たにみやんアーカイブ(新館)

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ふくろうず第二章の始まり〜ディスクレビュー:ふくろうず「テレフォンNo.1」

デビューしたときから追っかけているミュージシャンってそんなにいないんだけど、彼女達はその数少ない存在であり、それだけに思い入れも深いバンド、ふくろうず。前作かつメジャーデビュー作「砂漠の流刑地」が出てから2年1ヶ月、そのレコ発ライブ(僕が行った唯一の彼女等のライブだ。結構良かった記憶があるんだけど、その後はなんかあんまり都合が合わないことばかりで行っていないというかそもそもライブ自体回数が少ない)からほぼ2年後に出たのが、今作「テレフォンNo.1」だ。


テレフォン No.1

メジャーデビューしたてのバンドで1stアルバム後にこれだけ間が空くことはありえないんじゃないか、ソニーに飼い殺されてるんじゃないか、どうしちゃってるんだ、とファンの間で憶測ばかりが流れてたこの2年間。前作のリリース後すぐにドラムの高城琢郎が脱退したこともその憶測に拍車をかけてしまった。その疑問にはナタリーの(大山さん直々による)インタビューでさらっと答えている。

──じゃあ特に停滞感もなく? 内田 なかったですね。でも前のアルバムが思ったより売れなくて、レコード会社の担当の人も変わっちゃったりして。そのことが関係あるのかないのかわからないけど、でもちょっと空いちゃった。

ソニーミュージックは売上に対してシビアだ。基本的に3枚アルバム出して芽が出ないと判断されたらおしまいだ。僕が知っている例としては、SUEMITSU & SUEMITHなんかはその例で、2枚目はアニメ版のだめカンタービレのタイアップなんかもあってウィークリー18位まで行ったがその次が80位以下と一気に転落して契約を切られることとなった(その契約を切られて休養期間に入った直後に木村カエラに提供した「Butterfly」が彼の手がけた中で最も有名な曲になったのは皮肉な話だけど)。そんなわけで売上が気になるところであるが、今作のデイリー初登場は29位。まあまあ、なのかな……?前作「砂漠の流刑地」のウィークリー順位は最高79位なので、おそらくそれは越えられるだろう。少し安心。

さて中身についてなんだけど、既に色々な方が色々な事を語っているので僕としても当初あまり何か言う予定はなかったんだけど、今回メンバーから(というかVo&Keyの内田さんから)至る所で言及があった「ビートルズ」という言葉。ビートルズのようなエヴァーポップを志向して、今までとは作風を変えたという今作。そこで何が変わり、何が変わってないかを探る文献として、半年前に買ったこの本を本棚から引っ張り出したら色々面白かったのでせっかくなので書くことにした次第。


ビートルズの遺伝子ディスク・ガイド

この本は、ビートルズ以降に現れた数多のミュージシャンに様々な音楽のどこにビートルズの影響が表れているかということを分析してディスク単位で紹介した本で、中には結構おもしろ解釈や斬新な解釈なんかも入ってて結構楽しく読める(きゃりーぱみゅぱみゅの「ぱみゅぱみゅれぼりゅーしょん」なんかも入っている)。この中で前作「砂漠の流刑地」が取り上げられている(1曲目の「もんしろ」で「レット・イット・ビー」と歌ってる話とか「トワイライト人間」って「Revolver」に入ってそうだよねとかそんな話)と共に、本文の締めとして見開きで内田万里がビートルズについて語る インタビューが載っている。そこでの話というのは前作〜今作をつなぐ話であり、今回のアルバムのコンセプト、考え方のヒントになると思うので、このインタビューを軸に、今作の特徴について話をしたい。

まず、彼女はビートルズについては中期以降が好き、メンバーは全員好き(もちろんリンゴのドラムも)という話から、次のように語っている。

たぶん前のドラマーも今のドラマーも、彼ら自身は手数多いのが好きだとは思うんですけど、私が「あんまり叩かないでくれ」って言っちゃうんで(笑)。ベース・ラインもあんまり動きすぎると「ルート弾けよ」って言っちゃうんです。 ベースだったら、ルートかスラップかどちらかに徹してほしいです。今のJ-POPとかを聴くと、きっちり音が詰まっている物も多いですけど、そういうのは自分の中で違和感があって、自分が聴いてきた音楽の影響もあるのかもしれないですね。あと、音を詰め込むのって逆に安易な気がするんですよ。

そういう意味ではふくろうずは最近よく言われている「浮世絵的」な音を詰め込むというアプローチとは真逆の方向性のバンドだった。特にデビュー作の「ループする」の魅力は密度の薄い音作りによる「夜を感じさせるような余韻」にあった。それは「ごめんね」では表題作や「ダンスイズビューティフル」等に継承されていたし、「砂漠の流刑地」では「ユニコーン」や「キャラウェイ」等に端的に表れていた。それ以外の曲においても過剰な装飾・詰め込みは無かった。

