まさに「今」のポップミュージック〜ディスクレビュー:tofubeats「lost decade」
tofubeatsのファーストアルバムを買った。
彼にとっては初のフィジカルリリース。といいながら僕が買ったのはiTune Storeでのダウンロード版。だって1500円だったしボーナストラックついてたし。そしたら予約注文+まるごと試聴企画効果もあり、なんとiTunes Storeでは発売日の間1位を獲得した(木曜日の夜にwill i amに逆転されたけど)。
とか言ってるけど、僕tofubeatsちゃんと聴くのほぼ初めてなんだよね。水星っていう曲とtofubeatsって名前は知ってたけど、その水星さえ今年に入ってからようやく聴いた有様で、まあかなりまっさらな状態。しかも僕ヒップホップって殆ど聴かないわけさ。それでも水星はいい曲だなって思ったけど。
そんなほぼ先入観無しの状態。でも、水星の歌詞がiPodやらiPhone(なぜかi-pod、i-phoneと表記されてるけど。なんか理由あるのかな)が出てくるとかすごく現代感あるしきっと聴いてみたら面白いだろうなあ位でアルバム買って聴いたらこれがすごく良かった。とにかく感激するくらいよかった。
イントロの軽いメロディ+談笑を終えて始まるのが「SO WHAT!?」なんだけど、この曲がめちゃめちゃハッピーなパーティーチューンになっていていきなり衝撃的だった。なんてったって、イントロのシンセがまるでドリカムだったもんだから。
それでいてトータルなトラックの雰囲気はものすごく今っぽい感じで、古い要素と新しい要素が見事に融合していて最高に突き抜けた楽しさを感じさせてくれたので最初から「これは……!」という気持ちになった。その後も縦横無尽にジャンルなんて関係なくただただバラエティに富んだ曲達がかき鳴らされていく。ヒップホップだったり叙情的なチューンだったりミニマルなインストや美メロ系クラブミュージックだったり。とにかく色んな音楽が鳴らされている。ももクロの「5TH DIMENSION」もジャンル縦横無尽だけど個々の曲ごとにジャンルが分かれているのに対して、tofubeatsのこのアルバムは一つの曲の中に複数の要素が同時並行で調和を持ちつつ流れてくる。この感じ、しばらく前に味わったことあるなあ。
あ、そうだ。ceroだ。
tofubeatsのアルバム聴いてるとジャンルがどうこうとか言うのがバカらしく思えてくるな。いろんな音楽の要素が同時並行に鳴ってる感じ。ずいぶんと音楽性は違うけどcero聴いた時と同じ気持ち。ある種こういうのが日本のポップミュージックの極めて現代的な姿なのだろうな。
— たにみやん (@tanimiyan) 2013年4月24日
彼らと同様、tofubeatsも色々な音楽を聴いてきて、それらを意識的に区別したりすることなくただ「自分のアウトプット」として放出しているんだろうなあと思う。音楽性はずいぶん違うけど、どちらもただただ音楽として素晴らしいし、ものすごく楽しんで音楽を作っていることが分かる。この「古い物から新しい物まで様々な物を同時に鳴らす」という感じは近年の都会発インディ・ポップミュージックの一つのトレンドなのかもしれない。東西それぞれから出てきているところが非常に面白いなあ。 ※ここについては僕の知識不足なんかもあるので、より詳しくかつ正確に書かれたレジーさんの解説を読んでください。都会と郊外・ニュータウンと地方都市と田舎と、みたいな色んなレイヤーからこういう話題を分析できたら面白いかな。それにしては消費文化論関係の文献とか全然読んでないので素養が全然足りないけど。
特に14曲目からの流れは圧巻で、研ぎ澄まされたビートとエフェクトのかかったボーカルが響いてくる近未来感のある スローナンバー「synthesizer」から、「水星」のイントロがかかったときの「よっ、待ってました!」はものすごい。決してそれまでが長かったというわけではなく、それまでの曲で十分気持ちが暖められてきた中での本命登場感というか、ここに配置されるべき曲、という感がものすごくする。そしてその後の一応本編としてはラスト(その次の曲は「SO WHAT!?」のリミックスとiTunes限定のボーナストラック)の「LOST DECADE」。南波志帆のコケティッシュな歌声がシンプルな伴奏と一緒に「お休みなさい」とでも言うかのような(歌詞でそういってるわけではないけど)大団円の曲。彼女のボーカルで締めの曲のは正直憎いセレクトだよなあ。
ものすごくすんなり聴ける。ヒップホップが苦手な僕にすら前半のヒップホップ主体のトラック群がすうっと入ってきて馴染んでる。正直に言うと、今年これまで買ってきたアルバムの中で一番いい作品。通しで聴いていい気分になれた。間違いなく2013年を代表する作品になると思う。なんかつい最近もそういうこと言った気がするけど、まあ両方とも実際そうなんだと思うし先入観無く聴き始めた分ももクロよりこちらの方がより確かに言える。この作品は名盤だ。もっとも現代的でもっとも音楽している作品。2013年の今、聴かれるべき作品であると思う。