たにみやんアーカイブ(新館)

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「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#06 「韻をふんだっていいんじゃない」

久しぶりに書いた業界分析というかレンタルの記事が大いなる盛り上がりを見せて驚きを隠しきれない僕ですが(ご覧頂いた方どうもありがとうございます)、予告通り通常運転で例のやつの更新を(レンタルについては補論みたいなのを後日書くかも)。いよいよ第6回となりましたNHK Eテレ亀田音楽専門学校ケーススタディ。おそらく今回が折り返しかな。ところでこの番組の視聴率どれくらいなんだろう。データ探してるんだけどないんだよね。お金払わないと取れないのかな…?特別枠で再放送したくらいだから好評なのだろうけど性格上数字での裏付けがほしいわけでして。笑

さて、そんなこれまでの回のケーススタディはこちらから。

さて第6回「韻をふんだっていいんじゃない」。今回も講師はKREVAさん。というかこのお題KREVAさんのためにあるようなもんだね。例により前半は講義内容を要約して、後半はその内容に従ってケーススタディということでその手法が実際に使われている曲を解説するという形で。

●講義内容の要約

韻とは文章の中に母音の並びが似ている言葉を散りばめて詞の流れにリズムを与えるテクニック。今日のテーマは、この「韻」がJPOPに与えている影響を掘り下げている。因みに、KREVAのフィールドであるヒップホップのラップではマストではないけど激しく求められている。まず、JPOPの曲の中で韻を踏んでいる曲を例にとって考えてみることに。

最初の例として挙げられた「JPOPでも素晴らしい韻を踏んだ名曲」はサザンオールスターズ愛の言霊~Spiritual Message~」。「生まれく抒情詩とは 蒼き星の挿話 夏の調べとは 愛の言霊」の一節では「とは→挿話→とは→とだ(最後ちと強引)」で、「童っぱラッパ」は「わっぱ→ラッパ」で韻を踏んでいる。

韻から聴き手は何を感じて、アーティストは何を伝えようとしているのかを読み取ることで、韻の効能を探るのが今回の目的。そしてやはり韻といえばラップ、ということでラップの魅力を探る。ところでラップとは何?との小野さんの質問に、「リズムに乗って歌ってるとも喋るとも違い、楽器のように言葉を韻を踏みながらリズム良く発するもの」と、KREVAさんが回答。というわけで、ひとまずこれをラップの定義ということにしよう。

さて、ここで流れるは20年前の日本語ラップの大ヒット曲、EAST END × YURIの「DAYONE」。これを素材にラップのリズム感について勉強していくことに。この曲では最初は語尾の母音合わせに終始している(彼→一目惚れ→凄腕→完璧で→車で)。そこから後半になると「はなっしー→だっしー→あやっしー→やさっしー」と複数の音で韻を踏むようになってくる。そうやって韻を踏むことでリズム感が出てくるのだ。次から次へと同じ母音が出てくることによる快感もある。

続いては、校長のお気に入り曲であるというKREVA先生の「あかさたなはまやらわをん」。もちろんこの曲でも多数韻を踏んでいる。「ニャー→ワン→パオーン→ガオー→だもーん→わをーん」、となる。「ん」は普段はっきり発音しない分、オールマイティに使うことができる。そして、「こういう表現はどうやって作るんですか?」という質問に、セットで出てくることもあるが試行錯誤する中で出てくることもあるとKREVA先生は答え、韻をふまなきゃいけないからこそ表現が独特になる、とのコメント。

そこで、韻を踏んでない歌詞を韻を踏んだ歌にしてみるという実験をしてみることに。

素材に選んだのは吉幾三「俺ら東京さ行くだ」。既にこの曲は「○○もねえ」と連呼する形になっているが、ただ同じ言葉を繰り返すのは韻ではない。そこで原曲のリズム感と意味を活かした上で、ちゃんとした韻を踏んでいる歌詞にして見ることに。サビだけは最初にできていて「マジこんな村ムリマジこんな村ムリ東京に行くし」と。笑。そして最終的にできあがった歌詞がこちら。

テレビもねえ ラジオもねえ お店がねえからバイトもねえ ピアノもねえ 見たことねえ 巡査毎日ぐーるぐる 朝おきて ばあさんつれて 母屋にじいさんを忘れて 電話もねえ 瓦斯もねえ バスは一日一度来る マジこんな村ムリ マジこんな村ムリ 東京に行くし

たくさん韻を踏みつつ曲の世界観に沿っているという、ね。ラップが面白くなってくるでしょ(by校長)!?

