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lyrical schoolニューアルバム「SPOT」に見るアイドルラップの可能性

lyrical school Music ディスクレビュー

lyrical schoolのニューアルバム「SPOT」が3月10日に発売された。因みに今回はiTunes Store等での配信も開始されている。

前作「date course」は個々の楽曲やアルバムを通してのコンセプトメイキングが素晴らしく調和した大傑作であり、個人的にもラップ/ヒップホップへの抵抗感を和らげ聴く音楽の幅を広げてくれた大事なアルバムである。そして今作もやはりとても良いアルバムだったので、アルバムを聴いて気付いたことや感じたこと、それからあまりアピールされていない良さなんかも含めて書いていきたい。要は僕なりの推薦文です。

長いので先に結論を書いておきます。以下の理由で、今作「SPOT」はお勧めです。

  • ラップが上達して確実に表現の幅が広がっており、大きなコンセプトの下ながら1枚でヒップホップの様々なサブジャンルが味わえる。
  • 最近MVが公開されているハードコア路線だけでなく夜を感じるメロウな楽曲も盛り沢山(むしろそちらの曲が秀逸)。個々の楽曲のクオリティは引き続き高い。
  • アッパー・縦ノリ全盛の世の中だけどアゲる事だけを重視してなくて気持ちよく聴ける。

では、これからその3点について解きほぐしていきたい。

●「I.D.O.L.R.A.P」の世界の拡張

アルバムの話をする前に少しだけ昨年に行われたリキッドルームでのライブのDVDについて話をしておきたい。

ライブ自体と、それと同時に進んでいた「PRIDE」での取り組みについてはライブ直後に書いた通り。それを踏まえた上でこのライブDVDを見ると、このライブで表現したかったことはこれまでの「アイドルラップ確立」のための4年間を総括してその次の道を示す、みたいな感じだったんだろう。その辺は前述の文書の通りで、付け加えるならちょうどほぼ全曲やることで2時間ちょいくらいになった、という絶好のタイミングだった、ということだろう(この辺について「全曲ぶっ通しライブはどこかでやっておきたかった」とプロデューサーのキムヤスヒロ氏がインタビューで話している)。

ところでこのライブの本編最後にやってリリスクの第2フェーズを見せた「PRIDE」、確かにかっこいい曲であるしリリスクの表現の幅を広げたと思うんだけど、なんというかもうワンパンチ欲しいというかリリスクらしいエッセンスがほしいなあと思っていた。そこにアルバムリード曲として届けられた「I.D.O.L.R.A.P」はまさにその「欲しかったもう一歩」が付加されている曲だった。

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かっこよさとかわいさの両立されているとても良いヒップホップチューンに。ラップの難度は高まっているけどかなり歌いこなしてて彼女達の確実なる上達を感じることができる(その中でもやはりminanのラップの存在感が際立っており、個性的な声の他のメンバーのラップと上手く噛み合っている)。その一方でところどころにはさまれるキュートなフレーズ・歌い回しがアクセントになっていて、「PRIDE」以降さらにグループが先に進んでいることを実感できるで気になっている。そしてインストアライブで「I.D.O.L.R.A.Pに続き披露された「OMG」も同様な感じで冒頭でサイレンや「Make Some Noise!!!」といった男性ボイスが入ったりするなどかなりタイトな感じの音だけど、1番と2番の間の部分が最高にかわいい(動画の1:28~)。

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とはいえこういうハーコー(ハードコアヒップホップ)な感じの曲があまり好みでない人も少なからずいると思うけど、心配する必要は全く無い。確かにそういう曲が今回は先行公開されているが、既発・新曲含め様々なタイプの楽曲が収録されているし従来通りの「リリスクらしい」路線の方も強力な曲が揃っている(なので個人的にはもっとそちらの方も推して頂きたいのだけど…)。BABYMETALがメタルの傘の下で広範なサブジャンルを押さえてやっているように、lyrical schoolもヒップホップの傘の下で広範なサブジャンルを押さえてやっている。そして本人達のこれまでの経験がそれを可能にした。TV.Bros誌に掲載されていたインタビューでも「アイドルだし、ヒップホップだし」と自信の程を語っていたけど、どっちかに寄ることなく両立するというのもまた、BABYMETALのようなオンリーワン性に繋がるだろう。

