たにみやんアーカイブ(新館)

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「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#03「無敵のヨナ抜き音階」

なんとかがんばっております、NHKEテレの亀田音楽専門学校、第3回ケーススタディ。前回の転調に続き音感のない僕にはケーススタディがとても大変だけど(ならなぜ始めたのかと言われそうだ)、実際のところなんだかんだで楽しんでるし勉強になっているのでよしとしましょう。因みにこれまでのはこちらから。

さて、今回のテーマは「無敵のヨナ抜き音階」ということで、とても日本独特っぽい雰囲気のタイトル。例により前半で講義内容を要約して後半でその講義内容に合った実例を提示するという構成。今回からゲスト講師は秦基博さん。

●講義内容の要約

ヨナ抜き音階とはなにか?

ここで「上を向いて歩こう」「夏祭り」「つけまつける」の3曲が流れる。ヨナ抜き音階は、和風でノスタルジックを雰囲気を与えてくれるという。

ここで亀田校長より解説。

ドレミファソラシドは明治になって輸入されてきた音階で、入ってきたときに日本人は呼びやすいように「ひふみよ(1・2・3・4ね)」を当ててたわけ。そうすると、ヨナ抜きというのが何を指すかがわかってくる。

ドレミファソラシド → ヒフミヨイムナヒ → ヨナ抜き音階=ファとシを抜く音階 ex.北酒場のはこだて〜♪の音階(今後番組内で幾度にも渡って使用される)

ドレミファソラシドは7音階だけど日本には昔からおおむね5音階くらいしかなかったので、この音の流れは日本人には難しいということになった。そこでなるべく唱歌などを作曲するときは日本の伝統的音楽の流れにできるだけ近づけるべくヨナ抜きにするとこを政府が推奨した(例:桃太郎とか)。それが音階のスタンダードとして浸透するに至った、とのこと。

ヨナ抜き音階は歌いやすい。それを実体験で理解するべくサンプルメロディーとして校歌を作ってみることに。最初はヨナ抜きで作ったあとに、わざとメロディーの中にファとシの音階を挟み込むバージョンを作りそれぞれをゲスト講師+生徒と歌う。ヨナありバージョンは一気に歌えなくなる。むしろメロディーとしてよくないよね、と。

Jポップで使われるヨナ抜き音階

実例として春よ、来い(松任谷由実)を選択。

このサビのメロディーもヨナ抜き。さて、このメロディーは何を醸し出しているのか。歌詞の持っている日本的情景をイメージさせやすいのではないか。秦基博からは「歌詞とメロディの仲がいい」とのコメント。春・桜といった言葉との相性もいい。日本の和が凝縮されている音。例えば紅白歌合戦に出て歌う曲の幾分かはヨナ抜きかもしれない(注:演歌のことを指してるんだと思う)。

秦基博の選ぶヨナ抜き音階の名曲

  • Perfume「レーザービーム」 近代的テクノだけどヨナ抜きなので覚えやすい。(厳密に言うとナはちょっとだけ出てくる)
  • いきものがかり「SAKURA」 歌詞(そして桜という題材)との相性がいい。桜が散る風景が広がってくる。この曲もナは出てくるけど入り口のところのヨナ抜きメロディ(ひら〜ひら〜ってところ)がいい。名付けてヨナチョップ!
  • 太田裕美木綿のハンカチーフ」 軽快なんだけど切なくなるメロディーライン。

他の文化圏の音楽との違い

ところで…沖縄の民謡も幾つかの音が抜けているという話だけど、ヨナ抜き音階と沖縄の音階の違いは?と小野さんから質問。沖縄の音階はフム抜き音階。ということで早速助手の皆川さんが実演する。ここで小野さんから一言。「外国の人はヨナ抜きを聴いて日本を感じるのでは?」そう、ヨナ抜きは日本最大の輸出品なのです。

ここで「ライディーン」「つけまつける」の2曲を紹介。たまにナが出るけど基本ヨナ抜きの音階。ヨナ抜き音階であるということは、日本発の音楽であるという表明。世界が日本を感じる音階なのではないか。フジヤマスシテンプラのようなもの。ヨナ抜きは音楽の日本代表選手といえるだろう、とのこと。

ヨナ抜きが崩れてシーンが変わる。

これまでヨナ抜きできたメロディーが崩れることでシーンが崩れ、明るくなったり切なくなったり、場面の切り替わりを感じることがある。

ここで木綿のハンカチーフのサビを披露。


太田裕美 木綿のハンカチーフ

40秒くらいの「いいえ〜」の部分で突然シの音が入ることで切なさが入る。心情の奥の部分を引き出す。ヨナ抜きだけで行くも良し、ヨナ抜きを崩すも良し。

洋楽にはヨナ抜きではない新鮮さがある。(例:ABBAダンシングクイーン」のサビ頭:シドドー→ナヒヒー)ただ、作り手も音階ありきでやっているわけでも、聴いてヨナ抜いているなあと感じたりしてるわけでもなく、あくまでJポップのヨナ抜きは隠し味のような存在である。

