たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

クラムボンの「えん」に至るまでのよもやま話

クラムボンのライブドキュメントDVD「えん」を買った。


えん。 [初回]限定盤] [DVD]

去年のよみうりランド2DAYSとそれに至るまでの小淵沢合宿やリハーサル映像を盛り込んで作られたライブドキュメント作品。個人的にはあの2日間はクラムボンのキャリア屈指の良ライブだと思っていたのでぜひ買おうと思っていた。買おうと思っていたので新宿シネマートで行われていた映画での先行上映は見たら買う気が無くなると思って行かなかった。TLから流れてくる感想とか見ると行けば良かったかなあとか少し思ったけど後の祭りだね!冷静に考えるとDVD画質よりもいいHD以上の画質で上映したことは間違いないのでその点だけ取ってもやっぱり行ってみても良かったかな、という感があるけどまあいいや。

クラムボン聴き始めてから7年、ライブに行き始めてから今年で4年。その中でベストと言えるライブが多少特殊な形ながら映像化されたことを機に、このDVDを見て思ったこと、色々知っていることや体験してきたことをしたためておきたい。

●リアルな小淵沢合宿とリハーサル

今作についてもっとも特筆すべき点は、クラムボンの音作りを語る上で欠かせない「小淵沢合宿」の風景がパッケージ作品として初めて納められたことだろう。5年前に「Musical」ツアーをまとめた物として「たゆたう」という映画が制作されたが、これはあくまでもツアードキュメントなのでライブツアーだけをドキュメンタリー化した物であり、結果として小淵沢のシーンは一切無い。僕が知る限りでは、小淵沢でのリハーサル屋楽曲製作などを映像の形で残るのは今回が初めてだ。因みに、小淵沢でのスタジオ映像自体は「Re-clammbon 2」の初回限定盤に付属しているDVDに収録されているスタジオライブで披露されている。

※完全に余談だけど、Re-clammbon 2ツアーはクラムボンとしては最後の「サポートメンバーがついていたライブツアー」で、このときから今回のよみうりランド1日目までクラムボンのライブにはゲストを除いて一切サポートメンバーが入っていない。更にいうとRe-clammbon2ツアーのファイナルだったNHKホール公演が僕の初めてのクラムボンライブ体験だったわけだけど、ダブルアンコールで披露された「Re-アホイ!」は原田郁子さんが会場備え付けのパイプオルガンを使って演奏するというもので、これがものすごくよかった。因みにiTunesで売ってます

さて。クラムボンはアルバム「id」の時から楽曲制作の軸を小淵沢に置くようになり、今のような室内楽的なバンドサウンドという独特の音楽性に移行していったわけだけど、そのコアな部分が見られたというのは非常に意義深いことだと思う。因みにこの「小淵沢移行」のときにレコード会社も変わりファン層もずいぶん変わったのだろうと推察されるところがある。idまで聴いてた、っていう人が周りに結構いるから。その一方で、今のファンは半分以上はコロンビア期に獲得してきたファンなのではないかと推察される(まあ推察なので実際にきっちり計ってみないと良くわかんないけど)。

この小淵沢でのリハーサル。ものすごくクラムボンらしいといえばらしいのだけど、ゆるい雰囲気で進行しているのが面白い。そして、最初の方で出ている演奏は意外とあってなかったりする。最初のシカゴをあわせるシーンで郁子さんが盛大に間違える。これでいいのかよって感じだけど、この辺については昔インタビューでメンバーが面白いことを言っていた

郁子 どうしたら新鮮でいられるか。いつも、一緒に演奏してて、「おー!」とか「わぁー!」ってビックリしたり感動したりしたいなぁと思うから。私たちは会わない期間があるほうが、次に会ったときにいい演奏ができる。そういう法則があるんです(笑)。 ミト ネガティブな発想ではないんですけど、何カ月ぶりに会ってうちらの曲をやると、めちゃめちゃヘタなんですよ。それが楽しいんですよね。

