たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

2013年の音楽配信売上まとめ

先月にパッケージメディアの売上についてまとめたけど、この度日本レコード協会さんから音楽配信についてもデータが出たのでさっそく取り纏めして解説の記事を書く次第。一応お断りを入れておくと、日本レコード協会が発行しているLマーク(ダウンロードコンテンツが正規品であることを証明するマーク)をiTunes StoreAmazon MP3等の海外勢ストアも掲示しているので、これらの売上も合算されていると考えていいでしょう。

因みにCDなどのパッケージメディアについては先月やっているのでこちらをご覧ください。

2013年の音楽パッケージメディア(CD・映像・アナログ等)売上まとめ

●サマリー:ついに主役交代

まずは売上数量。

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PC/スマホシングル:9,163万4千DL(前年比131%)
PC/スマホアルバム:657万3千DL(前年比144%)
着うた+着うたフル:5,086万2千DL(前年比46%)
メロディコール:6,405万5千件(前年比82%)

着うたの沈み込みが激しいので音楽配信全体としては減少、ということになるんだけど、現在の主戦場であるPC/スマホはここ3年くらいは前年比130%くらいの安定した伸びを見せている。その結果、2013年は「着うた+着うたフル」のいわゆるモバイル用音楽配信の売上数量をPC/スマホ向けのダウンロード配信の数量が追い抜いた年となった。また、CDシングルの売上枚数が4296万9千枚なので、数の上では完全にシングルトラック配信の方が上回っている。(CDシングルには2〜3曲入っているので同列に扱っていいものか少々量りかねるけど)。昨年末に問題設定した「CDチャートとオリコンチャートのどちらが世相を反映しているか」の一つの回答となっただろう。シングルに関して言えば。

そして売上金額。

sale_y

PC/スマホシングル:148億4600万円(前年比122%)
PC/スマホアルバム:69億1000万円(前年比134%)
着うた+着うたフル:97億7600万円(前年比38%)
サブスクリプション:30億6000万円(前年比304%)

アルバムは個数ベースではすごく少ないんだけど単価が高いからそこそこ引き上げてくれる。この辺りからして、配信はちょい買いの場所で日本での普及はまだ途上、という印象になる。たた、それがなくとも金額面ですら今年初めてPC/スマホ配信がフィーチャーフォン向け配信を上回った。しかもシングルトラックだけで。とはいえ、CDの1,962億円と比べると桁が一つ足りない、というのが今の日本の音楽配信の現状。

因みにどんな曲が売れたのか。これは定量数値はないんだけど、日本レコード協会が一定ダウンロード数に達した楽曲を「ゴールド」「プラチナ」等の認定をしている(いわゆるゴールドディスクとかと同じ原理だね)。これを元に、ある程度推測することは可能だ。因みに2013年にリリースされた楽曲でプラチナ(25万DL以上)以上のランクに認定されたのは以下の楽曲。

ダブル・プラチナ

プラチナ

というわけで、配信で人気だった曲、というのはこの辺りだと。カラオケランキングとかと併せて見ても比較的納得のいくラインナップなのではないかな。ところで、日本レコード協会の認定作品を見ると面白いのが、発売してからずいぶん経っている作品がたくさん認定されていること。いつでも買えるということ、過去の物も今の物も大概同じように棚に並んでいるというのがその要因だろう(相当な新譜以外は全部同じ棚だ)。因みに、PC/スマホ向け配信で一番ダウンロードされたのは、唯一トリプル・プラチナ(75万DL)認定を受けたGReeeeNの「キセキ」。

しかし、モバイルダウンロードの急激な減少はPC/スマホ向け配信へのシフトではなくてトータルとしては圧倒的に自然減。いやどうすんのよ、という話ではある。

●ダウンロード型配信の停滞?サブスプリクションの伸長?

PC/スマホ配信は毎年前年比30%ずつくらい増えているので優秀といえば優秀なんだけど、正直に言うと伸びは物足りないところがある。ここではもう少し細かい単位に切って考えてみよう。2010年から2013年までの売上高を並べて見たのがこちらのグラフ(便宜上ネット楽曲のシングル+アルバムを統合)。

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よく見ると、音楽配信関連で動きがあった時期には必ずそれに反応して売上も上がっている。iTunesの3G利用購入解禁、DRMフリー化、ソニー参入など。その一方で「もうう打つ手があまり残っていない」のも事実である。サブスクリプションサービスが立ち上がってきているため、特に旧曲のダウンロード配信が減少するという形になり今年になってからダウンロード配信は停滞している、というのが現状。実際四半期ごとに順調に伸びてきたネット楽曲(PC/スマホ配信)の売上高は2012年第4四半期で頭打ちになっている。それでいてこの規模というのは心許ない。ではボトルネックはなんだったのだろうか。僕は「お金の問題」と「IT親和性の問題」と考えている。