JPOP流、さりげなく踏む韻

何度も韻を踏んでいればいいというのではなくて、たった一度踏むことによって効果を得ているJPOPの名曲がたくさんある。その例として紹介されたのはMr.Children「しるし」。サビの頭の「ダーリンダーリン」から「半信半疑」で韻を踏んでいる。これも「ん」をオールマイティにする使い方。同じメロディのところに戻ってきたときに韻を踏んでいる。言葉とリズムの両方で刺激をされることにより、繰り返された言葉がとても強く入ってくる。ここぞという時の韻の使い方。

KREVAさんの選ぶ韻を踏んだ名曲

  • BONNIE PINK「A Perfeck Sky」 「泣かない→焦がさない」、「(マーメイ)ドジャンプ→ロマンス」と韻を踏んでいる。意味を崩さないで韻を踏んでいるすごくいい歌詞。
  • 藤井隆「ナンダカンダ」 「なんだかんだ→あんたなんだ」と韻を踏んでいる。口ずさみたくなるキャッチーな韻。
  • 真島昌利「朝」 「理不尽を載せリムジンが行く」。この言葉だけで歌い手の庶民感が出ていて、ストーリーが感じられるすごく良い歌詞。

短い言葉でも意味を表現できるところに、韻の奥深さがある。

結論

JPOPの中で韻は欠かせない要素。積極的に使うことで楽しくメッセージを伝えることができる、JPOPの音楽術の魔法のようなもの。韻に親しんで、韻を感じて、自分の作る音楽にちょっと韻を使ってみたら楽しくなるのでは。

ケーススタディ

というわけで、今回は歌詞ベースで選定するわけだけど、番組の構成に沿って選定してみることにしてみようと思う。

韻を踏みまくりなJPOPの曲

Negicco「相思相愛」

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新潟のローカルアイドルから今年は全国区のアイドルになろうとしつつあるNegiccoのキャリア10年目にして初めてのオリジナルアルバム「Melody Palette」に収録されている一曲。作詞・作曲は今年最注目のトラックメイカーtofubeats。この曲はサビで韻を踏みまくっているのが特徴で、まず「好きになって→内気な自分」ときて、後半のフレーズで「ど(う)にかしたい→ど(う)してもすきさ→ど(う)にかしたい→とじまりできない」と韻を踏む。結果、タイトル通りの「相思相愛」を望んでやまない、恋する女の子の弾むような感情をリズミカルに表現できているわけだ。すごくお手本のような韻の使い方。

というわけで、これが収録されている「Melody Palette」は、とてもよいアルバムなので超オススメ。

韻を踏んでるラップの例

何度かこのブログで触れてるんだけど、僕は純粋な(っていうとなんか変だけど)HIPHOPが苦手というかあまり好きではなくて、今回選定した曲はどちらかというとHIPHOPの意匠を組み入れている曲になっている。まあいずれにせよしっかり韻を踏んでいますので。

lyrical school「そりゃ夏だ!」

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清純派ヒップホップアイドル、lyrical schoolがこの名前に改名してタワレコ傘下のT-Parette Recordsに移籍してからの最初のシングル。この曲も作詞・作曲はtofubeats。まあヒップホップアイドルというわけで全曲ラップありまくり韻を踏みまくりなんだけど、その中でもとてもわかりやすく韻を踏んでいるのでこの曲を紹介しようというわけ。「リリカルスクール耳貸すブーム」「1から10までめちゃくちゃクール」ときて、「自宅→(ぜ)いたく」と韻を踏んだあとは、「シャツの裾とか結んだり→シャーベット食べて頭がキーン→夏フェスに出ちゃったり→まぶーしすぎのサンシャイン」とくるんだけど、この4フレーズ、頭は前と後の2フレーズずつで韻を踏んでいるんだけど、しっぽの部分は交互のフレーズで韻を踏むというテクニックを使っていたりする。韻をふんでリズミカルにすることで、夏になって開放感溢れる感じに仕立て上げている。というかかわいい女の子のラップって最高だな!

