たにみやんアーカイブ(新館)

音楽について何か話をするブログです

2015年上半期の印象に残った音楽の話

とりあえず2015年も半分が経過したので恒例の上半期を振り返る的なやつをやっておきたい。今年からは良かったと思ったCDはとりあえず四半期毎にnoteに書くことにしているので、それをベースにやっていきたい。

2015年1〜3月に聴いて良かったCD|たにみやん|note

2015年4〜6月に聴いて良かったCD|たにみやん|note

気がついたけどここで言いたいこと書いちゃったから意外と本文に書くことないよ!!

●アルバム編

早速だけど2015年6月末時点での暫定ベスト5枚。順位はつけないので、リリース順に記載していきます。

割と迷いながら選んだので、今後変動はありそうな気はします。因みに去年も昨年も上半期に挙げた5枚の内年間トップ10に残ったのは3枚。やっぱ下半期補正(直近補正)っていうのあるんですかね…完全に余談になるけど一昨年は上半期の5枚として挙げた花澤香菜「claire」が年間ベスト20から落ちるということがあったけど、さすがに今作はそんなことないはず…笑

因みに時点はcero「Obscure Ride」かな。

●楽曲編

とりあえず印象に残っているというかよく聴いた5曲。

OK?NO!!「Rhapsody」

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lyrical school「ゆめであいたいね」

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cero「Summer Soul」

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清 竜人25「Mr.Play Boy…♡」

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shiggy Jr.「サマータイムラブ」

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1000文字以内で終わるのは癪なんだけど(笑)、特に付け加えて語りたいことはないです。まだ暫定だからいくらでも変わるよねとは思うけど、なんだかんだでこの辺は下半期もよく聴く曲になるだろうなあという感想。

cero「Obscure Ride」の次に聴きたい「今ジャズ・ネオソウル+J-POP」

ceroの2年半ぶり3枚目のアルバム「Obscure Ride」が今熱い。

 

 

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元々古今東西の音楽ジャンルを縦横無尽に駆け巡り紡ぎ上げていく音楽性が特徴だった彼らだけど、2013年のシングル「Yellow Magus」以降、いわゆるネオソウルのようなブラック・ミュージックへの傾倒を深めていったのは周知の通り。その辺の影響度合いについては前にも書いているのでそちらを参照してほしい。個人的にはその辺りで深掘りしたこともあり、今回のアルバムに特別に新規性を感じているわけでは無い(というか「Yellow Magus」が出てから先述の記事を書く時に既に新規性を感じてた)けど、アルバム単位で出されるとインパクトあるし、それに2014年末に発売されたD'Angelo & TheVanguard「Black Messiah」からの影響がダイレクトに感じられるなど、海外との同時代性という点でもインパクトのある作品だといえる。

というわけでこのアルバムの話をしようと思ったけど既にいろんなメディアで大量に出回っている(しかもレビューに関しては割と同じ内容が多い)ので今更僕が書いても仕方が無い。なので、彼らと同様に「今ジャズ・ネオソウル」的な物が好きな音楽愛好家として、ceroと同じようなアプローチに取り組んでいるミュージシャンを何個か紹介してみようと思う。

と、その前に今ジャズ・ネオソウルについて超簡単に紹介。今ジャズに関しては去年の春と秋に1本ずつ記事を書いているのでそれを見てくれれば良いのだけど、ネオ・ソウルというのは2000年前後くらいにアメリカで勃興した「ソウルミュージックにヒップホップのサンプリングやプログラミングの要素を加えつつ生演奏でグルーヴ感を獲得していく」アプローチの音楽のことで、昨年末に15年ぶりのアルバムをリリースしたディ・アンジェロやエリカ・バドゥなんかがその代表として挙げられることが多い。中にはJ・ディラのようなトラックメイカーもその中にくくる人もいたりと音楽的に明確な定義があるわけではない。そんでもって上記のアプローチは今ジャズ勢も取っているのでロバート・グラスパーやホセ・ジェイムスなんかもネオソウルだという見方をする人もいる。まあグラスパーなんかはJ・ディラにめちゃくちゃ影響受けているしエリカ・バドゥをゲストボーカルに迎えたりしているので連続したものとして捉える見方ってのはまあアリなんだろうな、という気がする。

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ざっくりとした特徴としてはサンプリングで作ったビートを人力で再現しようとするために変拍子ポリリズム・リズムのヨレなどが多く見られるということ。それを不自然な物ではなく、気持ちよいグルーヴとするのがこういった楽曲のキモでしょうな。

●Emerald

さて1つ目は昨年CDデビューしたEmerald。このバンドの出自というか抱えているストーリーについては下記の記事をご一読頂ければ。

『音楽を、やめた人と続けた人』最終話:「音楽を続けた人」は、それでもやっぱりバンドをやめない - 連載・コラム : CINRA.NET

ロバート・グラスパーが好きというメンバーがリアルタイムなブラックミュージックを聴く中から紡ぎ出されていったアンサンブル。とはいえ湿度高い感じではなくかなり洗練された形に落とし込まれているなあというのが率直な感想。アルバムも構成がかなり練り込まれている感じでとても良いですよ。

