インターネットダウンロードの数量はここに来て増加ペースを増しているが、いわゆる着うたに分類されるモバイルダウンロードはそれこそものすごい減少となっている。さっきのツイートで言及したとおり、もしくは昨年のエントリで言及した通り、モバイルの金額が落ちているのはガラケーの出荷が減ったから(驚くことに、スマホ向けの音楽配信はモバイルにカウントされないのだ!出来ないとも言えるけど)。因みに去年着うたおよび着うたフルでミリオン認定されたのはいきものがかりの「ありがとう(2010年)」のみ、ダブルミリオン認定がEXILEの「Lovers Again(2012年)」のみと、完全に過疎化している状況である(元々着うたはロングヒットする傾向があり、その年に出した作品がミリオン認定されることは少なくなっていたが)。

さて伸びているインターネットダウンロードだけど、分類してみるとCDとは全然違うことになっている。

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CDはシングルの倍の数量アルバムが出ているが、配信では逆どころかシングルトラックの15分の1程度の数量しかアルバムが出ていない。金額ベースに起こしてもシングルの半分くらいにしかならない。配信ではアルバムであっても曲単位で買えるのでそりゃあ目当ての曲だけ買うという形になるよなあ、というところ。つまり「ひとかたまりの音楽パッケージ」で買うことの解体が進んできているという話。まあ僕もコンピレーションアルバムとかでよくやるし。僕個人はお金や収納スペースの問題で去年の後半頃から配信に急速にシフトしていて、でもまあアルバムはたいていアルバムで買ってるんだけど、CDと違って配信は僕のようにアルバム単位で買う人よりも曲単位で買う、ライトな層が多いという認識が妥当。なので間口を広げるに辺り配信というのは有効な商売方法である。

ただ、どうもレコード会社的にはそこで止まっているらしく。サカナクションの山口一郎氏がNHK-FMでレコード会社の若手社員を集めて座談会していたときも、レコード会社のインターネット関係の担当をしているという社員は「配信は販促ツール」という考えだと言い切っていた。もったいないなあとは思うところ。おそらくサブスクリプションもそうなんだろうなあ。

そうそう、今年の統計からサブスクリプション、つまり主に定額制聴き放題サービスの分類がその他項目の独立した項目として取り扱いされるように。とはいえ、まだ金額ベースで年間10億円(モバイル専用サービスも足した値)というところなのでまだまだかな、という感じではあるけど。でも実際サブスクリプションというか聴き放題サービスってどうなんだろうなあ、と思うところではある。機械的なレコメンドより音楽的感性の共通した知人(もしくはツイッターでフォローしている人)からの口コミの方が遙かに信頼性があるとは思っているのだけど。まあこれは使ってみないとわかんないねと思いつつ腰が上がらないところ。ホントはMusic Unlimitedもこの記事書くまでに使ってみようと思ってたんだよ!ホントだよ!

ところで去年はiTunesが3G通信を介した購入を可能にしたりmoraがDRMフリーのAAC化してiOSの機器でも聴けるようになったり(一工夫必要なのが難ありだけど)ソニーミュージックiTunes Storeに自社所属ミュージシャンの音源提供を開始したりと「買いやすくする施策」を相次いで行った年でもある。moraはもっとがんばってください。グラフを見る限りその効果は出ているように思えるのだけど、着うたの減少分を補うものではない。その辺りには以下のようなことが考えられる。

  • スマートフォンでは着うたを使わなくなった
  • iPhoneでケータイキャリア決済が出来ないので気軽に買えない
  • というよりLINEスタンプやその他アプリなど別のところにお金が流れてる

一番大事なのは3つめでこの辺については柴那典さんが聴き放題型サービスと絡めて分析されている。「着うたはコミュニケーションツールだったので、スマホになりほかのコミュニケーションツール(アプリやLINEスタンプなど)が増えて着うたの立ち位置を奪い取った」という見方には僕もおおむね賛成。その上で思ったのは音楽ってさらに前からコミュニケーションツールだったよね、という話。着うたの前にはカラオケがあった。さすがにその前はダンスホールやディスコ的なものがあったとは言えないと思うんだけど、人と人がつながる触媒として音楽は機能してきたわけで、それが今の時代にうまくマッチできてないというのが現状じゃないんだろうか。

