違法ダウンロード刑事罰化から一年後の定点観測について補足してみる(音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話 Part.3)
日曜日に突然こんなニュースが出て来た。
刑事罰適用1年も売り上げ回復せず NHKニュース
このタイトルだけだと何のことか分からないよね。
ネット上に違法に投稿された音楽や映画などをダウンロードした人に対する刑事罰の適用が始まって来月1日で1年になります。 ファイル交換ソフトの利用者が減少するなど一定の効果が見られる一方で、CDや音楽配信の売り上げの回復には十分につながっていないことが分かりました。
ということで、要は違法ダウンロードに刑事罰を規定する著作権法改正から1年経ったことを機に出てきたニュース記事のようだ。簡単に要約すると、下記の通り。
- WinnyやShareなどを使った違法ダウンロードは4割減りました。
- CD・DVDの売上は去年の10月〜今年6月では前年度比5%増、でも今年の1月〜8月では前年度比7%減。
- 音楽配信売上も去年の10月〜今年6月で前年度比24%減と大幅な減少
- レコ協会長「売上には結びついていないので啓発活動しながらいい音楽を作ってサービスの利用しやすさを向上させ売上の回復に努めたい」
そんなわけで、実際どういうことなのかということを詳しく見てみましょうのコーナー。なんか配信関連の記事を書く時って、いつもこういう風に必要に迫られて書くことが多いような気がする。まあいいや。
●違法ダウンロードの減少は確かだけれど…
まずひとつめの違法ダウンロードの減少について。これについては1次ソースがあるのでそのまんま参照。
ファイル共有ソフトのユーザーが大きく減少 ~「ファイル共有ソフトの利用実態調査(クローリング調査)」結果~| 活動報告 | ACCS
一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会が行っているファイル共有ソフトのクローリング調査の結果。これによると、Winny、Share、PerfectDarkのノード数(要は使ってるPC数)が2012年3月の調査時に合計17.5万台だったのがこの2013年の1月の調査では11.3万台まで減っているとのことだ。数値としては35.5%の減少であり、ニュースで言ってる話とだいたい符合する。
因みにこの記事によるとこれらのファイル共有ソフトで流通しているファイル全体のうち著作物は半分くらい(残りは調査実施者が権利帰属を把握できないアダルトや同人コンテンツなどのファイル)であるとのことだ。ところでこの調査、調査時間がわずか24時間とのことであり、もう少しマジメにやれよという気がしなくもない(人間のライフサイクル考えたら1週間くらいやるべきなんじゃないのか。負荷かかってしんどいかもしれないけどさ)。まあ実際のユーザー規模はこの数倍、ということになるんだろうけど、2010年の著作権法改正(ダウンロード違法化)の時にかなりユーザーが減っているので、その時に比べるとインパクトは薄いかな、という感もある(なにせ2010年の法改正の時にはWinnyのユーザー数は一気に半分以下になっているのだ)。このサイクルを見ると近々に一斉取り締まりがまた行われそうな予感もするけど、だんだん効果が薄くなっていくのでは少しずつ徒労感、見えない敵と戦っている感というのは増えていくのではないかな。これ以上のキャンペーンはだんだんきつくなってくる頃合いに突入してきているのではないだろうか。
●CD売上の前年度比較。ぶっちゃけ引力不足だよね
CD売上については、当の日本レコード協会さんがデータを出しているのでそれをまとめさせて頂きましたよ、と。まとめたというよりそれを愚直にExcelに転記させて頂きましたよ、と。あのねえ。一言言わせてもらいたいんだけど、年度によって突然データの並び方変えたりくくり方変えたりするのやめてくれませんかねえ! まあとりあえず集計表はこんな感じ(見づらくてすみません)。因みにここからは全部金額での比較です。単位は百万円。
んで個別にグラフ化して補助線を入れる。まずはシングル。