「だった」「無かった」という言い方をするとなんだか今作はあるような書き方だ。実際どうなんだろうか、というのが僕が今回話したいポイント。実際のところ、今作は曲調、アレンジ面で大きな変化が起きている。一つは明るいコード・アレンジが増えたこと、もう一つは内田さんのキーボードがピアノだけ(「砂漠の流刑地」ではメロトロンも一部使ってたけど)から多様な音色を使うようになったこと。「カシオペア」や「テレフォンNo.1」のイントロはそういう音色の代表的な物だし、「テレフォンNo.1」は曲の間相当いろんな種類のシンセ音が鳴り続けている。

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とはいえ、全部アレンジやコード進行が変わっているかというとそんなことは無い。「GOOD MORNING SONG」のイントロはもうふくろうずのイントロそのものだし、「春の惑星」は余韻を感じさせるアレンジである。そして「テレフォンNo.1」なんかでシンセで音を入れたりする中でも複数の音を重ねたりしない(というよりシンセからは一度に一種類しか鳴らないように決めごとをしているかのようだ)。ベース・ドラムも特別複雑なフレーズを挟もうとしていない。どちらかというと基本的なフレーズの組み合わせだ。ドラムとかねごとなんかと比べると一目瞭然だ(あれはあれで好きなんだけど)。ポップな音へ振り切ろうとアレンジ面での変革を図りつつも、バンド自体の約束事自体にはかなり忠実である印象だ。だからこそアレンジ面での変革が際立ってて好印象。あと気付いたけど今回内田・安西のハーモニー多いね。個人的にはカシオペアがグッと来た。

そしてもう一つの話、ビートルズのような「本歌取り(ある歌について別の歌で言及する行為)」について。「ユニコーン」のアウトロで「サタデーナイト」のサビを歌ったことについて「All You Need Is Love」の最後で「She Loves You」歌ってたことのオマージュかなと指摘されて、

オマージュってもんでもないですけど、その場のノリもかなりあって… ——ビートルズも現場のノリで色々やっていた人達なんで、そこも含めてビートルズっぽいですね。 でも、今になって考えてみると、あまりにもワザとらしいので反省してます。ビートルズだったらスタンダードになっているから「パクリ」じゃなくて「オマージュ」って思ってくれるかな、と甘えてた部分もあったかもしれないですね。本当はもっと自然な形で出せるようになるのが理想です。

なんて言ってたわけだけど、んでまたやった彼女達。最終曲「見つめてほしい」では「絶望も希望もループするのももうやめた」 と歌ってる。これはまた直球で面白い。彼女達は今作のインタビューで(例えば関東ローカルだった「ロック兄弟」でのインタビューなんかでも)ビートルズのように聴かれるものを作ろうとしたけど、特にどの曲がビートルズを意識したとかそういうわけではない、と言っている。しかし、この曲はビートルズにおける本歌取りソングである「Glass Onion」あたりを確実に連想させる。

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まあ「Glass Onion」自体は本歌取りを目的としているかのようなネタ曲的位置付けなんだけど、「見つめてほしい」でのこのフレーズは「ふくろうず本気出す宣言」の極めてふくろうずっぽいやり方なんじゃないかなとは思う。だからといって旧曲やらないわけじゃないしね。というかさっきも言ったとおりアレンジ面での変革を果たしつつもふくろうずとしての軸を決して外していないから並べて聴ける。違いはわかるけどね。しかし並べて聴くと改めてふくろうずというバンドのアイデンティティとはなんなのか、と言うのがわかる気がする。ずば抜けたメロディセンスとボーカル(ハーモニーも含めた)の独特さ。山中さわおが彼らを評して「何かっぽくない」というのはまさにそこなんじゃないかと(「ロック兄弟」でのビデオインタビューより)。音楽的にすごいこと・特別なことをしているわけじゃない。でも彼らのアウトプットには魅力を感じる、ということだろう。僕もそうだ。しかし2年も待たせられたという気持ちはこのアルバム聴いてあっという間に吹き飛んだ。ふくろうずが帰ってきた!こんなにいいミニアルバムと共に!変わったけど変わらない良さを保っていた。確かにふくろうずの新曲だった。

因みに、今作のインタビューでいわれている「軽い曲を作りたい」「ビートルズのような軽くて良くてずっと聴かれる曲を作りたい」というのは、既にこの時点(多分去年の9月くらい)で彼女は明言していて、その時点でこのアルバムの方向性はあったということなのだろう。そして現時点でアルバム2枚作れるくらいの曲のストックはあるという!RIJFも出るというし、まずはここで色々な人に見つめられて気付かれてほしい。ここからのふくろうずが、「Revolver」を出した後一旦休憩した後の中期ビートルズのように花開かんことを願うばかりであり、9月のライブを心待ちにしている。

 

 

余談。S・O・S・O・Sで楽器を替えてひたすら弾かれてるフレーズってどこかで聴いたことあるなーと思ったら、これだった↓

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