たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

「ネットの音楽オタクが選んだ日本のアルバム」の豊かさとCDショップ大賞の幅の狭さ

年始に公開されたpitti blogさんの「ネットの音楽オタクが選んだ2013年の日本のアルバム」、すっごく良い企画でしたねえ。

各人がブログやTwitterで発表しているアルバムマイベスト10を集計してランキング化してみたと。その数約260。何が良いって、「この企画をやろうと思ったのは誰もやっていなかったから」というのが良い。自分も音楽業界まとめレンタルCD研究とか誰もやってない事をやってきただけに、今回の記事については拍手喝采です。もちろん僕のマイベスト10も集計対象に入っているんだけど、みなさんが散々語り尽くしてくださった後ながら、僕も話したい事があるのでちょっとだけ書こう。

個人的には最終結果にはわりと納得いってます。特にトップ5については「ネットをよく使う音楽ファンに浸透しているPerfumeサカナクションきゃりーぱみゅぱみゅ」、「2013年の音楽×インターネットの最大の象徴だったtofubeats」、「広い音楽ファンに浸透しつつRIJFなどのフェスにも定期的に出るので幅広く人に聞かれてるのとOID票が集まったスピッツ」とそれぞれに票を幅広く集める理由があるので驚きはあまりない。別に「LEVEL3神論」みたいなものに与するつもりはなくて(アルバムとしてはよくできてるとは思うけど)、やっぱり上位に来たミュージシャンのアルバムは数聴いてランキング作りたいタチの人はみんな聴いてたからトップ10に入る機会も多くてその分票が集まったゆえの結果だろうし、そしてやっぱりみんなPerfumeは大好きですよねと。ただこの観点からするとマキシマムザホルモンのアルバムがベスト10に入ってなかった事は少々意外と言えるかも(ブロガー相手だとネット配信NGにしたことが少々効いているのかもしれない)。

そういう風に上位にはわりとみんなが聴く作品が集まるからねえという妥当感もある中で6位のdowny7位のthe chef cooks me9位の(((さらうんど)))なんかはそのCDセールスに比べると凄く健闘したなとか思うところ。母数増えると人気投票感が出てくる中で、きちんとレコメンド機能も果たしているようなところが面白い。(((さらうんど)))は1stピンとこなかったんだけど今作の評判やlyrical schoolへの「わらって.net」の出来の良さからかなり聴きたくなってるところ。これもこういうランキングのいいところだよね。


downy - 第五作品集『無題』


the chef cooks me - 回転体


(((さらうんど))) - New Age

しかしながらベスト10もそうなんだけどその下の方まで見ても面白くて、少なくともトップ50だけでもポップス・ロック・インディポップ・ポストロック・声優/アニメ・ヒップホップ・大御所とか挙がってる作品がとにかく多岐に渡ってて、それこそオリコンでも音楽雑誌でも見られないような内容。去年は本当にいい音楽多かったんだな、と思わせる内容でした。

しかしながら、そういうことを思うとどうしても言及したくなってしまうのがこれ。

ナタリー - 「CDショップ大賞」にPerfume、ホルモン、クリープら

このニュース見てああホントひどいな、って思った。賞の仕組みを1年前に事務局の人とTwitterで話をしたりしてこの賞がどういう風に成り立っているかについて理解しているだけに。詳しくはこの辺を。

第6回CDショップ大賞 全日本CDショップ店員組合

CDショップ大賞の事務局長さんに賞について聞いてみた - Togetterまとめ

あんまり広報されてないからきちんと認知されてないけど、CDショップ大賞は「CDショップ版の本屋大賞」で、全ての賞はCDショップ店員の投票により決定される。今回のノミネート作品もCDショップ店員の投票で決まっている。サイトに本屋大賞のバナーが貼ってあるくらいだ。ただ、今回の結果はまさに僕が上のTogetterCDショップ大賞の事務局の人と話している「母数増えると人気投票になりますよね」という事がそのまんま起きているし、それによって賞の趣旨が置き去りになっている。それにケラケラを除いたら1次ノミネートも合わせて殆どロックインジャパンに出てきそうな(敢えてロックフェスとは書かない)ミュージシャンばかりで、レコメンドもへったくれもない。