結論:ヨナ抜きは密やかに脈々と流れているJポップの基本フォーマット。使っても使わなくてもいいけど、使うと日本人の魂が込められる。使うことで日本人であることへの郷愁が込められるので、Jポップにはなくてはならない物。

ケーススタディ

まず僕は音感が無いので、楽譜サイトを見ながらボーカルだけ譜面作成ソフトに採譜をしてそれをCメジャーに移調してヨナ抜きかどうかを確認するという結構骨が折れる作業を繰り返して探してみた。合計で30曲くらい試してみた。まあ楽譜が最初からCメジャーで書かれていたものは作業するまでもなかったんだけど。

因みにちょこっとだけ紹介しとくと、楽譜作成ソフトはMuseScoreという物を使い、譜面サイトはGINETさんから。あとヤマハぷりんと楽譜も少々。

普通にヨナ抜き音階の名曲を探そうとしたけど、番組内でも出てきたとおり完璧にヨナ抜きしてる曲というのは殆どない。なので、その辺踏まえて曲を探してみた。

サカナクションアルクアラウンド」

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サカナクションはヨナ抜き音階を絶対に使っているだろうと思っていたら、やっぱりあった。Aメロというか導入部の「僕は歩く〜♪」のところは典型的なヨナ抜き音階。「僕は待っていた〜」までのところまで一切ヨナの音階が入らない。楽譜を見ると超キレイなヨナ抜きでうっとりするくらい。歌詞に漂う哀愁感や孤独感ともとてもよくマッチしているメロディとも言えるだろう。そこで一気に導入させる効果があるというわけだ。

因みにサビはナの音が入るんだけど、巧妙に半音ずらされたりしている。

放課後ティータイム「U&I」


【高音質】 U&I 放課後ティータイム.flv

突然出てきたアニソンですが、多分歌いやすいようにヨナ抜きで作曲したんじゃないかなとか思ったり(まあ僕自身それを狙って探したわけだけど)。大ヒットした「けいおん!」の劇中歌。主人公平沢唯の、いつも世話を焼いてくれる超できた妹平沢憂が熱を出して倒れたときに感謝の気持ちを伝えるために作った曲(憂→うい→U&IでありYOU&I)。ほのぼのした感じの歌詞とヨナ抜きのAメロはぴったりマッチしているんじゃないかなって気もする。そしてやっぱりサビになると入ってくるナの音。

この曲に関して言うと、クラムボンのカバーバージョンがめちゃくちゃいい。こっちの方がヨナ抜きのAメロがより活きているんじゃないかと思わせる技ありカバー。

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LOVER ALBUM 2

フィッシュマンズ「100ミリちょっとの」


100ミリちょっとの - Fishmans

最後はフィッシュマンズから「100ミリちょっとの」。今までのは平唄がヨナ抜きなのを紹介してきたけど、これはサビがかなりきれいにヨナ抜きになっているパターン(とはいえちょっとだけナの音が入っていて、一番最後のところにヨが入る。でもひとつのサビの、数十個ある音符の中でも片手で数えられるくらいしか入っていない)。

この曲について言うと、去年さいたまスーパーアリーナでやったフィッシュマンズサカナクションの対バンイベントでのフィッシュマンズの最後の曲がこれで、の子・原田郁子茂木欣一で歌ったこの曲の多幸感たるや最高だったわけ。フィッシュマンズの曲ってちょっと切なさや狂気が入り込みつつも基本ネアカな世界観でサカナクションとは真逆だけど、そのスパイスみたいに入り込んだ切なさや狂気をヨナ抜きのメロディが引き立ててるのかもね。

因みに、フィッシュマンズと言えば「ナイトクルージング」だけど、これは平唄の部分は基本ヨナ抜きで、ちょっと抑揚がつくところで(「夜道の足音〜」「Ah、天から〜」の部分)ナの音を基準としたメロディになるという結構練られた構成になっている。


Fishmans - ナイトクルージング - 98.12.28 男達の別れ

これもクラムボンにカバーされてるほかたくさんのミュージシャンに歌われている名曲中の名曲。そういえばフィッシュマンズの歌ってカラオケで歌いやすいなあって思ってたけど、ヨナ抜きだったからなのかな。

両方入っているベストアルバムはこちら(ベストはもう一つあるのでそちらもぜひ)。

宇宙 ベスト・オブ・フィッシュマンズ

因みに今回の曲探しの過程での落選理由は一番多いのが「ナの音が出てきすぎ」で次が「どの音もまんべんなく出てくる」。そしてヨの音のみが高頻度で出たことによって弾かれた曲は少なかった。まあ僕の好みで選んでるからおおいに偏ってるのは一因としてあるんだと思うけど。ただ番組内でも「ナ」の音が挟まる曲は多数紹介されてたけど「ヨ」の音が挟まる曲は皆無だった。ヨ、つまりファの音が日本人と最も縁遠い音なのかな、とかなんとなく思った。

さて次回は引き続き秦さんを講師として「オトナのコード学」。コードか……