2012年はクラムボンは2月にMTV Unpluggedでライブをやってからこのときまで一切ライブをやっていない。2010年・2011年は共に30回以上のライブをこなしていることもありたぶん一旦一息つきたかったのだろう。そこで一気に下がってからのジャンプアップみたいな。サイヤ人かよ。笑

さて、小淵沢合宿と共に新曲「Rough & Lough」のリハーサルが終盤に流されている。このシーンについて劇場で見たレジーさんから指摘があったのが「ドラムの伊藤大助さんって自分でドラムアレンジしないんだね」ということ。映像で流れていたリハシーンでは、ひたすらミトさんの指示に従って黙々と大助さんがドラムを叩き続けていて、「ここは開いて」「ここのハットは閉じた方がいいかな」みたいな感じでミトさんから指示を受けながら試行錯誤するけど上手くいかなくてついにはスティックを床に投げつけてしまうシーン。ファンとしては仲良しだと思っていたクラムボンの、穏やかな人だと思っていたドラマー伊藤大助のイメージが覆されて衝撃的なシーンだったが、クラムボンの音作りにおけるメンバーのパワーバランスというか役割分担みたいな物が見て取れたというのもまた発見だった。ミトさんがサウンドメイキング・アレンジなどのイニシアティブを握っているのは分かっていたけど、大助さんは凄く職人なんだな、という印象を受けた。まあドラマーとしての自主性は高野寛×伊藤大助とかLOTUS GUITARとかで発揮してるのかな。そっちは全然追っていないからよくわからないけど。

ともあれ今までテキスト+静止画ベースでは漏れ伝え聞いていたクラムボンの楽曲制作の様子がかなりリアルな形で見ることが出来たということが凄く価値ある物であった。あれだけの音を出すために積み重ねている練習・リハーサルのリアルさが面白かった。

●ライブシーンの多幸感までの「たゆたう」彼ら

ライブ&ドキュメントということではあるけど、この映画ではやはり大半がライブシーンで出来ている。そんでもってまたしても劇場で見たレジーさんのコメントなんだけど。

2日間行った側の人間としてはこういってもらえるとすごく嬉しいんだけど、クラムボンがここまで雰囲気の良いライブを作りあげてくるまでの道のりは決して平坦ではなかった。

2006年にクラムボンは初めてのライブアルバムを出した。


3 peace ~live at 百年蔵~

この商品のカスタマーレビューを見れば分かると思うが、このライブアルバムはファンの間に賛否両論を巻き起こした。観客の声がものすごい量で入っている中で百年蔵の神様と呼ばれた一人の観客のヤジがまんべんなく入ったことにより、 Amazonのレビューだけでなく2ちゃんねるも当時存在していた公式BBSも、このヤジがいいのか悪いのかで揺れた。(公式サイトがリニューアルしたときにBBSは見られなくなってしまったので、今はせいぜい2ちゃんねる過去スレッドが見られるくらいである。レス番470辺りから。)で、mixiに神様がアカウントを持ってて「やいやいやい」というかけ声に言及して炎上したりとか翌年に出た「Musical」のライブに行く宣言をして「来んな!」ってコメントされるなどクラムボンファン界隈は一時期荒れた状態になっていた。最終的にどうやって落ち着いたのかは覚えていない。自然消滅に近かったのかな。2008年は野音だけでツアー無かったし。まあその野音も外聴き客が多数いることが常態化(日比谷野音ではわりと良くある光景だけど)+酔っ払い多発(これも野音では良くある光景だけど)、そしてそもそもの原因としてチケット争奪戦が厳しくなりあぶれる客が増え、ということで2009年を最後に開催されなくなった(因みにこの最後の野音が、他のミュージシャンも含めて僕が参加した最初の野音でありすごく思い出深い)。それで2010年によみうりランドに場所を変えて年に一度の野外ライブが開催された、というわけ。まあとにかくクラムボンに取ってはライブにおけるマナーという話はわりと昔から抱えている問題ではあったのだ。ただ、野音で毎年シャボン玉を配っていたことからも基本的には規制する側に持っていく気は全く無かったようだけど。

