「ふつうの人はCDなんてもう買わなくなった」のか

 年末になって各種年間ランキングが発表されるにつれて、色々な話で盛り上がるのは恒例行事と言っていい感もあるんですが。

2013年のヒット曲にみる「これが日本の音楽業界の現状です」 - コスプレで女やってますけど

「ふつうの人はCDなんてもう買わなくなった」 - 小娘のつれづれ

1件目については特に僕からコメントすることはないです。引用以外のところは印象論が多いのであまり参考にならないなあ、という感じ。2件目の小娘さんの記事では言及いただきありがとうございます。そしてそこで述べられてる「昔は音楽がアクセサリー的に捉えられてた」話についても、言及していただいた記事の1年後の記事で「コミュニケーションのための音楽」「趣味としての音楽」という2つの概念に分けて同じようなことを書いたので、共通した認識ではあるんですね。

そこで僕の方から付け加えというわけではないんだけど、二つほどファクトベースの話をしたいなあと。一つは1つめの記事でも出ている「オリコンランキングとiTunesランキングを比較する」ことの意義。もう一つがタイトルにも書いた、本当に「ふつうの人はCDなんてもう買わなくなった」のか、という話。というよりも、「ふつうの人にCDを買ってもらうために」どうにか出来るのか、したのか、という話。

まず先に断っておくと、小娘さんも後の記事で言っているようにタイトルの元ネタはNegiccoの「アイドルばかり聴かないで」の2番の歌詞です(作詞・作曲は小西康陽さん!)。動画はその部分から再生するようにしときましたw

www.youtube.com

1:オリコンランキングとiTunesランキングは比較可能なのか?

CDが売れない系の記事になると必ず出て来る意見が「今時CDで買うよりiTunesで買う方が多いだろ。オリコンランキングよりiTunesランキングの方がよっぽど信用おけるわww」という手合い。ていうかこの言葉良く聞くけど、実際ほんとなんでしょうか。というわけで、いつもお世話になっている日本レコード協会さんのサイトからCDの売上数とインターネットダウンロードの回数(当然着うたなどは除いたPC・スマホ向けのみ)を集計して比較しました。因みにiTunes Store日本レコード協会が提唱している「Lマーク」をストア上で表示しているので、この協会が集計している売上に含まれると考えて良いでしょう。

さて、では売上表とグラフ。表が画像なのはコピペ防止とかではなく単純に収まりきらないからです。表の数値の単位はグラフと一緒で百万枚/トラック/パッケージですね。

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2009年に一旦シングルの数量が肉薄するも、その後CDシングルの売上げがあれやこれやで盛り返す(このあれやこれやについての話はさやわかさんの「AKB商法とは何だったのか」が詳しいです。というかこの本を読んでからケチをつけてくださいと言うくらいに非常に良い解説です)ためにちょっと差がついたけど、去年ついに逆転。という流れ。なので、「iTunesランキング“の方が”正確」になったのは去年から、なんじゃないかと言える。わりと比較可能、という意味では2009年辺りから並べて考えて良いと思うけど。

ただし、アルバムに関しては2012年時点で配信はCDの32分の1の数量しか売れてないのでこの言説は完全にダウト。しかしながら配信はつまみ食いしやすいので本当に曲単位で売れる割合が高いんだなあと言うことが一目瞭然。まあどのショップ見てもアルバムがバラ売り可能UIになってるしね。これは設計上仕方ないのかな。自分自身としては、安いし場所取らないから配信でアルバムを買う割合が年々増してるんだけど実際単曲でもちょこちょこ買ってるので数は1:1くらいかな。でも僕は「趣味は音楽」という、ふつうではない人のくくりに入る方だと思うのでまあそんなもんかなと思ってる。

ただ、シングルの数量で逆転した!といっても単価には4〜5倍くらいの開きがある上にアルバムは話にならないので配信とCD販売では金額的には比べものになっていない。以前の記事に比較グラフがあるので見てほしいんだけど、ざっくり2012年の数字ベースで言うとCD販売金額は2,246億円なのに対してインターネットダウンロード金額は173億円。13倍くらいの開きがある。だから業界の人はオリコンランキングばかり参照するしそれゆえにオリコンランキングをハックした方が存在感を示せるしニュースバリューも得られるので価値がある訳ね。

2:「ふつうの人にCDを買ってもらうための方法」はあるのか

ところでさっきのデータとグラフ、値が去年までとなっている。まあ単純に今年の分の値が出揃ってないからなのですが、9月までの時点でCDシングルの数量をインターネットダウンロードの数量が追い抜いているので去年同様のことが言えることになることは間違い無し。というか、速報のような形になるんだけど、今年のCD売上はシングルもアルバムも前年度比マイナスになっていて本当に「ふつうの人はCDなんてもう買わなくなった」時代になっているといってもおかしくないくらい。シングルCDもチャートハックで止血できていない状況。とりあえず今年は11月までのデータで去年との比較を。