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●SANABAGUN

以前このブログでも紹介したSANABAGUN。ヒップホップを生バンドで再現という所でやってること自体思いっきりネオソウルのそれなんだけど、DJプレイによるスクラッチや揺らぎなんかも落とし込んでいるところが他にはない特徴として挙げられると思う。渋谷で頻繁にストリートライブをやっている。

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●入江陽

「ネオソウル歌謡」と銘打っている入江陽。今年出たアルバム「仕事」、とても良かったです。Emeraldよりもうちょいブラック寄りな感じで、適度な湿度感のあるサウンドで心地よい。「ミュージック・マガジン」の「ceroと新世代シティ・ポップ」特集で新世代シティポップの一つとしてディスクレビューが掲載されていたけど、山梨や鎌倉(曲名に入っている)はシティなのか、という疑問が思い浮かぶ。笑

あとゲストで女性ボーカルが参加している曲が総じてかわいい!笑

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●CICADA

今年の2月に発の全国流通盤「BED ROOM」をリリースしたCICADA。先日初めてライブを見た際に「この人力ドラムンベース、思いっきりRobert Glasper Experimentっぽい」ってTwitterで言ったらドラムの櫃田さんに「その通りです!」と言われるという心温まるやりとりが早速あった。その場でCDも即買いしたわけだけど、何で僕これ買ってなかったんだろうって言う位にどんぴしゃではまってます。リードトラックの「Naughty Boy」なんかもそういったタイプの楽曲なんだけど、ただ手数が多いだけのドラムにならずに落ち着きのあるグルーヴにつながっている。

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ここで挙げた中では唯一の女性ボーカル。どことなくparis match辺りを連想させるセクシーな歌声も良い。

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●それ以外・まとめ

バンド・作品全体で、というのではなく、単曲のアプローチなんかもあったりする。サカナクション「さよならはエモーション」なんかもそうだし、Negicco「BLUE, GREEN, RED AND GONE」なんかもそうなのかな?と思わせるような所がある。

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ここ1年くらいは特にこういうビートがお気に入りであり、やっぱりそのきっかけはceroの「Yellow Magus」だったよなあと思ったりするところなんだけど、当分はこういった感じのをいっぱい聴きそうだなあという感想。夏にはサマソニディアンジェロも来るし、もっともっとこの辺盛り上がって色々面白い物が出来てくることを期待したいところ。

VIVA LA ROCKとオーディエンスの「ノリ」の話

さいたまスーパーアリーナで行われた春フェス「VIVA LA ROCK」に今年も行ってきた。チケットを買って参加したのは初日だけで、残りの日は屋外のフリーライブだけ観覧。地元を盛り上げようとしてくれてるし、ラインナップも他の春フェス(あるいは他の季節のフェスなどと比較しても)新人・新しい潮流のピックアップに熱心な印象があるし、何より会場近いしで今年も行ってきた次第。因みに外側のけやきひろばで行われているVIVA LA GARDENには5月1日から5日間連続で行っているのだけど、それはまた別の話。

因みに見てきたのは次の通り。

5月3日:KANA-BOON→SHISHAMO→Indigo La End→FOLKS→cero(冒頭2曲のみ)→Awesome City Club→KICK THE CAN CREWスピッツBOOM BOOM SATELLITES
5月4日:大森靖子
5月5日:ザ・チャレンジ→Yogee New Waves

4日・5日はビール飲んでた時間の方が長いかもしれない。とりあえずスピッツがめちゃくちゃ良くって見に来て本当に良かったと思えたのとちょっとだけ聴いたceroの新曲がむちゃくちゃドープで凄いことになっていたのが印象的だった。

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イベント自体の感想を先にしておこう。まずフェスのインフラ面の話。新設のTSUBASA STAGE。そのライブ時間だけ出入り口が変わるという変速設定だったけど、導線の面ではそんなに混乱はなかったように感じている(唯一の例外は初日の銀杏BOYZ)。屋外で駅近くのため音量そんなに出せないので、距離を取るとどうしても風で音が流れたりしてしまうのは仕方ないかな。ただ、このステージの設置によって昨年あった「本会場とVIVA LA GARDENの分離感」みたいなのはなくなってて良かった。

オトミセ・イベントブースは行かなくて、どんな様子か結局確認できなかったのが惜しいんだけど、昨年200レベル(入り口入ってすぐ)でやっていたトークイベントを最上階の500レベルまで移したのは導線面からしてもとても良かった。

当日はJAPAN JAM BEACHという競合(と言っていいよね。同じようなメンツながら新人を排してウケるメンツに絞り2,000円も安いチケット出してきたんだから)があったからか昨年同様SOLD OUTにはならなかったものの、ふたを開けてみると前年並みもしくはそれ以上くらいの人出だった。その結果かデイタイムに食事処がめちゃめちゃ混雑していたのが大変残念。どの店も数十分・あるいは1時間以上並ばないと厳しそうな感じだった。夕方前くらいまでそんな状態だったけどヘッドライナー辺りの時間帯にはずいぶん空いてて快適だったので、店増やせっていう話にはならなそう(余っている場所もそんなに無いしね)。

概ねそんなところで、食事難民になった以外はインフラ面含めて昨年から向上していた感じがある。来年はさいたまスーパーアリーナが改修工事を予定していることもあり、5/28-29の2日間で行われることに。「埼玉であること」を強調し、盛り上げようとしてくれているイベントなので、来年も1日は行こうと思っている。

