「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#05 「七変化のテンポ学」

さて、いよいよ第5回となりましたNHK Eテレ亀田音楽専門学校ケーススタディ。番組本編の方はかなり好評なのか、11月3日にアンコール放送として第1回と第3回を再放送するとのこと(見てない人はぜひ録画しましょう!)。業界ウケだけではなく、きっちり一般の人にもウケているのであれば良いですね。

さて、そんなこれまでの回のケーススタディはこちらから。

さて第5回「七変化のテンポ学」。今回から講師はKREVAさん。結構大がかりなサンプラーやDJセットを持参。

●講義内容の要約

まずはいろんなテンポの曲をということで、連続してaiko「カブトムシ」GLAY「誘惑」、夏川りみ涙そうそう」、福山雅治「HELLO」が流れる。助手の小野さんが気付いたこととして、テンポの早い誘惑とHELLOはKREVAさんが縦ノリに、ゆっくりの曲は横ノリになっているとが挙げられた。これはテンポが曲にイメージを与えるからであり、おなじメロディーでもテンポが変わるとイメージが変わるので、伝えたいことに合わせてテンポを設定してあげることが大事だと。

さて、テンポも「早く」「遅い」ではおおざっぱになってしまうので絶対的な指標で計っている。それがBPM(Beats Per Minute)。つまり分速何拍か、ということになる。例えば60→120は倍。先ほどの曲なら、「カブトムシ」は74。「誘惑」は181。そして、BPM90以下がバラードのゾーンでしっとりした感じ、逆に120以上はパワーゾーンといい、元気・ワクワクのイメージを与えるようなテンポのゾーンになるという。

ここでまたいくつかの曲が流れ、それぞれのBPMが表示される。中島美嘉雪の華」BPM72。DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」BPM84。薫と友樹、たまにムック「マル・マル・モリ・モリ!」BPM125。AKB48恋するフォーチュンクッキー」122。

ところでバラードの定義とは?亀田校長の定義では90以下。校長はバラードをテンポで決める。なぜならテンポをゆっくりにすると1音に情報量を込められるようになるから。そこをきっちり決めるのでBPMいくつ、で決める。校長のパワーゾーンはBPM135,KREVAさんBPM138。逆に校長のバラードゾーンはBPM83。校長はバラードをまずBPM83で作ると。これは絶対!とのこと。因みに、KREVAさんはかなりBPMに対するこだわりが強いとのこと。ではなぜBPMにこだわる必要があるのか、JPOPの名曲をBPMを変えてみてどうなるか試してみることに。

米米CLUB浪漫飛行」(原曲BPM137)をBPM115に→やさしくてしっとりした曲になった。

宇多田ヒカル「FIRST LOVE」(原曲BPM90)をBPM80に→伸ばすのが大変すぎて歌えないwこの歌詞にならなかったのでは?多分言葉をもっと詰め込まなくてはいけなかったのでは?という指摘が。

このように、バラードゾーン、パワーゾーンを把握し、ベストなBPMを生むことが名曲をうむ秘訣。

BPMマジック

曲の途中でテンポが変わったかのように見えるが実はそうではないぞ、という秘伝のテクニックの紹介。人呼んでBPMマジック。

遅くなる例:ラブ・ストーリーは突然に(BPM114)

サビの途中で突然テンポがゆっくりになったように聞こえるけど…?これは実はドラム音符を間引いただけでBPMは変わっていない。間にあったドラムの音の数が減るためにゆったりと聞こえ、歌詞・歌にスポットライトが当たる。それまでパワーゾーンだったものがバラードゾーンに変わり、情感が加わり、歌がくっきりする効果があるのだ。

早くなる例:潮騒のメモリー(BPM77)

逆にテンポが倍になるように聞こえるパターン。通称倍テン。バラードゾーンでしっとり入ってからテンポが上がったように感じさせて盛り上げる。バラードゾーンとパワーゾーンを一曲の中に入れることによって、感情の振れ幅を表しているのだ。

これらは曲を単調にさせないためのテクニックなのだ。

KREVAが選ぶテンポが絶妙な曲

  • 久保田利伸「Love Reborn」(64) すごく遅い曲だけど、遅さを感じさせない曲。
  • スピッツ「さわって・変わって」(136) 校長プロデュース曲。倍テンの部分があることによって「さわって〜」のメロディがハネられる。
  • YMO「君に胸キュン。」(142) 「〜浮気なヴァカンス」という感じが出ている。かなり速い曲だけど速さを感じない。また、このテンポが今の時代と合っている気もする。

というわけで、この「君に、胸キュン。」を今回のテクニックをふんだんに使ったアレンジで生演奏。最初のサビで早速倍テン。次のサビでは逆にリズムを間引いてみたり。

結論

BPMの数値は迷ったときの指標。テンポとは、曲に様々な表情を着ける一番重要なファクター。間や行間を大事にする日本人には、ひとつの音符にどれだけ情報を込めるかがテンポにより変わるので、聴く人に届く作品になるかどうかの違いになってくる。どうしてこのテンポなんだろうとか考えながら聴いてみるといいかも!!