今年5月の異常な突出はAKB48の「さよならクロール」が売れまくったからなんだけど、一方4月と7月で前年度との大きな差ができている。んで去年がすごかったのかなと思って振り返って調べてみたけど、1位のミスチルをはじめこれといってすごくヒットが出た訳ではなくて、どうしてだっけなあというのがいまいち思い浮かばない。とはいえ、1・5・8月以外は全て前年度比を下回っているのでまあしょうがないんじゃないですかね、という感じ。
ところで今更シングルチャートで誰が売れてるかなんていう必要ないと思うけど、その辺をdisりたいのであればその前にさやわかさんの「AKB商法とはなんだったのか」をまず読んで頂きたいところ。CDの市場がシュリンクしている中でもオリコンチャートにはまだ利用価値はある、という若干ねじれた状況から今のチャートハックという技が生み出されたわけだけどその背景やアイドル史も含めてすんごく良くまとまってるので必読の書。
さてアルバム。
地味に3月が好調。まあ毎年決算月なのでこの年は球数が多いんだけどそれでも前年比増。解散を発表したファンモンに東方神起・Kis-My-Ft2・ONE OK ROCK・サカナクションといったそれなりに売る力のあるミュージシャンによる作品が勢揃いして牽引した感じ。そして6月はB'zのベスト×2効果。因みに去年の1・2位だったミスチルの21世紀ベスト盤は5月発売。5月はゴールデンウィークはさんで点数が少なくなるのでそんなにカタログ数が多くなくて実売上もそんなに多くないと推察されるんだけどそれを随分押し上げてる感じ(因みに2012年の5月は前年度比130%)。まあ他の月は軒並み前年度比下回っててこれはまたあかんですなあという感じ。
因みに異常値的な盛り上がりを見せている去年の11月から2012年の年間トップ100入り作品を見てみると、前月末に嵐、そしてユーミンとミスチル、JUJUにBENI、少女時代やKARAと見事にどちらかというとライトな購買層の方が購入するラインナップが並ぶ。おそらくここからついで買いみたいな物が誘発されたのではないかと推察。なので去年10月からの1年間は5%増ですよと胸張って言えるのはこの月を含んでいるからというだけに過ぎないとも言える。しかしながら今年のアルバム市場は1位・2位のB'zもまだ両方60万枚いってないし同じように2本セット出したバンプも両方30万枚いってないし、全般的にフィジカルで売れる枚数っていうのはどんどん少なくなってるんだろうなあと。あとは本筋とは少しそれるけどどちらのベストも年代が古い方が売上が上というのがまたもやもやする話。去年のミスチルのベストは新しい年代の方が売れたのにね。
まあCD売上は21世紀に入って長期下降トレンドにある中でたまたまチャートハックとライトユーザーウケで盛り返したのが去年、という見立てなので(今年4月の記事参照)今年になってCD売上が再度減るのは不思議なことは何もない。まあ、「普通の人はCDなんてもう買わなくなった」時代なんですよね。
http://www.youtube.com/watch?v=bo_7NrSqmIE&start=71
10/4追記
さて。DVDとBlu-rayの話書いてなかった。これはこれで結構大変なことになっている。ざっくり表を出す。
数値比較の時点で分かるとおり、急速にBlu-rayシフトしてるんだけど、その一方で急速にDVDが落ち込んでる。前年度を下回り始めたのは、今年の5月から。ただその落ち込みっぷりがなんか想定以上なのでBlu-rayシフトでカバーできてません、って言うのが現状。
この5月からの落ち込みって、なんか明確な理由あったっけ……?今回の著作権法改正では違法ダウンロードの刑事罰化に加えて市販DVDなどのアクセスコントロール回避によるコピーの禁止、すなわちリッピング禁止も条項として加えられているんだけど、時期が全く符合しないので関係ないと考えられる。そもそもDVDをリッピングして再活用できるほどのITリテラシーを持っているユーザーは購入者のうち極めて少数派だと思うのでここまで違法にする必要あるの?っていう気はしていたんだけど(そもそも著作物のコピーの公衆送信、すなわちアップロードする行為は既に昔から違法行為であり逮捕者もいるわけだから)、それは別の話。
まあそんなわけでこのインターネット社会、気に入った曲や映像作品があったらすぐ買えた方がいいしそれが自然でしょってことで、パッケージ販売からは利便性が高くて在庫切れもなくて24時間営業なインターネット配信の方に今後シフトしていくだろうねのが一般的な見立てだったわけだけど……
●音楽配信も地殻変動?