お金の問題。ソーシャルゲームやLINEのスタンプにお金が支払われているわけだからそれらに比べて音楽はお金を払う価値があるとみなされていないわけだ。それからiTunes Storeがクレジットカードとプリペイドカードしか支払い方法がないのは不利である。アメリカやヨーロッパなどより日本はクレジットカード普及率が低いのでキャリア決済が望まれるけどAppleが個別の国の事情に合わせることは望めない。そしてなにより日本にはレンタルCDがある。以前も指摘した通り、配信はレンタルよりもコスパが悪い。2012年にiTunes StoreDRMフリー化したときに交換条件のように値上げしたためそれは立ち上げ時より加速している。

一方IT親和性の問題。これは2010年より前の、スマートフォンが出てくる前にiTunes Storeがサービスをスタートしたときに思うように立ち上がらなかったこと。最初のグラフを見ればわかるが、スマートフォンが普及するようになってようやく市場が立ち上がってくる辺り、そもそもPCでコンテンツを買うということが習慣付いていなかったということだろう。そもそもPCでちょくちょくネット見ること自体が少なかった。2010年の春にソフトバンク孫社長「光の道」構想をぶち上げた時に反論として指摘された「光ファイバー整備しようっていったってそもそもネット使われてないじゃん問題」だ(長い)。ここからスマートフォンが急速に普及したので音楽配信はようやく立ち上がったが、PCでの購入はそんなに増えていないのではないだろうか。そういう要素を考えても、ダウンロード型配信はちょっとしんどい見通し。

因みにこれまでの音楽配信のトピックは小野島大さんの「音楽配信はどこへ向かう?」に時系列でまとまっている。出たのが2013年の6月なので、そこまでの内容で収まっているが、これまでの流れはよくわかるし、実体験に基づいていている文章がすんなり読めるのでお勧め。

音楽配信の先行き〜LINE MUSICは着うたの夢を見るか?〜

今までの路線が徐々に良くなっていくよりも何かしらインパクトのある出来事がないと、正直言ってこの分野に関して言えば厳しい(現にPC/スマホ配信も何らかのカンフル剤が無いと伸びていない)。そこで多くの人が今年の注目サービスに挙げているのがこの前ちょっと取り上げた「Spotify」と、「LINE MUSIC」。そのLINE MUSICだけど、昨年8月の発表以来、未だに全貌が明かされておらず、そもそも2013年ローンチ予定だったのにまだリリース予定日すら出ていない状況。何かしらあるのかもしれないけど、出てきたら確実に大きなインパクトを与えると思われる。リリース文にはこう書いてある。

「LINE MUSIC」は、LINEアプリ内で邦楽・洋楽・K-POPなど様々な楽曲を楽しむことができる音楽配信サービスです。「LINE MUSIC」で購入した楽曲を、LINE上で繋がっている友人に共有するなど、LINEならではの新しい音楽の楽しみ方を提案いたします。まずは日本国内より提供を開始し、その後、世界中のユーザーがLINEで音楽を楽しむことができる環境を作っていく予定です。

「音楽のスタンプ化」のような物になるのだろうか。とりあえず連想されるのは着うたよりも「待ちうた・メロディーコール」だ。電話の先の相手に音を聞かせるサービスとしてはかなり質が似ている。先のグラフでも一定の存在感を示しているサービスだ。悪名高き「レ点営業」によって積み上げられたユーザー数・金額なので、アクティブユーザーは決して多くないだろうが、音楽を聴かせるというタイプの物なので共通性は大いにある。いずれにせよLINEというプラットフォーム上で展開されるのでコミュニケーションの要素は強い物となるのだが、LINEの外に音楽を出せないというようなクローズドな物になる可能性も高く、そういう意味でも「着うたをスマートフォン向けに最適化する」というような物になると考えられる。あくまで想像に過ぎないのだけど、LINE自体がスマホを主プラットフォームとしていてPCはほんの補助手段みたいな位置づけとしてることも考えると可能性は高い。とはいえLINEの特質を踏まえて、カラオケ・着うたの系譜を継ぐ「コミュニケーションツールとしての音楽」の最新系になるんじゃないか。

SpotifyにせよLINE MUSICにせよ、音楽の聴き方にそれなりに新しい風を吹き入れるという風に言われている。しかしタダで聴けるツールなんて、既にYouTubeニコニコ動画もあればSoundCloudもある。そこからみんなそれぞれにあった聴き方を探していく転換期みたいな気がしていて、レコード会社や配信事業者なんかはそこをつぶさに見て取ってアプローチしていくのが正解なんだと思う。「音楽を聴くこと」を、今こそマーケティングするときだと思う。