まあもちろんコミュニケーションツールとしての音楽という側面と単純に楽しむコンテンツである音楽は両立する概念だとおもうけどね。しかしその片面である前者が崩壊していて、後者の人たちを強烈に刈り取ろうとしてなんかいろいろつけて単価かさ上げしたりとかしているのが今のレコード業界の苦境と言えるのではないかな。前から言ってるけど音楽は「One Of Them」、数ある趣味のうちの一つでしかないんだから、常に業界として間口を広げていくスタンスを取るべきだと思っていて、それは今年も変わらない。

4:その他のお話+国際比較:レンタルって…、そして消えた痛いデータ

ここはわりとおまけ的な話なんだけど、レンタルの話。日本のレコード業界を語るに当たって、世界で唯一とも言えるレンタル大国であるという事実を抜きにすることは出来ない。出来ないんだけど…

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貸しレコード使用料による収入は減少している。すなわちレンタル自体は緩やかに減っているということ。この辺り含めてもライトなユーザーって少なくなっているんだなあ、と思えてくるところで。この前近所のTSUTAYAに久しぶりに行ったんだけど、音楽レンタルのコーナーがめちゃめちゃスペース減ってて驚いた。店舗数自体は緩やかな減少なんだけど、それ以上にそこでの扱い分とかそういうのを見るとレンタル音楽は「あまり客の来ない斜陽な分野」と認識されていることになるんだろう。

あと国際比較の話ということで国別の音楽売上。

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日本とアメリカの突出ぶりがすごい。その上で日本はパッケージ割合の比率が高く、アメリカは配信売上の割合が多い。他の国もそれぞれな感じ。しかしながら、人口比とかを見ても日本国民の音楽への支出の多さは突出している。去年はこの辺のデータがあったんだけど、なぜか項目自体がなくなっている。どういうことだ…?去年この項目から「1枚の音楽CDの平均単価」を算出してそれが日本では格段に高いよっていうことを指摘したんだけど…そのこと気にしているのかなあ。去年はあった売上本数のデータがなくなっているし。でもまあ傾向は変わらないと思うけどさ。

因みにこのトップ10,去年から顔ぶれは変わっていなくて、プラス成長なのが日本・オーストラリア・カナダ・ブラジルというのも変わっていない。トップ20で見ると中国が今年からようやく20位に入ってきてるしインドも大幅に伸びてるし、アジアの新興国でもようやく市場が出来つつあるのかもしれない。

5:未来はどこにあるのか

なんかすでに着うた死亡宣言のくだりで言ってしまったんだけど、「自分の趣味として楽しむコンテンツとしての音楽」と「コミュニケーションツールとしての音楽」というのがあって(もちろん多くの曲は両方の側面を持っている)、後者の崩壊がものすごいペースで進んでいるんじゃないかな、というのが仮説。んで結局間口広げようよ、それ商売の基本でしょ、というのが僕の意見。

ところで1ヶ月ほど前にダイノジ主催のクラブイベントで、まだ発売していなくてオンエア解禁もされていないサカナクションのアルバム曲がかかってDJとかが責められるという話があったんだけど、業界の慣習としてCDもしくはそのサンプル盤の贈答が活発に行われているのは百害あって一理ないと思う(今回の騒動もサンプル盤をかけたことによるものだった)。業界が消費者とどんどん離れて言ってしまうのはまずい。というかその辺りの金銭感覚とかわからないと商売やるのは辛いですよ。電機メーカーとか社員割引が全然安くないから結局家電量販店行って買ってるからね!

まあSpotifyとかのサービスは間口を広げるのに有効かもしれないよね。この辺のサービスについてはもう少し勉強したいなあとか。

ap bankSETSTOCKが開催中止になり、TOKYO ROCKもチケット売れない(これは自爆に近いけど)とかフェス・ライブ業界も曲がり角感があるけど、その中でレコード業界と広義の音楽業界はどうやって「音楽ファン」を作るか、育成するかを真剣に考えないと生きていけませんよ、といういつもの話が結論でしたとさ。ちゃんちゃん。

というだけではあまりにも投げやりなんだけど、じゃあ今の音楽リスナーってどうなってるのさと言うことで最近まで熟読していたのが、「ソーシャル化する音楽」って本。

ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ

この本では今の音楽を取り巻く「ミクロ」の面が描かれててすごくおもしろい。着うたのくだりでカラオケの話をしたけど、そこも音楽のガジェット化という側面から連続性のあるものというとらえ方をしていておもしろい。この本の感想を次のお題としたいなあと思うところ(もしかしたらその前に1つなんか書くかもしれないけど)。