たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

データは口ほどに物を言う:書評「ソーシャルネイティブの時代 -ネットが生み出した新たな日本人-」

最近アンケートとか調査に触れる機会が結構多いんだけど、色々読みながらそこから論を生み出していく作業って楽しい。というのは既に今までも何回かこのブログでも触れてる話だけど、今回はその極みのような本をご紹介。

ソーシャルネイティブの時代 ネットが生み出した新しい日本人

この本のベースになっているのは、アスキー総研が行っている日本人の行動・嗜好などを膨大な質問数で分析しにかかるという野心的な試みをした調査「MCS(Media & Contents Survey)」から取ったもの。

このMCSについては、下記のブログを読んでいただくのがいいかと(因みにこのエントリ、凄くいい文章)。ここに書いてある通り画期的な調査だと思うし、ものすごく骨の折れる作業だったに違いない。

僕と月刊ASCIIとiPad または、僕が10,000円のアプリを作った理由

清水さんのユビキタスエンターテインメントが作ったMCS Elementsは一時的にではあるけどiPad向けの有料アプリの売り上げランキングで1位になった。10,000円なのに。すごく見てみたかったしほしいなと思ったけど自分の仕事にクリティカルに繋がる部分ではないし(自分の仕事はBtoBだしね)何よりそもそもiPadを持っていないので、一度も中身にお目にかかることはなかった。というかできなかった。そんな中この本が出るってわかったのはこの上ない吉報だったわけで即買いに行ったわけ。そして読んだわけ(書評が遅れたのは単純に忙しかったから)。

第1章で「あたらしい日本人」として取り上げているのは、20代以下が「休日の過ごし方としてデートを選択しない」ことと、「マンガ・アニメなどのコンテンツ消費意欲が旺盛」だということ。この二つは驚きだった。特に男女20〜40代の「休日にデートしてる」率が8%だという結果、それから20代の方が10代よりもマンガ・アニメを消費しているという結果はどちらも予想していなかったが、なかなか納得のいく話ではある。その後デート率については可処分所得との相関性が語られ、それって結局日本人の若者の所得が下がったからなんじゃないかな?という所で次の章へ。

第2章の「ビンボー・ハッピーな生き方」は「物」の所有の話から始まって、お金を使わなくても楽しむという生き方を日本の若者達が選択し始めたという話。無料コンテンツ、ファストファッション、リアルのバーチャルか、シェア、価格比較・共同購入ソーシャルメディアスマートフォンiPhone)の7つがキーワードであり、その中でも特にソーシャルメディアインパクトが大きい点を著者は挙げ、そのまま次章以降に繋がっていく。

んで、そこから著者が「新しい日本人」象として挙げているのが「ソーシャルネイティブ」なんだけど、それまで駆使してきたデータの登場具合は著者の主張が色濃くなるにつれて少なくなっていく。ここがこの本の肝だと思ったのだけど違うのかな…この辺は期待していたものと違うなーってことでなんか残念な感じ。第5章に至っては全然データ出てこないし、この本を読みたがる層にはわりかし既知の内容なんじゃないかなと思ったり。著者自身がこの本の作業がデータのとりまとめと並行して行われたと話しているので、もう少し色々な物が出てきてからやってくれればなあと思った次第。

とはいえ、終章でまたMCSのデータが出てくると話が面白くなってくる。「崖の上のポニョ」を観ている人と見ていない人のコンテンツ嗜好がかなり違うという話から「コンテンツ・ターゲッティング」の可能性について言及している話はかなりシビれる物がある。Twitterでは「○○クラスタ」という言葉が良く出てくるが、「何が好きか」という所からマーケティングをする時代、ということなのだろうか。マーケティング界隈で最近よく言われる「ペルソナ・マーケティング(架空の、具体的な一人の個人の人格にフォーカスを当ててマーケティングをすること)」という言葉があるけど、そこに繋がっていくような気がする話である。

ネットとかマンガとかゲームとかはサブカルチャーと言われていたけど、サブじゃなくなってきたんじゃないのかな?というのがこの本の主張で、僕もそうだと思う。「現代っ子」的感覚がよくわかる本だと思うので、そういうものに興味がある人は是非読むことをオススメする。MCSを開始するためには1年の準備期間を要したという。それだけの準備期間を経て作られたデータだから、信頼の置けるものだと思っている。それだけしっかり作り込まれたデータから語られる論には非常に説得力がある。まさにデータが語る。これは是非調査を継続して欲しいし、定点観測レポートとして続編を出してほしいと思う。

因みに、MCSのデータの一部がアスキー総研のWebサイトからダウンロードできます。ちょっとだけだけど面白い。もっと色々みたい!と思っちゃう。iPad2買うんだからもっと調査結果見たければMCS Elementsの2011年度が出しだい買えという話もあったりするんだけど…それはなんとも。