解散から10年経った今、改めてCymbalsについて考える

音楽だいすきクラブの渋谷系特集に刺激を受けたわけではないけど、今年のどこかで書こうと思ってたから今がちょうどいい時期なんじゃないかと思って書いてみることにした。僕がトップクラスに好きなミュージシャンであり、10年前の1月に解散したバンド、Cymbalsについて。彼等がどんな存在だったのか、どう今に生きているのか、ということを考えたい。

Cymbalsとはどういうバンドだったのか

解散から10年も経ったバンドなので知らないという人も多いと思われるので、簡単に。Cymbals土岐麻子(Vo.)、沖井礼二(Ba,)、矢野博康(Dr.)の3人によるバンド。1997年結成、インディーズで2枚のミニアルバムを出した後1999年にシングル「午前八時の脱走計画」でメジャーデビュー、その後4枚のオリジナルアルバムをリリースするも、2003年の「Love You」というアルバムのリリースツアー後に解散を発表。2004年の1月のラストライブを持って解散したのである。(結成までの経緯はこの文章をどうぞ

彼等にはこれといったヒット曲はない。そしてチャートの最高順位は46位。売上だけ見れば結果が出てるとは言いがたい状況だが、解散後風化することなく、2000年前後の「ポスト渋谷系」のバンドとしては真っ先に名前が挙がるバンドの一つである。そしてインディーズデビュー15周年の去年にはタワーレコード限定ながらオリジナルアルバムが再発されたりもしている等一定の評価を得ている。

彼等の楽曲は、シンプルにいうと「ちょっと毒のあるかわいさに満ちた、若干パンク風味のギターポップ」だ。代表曲「Rally」なんかにはその辺のエッセンスが詰まっている。

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かわいくてかっこいい。僕は本当にこういうの好きだなあ。そしてバンド構成のなせるワザか、ベースの音が凄い。殆どメロディ楽器のようなうねり方をしている。これも彼等(というか沖井サウンド)の大きな特徴。

●「渋谷系」の信奉者にして実践者だったCymbals

Cymbalsの音楽は基本的に沖井礼二の音楽だ。彼がほぼ全曲作曲し、大半の曲で作詞をしている。その彼は去年日本テレビ系の「東京エトワール音楽院」という番組に出演し、講師として渋谷系について語った。そこで彼は、「渋谷系ミュージシャンの中で最も衝撃を受けたのはフリッパーズ・ギター」と述べた上で、渋谷系を下記のように定義づけて、また、その渋谷系を織り成す特徴的な要素を3つ列挙している。

渋谷系とは、1990年代初めから半ばにかけて渋谷を発信地として流行した音楽・ファッション・映画・文学などから発信したサブカルチャー現象。

  1. 再構築 音楽を初め、ファッション・映画・文学・アートなど様々な要素を細かく切り刻み、組み合わせることで自分の感性で新しい作品を作り出すこと。例えば後期フリッパーズ・ギターなどに顕著に見られるサンプリングや音源コラージュなど。さらには、極めて直接的なルーツからの引用など。
  2. ポップアート そもそもは1950年代に起こった雑誌や広告・マンガなどを素材として扱う芸術のこと。渋谷系ではそういったポップアートを曲自体の印象とも深く関連した斬新なCDジャケットなどに転用していた。特にそれを牽引していたのは渋谷系ミュージシャンの大半のアートワークやMVを担当した信藤三雄氏。
  3. 予定調和の拒絶 リリースする度にファンの予想を超えるスタイルの作品を発表すること。想像は裏切られるが、期待は裏切らなかった。例としては1993年〜1997年のコーネリアスのアルバムが出る物出る物全部違っていた、ということが挙げられた。

そして、Cymbalsは、その「渋谷系」の信奉者にして実践者だった。沖井礼二は60〜70くらいのロックが大好き、特にピート・タウンゼントを信奉している一方で、スタイル・カウンシルポール・ウェラーも敬愛している。それらのカバー なんかもシングルのカップリングなどでちょいちょい出していた(後に「RESPECTS」というカバーアルバムにまとめられる)くらいで、強烈に自分のルーツを打ち出しながらもそのエッセンスを上手くまとめ上げて、疾走感とおしゃれさを併せ持った独特な楽曲世界を構築した。

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そして、ポップ・アート然としたCDジャケットも、彼等は真正直に実践した。デビュー後3つのシングルCDのジャケットに良く表れている。

因みに2枚目の「Rally」には本人達が写っているが、他に本人達の写真がきちんと表面に写っているCDはラストアルバム「Love You」くらいだ。(一応他にも2枚あるけど顔が写ってない)。センスは完全に渋谷系のノリそのままだ。

そして、予定調和の逸脱、という観点からは彼等の3枚目のアルバム「Sine」が挙がる。上記に挙げた「Highway Star, Speed Star」を収録した2nd「Mr. Noone Special」から2年おいて発売されたこのアルバムはギターポップ路線から離れ、打ち込みを大胆に活用しながらCymbals特有の疾走感とセンスを兼ね備えた作品だった。まさに予定調和の逸脱。


Cymbals ♥ Higher than the Sun

●逆風の中を駆け抜けたCymbals

Cymbalsは「遅れてきた渋谷系の実践者」としてシーンに飛び込んだ。しかし、その当時のシーンは彼等にとっては逆風としか言いようのないものだった。要因は大きく二つ。渋谷系自体が退潮していたことと、ロックバンドの音楽傾向が変化する時期にあったことだ。