さて、ここからは去年と割と同じ話。昨年書いた話を下敷きにはしているけど、繰り返しばかりではないはずです。

●ロックのスポーツ化の話、復習

去年のVIVA LA ROCKの後に「高速4つ打ち邦ロック」「画一化する反応」「ロックのスポーツ化」みたいな話で一部界隈で話題になった。そして今年どうなったかっていると、よりその傾向は顕著に、というかミュージシャン側も含めて二分されるようになってきた。まずは昨年に続き前日参加された方のこちらの記事。 2015-05-07 - WASTE OF POPS 80s-90s

「別にバンド側がやらせているわけでもないのにみんなが同じタイミングで同じ振りをする」という、オーディエンスのアクションの定型化がより一層目立つ形になっています。アイドルとかV系のライブで見られる傾向がこっちにも流れ込んでいる感。 昨年感想を書いた後に補足していただいた「ライブのスポーツ化」「体育会系女子中心」という状況がより見えやすくなってきました。 バンドがその「機能」のみでもって評価され、バンドのパーソナル等々含めてその「機能」以外のものは何も求められていないという状況です。

ライブ・ロックがスポーツ化しているっていうのはレジーさんのブログによるとROCKIN'ON JAPANの2013年2月号アジカンのゴッチが指摘していた話、ということだけど、このブログの副読本と化している「オルタナティブロックの社会学」を元に再度整理し直しておきたい。

  1. 1990年代初頭のシューゲイザーオルタナティブロックは、ギターリフ重視・音を塊として聞かせるという点で、ロックのサウンド面を大きく革新する物であった
  2. それを後押しするようにPAエフェクターなどの機材も同じ時期に大きく進歩を遂げ、ライブ会場などで音を塊として届ける環境を創出した(一方で録音物の入力音量レベルは年々上がっている)
  3. この、「波の音楽」から「渦の音楽」への変化により、ロックミュージックはダンスミュージック(レイヴやEDMを考えるとわかりやすい)と同様に音に合わせて身体的な運動を呼び覚ます音楽へと変わっていった
  4. この「オルタナティブロック以降のロックが身体の躍動を一義に置くようになった(最も重視するようになった)」現象を「ロックのスポーツ化」と呼ぶ
  5. 近年ではロックフェスの存在がロックのスポーツ化に拍車をかけている。フェスでの音楽の聴き方はミュージシャンの主張や意図や理念ではなく、「今そこに鳴り響く音」そのものだからだ。観客にとっては気に入った音屋言葉の響きに即座に動物的に反応することの快楽がここでは優先されている
  6. また、日本の音楽マンガ「BECK」ではロックフェスを舞台に動員数で勝負するという「ライバルとの勝負」という王道少年スポーツマンが的な展開が見られる。また、演奏シーンで躍動する瞬間をスナップ写真のように切り取り描く手法が効果的に用いられており、これもまたスポーツマンガと相似している点である

レジーさんやゴッチさんの指摘するスポーツ化は「動きの定形化」みたいなところに対する指摘という認識だけど、その前に「ライブで体を動かすこと」重視=フィジカル重視という潮流があるということは間違いない。因みにこの本が出版されたのは、昨年のVIVA LA ROCKの直前である。まさにこの後述べられたことが全て詰まっている(省略したがサークルモッシュやウォール・オブ・デスに関する描写もあり、その点でも前掲のブログと一致する)。そして、現在のいわゆる「邦ロック」が、こういったオルタナティブロックの影響下にあるバンドやそれを換骨奪胎したかのような新世代バンドで占められていることからしても、とても納得のいく話だろう。

柴那典さんはクラムボンのミトさんがインタビューで「EDMと邦ロックは(ある一面においては)同じ機能を果たしてる」と指摘していることをはてブのコメントで述べていたがミュージックマガジンに掲載されたそのインタビューではこう述べている。

EDMも求められているのは音の機能そのものなんです。”ここの拍にはこの音を入れてほしい”という客の要求があったら、それをみんな入れる。その上で音を徹底的に鍛える。そこで共通の感覚を得てボルテージを高めていく。EDMのフェスとか、さながらスポーツの祭典みたいですから。そういうものが今のEDMだと思っています。そこにアーティストのセンスとか、主張はほぼいらないんです。

さっき数行上で見たばかりのような表現ではないか。何度も言うけど「オルタナティブロックの社会学」の出版は2014年の5月頭だ。

ところで上記「ロックのスポーツ化」の話の1〜5までは別に日本特有と言っているわけではない。それでは日本で高速4つ打ち邦ロックがもてはやされるようになった背景は…というところでこのGWに遭遇した出来事から紐解きたい。

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新人歌手である藤原さくらを見ていた人はそれなりに音楽に造詣の深い人が多かったからいろんなリズムパターンに順応できてて裏拍で打てた、というふうに推測するところである。前に「亀田音楽専門学校」の4つ打ちの回のケーススタディでもagehaspringsの玉井さんが「日本人にはグルーヴという概念がない」と著書で述べていた話を引き合いに出したけど、そもそも選択肢が少ないのかもしれない。それもあってインスタントにノれる物に人気が集まっていっているのではないか、というのが僕の認識。

●ロックだけではないスポーツ化・画一化、「盛り上がり」は正義なのか?