実際のライブ映像を見るとわかるけど女子ラップにつきまといがちな「ゆるふわ」みたいな感じは彼女達の楽曲・パフォーマンスにはもはや存在しない。そこにあるのは輝きと瑞々しさだ。では、拡張のフェーズに入ったアイドルラップ・アルバム「SPOT」とは、どんな作品なのか。というわけで次の話に移る。

●「SPOT」というタイトルと今作のコンセプト・曲のカラー

「SPOT」というタイトル、これは「Spotlight」の「Spot」です。どっかの場所とかそういうのでは無く、辞書的な意味で言うと「出番」みたいなものも含まれている方の「Spot」。公式サイトのアルバム紹介にはこう書かれている。

アルバムの前半ではシングル曲をはじめ、勢いのある楽曲で華やかなステージ上でのlyrical schoolを描き出し、後半ではステージを降り、普通の女の子に戻ったありのままのlyrical schoolのメンバーを表現した1枚となりました。

そう、今回もまた、ひとつのストーリーをアルバムを通じて表現しようとしているし、その取り組みは成功していると言っていい。次はこの辺について細かく掘り下げていきたい。前述の説明にあるように「SPOT」を浴びている前半、そこから降りた後半、という風に分かれるのが今回のアルバムの基本構造、ではあるのだけど、実はスキット「-4years-」「-8 p.m.-」等を境界線として、もう少し細かく分けることが出来る。

  1. 「I.D.O.L.R.A.P」「PRIDE」「OMG」:ハーコー感のある楽曲で「lyrical school」として名乗りを上げる
  2. FRESH!!!」「レインボーディスコ」「brand new day」:「ラップをするのは楽しいです」なリリスクお得意のパーティーチューン
  3. 「CAR」「月下美人」「ゆめであいたいね」:ステージを降り、普通の女の子に戻ったリリスクメンバーのありのままを描いた楽曲群
  4. 「わらって.net(Album Ver.)」「S.T.A.G.E take2」:おまけ(余興?)、ボーナストラック

1・2でだいたい20分。タワーレコード社長にして所属レーベルT-Palette Recordsの社長でもある嶺脇郁夫氏に「30分くらいのステージならもうどこにも負けないんじゃないか」と言わしめたけど、それがMC挨拶込みと考えると、この前半部分がその30分のショーケースに当たる。この前半部分でリスナーをまずぐいぐい引き込んでいく。特に楽しさ満開のパーティーチューン部分である2はよく知られているリリスクの魅力的な部分が出ているだろう。

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そして普通の女の子に戻った彼女達を表現した3だが、ここが本当に素晴らしい。前作「date course」でも「でも」「P.S.」「ひとりぼっちのラビリンス」の3曲が続くメロウなパートがひんやりとした夜のような雰囲気を醸し出していて秀逸だったが、今回もそれに比肩する出来である(個人的には超えたとすら思っている)。1st 「CITY」に収録されている「bye bye」を彷彿とされる、Kenichiro Nishiharaによる美しいトラックに乗せたジャジーヒップホップトラックである「CAR」、イルリメの作曲によるリリスク史上最も静かな楽曲である「月下美人」、そしてリリスクの良きパートナーであるtofubeatsによる渾身のドリーミーヒップホップ(僕が今名付けた)「ゆめであいたいね」。この3曲が織り成す世界もまた夜なのだけど、前作のような冷たく張り詰めた夜ではなく、「ひとりの夜もさみしくない(ゆめであいたいね)」というような暖かさと幸福感に溢れた夜だ。

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因みに上の動画のBGMであるtofubeats提供曲「ゆめであいたいね」、逆回転・目覚まし時計などの効果音を拓実に使いながらドリーミーな感じを醸し出してる超かわいい系ナンバーだけど、ライブになると重低音がガンガン効いて普通に踊れるトラックになるのが驚き。振り付けも良いし今作で最高にお勧めしたい楽曲であり、tofubeatsリリスクの最高傑作と言えるのではないか。