音楽配信についての今までの流れは過去記事を読んで頂いた方が早いと思うので、まずはそちらを(長いから後でもいいけど)。
音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話
レコード業界のゆくえ2013(音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話 Part.2)
それを踏まえて、2010年以降の四半期ごとの音楽配信の売上を同様に日本レコード協会さんのページから集計して表にまとめてみた(主要なのだけ抜き出してますからね)。
ここからモバイル・ネット(要はPC/スマホ向け)、サブスクリプションの3つに絞ってまとめてグラフ化(この時点でビデオは捨象。すまん…)。
まあモバイルというか着メロ着うたが急降下するのは知ってたからいいんだけど、とても意外なことにPC/スマホ向けも昨年第4四半期でブレーキがかかって停滞してしまっている。「最後の砦」と言われていたソニーミュージック・エンタテインメントがiTunes Storeに楽曲提供をしたのがこの2012年の第4四半期(11月)にあたるわけだけど、この辺りでPC/スマホ向けの楽曲配信を押し上げるムードというのはもしかしたら一段落してしまったのかもしれない。因みにiTunes Store以外のPC/スマホ向け配信プラットフォームってmoraとレコチョク以外は殆ど有象無象状態という認識だけど合ってるのかしら(という過去の3社以外には押し上げ要因になるようなニュースってないよね。というかWMA陣営が有象無象なのかな)。moraはもっと頑張ってください。
ところで近年サブスクリプションの伸びがめざましくて、予想以上に速いスピードで推移している。因みにサブスクリプションってのは所謂定額制等のサービス利用権を買って音楽を聴く形態のことね。だからずっと日本にくるくる言われ続けているSpotifyなんかもこのくくりに入ることになるわけ。このサービスは今音楽業界の期待の星みたいに言われていてこのまま行けば早晩モバイル楽曲配信を追い越すんじゃないかくらいの予想が立つけど、いくつかの壁がある。 具体的には下記のページの下部にある比較表を見てみて欲しい。
【レビュー】月1,000円で聞き放題! 定額制音楽配信3サービス比較 - AV Watch
単刀直入に言うと、ソフトバンクユーザーは決済手法がクレジットカードに限定されている。曲数や音質や使い勝手以前にお金払えなかったらどうしようもない。とりあえずMusic Unlimitedはクレジットカード情報入れないと無料試用すらできなかった。いや僕の場合は入れればいいんだけどさ。日本人がクレジットカードを使いたがらない、それが故にケータイ払いが発達したのはずーっと前にまとめたんだけど、その後docomoとauは課金プラットフォームをスマホ向けにも用意したけどじゃあソフトバンクは?という話。まあ決済環境作るのってしんどいからね。なんてったって自分の所の顧客の信用情報を見事に狂わしちゃうくらい…いやそれは関係ないな。
ただ、僕は今よく分からなくなっていることがあって、常々「レコード業界は間口広げるべきだ」と言ってきたわけだけど、広げた口に新規顧客をどう誘導していく買って言うのが見えないのだ。定額制サービスが伸びているのは分かるんだけど、そこにライトユーザーが導かれていく様が想像できなくて、この統計結果を見るに、もしかして新規のユーザーは音楽配信に大して来てなくて定額制サービスに配信で音楽を買っているユーザーがシフトしてるだけでトータルでの配信利用者はトントンだとしたらただのカニバリゼーションじゃないですか、と。それがホントだとしたらこの流れが進むとトータルで見るとマイナスになる可能性すらある。
今まで過渡期だ過渡期だと言われていたけど、なんかいろんな物がいっぺんにやってきましたねというような状態の2013年。じゃあどれからやっていけばいいのかと言われると悩ましいし、短期的には落ち込みを余儀なくされるところなので犯人捜しみたいなのは一旦行われるんだろうなあと思うと後ろ暗い気持ちになるところ。まあ僕は一愛好家として継続的に聞いていくし業界ウォッチはしていくけど、ちょっとこのデータを取ってから悲観的。
因みにミュージシャンは自活する時代という話もあるけど半分くらい賛成かな。その賛意はこういう業界の話も含めもっと自分たちがお金稼いで生きていくことについて自覚的にならないとこれからますます辛くなるよという意味で(その点において最近のメジャーミュージシャンで最も自覚的な例はサカナクションの山口一郎氏だと思う)。その一方で、みんながYouTubeとか直販プラットフォームを駆使して自活するべきだとも思っていないし、新人育成や流通含めた総体としての音楽産業がなくなってもらってはとてもとても困るので(そこには色々非効率やダメな部分はあるけど)、反省して立ち直って頂きたいところ。
なんか現状がデッドロック気味のためか上手く結論出ないけど今回はこんな所で。