たにみやんアーカイブ(新館)

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アイドルとはジャンルなのかという話とカワイイは正義かもという話〜ディスクレビュー:lyrical school「date course」

9月なのにこんな話を既にするのは変な話なんだけど、今年はいいCDが多すぎて年末のベスト10選定が今からもう混迷を極めそうな予感しかしない。ちょっとあまりにいいモノばっかり効き過ぎてるのであからさまにハズレッぽい物を聴いて少しは気分を中和させた方がいいかな、とも思ったりしている。笑

まあそんな中で思うのは今年はアイドルのCDでレベルの高い作品が多いなあということ。まあ去年の時点でTomato 'n' Pineの「PS4U」みたいにすごくいい作品は出てたけど(僕これ今年になってから聞いたけど、これは10年に1度と言ってもいいくらいの素晴らしい作品なのでぜひ聴いてください)、今年はその流れが更に進んでるなあ、と思える。まああくまで自分が聴いた範囲での話ではあるので流れにようやく乗れてるんじゃないかという感はあるけど、2年前の年間ベスト10で3位にももクロを選出して「まさか自分がねえ」とか言ってたのが懐かしい話ではある。

さてそんな中個人的に今年屈指のヒットであるアイドルのアルバムがlyrical schoolの「date course」。

date course

lyrical school、通称リリスク。昔はtengal6って名前で出てて、tofubeatsが「lost decade」と一緒に出したリミックスアルバム「university of remix」にはそのtengal6時代の「ブチャヘンザ!」が収録されてたのでそこで認識した(それだけRemix仕事じゃなくてオリジナルテイクで収録されてたのだ)。まあその時には既にlyrical schoolに改名していたわけだけど。そんでlyrical schoolという名前を知って聴いた「PARADE」に心を撃ち抜かれた。

youtu.be

んで、lyrical schoolの触れ込みは「清純派HIPHOPアイドル」ということだそうで(先週の木曜日の日テレZIP!で特集されてたときに自分たちで言ってた)。それゆえに、トラック自体については本当にヒップホップ。そりゃあインタールードを除いた10曲のうち半分を作っているtofubeatsに加えてokadada、Fragment、イルリメ呂布、等のメンバーが作詞なり作曲なりまたはその両方で参加してるわけでメンツからしてもがっつりヒップホップだ。

さて、いきなり総評から入るんだけど、このアルバムめちゃくちゃ出来が良い。10曲中5曲がtofubeatsっていう時点で外れはないだろうなということは容易に予想されていたんだけど、それにしても予想以上。それから、曲順とアルバムのストーリーがとてもよく練られている。「date course」というタイトルではあるが、夏の恋物語を始まりから終わりまで(更にその終わりが終わるまで)、楽曲を使って一つのストーリーに仕立てて表現している。このアルバムにおける既発曲は「そりゃ夏だ!」「リボンをきゅっと」「PARADE」「おいでよ」の4曲だけで他は新曲な訳だから、このテーマに沿って歌詞まで発注してるわけだ。プロディーサー側の気合いの入った仕事ぶりが伺える。tofubeats以外の曲もすごく良く出来てるし、tofubeats曲も再録された結果、歌唱力的な面はともかくとしてよりアルバムのコンセプトに沿う物になっている。(注:リリスクはこの1年でメンバーが二人抜け二人入ったので、それに合わせて既発シングル曲は全て現メンバーでの歌唱で録音し直している)。

前にtofubeatsの話したときに書いたけど、僕基本的にヒップホップって苦手なんだよね。マルチジャンルの音楽を作るtofubeatsはともかくとして、ここで挙げられてるオリジネイターの人の曲は全然聴いていない。一応Fragmentはパスピエ私立恵比寿中学のリミックスで聴いたけど特にピンときたわけではないし。それでもこのアルバムはめちゃくちゃ良かったんだ。なんでか。その辺については先週ZIP!の特集でアイドル大好き振付師(自身もPASSPO☆等を担当)の竹中夏海さんが熱く語ってくれてるので書き起こしてみた。

lyrical schoolってのは、すごくキラキラの、本当にキラキラした恋をしている女の子達の曲っていうのがほぼ曲の世界観なんですね。そういう意味で言うと、ヒップホップという形を借りつつも、直球のアイドルソングというか。

ここから今回の主題に入りたい。「アイドルソングというジャンルは果たしてあるのか」どうかということと、「アイドルというフィルターを通して様々なジャンルの音楽を聴く」ということ。