そんなリリスクの、この曲も収録されているアルバムについてはかつて記事を書いたよ!個人的には今の所今年のアイドル関連のCDではナンバー1かな。因みにNegiccoと同じ、タワレコのアイドル専門レーベルT-Palette Record所属なんだけど、あまり楽曲の配信がされてないところが違ったりしている。でもこの曲だけは置いてある。最初だったからかな。因みに前エントリと絡めると、レンタルはT-Palette全般半年くらい出さないとか結構コントロールしてる。さもありなん。

cero「わたしのすがた」

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東京のインディーズシーンを引っぱる最前線のミュージシャンと言っても差し支えない存在であると思う、cero。その奏でる音はいろんな時代のあらゆるジャンルの音が同時並行的に、高いレベルで融合して流れるのが特徴。まあそれ自体はいわゆる東京インディーシーンのミュージシャン達の共通する特徴であると思うんだけど、ceroはポップスとHIPHOPを簡単に接続してしまっているところでポップスの新しさ、挑戦性において際立っているし高い完成度を保っている。さて、この曲では1番の歌詞がラップになっていて、「あの夕方爽快後悔のあときた豪快崩壊コンパイルしたんだ」とざくざく韻を踏んでいる。ここでも「ん」はオールマイティ。次の節でもがんがん韻を踏み、言葉を詰め込みつつ、印象に残るように歌い上げている。因みに2番では全然韻をふんでいない。

因みにこの「わたしのすがた」が収録されている「My Lost City」は去年のマイベストアルバムに選出致しました。コンセプトアルバム然としているところだけでなく、個々の収録されている楽曲も最高。

さりげなく韻を踏んでいるJPOPの曲

ハナレグミ「家族の風景」

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シャカッ……いやなんでもないです、元SUPER BUTTER DOGのボーカルハナレグミこと永積タカシのソロ曲。レキシのライブに行ったことある人は「貴族の風景?なにそれ?」と思うことがあったかもしれないけど、つまりこの曲のこと。ていうかこの曲10年前の曲なのか……さて、この曲の韻を踏んでるポイントはサビのフレーズで、「キッチンには〜→七時には」というところ。わずかそれだけ。しかしそれだけでそのキッチンに誰がいるのかとかどういうシチュエーションなのかとかが強調されて伝わってくる。因みにこれも「ん」はオールマイティのメソッドを使ってるね。

しかしまあこのシンプルな弾き語り調で物凄く心地よい歌声を放たれるとたまらない気分になるよね。今年カバーアルバム出したけど、オリジナルも大好きだし、クラムボン原田郁子さんPolarisオオヤユウスケさんとのohanaも再開を心待ちにする次第。

小松未歩「氷の上に立つように」


氷の上に立つように 小松未歩 歌詞付きFULL コナンED6(Detective CONAN ED romaji lyrics)

中学高校時代はビーイング系大好きで相当おさえていたんだけど、その中でもダントツで大好きだったのが小松未歩。一般的には名探偵コナンのタイアップでおなじみの人だけど、この曲はそのタイアップ第3弾の曲。サビの「氷の→思い」というところで韻を踏んでいる。厳密には同じメロディーではないんだけどね。ここの部分はまさに氷のように張り詰めるというか、ピーンとくるところがある。

因みに小松さん、今は引退同然の状態(公式アナウンスはない)。基本的にいい曲作る人だったしキャリア開始時に物凄い相当ストックあったし他の人にもたくさん書いてたから今の時代こそ活動してほしかったんだけどな…この曲が収録されている「小松未歩2nd〜未来〜」はおそらく高校時代に一番聴いたアルバム。

選んでて思ったのは結構惜しい(要はドンピシャじゃなくて部分的な)踏み方をしてる人なんかもいてやっぱり手法として浸透してるんだなあと思いつつも、全然踏んでない人もいて、やっぱり傾向あるなあとか思った。まあ当たり前の話なんだろうけど。

さて、次回は槇原敬之さんをゲストに迎えて「ツンデレのシカケ術」。

おあとがよろしいようで(よくない)。