業界の気持ちを汲みつつもチケット #転売NO にNOを唱える

最初の話が出てから随分経っているので今までの議論の繰り返しになるかもしれないけど、やっぱり書かずにはいられないと思ったので書く。

チケット転売NOとは、9月くらいに多くのミュージシャン及びプロダクションが連名で出した声明であり、とても簡単にいうと「各種転売サイト使わないでください」というようなもの。これが出て以降、ユーザー側や実演家側だけでなくオークション・市場取引などが専門の経済学者まででてきてそれぞれ主張をしてそれぞれの論が総じて賛否両論を巻き起こしている。なぜどんな論も賛否両論を巻き起こすのかというと、この問題が単純なチケット転売の是非だけではない、ライブエンターテイメントビジネスにとって根本的な複数の問題が絡み合った事案だからだ。なのでその辺を整理しつつ深掘りしていきたい。既視感ある議論が多いかもしれないけどご勘弁を。

http://1.bp.blogspot.com/-n4Zy5znzzkQ/U9y_ul94R8I/AAAAAAAAjh4/sDzmU7G0UMA/s800/kippu.png

先に僕の立場を表明しておきたい。僕は所謂ダフ屋行為は許されないものだと思うのでもっと取り締まられるべきだしチケットキャンプをはじめとする非公式二次流通サイトの最近の広告攻勢は目に余るものがあると考えているが、そういったダフ屋行為を防止するために実演家側ができることはもっとたくさんあるはずだとも考えている。なのでこの宣言については自分達の怠慢をユーザー側に転嫁するとても残念な呼びかけだと捉えている。

 

さて、本件に関連する問題というのは一体どんなことがあるのだろうか。

  • チケットの値付けと販売システム
  • 関連する著作権料の制度
  • 公式リセール制度の不備?と二次流通サイトのスタンス
  • 本人確認や電子チケット

 ひとつひとつ解きほぐしていきたい。

 

 まず、なぜ高額な転売が起きるかというと、チケットを買いたい側の人が「このチケットを得るためならこれだけまでなら払う」と思う金額と実際の販売価格に大きな差があるからだ。こういう経済学の理論っぽいことを言うと怒る人がいるが、極めて抽象化するとこういう話にならざるを得ないのだから仕方がない。要は値付けの失敗だ。特に演者がよく見える最前列エリアの席は特に値上がりしやすく、販売価格と購入者側の考える価値との開きが大きいことがわかる。

これを助長しているのはJ-POPの多くのライブで行なわれている「ほとんどの席種で値段が同じ」である現象。1万人規模の会場でも1階最前列と3階最後列の価格が同じ、ということはザラだ。海外アーティストでは最前列エリアが一番高い状態で遠く・見辛くなるほど席の価格が安くなるようになっている。

この辺の話については津田大介さん・福井健策さんの対談にうまく話がまとまっているが、プレミアム席を作れないというのは実演家側の「観客を値段で差別したくない」というロマンティシズムもあるのだけど、著作権料の算出方法が影響している一面もある。JASRACのサイトによると、基本的にライブの著作権料は「平均入場料×会場の定員」に一定の比率をかけて算出されるもの。なので入場料を部分的に高くすると減収してしまう、というジレンマに陥ってしまう。この辺は修正されるべきだろう。まさに業界全体で考えるべき問題、というわけだ。(レンタルCDの話で調べたときにも思ったのだけど、JASRAC著作権料徴収・配分ルールははっきり言って現代の多様化した実演・視聴形態やデジタル時代に対応しているとはとてもいえないと感じる)あと、第1期BiSの解散ライブでチケット代1円の見えない席というのがあったけどこのシステムを逆手にとったものなのかな、とか。因みに洋楽の著作権料はJASRACが管理していないのでこのメカニズムは働かずそれなりに席種ごとに料金がわけて設定されるようになっている。

 今言ったような話を業界の人が認識してないのかというと全くそんなことはなくて、コンサートプロモーター協会会長のディスクガレージ中西社長はインタビューで「席種だけでなく曜日などからも柔軟に価格設定された方がいいのではないかなど考える時期だ」という旨を話している。じゃあなんで最終的にああいう声明になったんだという向きも出てくるが、そこはまあ利害者賛同者が多種多様すぎるのではないかと考えられる。事業分野が多岐にわたる会社の全社方針が全事業部門を意識しすぎて「がんばろう」的なスローガンめいたものになってしまうようなものだ。参加者が増えれば増えるほど全員を満足させる提案は難しくなる。ただ同じディスクガレージの人でも主張のトーンが違うのはどうなのかと思うけど。

