全ては戦略のままに:ディスクレビュー サカナクション「sakanaction」

サカナクションのニューアルバム「sakanaction」、買って1週間くらいになるのでずいぶん馴染んできたかなーというところで、今思っていることをまとめておきたいなあと思う次第。 sakanaction

●セルフタイトルに見る「表裏一体」!?

最初聴いて感じたのは、「ええーっ?」っていう驚きにも似た何か。なんというか「このアルバム、地味すぎやしないか!?」と。まあ最初はPCのスピーカーで通して聴いたからというのもあるのかもしれないけど、ものすごく落ち着いた感じに聞こえたのは事実だし、実際のところ「セントレイ」「Klee」「アイデンティティ」のような100%アッパーみたいな曲は見られない。いやまあ僕としては全然問題なしなんだけど、露出とかも増えてSMAPのシングル曲(しかもオリンピックのテーマ曲として結構流れる曲)を曲提供して知名度も高まりさらには笑っていいともとかに出たりするような状況で、結構思い切ったことやったなあという印象。

個別の曲レビューみたいなのはあとでやるけど、とにかく後半が意表を突かれたというかお口ポカーンというかそんな感じで、これ2枚のアルバムを連結したみたいになっているなあという気分だった。これ一見さんには相当ディープというか「思ってたのと違う」感を与えやしないかなあと心配になったりはした。でも何となく感じていたのは「敢えてこうしたのだろう」ということ。並び立つバンドの二面性があるのであれば、それを変に加工しないで表も裏も提示しようと。これが「sakanaction」ですよという、凄く一見さんが増える段階での「世間一般」への自己紹介的アルバムが今作という話。

https://twitter.com/tanimiyan/status/312614536731566080

まあわざわざサカナクションみたいに全ての作品に意図や戦略的な意味づけをするバンドがセルフタイトルつけるくらいだから自己紹介的な作品になるとは思っていた。その上でぱっくり表と裏が分かれるみたいなみたいな感じに、それこそレコードのA面とB面みたいなアルバムにするとは思い切ったな、というのが正直な所。僕の周りにはサカナクション好きな人が多すぎるからついつい忘れがちになるんだけど、バンドやメンバーが作品に込めた意図とかそういう話をインタビュー通じて見聞きしている人は購入者の10分の1もいないわけ。でも聴けば分かるように作りましたよという自信の表れなんだろうな。

因みに当初アルバムが発表されたときに結構言われた話としてセルフタイトルのアルバムには出来の悪い作品が多いという前例が多いというのがあったけど、まあその点は大丈夫でしたよ。笑