まずはシングル。表の売上金額の単位はグラフと一緒で百万円。

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そしてアルバム。

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このグラフに見覚えのある方はこのブログの熱心な読者の方。以前違法ダウンロード刑事罰化に絡めて書いた記事の時のグラフのアップデート版なんだけど、表を見ればわかるようにシングルもアルバムも前年割れ。シングルは4年ぶりの前年比減少が確実。そして去年持ち直したかに見えたアルバムが前年を遙かに下回る勢いだということ。因みに2011年が1,653億円なので、この値にも達しない可能性が極めて高い。まあただしここで話したいのはそのことではないのです。

ここでフォーカスしたいのはアルバムの11月。2012年に異常な突出をしている。この月に出たのは…?ということで、その当時のオリコントップ100から11月発売の物を抜き出してみた。

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因みにこれ以外に前月末に嵐のアルバムも出ている。ここでようやく本題に入る。「ふつうの人はCDなんてもう買わなくなった」のかという話。そこに対する数少ない例外というか挑戦した事例の話。

注目してほしいのは上から二つ目に入ってい松任谷由実のベストアルバム。上のミスチルと共に集計期間(オリコン年間ランキングはだいたい12月最初のランキングで締める)の最終ギリギリに発売されたアルバムのため今年の年間ランキングにも入っているんだけど、ミスチルが168,000枚なのに大してユーミンは265,000枚を売り上げ、トータルの売上では逆転している。宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」に「ひこうき雲」が使われたことが多少寄与しているのかもしれないけど(現に今年8月の月間ランキングでは12,000枚を売り上げ24位まで上昇してきている)、そもそもの話としてこのベストアルバム自体、ユーミンがこのベスト盤の前に出したオリジナルアルバム「Road Show」が8万枚しか売れなかったため売れるために最大限の努力と譲歩をした例だとWASTE OF POPSさんで指摘がある。

確かにCD全盛期かつ第1次ベスト盤ブームの1998年に出たユーミンのベストアルバム「neue musik」と今回の「日本の恋と、ユーミンと。」のタイトルとジャケットを並べて比較するとよくわかる。因みにユーミン多摩美大出身である、という事実を付け加えておく。

そして、今回ユーミン本人は選曲に携わっていない。公式サイトでは「全ての曲が等しく輝いていて選べなかった」と言っているけど、「neue musik」の時にはファン投票で選ばれた5曲以外は全てユーミンが選曲している。おまけに楽曲毎に本人が色分けを行い、その色分けを基に選曲を行なった、という美術大出身のユーミンならではのエピソードがある(Wikiedia参照)のにそう言っているということは、売るためにその美学を捨てたと言うことだ。実際この文章からはタイトルについても本意でないかのような言葉もある。こういったユーミンの美的感覚を一切排して、とにかく直球で普段CD買わない人にアピールするべくジャケット写真のど真ん中にユーミンを配置して、楽曲も定番曲のみにして、タイトルもそれとわかる物にしておまけに売り出すときには「松任谷由実 40周年記念ベストアルバム」と小さく(でも見たらわかるように)付けてる。それだけ、このユーミンのアルバムは「普段CDを買わないであろう人」に飛びついてもらうために徹底的にベタな売り込みを重ねた商品だということだ。僕は、このユーミンのアルバムにライトユーザーが飛びついたことで普段CD店に来ない人が来て、ついで買いとかも随分あったんために、去年の11月は異常値的な伸びを示してるんじゃないかなあと推測している(上に挙げている物全て足しても5月に出たミスチルベスト×2の売上げには及ばないわけだし)。

ふつうの人にCDは売ろうと思えば売れる余地はまだあるんだけど、それをやろうとしたら、ユーミンぐらい有名な歌手ですら、これだけのことをしなくてはいけないし、自分の美学に逆らわなくてはいけないシーンも出てきている、ということなのではないか。そういう大変な時代。でもある意味、物を売るのは大変なのが当たり前で、そこをそれぞれの方々が努力することによっていい物ができあがってきているのではないかと思う。良い悪いは主観だけど、僕は決してこの15年で日本の音楽シーンが退化したとは思ってない。何度も言うけど今年は面白い音楽超たくさん聴けたし、音楽ライフは今までで一番充実してた一年かもしれない(その分遊びすぎた気もするけど)と思うくらいにいい音楽が多かったと思ってる。

でもそれがふつうの人に届かないのが大問題なんだよね。作り手のマインドが完全に変わるのは相当かかると思うし、変わらないかもしれない。(僕がサカナクション好きなのはその辺をかなりしっかりと考え、自覚的に発信しているのが、問題意識がマッチしているように思えるところもあるんだろうな)でもまあそこは僕らが媒介にならないとなあ、という意識は持ってはいて、それなりに「これいいよ!」っていうのを紹介するような感じで書いたりすることもあります。いつもクソ長くてすみません。

 

というわけで、年間データが来月後半には出揃うのでその辺で2013年の音楽売上の(1/20 配信は2月になります)まとめをやりますよ〜(唐突な予告)。そこで今日さっくり流した売上詳細分析と、冒頭の小娘さんの記事に絡めて提示した「コミュニケーションのための音楽」「趣味のための音楽」の話のアップデートもしたいと思っとります。お楽しみに。ではまた。