今を切り取る超自然体のアルバム〜ディスクレビュー:クラムボン「LOVER ALBUM 2」
気がついたら発売して2週間以上経過してしまっていた。同日にハナレグミのカバーアルバムと併せて聴いていて(こちらもものすごくいいアルバムだった)んだけど、ようやくいいたいことがまとまってきた(まあ今週仕事が忙しくて書く暇なかったのもあるけど)、このタイミングでディスクレビュー。
1:タイトルと選曲の話〜同時代へのリスペクト
LOVER ALBUMだから愛に溢れたアルバムだっていうわけじゃなくて色んな所で書かれてるとおり、前作の時に「COVER ALBUM」の字が汚くて「LOVER ALBUM」に見えたためにそれ採用!となったとのこと(今は聴けなくなっているけど、ボーカル原田郁子さんが「胡麻みそズイ」っていうインターネットラジオで言っていたそうな。)。まあ若干照れ隠しっぽいエピソードだけど。まあ両方なんだろうなきっと。
そして選曲。ちまたに溢れるカバーアルバムとは一線を画した感じの選曲。とりあえずトラックリストを見てみよう。どうでもいいんだけど発表年調べるの結構疲れたよ。
- 呼び声(空気公団 / 2000)
- GOLDWRAP(E.S.T / 2006)
- NOTHING BRINGS ME DOWN(Emiliana Torrini / 2005)
- U & I(放課後ティータイム / 2010)
- The Postman(THE AMERICAN ANALOG SET / 2001)
- DESIRE -情熱-(中森明菜 / 1986)
- 状態のハイウェイ(TOKYO No.1 SOUL SET / 1995)
- Lady Madonna(THE BEATLES /1968)
- O Caroline(MATCHING MOLE / 1972)
- ぎやまん(七尾旅人 / 2003)
- 何も言わないで(カコとカツミ / 1971←オリジナル:ザ・ハプニングス・フォー / 1968)
- 雲のいびき(HUSKING BEE / 2004)
- 幸せ願う彼方から(泉かなた[CV:島本須美] / 2007)
- I'M GETTING READY(Michael Kiwanuka / 2012)
- FOUR IN THE MORNING(LITTLE CREATURES / 2005)
ミトさんの全曲解説を片手に見てると、既発のトリビュートに入っている12・15を除くとこのカバーアルバムで取り上げられてる曲の根底にある思いは3種類くらいに分類されると考えられる。
- 自分のルーツへのリスペクト→05・08・09・11
- 同時代の仲間ミュージシャンへのリスペクト→01・07・10(トリビュート楽曲もここに入るかな)
- とにかく自分の好きな曲をやる→02・03・04・06・13・14
今回の「LOVER ALBUM2」に関して言うと4曲目と13曲目のアニソンカバーのクオリティが突き抜けて高いためにそちらがものすごく話題になりがちなんだけど、他のカバーアルバムと一線を画している部分として2番で上げている「同時代の仲間ミュージシャンへのリスペクト」を選曲を通じて表明している点が挙げられる。前作「LOVER ALBUM」においてもSUPER BUTTER DOGの「外出中」やおおはた雄一の「おだやかな暮らし」をカバーしている。余談だけどおおはた雄一に至っては音源リリースして1年でカバーしてるしその後クラムボンが運営している事務所に合流する訳で相当気に入ったんだろうな。しかしながらその辺が同日に出たハナレグミのカバーアルバムに21世紀にオリジナル音源が発売された曲が一切入っていない(一番新しいキリンジのエイリアンズが2000年)のと極めて対照的な話である。
というわけでこの辺の話は大事な話なのでもう少しちゃんと書こう。世のカバーアルバムは基本「みんなが知ってる懐メロ」主体なので10年以上前の曲が主体になるのがセオリーなんだけど、クラムボンのカバーアルバムは真っ向からそのセオリーを外して、「同時代の仲間ミュージシャンの楽曲をカバーしたりして友情を表明したりしている」。別に発掘したりとかそういう意識はないだろう。セールス的な規模はみんな似たり寄ったりだしね。その中で一つ重要なのが、この「クラムボンや、クラムボンと仲のいいミュージシャンのシーンでの位置付け・立ち位置」にあるように思う。
前回クラムボンについて取り上げた記事で、クラムボンは「id」で変わったという話をした。それまでは亀田誠治プロディースなどもありJ-POPバンドの一つという位置付けだったのが一気に独立性が高まったせいかシーンであまり取り上げられなくなっていく。どちらかというとクラムボン側が距離を置いていった節もある。そのせいか雑誌やウェブメディアなんかでも比較的インタビュー記事が少ない。自分でコントロールしているが故、というところが感じられるけど。そして前作で取り上げられたSUPER BUTTER DOGや今回取り上げられた七尾旅人なんかもクラムボン同様「メジャーシーンのど真ん中から距離を置いていた」バンドであり、この辺りのミュージシャン群って実はゼロ年代のシーンを下支えしていたんじゃないの?という風に思っている。以前レジーさんがOK!?NOというインディーズバンドのインタビューをしてたときに現代の東京インディをシティポップと呼称して山下達郎とかはっぴいえんどとかと直結させる言説が多いって指摘してて、その間をちゃんとゼロ年代の前半〜中盤にノーナリーブスとか□□□、Cymbals、キリンジ、MAMALAID RAGなどそれらをつなぐミュージシャンいたんじゃないかなって話をしてるんだけど、そこと若干リンクする話。