「インスタントにノれる」あるいは「インスタントにアガれる」というのが今のライブ現場で起きていることを掴む一つのキーワードなのではないかと最近感じている。リアクションの定型化はそのわかりやすい例なんじゃないか。みんなで同じことして一体感が出てくるとアガるもんね。だからTOKIOみたいな知名度の高い人気者がもてはやされるわけだし、アイドルネッサンスみたいに絶妙なカバーを高い練度でパフォーマンスするグループが耳の早いアイドルファンの間で急速に広まるわけだ(制作陣のインタビュー読んだけど、最初からカバーで行くこと決めてた辺りも含め極めて考えて作られたグループだと感じている)。

「アガる」「沸く」「エモい」「多幸感」等々色々表現されるけど、いつも思うのは「どんな曲にも似たり寄ったりのリアクションを」ということと、「果たしてこういう状態が唯一のゴールなのだろうか」ということ。前者は何度も思ったり言ってるから付け加えることはないんだけど、「楽しみ方は無限大」みたいに標榜しても結果として同じ光景に収斂しているのを見ると何とも言えない気持ちになる。この辺はもっと説明できるようになりたい。

それから後者の「盛り上がりが唯一の正解か」という言葉に対するカウンター的なライブだったのがこのVIVA LA ROCK初日のクロージングアクトを務めたBOOM BOOM SATELLITES本編のセットリストは全て2013年のアルバム「EMBRACE」以降の楽曲のみというセットリスト。この「EMBRACE」は、その前年に川島道行がライブ直前に倒れ、アルバム完成後に脳腫瘍の手術をしたということもあり、より内省的・あるいは暖かみを持つ音像の作品へと大きく変化している物だ。攻撃的な感じではない。

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もう少し具体的な言い方をしよう。この日のBOOM BOOM SATELLITESのライブでは「EASY ACTION」も「KICK IT OUT」も演奏されなかった。アンコールで「DRESS LIKE AN ANGEL」を演奏したが、本編は全部最近の曲で、唯一アッパーな「ONLY BLOOD」ですら、これまでの彼等の代表曲に比べるとソリッドで攻撃的なサウンドという感じの曲ではない。しかしながら率直に言ってこのライブはとても良かった。みんなでおそろいの動作をしたわけでもなく、そもそもそんな曲調でもない(4つ打ちは割とあったかな。でも早いのばっかではない)けれども、じわじわと心の奥底にわき上がってくるものがあった。すぐにTSUTAYAにアルバムを借りに行ったわけだけど、ブンブンの新しいアルバム、とても良いです。

色々言ってきたけどなんだかんだでこの流れが止まるような気はあまりしていない。だってこの定型化みたいなのって、4・5年前くらいから邦楽ロックフェスに行く度にずっと気になってきていたことだし。UNISON SQUARE GARDENの田淵さんがWebラジオで今のライブのノリの傾向を「オーディエンスの、演者とコミュニケーションをとりたいという気持ち(繋がりたい欲)が強まっている結果ではないか」と分析していて凄く納得がいったんだけど、だとするとコミュニケーションが(形の上では)しやすくなったこの時代では当然の帰結というように思えてくる。そしてこれからはもっとそうなっていくのかな、という気持ちにもなる。僕個人としては自分の聴きたいように聴キリアクションするってだけなんだけど、このまま傍観していると現代のライブのレールに乗っかれないミュージシャンがどんどんフェスからはじき出されていって先細りになってしまうんじゃないかなあというのが心配(もちろんフェスが全て、ということを言うつもりはないけど主要な「新しい音楽に触れる機会」ではあるからね)なのでこういうことを言っているというところもあったり。

なんだけど、Awesome City Club(大入りではあったけど他の新進ロックバンドみたいに規制にはならず)やcero(客入りはぼちぼちってくらい)なんかを、例えそこまで集客に結びつかないとわかっていてもきちんと意志を持って呼んで紹介してくれようとしているVIVA LA ROCKにはとても好感を覚えているので、来年も行く予定です。

リリスクのことがよくわかるlyrical school「ゆめであいたいね」MV小ネタ徹底解説

みんなー!元ネタ解説は好きかー!?俺は好きだー!読むのも書くのも好きだー!!

というわけで、ベビメタ以外でやるのは初めてな元ネタ探しの旅。今回のお題は、lyrical school「ゆめであいたいね」のミュージックビデオ。最新アルバム「SPOT」のリード曲です。

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曲の話を先にしとくと、リリスクに長らく楽曲提供をしてきているtofubeatsのプロデュース作品。徹底的にかわいらしさを追求した歌詞とアレンジの中で、ラップ部分での4つ打ちがバース(サビ)で突如シャッフルビートに変わり変貌する、というなかなかトリッキーな編成になっている。さらには自動車の閉まる音、黒電話や逆再生の音など、ドリーミーな雰囲気を出す効果音が大量に盛り込まれている一方で、ライブなんかでは重低音のビートが強調されることドープで踊れる曲にも変貌するたくさんの顔を持つ楽曲。そして、なによりもこういったゆったり目のテンポのラップも、実に情感を込められるようになってるところにメンバーの成長が感じられるところである。lyrical schoolの一番良い部分が遺憾なく発揮されている、と言って良いだろう。