今回の最終選考のFAX応募用紙(PDF)を見てみると選考基準の欄にこう書いてある。

CDショップの現場で培われた目利きを自負し、選考に際して個人的な嗜好に偏る事なく、選考当初はネクストブレイクでありながら、幅広いたくさんのお客様に来店して頂けるような、賞をきっかけにブレイクを目指せる作品を選考基準とします。メジャー・インディーズを問いません。

ところどころ日本語が変な気がするけどそれは今回の主題じゃないので置いておいて、ここでは「自分の好みで選ばないこと」「選考時はまだブレイクしていないものであること」「受賞がセールス・販促に繋がること」の3点が謳われている。そして、第1回の受賞作である相対性理論の「シフォン主義」に関してはそれが比較的達成されている(1点目は本当かどうかわからないからおいておこう)。2008年5月にリリースされた同作は2009年1月に次作「ハイファイ新書」がリリースされこれがヒットしたこともあってふたたびチャート浮上してきていたわけだが、CDショップ大賞受賞により受賞週のオリコンチャートは前週の87位から42位へと上がった(チャートは相対順位ではあるけどここまでの浮上には実売効果が付随していると考えていいでしょう)。

ただ、だからといって第1回の時はみんな賞の趣旨をわかっていたのかというとそんなことはない。第1回の入賞作品には宇多田ヒカルの「HEART STATION」やMr.Childrenの「SUPERMARKET FANTASY」といったどう考えてもネクストブレイクでもないし新しく立ち上げた賞を受賞したところで販促にも結びつかなそうな作品が名を連ねていた。ただ、この時の1次投票数148に対し昨年の投票数約930と広がる過程で、上記に挙げたような3点の趣旨を理解している人の割合がより少なくなった可能性はある。今のままではただ「CDショップ店員にはどんな嗜好を持つ人が多いか」ということを公開するだけになってしまっている。少なくとも、オリコンで初登場一桁に入るくらいの初動を稼げる位にファンを確保できているミュージシャンのアルバムを今更大賞に選出する意義はないんじゃないかな、とは思う。

川下発想なのは理想的な話なんだけど、投票者が賞の目的を理解できるように投票の仕組みを工夫することは必要なのではないか。「ネットの音楽オタクが選んだ2013年の日本のアルバム」の上から20枚を並べた方が本来CDショップ大賞で発掘するべき観点でちゃんとフックアップしている印象すらある。これから大賞の投票に入るわけだけど、第4回までは最終投票の注意書きに「全ノミネート作品を聴いてから投票してください」という文言があったのが今は消去されてしまっている(因みにこれは本屋大賞が採用している仕組みで、最終選考に残った作品を全部読んで、全部に感想を書いた上で投票する作品を書かなくてはいけないという物で、これによって投票の「目利きによる信頼性」を高めている)。投票数を増やすべきか目利きによる賞の信頼性を高めるべきか、賞の目的に沿うのであれば、あくまで後者を追求する方が良いと思うけど。ノミネート作品のうち1/3はオリコン年間トップ100に入っているのでこれに当たっちゃったりしたらもう賞の趣旨なんてへったくれもないですよ。

本とCDは商材の旬が違うから同じようにやるわけには行かなくて色々大変なのはわかるけど、趣旨に沿うなら沿うでやっぱり頑張ってほしいわけですよ。きちんと回ればそれなりに意義のある賞になるわけだから。そういう意味では地方賞の廃止(先述のFAX投票用紙になかった)は痛いような気もするなあ…

1.14追記 地方賞はなくなっていないとCDショップ大賞事務局長の鈴木さんよりご指摘いただきました。ここに修正致します。