●とりあえず全曲レビューみたいなもの

音楽理論とか詳しくないので曲の深い話はあまりしてないけど。笑

  1. intro これについては特に言うことは無いな。笑。敢えて言えばアルバムのカバー写真をイメージしているのかな。アクア感みたいな(我ながら酷い言い方だ…)。
  2. INORI 2曲目はなんと歌詞が「ラララ」しかない曲。しかしながらここ最近のシングル曲のバックトラックの変遷を上手くたどっているダンスチューンに仕上がっていて、このアルバムを象徴するというか入りとしてとてもわかりやすい幹事になっているなあと。
  3. ミュージック そしてここで最新シングルに行く訳か。前作だと「アイデンティティ」から歌ものが始まっていたけど、今回の曲の中では最新シングルが一番導入としてふさわしいという風に判断されたのかな。
  4. 夜の踊り子 そしてここでシングルが2曲続く。今回のアルバムに収録されている3曲の中ではもっともアッパーな曲であり、つかんだ心を離さないという、一見さんをつかむことを念頭に置いている曲順なのかな、と。
  5. なんてったって春 曲目リストが発表されたときに様々な憶測を呼んだこの曲、ふたを開けてみたら濃ゆい(バックトラックよりも歌い方が)ダンスチューン。4曲目までの自己紹介タイムを受けた「表サカナクション」紹介の導入曲。
  6. アルデバラン 前作「DocumentaLy」収録の「アンタレスと針」に続く星座シリーズ。今回は牡牛座。今回はドラムがハットの細かい刻みや定期的に入るフィルで軽やかに跳ねる感じを強調している。そんな中に入るガムランっぽいベル?の音。比較的落ち着いた曲だとは思うけど、ライブでの変化が面白そう。
  7. M イントロで「これはダンスチューンですよ」という感じにわかる「ここから盛り上げていきますよ」というサインが込められた曲。実際若干スピード感もありかなりクラブ感も強い曲。しかしその一方でそこかしこに感じられるエスニック感。
  8. Aoi 前作における「モノクロトウキョー」のように盛り上げどころとして使われるであろう楽曲。既にNHKのサッカーテーマ曲として使われているので聞いている人も多いと思う。「合唱好きだなあ」と思ったけど、曰く「合唱はサカナクションの武器だからふんだんに盛り込んだ」ということで、「INORI」と対照的に「サカナクションの盛り上げ力をつぎ込んだ鉄板的自己紹介曲」として、表向きにアルバムのリードトラックとなる曲。
  9. ボイル イントロとアウトロからするとクールダウン曲。しかしまあ急に落とすわけではなくで徐々にという感じが見て取れる。サビのドラムの躍動感など、「表サカナクション」の締め曲といえるかな。
  10. 映画 シングル「ミュージック」に収録されていた「映画 (コンテ 2012/11/16 17:24)」の完成バージョン。未完成版の方は「え、これビートルズのRevolution 9を意図してるの?」と思ったけど、完成版はなんというか「ネプトゥーヌス」以上にディープというか。「裏サカナクション」の始まりの曲であるけど、この曲については評価が分かれるような。というかライブでどうやるんだろう。色々差し込まれているSEも流すのかな?
  11. 僕と花 このアルバムのためのシングル曲としては一番リリースが早かった曲(できていたのは夜の踊り子の方が先)。サカナクションのシングルとしてはものすごくしっとりしてるなと思った曲で、これが一つの新機軸みたいなもんなのかな、と思った。まあある意味100%アッパーみたいなのからの脱却宣言という風に今からは捉え直せるのかもしれない。
  12. mellow 冒頭のイントロから一貫して「静」のイメージを与えてくる曲。大サビ的な後半の展開もそんなに声を張り上げるような感じにならずしっとりと終わる。前作でいうと「流線」「years」みたいな位置付けなんだろうけどその2曲よりも遙かに落ち着いている。
  13. ストラクチャー 一応今回のインスト枠(凄く初心者向けの説明をするとサカナクションのアルバムには必ず歌詞無しのインストゥルメンタル曲が1曲入る)、ってことになるのかな?恐ろしく音数が少ない気がしたけど、前作「DocumentaLy」の「DocumentaRy」がライブで大化けした(ぜひDVDかBlu-ray付盤を買って確認しよう。)ことを見るに、今回も面白くなるんじゃないかと思えてくる。ただ今回は最後の方には「ラララ」の合唱つき。この辺含めてどうなるかな。CD音源だけ聴く限りではものすごく「陰」を感じる曲である。
  14. 朝の歌 アルバムの最後でバラード的な曲をやるのは定番になりつつあるけど、この朝の歌っていう曲は「目が明く藍色」や「ドキュメント」のように大きく展開していく感じではなくて、閉じたまま終わる感じ。歌詞に何度も「表と裏」という言葉が出てくるように、このアルバムを総括する歌。夜の歌ばかり歌っているサカナクションには珍しく「朝の歌」っていっているけど、朝が夜を食べていく歌であり夜明け、さらにいうと「kikUUiki」的な時間帯の歌。

ボーナストラックは割愛。でもはっきり言うと僕このアレンジ好きです。

●総評

サカナクションは今まで明るいアルバムと暗いアルバムを交互に出してて、「DocumentaLy」が前者だっただけに今回が後者になったのは比較的頷ける話でもある。前の暗いアルバムである「kikUUiki」が「アルクアラウンド」のオリコン4位を受けて出た割にはセールス的に期待していたほど伸びなかったことに悩みはあったというけど、今作はどうなるのかな。しかしながら、アルバムのジャケットやら最後の「朝の歌」やら、とにかく「kikUUiki」のリベンジみたいなのがそこかしこに見られるような気もしている。やはりサカナクションはこういうバンドだということをあくまでもいいたいんだろうなあ、と。

それが伝わるかは分からない(基本的に僕はミュージシャンの意図をくみ取れるリスナーは酷く少ないという立場に立っているのでその点には悲観的なことをいう)けど、前の「kikUUiki」からの修正みたいなものはそこかしこに見られるので、いいんでないですかね。オリコンデイリーランキングも発売後ずっと首位を走っているのでウィークリーも1位は堅いでしょ。ここで話題に弾みがついて更に伸びていってくれると良いね。

あと感じたのが、ところどころにガムランっぽい音が入っていること。誰か最近はまってるのかな。「次はアフロビートやりたい」っていってたから一郎さんかな?昨年のZeppツアーもOPENINGはケシャみたいな感じだったし、エスニック感の取り込みみたいなのも今作のテーマとしてあるんじゃないかなあ。それもまた日本の音楽の一つの特徴である「柔軟な受容性」みたいなところで、彼らがこれから日本を代表するロックバンド(この言葉を彼らに使うのが適切か最近疑わしいなと思うようになっているけど)になるに当たって一つの「日本らしさ」みたいな特徴として語られるのかも。クラブ音楽や民族音楽の取り込み、みたいな。なんだかんだ言っても良くできているアルバムだと思うので、これからもよく聴くことになるだろうし、ライブで見るのがとても楽しみ。