というわけでここからは殆ど音楽の話はありません。

んで、MVはアイドルファンなら知っている人も多いであろう漫画家のナカG先生によるイラストをアニメーションにした物。ナカG先生のアイドルマンガ「推しメン最強伝説」はT-Palette Recordsともコラボしてて、Webから閲覧可能です。そしてこのMVにはリリスクファンなら気づくいろいろな小ネタ・グッズが織り込まれているのです。というわけでそれを解説する、というのがこの記事の目的。ホントは僕よりももっと色々ご存じな方が…と思うんだけど、誰もやらないならやるの心意気。不足分はご遠慮なく指摘してください~。それから多数の方のTwitterでのツイートなり参考にしてますので、この場で改めて御礼申し上げる次第です。

因みにかなり小ネタ寄りなので、全般的な説明を見たい方はLoGIRLの「5日間でわかるlyrical school」や、昨年ダンスニュースメディアサイトDewsに載った紹介記事なんかをご覧ください。

では早速解説。

1番

基本構成は川辺の土手を歩くayakaを、各メンバーがラップをする箇所でそれぞれ追い越していく、というもの。このとき追い越すのに使われている物は基本的にメンバーの個性を反映した物だったり過去の作品からの引用。

因みにminanが自転車で通り過ぎるときにayakaが靴紐を結んでいるのは「PRIDE」の2番歌詞にある「緩んだシューレース ギュッと結んで 自分で決める終点地点」から。

スクリーンショット 2015-04-13 22.50.27 スクリーンショット 2015-04-13 22.51.00 スクリーンショット 2015-04-13 22.51.26 スクリーンショット 2015-04-13 22.51.44 スクリーンショット 2015-04-13 22.52.00

そして間奏ではずっと電話の音が鳴るんだけど(ライブビデオ見るとわかるけど振り付けも電話を受ける仕草になっている)、僕これずっと目覚まし時計だと思ってた。どうやらナカG先生もそう思っていたようで、結果ここは後の歌詞との整合性を考え黒時計型の目覚まし時計を使うことになったよう。そして、この電話型目覚まし時計にはリリスク及び前身のtengal6のロゴステッカーが貼られている。

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因みにこれ、実在する商品だそうな。ただしネット通販はどこもかしこも売り切れ。残念!

2番

2番ではそれぞれのラップパートの時に彼女達の日常描写が差し込まれる。順々に画像を見ながら解説。

ami
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amiといえばくせっ毛(天然パーマ)。ということで髪の毛のセットに苦労する様子が描写されている。また、この後出てくるメンバーも全部そうなんだけど、着ている服は全部グッズとして販売された物。因みに、tofubeatsリリスクに曲を書く際に歌割りも全部自分で決めるとのこと(その時に6色にした歌詞カードを送っているとのことで、現在のリリスクのCDブックレット記載の歌詞が歌唱メンバー毎に色分けされているのはここに由来している)。このamiパートはこの曲において両者が築いてきた密接な関係性が最も強くうかがえるところでもある。

ayaka
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ayakaといえば「大部さん」と敬称で呼ばれる業界内でも有名なアイドルオタク……だけどそれは置いておいて(笑)、朝ご飯を食べながら飼い猫の「ちゃぶ(メス・2歳)」と戯れる様子が描写されている。因みにamiはネコを6匹飼っており、yumiは犬やハムスターを飼っているなど、リリスクメンバーのペット飼っている率は結構高い。

hina
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hinaについては自己紹介ソング「tengal6」のhinaパート「リズムで弾けるポップコーンガール」に因んでポップコーングッズが二つ。「P・C・G」と印刷された帽子は昨年の「brand new day」リリースパーティーが彼女の誕生日に近かったために行われた生誕企画でヘッズ(リリスクファンの総称)にプロデュースで製作された非公式グッズ。そして彼女のそばにあるポップコーンは、今年の2月にイオンモールつくばの映画館で行われたライブDVD発売記念上映会で特別販売されたリリカルポップコーンのカップ(このイオンモールつくばのバンダレコード店長による尽力のたまもの。そしてバンダレコードの大宮ステラタウン店でのインストアイベントは相当テンポもグループも双方力の入った物になるということは付記しておきたい)。そしてどら焼きクッションと読んでいるマンガ「ヒナえもん」は、本人がドラえもん好きであることにちなんでのこと。また、meiパートでも出てくるラジカセだが、tengal6時代にアイドル専門放送局Pigooで放送されてた「tengal6のキック!!スネア!!キック!!スネア!!」の「番組ジングルを作ろう」コーナーにて使用された物。それからリリカルポップコーンの近くに転がっているロボットは、本人自作の「ロボ君」。