前に「文化系のためのヒップホップ入門」を下敷きに「ヒップホップは日常に密着している」という話を書いたけど、その話に沿っていうのであれば、今回の「ステージ上と、ステージを降りたありのまま」の両面を一つのシナリオに沿って歌うのはまさに「アイドルのヒップホップ」そのものだし、後半楽曲群の幸福感は彼女達の活動が充実していることの反映だろう。そして今作収録の楽曲の過半数(11曲中6曲)のリリックに「lyrical school」の言葉が含まれているのもまた同じことで、2014年の活動を通して、自分たちの活動に胸を張れるようになってることが現れているのではないかと思える。

残りの2曲はおまけ的意味合いが強いように感じたけど、「わらって.net」のアルバムバージョンは冒頭30秒くらいが最高。これは是非聴いて確かめてみてください。因みにアコースティックアレンジです。

ユニーク過ぎて唯一無二なアイドルとラップのミュータントへ

突然話は変わるが。指原莉乃さんの「逆転力」という本にこんな一節がある。

 (総選挙1位の結果を受けて)できあがってきたのは、「恋するフォーチュンクッキー」です。 正直な話を良いですか? 最初にこの曲を聴いたときは、超イヤだったんです。スローテンポだし、疾走感がない。ぜんぜんいい曲とは思えない! 私がアイドルの曲に求める物は疾走感なんですよ。それを秋本さんに伝えたら、「おまえが好きな曲は目をつぶっても書ける」と言われました。だったらそれを書いてくれればいいのに…

このあといざ出てみたら評判が良かったので自分も好きになったというオチがつくんだけど、中学生からかなり筋金入りのハロオタだったことで知られる指原さんのこのコメントは、割と標準的なアイドルファンの態度を示しているんじゃないかという気がする。ロックフェスで体感重視の高速四つ打ちディスコビートっぽい物が一世を風靡しているのは僕も散々指摘してきたけど、アイドルでも同様の傾向がみられる。大きくブレイクしているアイドルを見てもアッパーだったりテンションの高い曲が多いし、TIFでもやはりそういう曲を選択する人達が多いのねという感想を抱いた。

もちろんそうでないアイドルはたくさんあるけど、とりわけリリスクはそういうシーンの流れからかなり離れたところにいるように感じる。曲調がヒップホップであるために縦ノリ寄りではない(全くないとは言わないけど)し、(メンバーの名前を呼ぶタイプの)コールやMIXも殆どない。ただ、縦ノリ一辺倒では無いがゆえの間口の広さもあると感じているところではある。先日アップアップガールズ(仮)・アイドルネッサンスとのスリーマンライブでは、縦ノリだけでは実現できない独特のグルーブを作り出し、他の2者に全く負けていない盛り上がりを見せていた。この「SPOT」を聴くと、lyrical schoolによる「アイドルラップ」が、EAST END × YURIやKICK THE KAN CREW以来の「ヒップホップを大衆的なポップミュージックとして受け入れてもらえる存在」になるポテンシャルを持っていると強く感じる事が出来る。リリスクには徹底的に今のコンセプトを追究して欲しい。

そして7月25日(土)にZepp DiverCityでのライブが決定。リーダーayakaは率直に「今の私達では成功は難しい」と素直な心情を吐露しているし、昨年のリキッドルームが結果的には満員になったものの当日券も出ていたことを考えるとわずか8ヶ月で3倍弱の動員は率直に難しい挑戦と言わざるを得ない。何かしら飛躍のジャンプ台として考えていることがあるのかもしれないが、あるのであればそのジャンプ台への助走としてこのアルバムが機能するだろう。それだけのポテンシャルを感じる作品である。この文章を読んだ人は是非「SPOT」を聴いて欲しいし、ライブを見に来て欲しい。幸いにして今週は都内中心でリリースイベントとしてフリーライブが行われているので、お近くの人は是非行ってみて体をゆらしてみて欲しい。(木曜日と土曜日のタワレコ新宿店は20時以降の回があるのでお仕事後等に行けてお勧めです)

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リリカルスクール WEEKEND革命 みんな揃って記念撮影 クシャクシャむちゃくちゃ変顔 おいでよわらってプチャヘンザ!

lyrical school「レインボーディスコ」