まあそんなわけで中西さんの言うように色々考えるべき点があって人気公演では先行販売が事実上の一般販売になってる中で「先行→一般」の販売順序には意味があるのかとか、電子チケットを活用できないかとか色々話が出てくる。特に後者は後述。ただ、需給が水モノになる以上先行で確保できることにプレミアつけるのかが正しいか、安く売るのが正しいか、というのはどっちも成立するので一概にどっちが、という話でもない。ちなみに前者の観点に立つとチケット販売サイトの先行手数料も説得力を持つのだがそれはもうすでに一度書いたしここでは改めては触れない。興味がある人は下記記事を読んでみてくれれば。

tanimiyan.hatenablog.jp

そんなわけで値付けを高くして売るのが困難、となると需要と供給のミスマッチによる値上がりが発生しやすい状況になる。そこで出てくるのがリセール、という話になる。ただ、3大チケット販売サイトでリセールシステムを設けているのはぴあだけで、しかも定価のみとなっている。定価だけでも「行けなくなってしまった!」という自体への対応としても十分働くのだけど(特に近年は大箱ライブを半年以上前からチケット予約開始するケースも多々あるので尚更)、ここでチケットキャンプなどの「サードパーティ」転売サイトを使うと買った時より高く売れることもあるし、ピアの公式リセールよりも一目につきやすいし定価譲渡といいながら手数料取られるしそもそもあれ発券済みチケットには使えないから、てなことでチケットキャンプとかの方がはるかに使う気になる、というわけだ。それを追い風であるかのように捉えてチケットキャンプが(そうでないのに)公式のものであるかのように捉えさせるネット上の「〇〇のチケットが1,000円〜!?」というのは倫理的にはアカンやつだと思う。ああいうCMを打つってことは彼らも「非公式であること」がアキレス腱なのであるということがわかっているということなんだろうけど。

 とはいえ、非公式のものの方が公式のものよりも使いやすい、というよりも公式のツールや仕組みがえらく使いづらいというのはこの国のエンタメ産業が抱える問題でもある。この前宇多田ヒカルの「Fantôme」を買ったときに「プレイパス」というレコチョク謹製のアプリでスマホ用データ手に入るよってことで早速使ってみたんだけど、よく落ちるしライブラリの検索機能ないし使えないな〜という感想を抱かざるを得なかった。リセールもそうだし電子チケットもそうだ。ぴあやイープラスはそれぞれしか備えてないし両方備えている電通系のticket boardは取扱公演数がめちゃくちゃ少ない。じゃあPeatixとかがいいかと言われるとインフラ貧弱だしそれはそれで厳しいんだけど。そんなわけで最近は電子チケットはファンクラブ連動にしてファンクラブ運営業者がやったりしてる。サカナクションとかもそうだった。ただしそれだとファンクラブ入らない人にはその仕組みが使えないことになったりもするしやっぱり共通の基盤があった方がいいんじゃないかという気がしてくる。というか電子チケットのみならず本人認証の仕組みやリセールなど、各種チケット販売プラットフォームで揃えてパッケージ化してもらった方が行き渡りやすくなるだろうなと思うところ。そういったサービス料金への転嫁をきちんと説明すれば各種手数料だって長期的には受け入れられるのではないだろうか。

結局転売がどうだって話より、業界側がユーザー側に説明することを怠っているように見受けられること、ユーザー側の行動変化に期待しててシステムで縛ろうという意志が弱いあたりが問題の根源にある気がする。本気で解決したいなら、ロジカルに施策を打ってほしい。少なくとも現状ではユーザーに責任を丸投げする行為とも捉えられかねない。日本の音楽をめぐる環境が厳しさを増す中、ユーザーへの説明責任を怠ってはいけない。音楽業界は音源販売の規模が縮小しているのでライブで稼ぐ方向にシフトっていうのはすでに色々なところで言われている話だけど、値付けからしてビジネスとして未成熟な部分が多い。それに大規模ライブなんかだと半年以上前からチケット申し込みを開始しておいてその後行けなくなった場合のキャンセルなんかも受け付けていない、というのは一方的な面もあるしそこまで万難を排せる人以外は来なくてもいいですよと言っているような感じでもある。ここからライブが文化として落ち着くためにはまだまだやらなくちゃ行けないことがたくさんある。そしてそれはあくまでも実演家及びチケット一次流通会社が努力するべきところである。別に銭ゲバになるんじゃなくて長期的に顧客を繋ぎとめられる真っ当な商売をしてほしい。まずはそこからだから、今の状態での「転売NO」には私はNOと主張したい。