https://twitter.com/hina0605piyo/status/320466500567834624

minan
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現在Ustream放送チャンネル2.5Dの月一番組「チェケラっ超TV」の「ラップキッチン」コーナーに出演しているminan(同番組にはmeiも出演中)。その天性の飲み込みの速さとリズム感の良さで課題をこなしており、6月にはソロパフォーマンスもする予定となっている。なのでそのMPCをいじるシーンが中心なのだけど、いくつか小道具が。うしろの棚にかけてあるサッカーユニフォームは去年BEAMSとのコラボ商品として作られた物(限定販売もされた)。そして「本多未南」フラッグは昨年のminan生誕ライブ(@高崎市)で使われた物。ロゴを見ればわかるとおり、彼女は椎名林檎・東京事変の大ファン。というわけで同じロゴで生誕Tシャツも制作された

mei
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夜中(だと思う)に書き物をしているけど、何を書いているのかというと「photograph」をライブでやるときに彼女が披露しているフリースタイルラップだろう。因みにmeiはライブ毎にTwitterで自筆のセットリストと「photograph」フリースタイルラップをアップしてくれるが、とても読みやすい文字を書く。そして机の上に置いてあるぬいぐるみは彼女のお気に入りアニメ「ぼのぼの」よりぼのぼのシマリス君)。また、机の上にバドミントン雑誌が置いてあるが、彼女は高校時代バドミントン部で部長を務めていた。因みに他にayaka、ami、minanも高校時代バドミントン部であった(ayakaはウェアをかわいく着こなすことにばかり力入れて腕前はからっきしだったと「IDOL AND READ 003」のインタビューで話しているw)。それから本棚に立てかけているスノーボードは今年のスキーツアーに持参していった自前の物。

yumi
無限寿司HD
yumiといえば寿司。その寿司愛は
彼女のInstagramを見てもらえればわかるだろう。寿司画像オンリーの寿司stagram。因みに好きな寿司ネタはビジュアルなら赤身(というか寿司のビジュアルにアートを感じている)、ということをねむきゅんとの寿司談義で話している。そして美大の卒業制作でも寿司をテーマにしていた彼女が着ている服も、これまた彼女自身のデザインによる「寿司BORDER Tシャツ」。

そして2度目のhook(サビ)では、場面が夕方から夜に切り替わり、メンバーが空にどんどん浮かび上がっていく。これは昨年11月のリキッドルームでのライブにて「FRESH!!!」を披露したときのVJアニメーションと同じ物。言ったファンにとっては感激モノ。

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そしてayakaが待っているメンバー5人の元に走って行くと空には流れ星が6つ、というところで「おやすみなさい」の歌声と共に最後のシーンへ。

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部屋に転がっているのは主に「FRESH!!!」のMVで使われた小道具。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「FRESH」のLPも置いてある。アナログレコードプレイヤーは「そりゃ夏だ!」のジャケット写真にある物。そして、部屋の後方に立ててあるスピーカーは「PRIDE」の初回限定盤のジャケット写真で使われている物。

それから部屋に貼ってある6人のポスターはアルバム「SPOT」発売時にタワーレコードで販促用に作られた「NO MUSIC, NO IDOL」ポスター。

というわけで、「ゆめであいたいね」MV解説を兼ねたリリスクのメンバー紹介でした。因みに説明忘れてましたが、最新アルバム「SPOT」の収録曲なので、曲が単純に気に入ったという方も是非!しかし小ネタだけでなく楽曲の雰囲気ともマッチした本当にいいMVだよなあ。これアルバムのリリースと同時位に出てれb(省略されました。続きを読むにはプレミアム会員登録をお願い致します)

終わりと始まり、それから僕はあのとき何を話していたか

2ヶ月前に書いたこのエントリの続きの話です。今回は、僕の最近の文章としては珍しく日記っぽい感じ。

青春の、パーティーの終わり

3月15日にOK?NO!!のアルバムレコ発ワンマンライブに行ってきた。やれる曲は全部やりますよ~とのことだったので、本来その日に入っていた予定をうまくやりくりして行くことに。

ライブは1月にリリースされたアルバム「Rhapsody」の収録曲を頭から順番に演奏しつつ、その合間に過去アルバムの収録曲やtofubeats「水星」「SO WHAT!?」のカバーを混ぜていく形で進んでいく。ラップとタンバリン担当の菅野氏が床を見ながら「えーっと、残りは…」と言ってメンバーに突っ込みを受けたりしながら、アルバム最終トラックの「Rhapsody」が終了。別に最後の曲とか言わなかったけどどうするのかな?これから入り口でもらった新曲とかやるのかな?と思っていたところでMC。リーダー上野翔さんが「このOK?NO!!というバンド、もう5年間もやっているのです」とバンドのなれそめを話し出す。しかしその次に出てきた言葉は、まるで予想していない物だった。

「今日のライブをもって、OK?NO!!は解散します」

どういうこと?