渋谷系自体が1995年頃を境に退潮していき、1998年には完全に終わってしまってたことは様々なところで指摘されていて、ライターの柴那典さんは「ディーヴァの登場」により終わった、としているCocco椎名林檎MISIA宇多田ヒカル。確かに、自分で曲を書き、「自分の歌唱能力」を武器に直球勝負を仕掛けた彼女達は、「引用」と「再構築」をモットーとした渋谷系的なアプローチとは対極のものだった(もちろんディーヴァ達の歌が完全オリジナルだった、というわけではないけど)。

しかしそれ以上に重大だったのはバンドサウンドの潮目が変わったことなのではないだろうか。先日VIVA LA ROCKのレビューしたときに取り上げた「オルタナティブロックの社会学」では、「97世代(NUMBER GIRLくるりSUPERCAR)とエアジャム勢の台頭が日本のオルタナティブロックの幕開けであり、音楽を「見て、聴くもの」から「体感し、体を動かすもの」に変えた」としている。そして特に97世代の音はアメリカ・イギリスのインディーシーン直系のサウンドだ、と。そう考えるとオールドロックからの引用・再構築をするCymbalsの居場所は無かったと言えるだろう。あったとしても、それは小さい場所だった。

そんな中でも彼等は自分たちの地位をきちんと確保した。同時代の仲間バンド達よりも言及されることが多いのはその証左だろう。しかし、バンドを続ける中で方向性の不一致が段々目立つようになってくる。土岐さんは後に「だんだん3人の思うところが一致しなくなった」と明言しているし、沖井さんも当時のCymbalsが自分のワンマンバンドであり、意見の不一致が容易に起こる環境だったことを示唆している。

その辺は解散した後のCymbalsへのスタンスにも通じるものがあるんだけど、4thアルバム「Love You」を置き土産に彼等は解散した。ラストアルバムは、4枚のアルバムの中で最もコンセプト色の薄い、まるで当時の彼等を象徴するかのようなバラバラなアルバムだった。

●現代に生きるCymbals

解散後、各々はソロ活動に入る。正確に言うと、活動が評価されてたためかバンド活動後期辺りからそれぞれがソロ活動を始めていた。

土岐さんはソロシンガーとしてデビュー。最初はジャズカバーしたりラウンジ・ミュージック感の強いおしゃれな女性ボーカリスト、って感じだったんだけど、だんだん80年代シティポップ志向を強めていってる。

沖井さんはCM音楽(「NOVAうさぎの歌」の作曲にも参加)を作ったり同世代ミュージシャンとバンド「SCOTT GOES FOR」を結成したりする一方、さくら学院バトン部TwinkleStar・竹達彩奈のプロディースなども手がけ、花澤香菜への楽曲提供も。しかしどの曲もCymbalsっぽさが強いという業のようなものを感じる。いや、大好きなんだけどね。ソロプロジェクトFROGはそんな彼の個性が存分に発揮されててとても良い。

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矢野さんは市井紗耶香のソロの編曲やハロプロフォークソングカバー集のプロデュースをするなどした後、南波志帆を全面プロデュース。沖井さん同様花澤香菜に楽曲提供してるし、土岐さんにも楽曲提供している。また、親交の深いミュージシャンを集めて年に1度「YANO FES」を開催。

そして、解散してから10年も経つとCymbalsのDNAを継いだチルドレンも出てきたりするもんです。まずは、かつてこのブログでも紹介したOK?NO!!。Bandcampで発表された1st Albumで「Beat Your Cymbal!!」というズバリな楽曲を、2nd「Party!!」では「Meat Spa」というCymbalsリスペクトの曲を出している(Cymbalsの最初の名前が「Spaghetti Charlie」であったこととかけている)。

そして、渋谷系Meets高速P-ファンクなカラスは真っ白。彼等もまたCymbalsを愛好している(ただし、愛好しているのは最近になってからで、Cymbalsに似ていると指摘された「ハイスピード無鉄砲」は彼等を知らない頃に作ったらしい)。ベースの強さもCymbals然としてて、沖井さんもアルバムにコメントを寄せたりしている

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しかしながらアルバムのリード曲以外の、あまりアッパーでない曲にCymbalsのミディアムチューンとの相似形を感じたりする。

昨年Cymbalsのリイシュー版が発売された際の土岐さんと沖井さんの態度の違い(自ら店舗を訪れて展開を写真撮ったりする沖井さんと、連絡もサンプル版送付もなかったと愚痴を言う土岐さん)を見るに、Cymbalsの再結成の可能性というのは限りなく低いんだろうなと感じている。現に沖井さんはファンからの再結成の要望に対してこう答えている。

そりゃあ僕も一度もライブ行けなかったから見たいとは思うけどさ、彼等が音楽的にきっちりと功績を残しててそれを汲んでいる後発バンドが出てきてくれてるんだから良いじゃないですか。それこそが、Cymbalsの楽曲が素晴らしく色褪せないものである証左じゃないですか。そして、OK?NO!!のreddamさんが所属している吉田ヨウヘイgropuなどの東京インディーポップ界隈では、ふたたび再構築型・リスナー志向のミュージシャンが一群として表れ、脚光を浴びている(その中心にいたのはもちろんceroだ)のを見ると、これからもっと楽しくなりそうな気がしている。

 

僕は魔法を信じるよ。新しいバンド達の。

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あ、でも沖井さんが「FROG3rdアルバム作る宣言」してからもう5年経ってることは忘れていませんよ。笑