さて、2010年のよみうりランドのライブについては2011年に発売された「clammbon -columbia best」の初回限定盤の特典DVDにフルで収録されている。このライブはメンバーもかなりゆるい雰囲気で進めていてあくびしている客を「メタモ帰り(METAMORPHOSEからの連日参加者)かな」といじったり、「次の曲はビールを飲みながら聴くのがいいよ」と行っておきながら客が会場内のビール売り場に長蛇の列をなすと「羨ましいぞ〜」と間奏で歌ったりと終始ゆるいモード。ただそれでもライブが破綻しなかったのはステージの位置が高かったために程良い距離感が維持できてたことと、客の側にもある程度3peaceの一件が記憶にあったことによるのではないか。

一方でこの年からクラムボンPA機材を自前で持つようになり、ライブツアーに一般的なライブハウスやコンサートホールを殆ど選ばなくなる。2010年は東京や大阪で多少は大きいコンサートホールを使っていたが、2011年にはツアー会場を公募するようになり、東京や大阪もファンから推薦された会場で行われている(その代わり埼玉などの近隣県でもライブを実施している)。これらの会場は多くても数百席という極めて小規模な会場である。このうち2011年のドコガイイデスカツアー(会場を公募したことにかけた名前)の後半九州公演のハイライトを収録したのが3peace2というライブアルバムである。現状クラムボンを初めて(もしくは久しぶりに)聴くのであればまずこのアルバムをファーストチョイスにするべきである。


3peace2

なぜってまず音がいい。PA機材を自前にした後に彼らは全てのケーブルも自前でそろえ始めた。ライブに行ったことある人はところどころで見られるカラフルなケーブルを、それからこの前ニコ生を見た人はマイクにつなげられてた白いケーブルを覚えているかもしれない(え、ケーブルなんて覚えているかって!?)。これはオヤイデ電気というオーディオ用ケーブル専門メーカーのケーブルで、音質がものすごくいいと一部ミュージシャンの間で評判の品物である。これを通じて出てくる音はものすごくクリアで臨場感があるので、ライブアルバムであるということが信じられないくらい音がいい。むしろこれこそ本当にライブアルバムなんだと思えるくらい音がいい。そして、ところどころで出てくるMCや失敗、やり直しのシーン(ブレーカーが落ちるところまで収録されている)からはこれまで重ねてきたお客さんとの距離感が感じられる。3peaceの時はかなり悪のり感というか客を際限なく乗せてしまうような所があったけど、3peace2では上手く返してる。昨年のよみうりランド1日目でも、とにかく状況を的確にコメントする客を「端的さん」とミトさんがあだ名を付けてしまったことがあって、そうなるとハードルが上がってそうそう言いづらくなるわけで。「言ってくるのは良いけど、ちゃんと(言い)返すからね!」とは2010年辺りから言い始めた言葉だっけ。ともあれ、そういうライブバンドとしてのある一定の到達点を迎えたクラムボンのアクトが味わえるので3peace2はオススメです。選曲もベスト的だし。因みに神様は出てきません。

だいぶ話がそれたけど、紆余曲折を経て作られたクラムボンのライブの完成形が、よみうりランド2日目のダブルアンコールの「ある鼓動」だったといえる。あそこには音楽を聴くこと、感じること、楽しむことの幸せが詰まっている。ミュージシャンとオーディエンスが一緒に楽しむという言葉があれだけ似合うライブも他にない。

最近思うのは、クラムボンのライブ行くと凄く楽なんだよね。だってみんな思い思いに楽しめてるのが感じ取れるから、周りの客のノリがどうとかそういうこと気にしなくていいから、余計なこと気にせずに音楽を楽しめるから凄く楽しい。レキシやサカナクションのライブも人に勧めたいライブだけど、純粋に音楽を楽しむライブとしては、やっぱりクラムボンのライブが抜群に素晴らしい、人に勧めたいライブだということをこの「えん」を見て改めて思いましたとさ。

 

本当はこの後LOVER ALBUMの話しようと思ったんだけど、もう5000字超えちゃったのでまた次回。今度はちゃんと近日やるよ!