たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

音楽における「○○系」はジャンルなのか、という話

ネットでは定期的に渋谷系について盛り上がることが多いけど、つい最近もこんな話があった。

lit.hatenablog.jp

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僕が1つめの記事にはてなブックマークでコメントしたことを起点として2つめの記事が書かれているので、なんとなく乗っかりたくなった。

2つめの記事では渋谷系の源流となっている音楽として「ポストパンクとインディムーブメント」「モッズおよびそれを経由したソウルミュージック」「DJカルチャーとクラブミュージック」を挙げている。その結果渋谷系と一口にいっても多種多様な音楽がそこに含まれるしその中には共通性を見いだしにくい物も多い。もっとも記事中にて「ジャンルについて考えるときは代表的なバンドの共通点ではなく、全部を包含する物(集合でいう和)を考えた方が良い」という旨書いてあってそこはまあ頷けるところではあるんだけど、個人的な感覚からすると「渋谷系」に共通する物は音楽性ではなく創作姿勢なんじゃないか、という気がしている。この辺は僕が敬愛しているCymbals沖井礼二さんがテレビ出演して話した渋谷系講義の内容に影響を受けてる面が強いけど、若杉実さんの「渋谷系」でもDJカルチャーをベースとした温故知新のムーブメントっていうとらえ方をしているし、そんなもんなんじゃないかな、と。

そこで思ったんだけど、「○○系」と言われる物って音楽的特徴でくくるのが難しいけどその一方で「ジャズ」とか「メタル」(これらも最近色々定義が拡張して揺らいでるけど)とかと同様に音楽を分けるジャンルとして使われるのって、なんか色々不具合を起こしてるんじゃないかという風に思った、というのが今回の趣旨です。

●幅広い「○○系」とカテゴリ音楽

渋谷系と並んで(いやむしろそれ以上に)使われることの多い「○○系」と言えば「ヴィジュアル系」だ。ゴールデンボンバーが「†ザ・V系っぽい曲†」という曲を出しているが、確かにこの曲は「V系っぽさ」のある部分が端的に出ている。

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ヘヴィメタルっぽいリフとドラムにどちらかというとハードロックっぽいリードギター。この激しい感じがヴィジュアル系音楽の特徴として一番分かると思う。今だとthe Gazetteあたりがそんな感じか。しかしながら、これは割と純化したものでLUNA SEAなんかはハードコアパンクっぽい感じだしGLAYとかシドになってくると特徴とも言われる激しさみたいなものも控えめな感じになってくる(あくまでこのカテゴリーで、という話だけど)。あとはゴシックロック的なMALICE MIZERやら枚挙にいとまがない。2003年とちょっと昔に出版された「ヴィジュアルロックの時代」という本では、ヴィジュアル系バンドの音楽的特性について源流など含め分析しており、多くはヘヴィメタル・ハードロックと位置づけているがパンクやグラムロックなどからの影響も示唆している。

というかそもそも「ヴィジュアル系」という名前からして、共通項は音楽性よりもその外見や立ち振る舞いの方にフォーカスされる方が多かったりする。音楽はその日現実感を増幅させるような使われ方をするので激しいものになるのではと考える。というかそういうもんでないと「V系っぽい」なんてタイトルの曲はネタだとしても成立しないよな、って感じはある。「アンビエントテクノっぽい曲」とか「シンフォニックブラックメタルっぽい曲」というタイトルの曲は出せるのだろうか。笑

一方で、狭義のジャンルは細分化が進んでる。新しいものが出てくるとそれを言い表す言葉が必要になるということがずっと続いている。でも今全く新しいものが生まれるかというとそういうことはなく、基本的に今あるものからの分派みたいな感じだ方仕方ない。メタルなんか典型的で「ヘヴィメタル」のサブジャンルに「デスメタル」があり、そのサブジャンルとして「メロディックデスメタルメロデス)」や「シンフォニックデスメタル」となったり…という風になっているし、テクノとかクラブミュージックも日々新しいジャンルが出来ている。そういった話に対して、「○○」系はむしろ言葉はそのままでそれが包括する対象がどんどん拡大している、というタイプのものなんだなあと日々感じるところである。

●日本において「○○系」とは何か

こうして考えると「○○系」とは、音楽的特性ではなく、そのアティテュードや外部特性などによって規定される類の音楽なのではないか。そう考えると、そういう類の音楽が日本では他にも隆盛を誇っている。アイドル・アニソンといったものがそれに当たる。以前「アニソンやアイドルといった分類はジャンルではなくタグでは」という議論があったけど、それはその通りで、ジャンルより一段上のレイヤーというかカテゴリーというかそんな感じ。「渋谷系っぽいアニソン・声優ソング」とか「メタルアイドル」とか、組み合わせで語られることは多い。

海外在住経験が無いので一概に日本ではこうだよみたいな事は言えないけど、マーティ・フリードマンなんかもよく言ってるとおり「ジャンル」に対する帰属意識みたいなのが薄いからこういうカテゴリーベースの音楽が色々出てきて面白くなっているんじゃないかな、と思うところ。混ぜたりするのに躊躇しないし、リスナー側も何でも聴いたりするから何やってもいい感じがある。あとはかな文字から何から、異文化を取り入れてアレンジして自分たちの物にしていく貪欲な国民性かな。ちょっと風呂敷広げすぎたかも。

そうすると、いわゆる現代ジャズ(ジャズを起点に拡張された、クロスオーバーな音楽)のミュージシャンが日本でも一定の人気を持ち、それらのミュージシャンにフォーカスを当てたムックシリーズ「Jazz The New Chapter」が2016年春時点でシリーズ3まで出版されているということはそういった日本人リスナーの気質とマッチしたから、ということが言えるのではないだろうか。(この前提としてはこれらのミュージシャンが本国での認知度がめちゃくちゃ高いというわけではないという背景がある。ロバート・グラスパーエスペランサ・スポルディンググラミー賞を取ったけどその割にはSNSのフォロワーはたかだか十数万とか数十万だ。まあそれをもって有名とするかどうかに疑問の余地があるのは認めるけど。因みにエスペランサの方がバラク・オバマノーベル賞受賞祝いのこともあってフォロワーやいいねの数は多い)これ自体まだ名称が定まっている訳ではなく「JTNC系」「今ジャズ」「リアルタイムジャズ」など様々な呼ばれ方をしている。これらは温故知新的かつクロスオーバー的な音楽性もさることながら、その包含範囲の広さも日本の音楽リスナーと相性が良かったのではないかな。

そんなところでNHKの「ニッポン戦後サブカルチャー史」で渋谷系についてやるそうなので、これを見ながらまた色々考えようかなあという感じ。

宮沢章夫、風間俊介らによるサブカル史番組の第3弾、テーマは90年代

今日はこんなところで。ちなみに僕は渋谷系も現代ジャズも好きですw