「2nd「Party!!!」を出したときに、うれしいことにいくつかのブログで取り上げて頂きましたが、その中でも印象に残っているのが「青春ゾンビ」というブログのものです。「きっと無意識に「青春」を「パーティー」とイコールで結んでいたのでしょう。パーティーはいつか終わります。」という一節はとても印象に残っていて、その通りだなあと。そして僕にとってはOK?NO!!がそれでした。Partyはいつか終わるんです。」

※MCの細部までは再現できてません

そして演奏された最後の新曲「See You」もこれまた本当によい曲だったし、まさにOK?NO!!の音だった。

ライブはアンコールに「Party!!!」をもう一度演奏して終了。本当にパーティーは終了した。もちろん大好きなバンドが解散するのは残念だった(しかも解散宣言を聞いたり本当に最後のライブに行ったりというのは人生で初めてだった)けど、その終わり方はあっさりしていて、後に引きずらない物だった。そして家に帰ってから、入場時にもらった「See You」の歌詞カードの内容を確認していたら、だいたい全部納得した。

Hi, charlie! How have you been? Nice to see you. I'm fine. but it's tough for me to move from here. I know. I must found new apartment. Do you know nice one? やあ、チャーリー!調子はどうだい?久しぶりだね。俺は元気だよ。 だけど、引っ越さなきゃいけなくて大変なんだ。新しいアパートを見つけないといけなくてさ、わかってるんだけどね。 良い物件知らないかい?

ここで出ている人名「charlie」は彼等が敬愛しているCymbalsが結成された最初期の名前「Spaghetti Charlie」に由来する。彼等は「Party!!!」にもそこから取った「Meat Spa」というそのものズバリな曲を収録しているけど、最後の一曲を作るときにもここまでド直球なCymbalsオマージュを出してくるとは、と恐れ入った。まるで「最後にもう一度みんなで今まで通りのやり方で最高のものを作ろう」という意気込みで作られたビートルズの「Abbey Road」じゃないか。どこまでも青春で、パーティーで、とびきりアウトプットが良かったOK?NO!!。本当にありがとうございました。初めて(最後)を目撃したバンドがあなたたちで良かった。

始まりの日。あの日僕が話していたこと

ここで話はいきなり2週間ちょっとさかのぼる。渋谷、表参道。この日僕はTWEEDEESのプレミアムショウという名のデビューライブを見に来ていた。TWEEDEESについて改めて説明すると、結成時「Spaghetti Charlie」という名前だったことでおなじみのバンドCymbalsの沖井礼二さんがソロ歌手として活躍していた清浦夏実さんと結成したバンド。沖井さんも淸浦さんも自身名義の作品はここ3年出てなかったということもあり、ファンの期待は肌に伝わってくる程だった。

ライブ自体の内容についてはナタリーのレポートを参照ください(丸投げ)。1曲目からうなる沖井さんのベース、個性の強い沖井サウンドを軽々と乗りこなす清浦さんの上品だけど茶目っ気のある歌声(土岐さん・青野さんの系譜を感じるなあと思ってたらやっぱりそうだった!)、そしてめちゃくちゃ長いMC(FROGの時からそうだったのでわかってはいたけど、更に長くなっていたような)。2015年の沖井サウンドの現在地点を見られて満足。

ところで、その日の夜に上がった、2月発売のMARQUEEでTWEEDEESのインタビューを担当したライターの山本祥子さんによるツイート。

そこにぶら下がっているリプライを見ればわかるんだけど、ここで言われているTWEEDEES論をかましていた「右の方」は僕です。さて、この時僕が話していた「TWEEDEES論(そんなたいそうなものではない気がする)」とは、どのようなものだったのか、インタビューの内容に触れつつご説明したい。結論から先に言うと、「だからTWEEDEESはうまくいく」。

清浦 私はその、最初に映画談義をしたんですよ。で、好きなジブリ映画は何?って話になったら、お互い「紅の豚」で。更にイタリアの話、映画音楽の話から、エンニオ・モリコーネが好きなんですっていったら 俺もだよ!!って返されて。あれ?って。 沖井 「紅の豚」はデカかったと思う。他にも数多くある中で、豚の泣きが好きだっていう。 清浦 あれは大人の青春映画だ!って盛り上がって。うん、そこをとっかかりに合致していった感じがありましたね。

この日(最初に会話を交わした日)の翌日にTWEEDEESの結成が決まったのだ。細かい話だけど価値観が一致しているのは大事。ちょっと話してそれがわかったのであればとてもハッピーなことだ。それにしても「紅の豚」という共通項はなんかわかる感じがする。

しかし、僕が重要と思ったのはこのくだりよりも、その後の初レコーディングの話。ちと長いよ。

清浦 沖井さんに比べて主張が無いと思ってるんですけど……どうなんだろう? 沖井 プライドが高いし、気も強いので、彼女の中で明文化できてない部分もあると思うんですけど、「月の女王と眠たいテーブルクロス」が初の歌録りだったよね? 清浦 その話、しますかぁ(苦笑) 沖井 僕がディレクションして歌ってもらうのも初めてだったから、お互い試行錯誤しつつ、時間がかかったけどいい歌が取れたねって一段落した後に、ほら、僕、多重コーラスが好きじゃないですか。 ——沖井礼二の持ち味ですからね。 沖井 でしょ?いつもの調子で始めたら怒り出して。なんで怒ってるんだろうと思ったら、ソロでは自分だけで歌ってたから、自分の声の曲に他人の声が乗っかるのがイヤだと。 清浦 許せなくて喧嘩したんですよ。なんで勝手にどんどん入れていくんですか?しかも沖井さんの声で!って言い合って。最終的に朝8時のスタジオで私が泣く、みたいな。 沖井 エンジニアさんは凍り付いてて。 清浦 要は互いの持ち場をただ守ってただけなんですけど。 沖井 でもそこまでその持ち場を守ろうとする人は初めてだったし、驚くと同時に、年齢もキャリアも上の人間にそこまで食ってかかれる何かを持っていることに対して、大人の僕は頼もしく思うことも出来るわけで。

