音楽というスープ作りの話〜ブックレビュー「人を振り向かせるプロデュースの力 クリエイター集団アゲハスプリングスの社外秘マニュアル」

クリエイター集団agehaspringsの代表であり、プロデューサーとしても有名である玉井健二さんの著作である「人を振り向かせるプロデュースの力 クリエイター集団アゲハスプリングスの社外秘マニュアル」という本が出てたので、早速買って読んでみた。

agehaspringsと聞いて知らない人もいるかと思うので簡単に説明すると、作曲家・作詞家・プロデューサー・エンジニアなどの音楽制作者集団で、主なメンバーとしては元NATSUMENでthe day のメンバーでありYUKIの「joy」「長い夢」「ドラマチック」等を作った蔦谷好位置、自らのプロジェクトQ;indivi でも積極的に活動する田中ユウスケなどが挙げられる。というか僕は蔦谷さんがagehaspringsに所属していることをこの本を読んで知ったwwてなわけで、agehasprings案件の代表的なものをご紹介。

AKB48ヘビーローテーション

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いきものがかり「じょいふる」


いきものがかり こんにつあー!! じょいふる live

でんぱ組.inc「でんでんぱっしょん」

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ここで挙げたのは女子ボーカルばっかだけど、他にも関ジャニ∞Base Ball BearflumpoolFUNKY MONKEY BABYSファンキー加藤なんかも手がけてて、「え、ここにもagehasprings!?」みたいなのがすごく多い(リンク貼っとくので実際に見てみてください)。個人的にはGOOD ON THE REELをマネジメントも含めて手がけているというのが特に驚き。巻末のプロデュースワーク一覧はなかなかにして壮観だったりする。その作品の総売上枚数は2004年からの累計で4,000万枚。因みに、2004年〜2013年のCD総生産枚数は24億1400万枚なので、60枚に1枚はagehaspring関連になるわけだ。いまいちすごさがわかりにくいけど、2005年にデビューしたAKB48の累計売上枚数が3,000万枚超なので、なんとなく把握できるのではないだろうか。できませんか。そうですか。

さてこの本は主に「agehaspringsの、玉井さんの音楽作りに対する考え方」「agehaspringsがどういう仕事をしているか」の2点が述べられている訳なんだけど、前者が色々と興味深い話だったので、この場で紹介してみたいなあと。もちろん後者の話はagehaspringsのことのみならず音楽プロディーサー一般の仕事の話に繋がっているので、音楽業界に興味がある人、仕事してみたい人にとっては必読の文章なんじゃないかな。

さて、「agehaspringsの、玉井さんの音楽作りに対する考え方」という話だけど、のっけから「他の人種と比べて日本人は歌上手くないし演奏能力も市場規模に比べて高いとは言えない、むしろ先進国では最も低いくらいだ。おそらく理由は日本語はポップミュージックには向かない言語だということとグルーヴという概念が元々無いということだろう。」と言いきっている。これまたかなりバッサリなんだけど、そこからどう良いものに持っていくかという観点でのプロデュースワークがものすごく重要だとしている。その上で、いくつかのキーポイントを挙げているが、その中でとりわけ目をひくのがプロデュースの物差し3点の内に挙げられている「ダサいものに真理が宿る」という項目と、そこ以降で頻繁に使われる「ブイヨン」というメタファー。

「 ダサいものに真理が宿る」というのは「世界的に受け入れられ、大ヒットした曲はどんなジャンル(ロックややEDMなど)であってもブルース・カントリー的な感覚の要素が入っている」ということであり、その「ブルース・カントリー的な感覚」が「ブイヨン」だという。なぜ「ブイヨン」なのかというと、逆に日本独特のウケる要素(歌謡曲や演歌の要素)という物もあるからで、そういったものを「ダシ」と本書では定義している。

その上で、(良い音楽が)人を振り向かせる要素として下記3点を挙げている。

  • ハッとするほど美しい
  • 毒を盛れている
  • 色気がある

実はこれらに共通する要素として「まっすぐではない」「少し癖がある」というのが挙げられており、これらを出すためにもやはりブイヨンが(あるいはドメスティックに攻めるのであればダシが)欠かせない、と説明している。

このくだりはすごく面白いなあ 、色々示唆に富んでるなあと感じるわけです。この辺りの要素には自分が感じているいい曲悪い曲の基準にも似ているところがあるからだ。それなりに「まっすぐではない」癖がある、というのは聴いた人に良い違和感(©山口一郎氏)を与えられた方が良くて、ただ綺麗でいい曲っていうのは一聴すると「まあ良いよね」ってなるけどそんなに長く続けて聴かないということが往々にしてあるし、コブクロとかは極端に毒を排除してる感じがあって、それはまあそれで良いのだろうけどさという感じ。その辺を表すのに調味料というメタファーはすごく面白くて、使いようがあるなあと思うのです。さっきいった綺麗なだけでするっと抜けてしまって後で聴かない曲、というのは「ダシやブイヨンのようなベースになる味がない曲」ということも出来るし。最近フェス中心にもてはやされてる「高速化・浮世絵化したJ-POP」「YouTubeニコニコ動画時代の15秒で引きつけるJ-POP」みたいなのはある種化学調味料的だという風にも考えられる。ウケる要素だけ抽出してるところが、そんな風に見えるわけです。

そういう観点から考えるとブイヨンやらダシやらとにかくたっぷり詰めて煮込んでますよ感のする音楽を自分が好む理由も見えてくるし、そういう中ではこの前発表されたくるりの新曲なんか、秘伝のスープって感じで最高じゃないですか、と思うわけ。

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実は個々に書いてあることは最初の50ページ分くらいで、それ以外にも「YUKIのプロデュース秘話」や「蔦谷好位置インタビュー」、そしてプロディースワークのあれやこれやなど、とにかく興味深い内容がたくさん載っているので、是非読んでみてくださいね。書籍版とKindle版の二つありますよ〜。