僕はFISHMANSとceroの間にクラムボンがいると思ってるし。SUPER BUTTER DOGだけではなくて、クラムボンと仲のいいtoeもそうだし、さっき挙げたノーナリーブスとか□□□、Cymbalsなんかもそうだし、この辺りのバンドはそれぞれにやりとりがあったりする。たとえば12曲目の「雲のいびき」が収録されているHUSKING BEEのトリビュートアルバム、toeが土岐麻子をボーカルに迎えて「8.6」をカバーするのだけどこの仲介をしたのはミトさんだ(toeとの交友は言わずもがな、Cymbals時代から土岐さんと交友があった)。そしてこの共演はその年のフジロックで再現され、その際に「8.6」に加えて本来ギター山嵜さんがリードボーカルを取っていた「グッドバイ」を疲労したところこれの評判がものすごく良かったので2年後にアルバムを出す際に再録した、という話もある。他にもノーナのメンバーが土岐さんに楽曲提供してたり、クラムボンやtoeがケーブルなどを使っているオヤイデ電気の60周年イベントの司会をやったのは□□□の村田シゲだったり。挙げていってもキリがないけど。
そんな風にしながら彼らは今やメジャーど真ん中のミュージシャン達に楽曲提供したりプロデュースしたりしてシーンを下支えする存在になっている(ミトさんやtoeの木村カエラへの楽曲提供、ノーナ西寺郷太からV6への楽曲提供、など)。そういう同時代を生きる彼らへのリスペクトが入っているという点が、クラムボンのカバーアルバムが他のカバーアルバムと一線を画した、非常に今に接近しているアルバムだという論拠と言えるだろう。単純に収録楽曲が新しい、ということではなくてね。照れ隠しで「字が汚くて」だなんて言ってるけど、十分音楽への、同時代への愛に溢れているアルバムなのだ。
2: 楽曲アレンジについて〜無理をしない作り
えっとねえ、まず既に言ったようにアニソンカバー2曲「U & I」と「幸せ望む彼方から」の出来が突き抜けていい。「U & I」は元々もバンドアレンジの曲なのを大胆にアコースティックっぽい感じにして大化けしているし、「幸せ望む彼方から」はかなり原曲に忠実にしながらクラムボンの3ピース構成にちょっと修正したバージョンになっており、結果として原曲以上に歌声がフィットしている。
このMVはねえ。ちょっとずるいねえ。こんなの出されたら泣くしかないじゃん、と単純に思う。
さて、他に特筆すべきなのはライブで既に何度も披露されてて既に定番化しそうになっている「DESIRE -情熱」と七尾旅人のカバーで今回最も破壊的なカバーとなった「ぎやまん」。クラムボンのライブにおけるグルーブ感を極限まで突き詰めたかのようなベースとキーボード・ドラムのアグレッシブさが際立つ「歪んだジャズ・アレンジ」は凄く面白い。ライブでのブレイクはもはや定番を通り越して笑いが起きる領域に達している。「ぎやまん」は七尾旅人の原曲を比較的忠実にカバーしているのかなとか思ったけどそんなこと全く無かった。「LOVER ALBUMがおしゃれカフェでかかるのが許せなかったから」という理由で反抗心満載で「・とにかく壊れてる楽器を集める。・チューニングは絶対に合わせない。・整合性を失くす。・けれど表情は限りなく出す。・録音はiPhoneのボイスメモを手持ちで」という形でどこまで音楽性を出せるかを追求するためのトラックを入れるのが面白すぎる。僕は原曲を聴いたことがなかったけど、七尾旅人ってこういうこと普通にやりそうだからまったく不自然さを感じなかった。笑
とはいえこのアルバム自体、原曲を大幅に変えようとしているわけじゃなくて、原曲に忠実なカバーも多くて(「GOLDWRAPS」「幸せ望む彼方から」など)、トータルで見ると基本的に自然体で向き合っている ように思える。その証拠か分からないけど、前作の「LOVER ALBUM」同様、レコーディング前後の話し声までもそのまま収録されている。まあ前はサマーヌードの2番からずっと笑い続けたままとか、レコーディング後の雑談までずっと収録していたりととにかくゆるい。オリジナルアルバムではそんなことしないから、このアルバムだからこそ、そうする理由があるんだろう。無理をせずバンドとして自然体でカバーに向き合う。それがクラムボンのカバーアルバムだよ、という話。ただあまりにも自然体を通り越して録って出し感が強すぎるからクラムボンを初めて聞く人にお勧めする商品ではないと思う。そこはやはりまず3peace2辺りから始めるべきでは…
そんでこの前クラムボンはグローブ座で4DAYSの対バンイベントをやって、それの4日目にいったんだけど、salyu×salyuとそのバンドメンバー(ギター小山田圭吾、ベースBuffalo Daughterの大野由美子、ドラム元スカパラのASA-CHANG)とのセッションがめちゃくちゃ良すぎてちょっと泣きそうだった。他の日はLITTLE CREATURESやHUSKING BEE、OKAMOTO'Sということで、それぞれがそれぞれに良かったんだろうと推測される。「LOVER ALBUM」シリーズの姿勢がそのまま出ているなーと思える良いライブでしたとさ。まだまだ楽しませてくれそうなので、夏休みに一つくらいはワンマン(ドコガイイデスカツアー)に行こうと思ってる次第。