ケーススタディ

というわけで、今回は音階を使わなくていいから前回までに比べたら選ぶ作業はものすごく楽でした。今回はBPMマジックを使っている曲に絞って探してみたあとに、個人的に補足したいことなどを。因みにBPMは自力で測定したものなので多少ズレがあるかも……

パワーゾーン→バラードゾーン(遅くなるパターン)

安藤裕子「パラレル」(BPM160 )

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さて、まずは今年デビュー10周年を迎えたシンガーソングライターの安藤裕子から、彼女のシングル曲の中で最もBPMの速い曲である「パラレル」。この曲ではサビの一番最後のフレーズ(58秒あたり)の「君と飛ぶ〜」のところでリズムを間引いてバラードゾーンに移行するテクニックが使われている。そこからイントロのメロディ(これ専用のメロディね)が繰り返されるんだけどそのときにもバラードゾーンのリズムを残したままとなり、余韻を若干残した形となる。これは曲に緩急を付ける意図が強いんじゃないかなと思われる。特に安藤裕子の曲はゆっくりな曲が多いのでこういう早めの曲は聴く側にも緊張感を与えてしまうから、一通り終えたところで一旦休憩、みたいな感じなのかな、と。

因みにドラムは佐野康夫さん。aikoのドラムなんかも担当してるけど正確で上手い、本当にお手本みたいなドラムを叩く人。

クリープハイプ「ラブホテル」(BPM148)

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お次は今年の邦楽ロック界一番の出世株と言ってもいいんじゃないかと思われるクリープハイプ。この曲の2番のBメロ(ムービーの3:02辺り)、「出会ったあの日は〜」のところからテンポが半分になったかのようになる。でもテンポは同じままで。このBPMマジックは歌詞の世界観にかなり沿っていて、「夏のせいにしとけばいい」くらいの軽い関係が漂わせるちょっとした哀愁感というか寂しさみたいなものが醸し出されている。とてもセンスのあるBPMマジック。ほんといい曲だよね。他のシングル曲もいいと思うんだけど、しかしなぜ(以下自主規制

ところでクリープハイプさん、かなりMVには力入れてるんだけどYouTubeでは特別な編集バージョンにしてしっかり音源購入に誘導してるのはえらいと思います。まあこういうのの説明には使いづらいんだけどさ!!!

因みにこの曲はこの夏に出たアルバム「吹き零れる程のI、哀、愛」のリード曲ですね。

②倍テンを使っている曲

のあのわ「スナイパーが狙ってる」(BPM158)

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かつて校長がプロデュースしたこともある、教え子のあのわ(因みに曲は「グラデーション」)。かくいう僕も超大好きなんだけどアネッサのタイアップ(因みに今年はクリープハイプがやってるね)の辺りで方向性をうまく見出せなかったのかちょっと迷い子状態になりビクターとの契約は解消。今はインディーズで自主レーベルを作り活動中な訳で、その新レーベルから今年出たニューアルバム収録の1曲がこれ。倍テンの手法の中では一番ポピュラーと思われる「サビで倍テン」を使っている(3:25辺りから)。やっぱりサビは曲の主題であり一番感情が高まるポイントなので、そこで倍テンしてテンションを一気に上げるというのはすごく納得の行く手法。

因みにこの曲が入っている「Cry Like A Monster」、この前ようやく聴いたんだけどかなりすごいアルバムだった。前作「Have A Nice Day!」でトライしようとしてうまくいかなかった80年代ポップスを取り入れて現代的にアウトプットするというのがようやく上手くいってるし、しかものあのわが本来的に兼ね備えるポストロック的な素養も一緒に取り込んで昇華できている。まあこれが一般ウケする作品かというとまたちょっと別の話ではあるんだけど、のあのわらしく、そして2013年らしいすごく良いアルバムだった。

スピッツ「さらさら」(BPM136)

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スピッツについては既に教室で取り上げられてるんだけど、どうしてもこの曲について取り上げたかったので。最新アルバム「小さな生き物」のリードシングル。この曲はバラードゾーンへの移行と倍テンの両方が使われている曲なのだ。Bメロ(1番では29秒辺り)でバラードゾーンへ移行し、歌詞の視点が変わってることを巧みに表現している。サビが終わったら倍テンになる(1番のサビでは1:08。2番のサビのあとはCメロがあってその後2:48あたり)ことで、サビの余韻とタイトルの「さらさら」という言葉の余韻をハネた感じで流す効果を出している。そして最後のサビでも倍テン(3:39辺り)。一気に気持ちを高めて曲を終わらせるわけ。しかしながらスピッツの曲には倍テンが合うなあ(観測範囲少なめ)。

この曲めちゃくちゃいい。というかこの曲が収録されているアルバム「小さな生き物」物凄くいい。今年のマストアルバムの1つに上げたいくらいで、ベテランとは思えないくらいの瑞々しさと特にベースとドラムのアイディアの豊富さに驚きを隠せないところで、とにかく惰性とかそういうのは一切感じない。普遍性を感じる素晴らしい作品といって差し支えないと思うので一聴をオススメしたいところ。

補足:ビーイング系ミュージシャンのテンポ変化術について

これは見せかけとかじゃなくて本当にテンポが変わるパターンなんだけど、ある時代のヒット曲に多用されていたので染みついている人も多いんじゃないかと思う。

ZARDこの愛に泳ぎ疲れても


この愛に泳ぎ疲れても

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この曲のテンポは107(一番最初のサビ)→117(Aメロ〜2回目のサビ)→144(その後ずっと)。この、遅いテンポで始まって曲の盛り上がりと共に本当にテンポを上げていくパターンというのはZARDやTUBE、DEENなどビーイング系のミュージシャンが90年代の前半に多用していた手法だ。今や古くさい手法と見なされたのか使う人もあまり見かけなくなってしまったけど。これはこれで情感を込める手法としてすごく効果的だと思う。情熱の高まりとテンポの高まりを比例させることができるわけでして。

さて、次回もゲスト講師KREVAさんと共に「韻をふんだっていいんじゃない!?」ということで、来週は歌詞とリズムに注目の巻。