アイドル戦国時代という言葉が使われ始めてから久しいけど、現在はその時代は超えて、アイドルは多様性の時代にある、という。まあつぶし合うというのも変な話しだしカテゴリとして定着している感はあるので基本的にはその見立てには同意するところではある。んでもって多様性というのもその通りで、リリスクやライムベリーみたいにヒップホップ方面に振ってるのもあれば、BABYMETAL、PASSPO☆ベイビーレイズ、BiS、ひめキュンフルーツ缶等のようにロック方面に振ってる物もあるし、最近のモーニング娘。はじめハロプロ勢はEDMのでそれも同意するところなのだ。ただ、ロック方面の中でもベビメタは徹底的にメタルだしPASSPO☆はアメリカ西海岸ハードロック、ひめキュンフルーツ缶はパンクだったりと音楽的な細分化は激しくて元ジャンルの方を辿るとファン層はあんまり被らないと思う。ロック分野だけならまだしもヒップホップやEDM方面まで持ってくると全部聴いてる人なんてどんどん少なくなってくると思うんだけど、分け隔てなく聴く人の割合は多いと思う。そんな話はこの前行ったトークイベントでも出てた。

【前編】そしてCDは株券になった|アイドルが “えらいこと” になっている——アイドルとロックの蜜月|さやわか/柴那典/レジーの記事、コラムを読むならcakes(ケイクス)

【中編】ゲーム化するアイドルたちの物語|アイドルが “えらいこと” になっている——アイドルとロックの蜜月|さやわか/柴那典/レジーの記事、コラムを読むならcakes(ケイクス)

【後編】「アイドルとロックの壁」を壊すのは誰か?|アイドルが “えらいこと” になっている——アイドルとロックの蜜月|さやわか/柴那典/レジーの記事、コラムを読むならcakes

後編の最後の辺りでもさやわかさんが「ロックのファンよりもアイドルのファンの方が聴いてる音楽の幅は広いんですね」とコメントをしている(残念ながら記事の本文中からは省かれてるけど)。そこで思うわけ。アイドルとは音楽のジャンルなのかと。どちらかというとアティテュードの話というかもう一段上のレイヤーの話なんじゃないかという気がしている。そんでもって、その大きなくくりを通過して観るといろんな音楽が広がっている、と。すごいのはこのかわいさが味になって多少の荒さなんかは許せちゃうというかむしろ魅力になってしまうという日本独自のヘタウマ文化。そして苦手だったり嫌いな音楽も意外とすんなり入ってきちゃう。まさにカワイイは正義だ。

まあ女の子がユニゾンしてやらされ感満載で歌ってるだけでダメっていう人もいるだろう。また自作自演至上主義ですかって感じで辟易する部分もあるんだけど、僕にもそんなにピンときてない曲やグループもあるので一般化してどうこう言うつもりはない。とはいえ、未知の物への入り口として結構有効だよなあと思うんだよね。

余談なんだけどBABYMETALについていうと彼女達のパフォーマンスやアートワーク・グッズなどは今までのメタルの様々なミュージシャンのオマージュが盛り込まれてて、その辺を皮切りにメタルに入門してみません?ってことで特集ムック「ヘドバン」っていうのが出ている。Xの再評価やデーモン小暮閣下のインタビューなども盛り込まれて結構面白い。

ヘドバン (シンコー・ミュージックMOOK)

んでリリスクに話を戻すんだけど、とりあえずこのアルバムはシャッフルせずに通しで聴くのがおすすめ。既発曲ももちろん良くて、特に「リボンをきゅっと」なんかは以前のバージョンよりもリリスクのコンセプトに沿うようにはなっていたし曲冒頭の会話部分がめちゃめちゃかわいくなっていてすごく気に入った。そして白眉なのが「でも」「P.S.」「ひとりぼっちのラビリンス」のメロウパート。「でも」のピアノイントロから一気に引き込まれるんだけど、その締めとなる「ひとりぼっちのラビリンス」はtofubeatsの真骨頂とも言えるメロウなミディアムテンポのナンバー。lost decadeに収録されてた「No.1 feat. G.RINA」を思わす傑作。

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とにかく気合いの入ったトラックが勢揃いで聴く価値あり。まあなんとなく思うこととしてBABYMETALもそうなんだけどこういう特定のジャンルに振り切ってやるのであれば、とにかく徹底して作り込むことが成功の秘訣で、今回のリリスクのアルバムはその点で物凄く良いと言える。文句なしのオススメ作。

 

因みに。ブックレットで歌唱パートが色分けされてて誰が歌っているか分かるようになっていたりするのもニクい。

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