まずは沖井さんの言っている通り、とにかく自分をしっかり持っているなあという感想が浮かぶんだけど、その一方で僕は「沖井さんはようやくベストパートナーに巡り会えたのでは?」という気持ちになった。なぜかというと、過去に沖井さんのこんなツイートを見たから。

これを読んだとき、Cymbalsの頃の沖井さんは孤独だったんじゃないかな、ということを 感じた(もちろん憶測に過ぎないけど)。特に後期に至っては土岐さんや矢野さんもソロ仕事が増え、別に何か言おうというモチベーションもなかったんじゃないかな、とか思うわけで、それゆえにCymbalsは続かなかったんじゃないか。でも清浦夏実という人は、制作時には自分を貫いてマジで沖井さんにぶつかっていくし、ライブなんかのトークでもひとり突っ走る彼をたしなめる役割を務めている。こういう風に真剣に渡り合おうとしてくる清浦さんは、もしかしたら沖井さんにとっての最良のパートナーなのではないだろうか。

面白いのは淸浦さんが沖井さんより二回りくらい年下な事。決して100%対等というわけではないのだろうけど、逆にその年齢差ゆえのマジックが生まれてきているんじゃないかな、というのはライブのMCや日々のTwitterなんかでの会話を見ても思うところ。というわけで改めて結論。「だからTWEEDEESはうまくいく」。

そしてその絶好の組み合わせで作られたTWEEDEESの1stアルバム「The Sound sounds,」はどうだったか。清浦さんがナタリーのインタビューで語っていたように、花澤香菜竹達彩奈(時系列の都合上言及されていないがもちろんさくら学院バトン部Twinklestarsもだ)等への楽曲提供を経て、ポップスとしての普遍性を獲得してきた沖井礼二による、珠玉のポップス作品がそろっている。

いつもの沖井節ともいえる「電離層の彼方へ」とかももちろん良いが、どちらかというとそこから小難しさを少し薄めてすっきりとした「沖井ポップス」になっている曲が大半で、FROGやSCOTT GOES FORよりも遙かに幅広い層に届きそうだ。特にM-3「月の女王と眠たいテーブルクロス」や最終トラック「KLING!KLANG!」なんかは特にそうで、軽やかなポップスの中に沖井さんの個性的なベースラインが乗っかる面白い曲だ。

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そして清浦夏実が作詞だけでなく作曲にも取り組んだ「Rock'n Roll Is Dead!?」は、軽快でどことなくみずみずしさの漂うメロディが特徴的なナンバーで、このバンドの伸びしろを感じさせる。ミュージックマガジンの評通りカバー曲に異物感は否めないけど(ジミヘンの「Cross town traffic」なんかはCymbals時代のカバーとほぼ同じようなアレンジだ。まああれはいつもシングルの3曲目で、アルバムには収録されなかった物だし…)、まだまだこの組み合わせで色々聴かせてほしい、と思える仕上がりだ。

そして3月23日、僕はタワーレコード新宿店で開催されたTWEEDEESのインストアライブとサイン会に行った。

沖井さん、清浦さん、どうもありがとうございます(ぺこり)。6月の1stライブ、楽しみにしてますね。TWEEDEES大好きです。

(主にゼロ年代前半の)音ゲーとJ-POPの繋がりを探る

ずっと書こう書こうと思っていたところにどんぴしゃな記事が出て来たので、僕も書くことにしました。音ゲーとJ-POPの繋がりについて。

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上記記事では2000年前後のポスト渋谷系アキシブ系みたいなシーンのミュージシャンが多数参加していることについて書いていて、結構な資料だし極めてきちんと書かれているので同じ事を書いても仕方ない。よって僕はもう少しマクロ視点から話をしてみたいと思い筆を執った次第。

先に定義しとくけど、ここで扱う音ゲー音楽ゲーム)は、その代名詞的存在でもあるKONAMIBEMANIシリーズの、草創期~2000年代半ばあたりの話が中心になります。なぜかというと僕がそれ以降これらのゲームをあまりやっていないから(笑)。それから他メーカーのゲームに関しては基本的に除外しています。他メーカーからの商品はバンダイナムコの「太鼓の達人」以外は不発だったので基本的に省略。太鼓の話なんかは後半の一般化したくだりで読んでもらえると良いんでないかな、と。とはいえこの時期に色々固まってきているので充分語る価値あると思うし、適宜分かる範囲で現代の話も織り込んでいければと思います。なので現代感覚から色々ケチ付けくなるかもしれないけど、せっかくなんでむしろ話を広げる方向でお願いしたいです。

この記事では3つのテーマについて話をします。「ミュージシャンの受け皿としての音ゲー」「音ゲーからJ-POPのフィールドへ行った人」「音ゲーの音楽受容への影響」の3点。

1:シーンを下支えした音ゲー(特にポップンミュージック

初代beatmaniaが稼働したのは1997年。そして初代pop'n musicは翌1998年に稼働開始した。因みにDance Dance RevolutionDDR)も1998年に稼働し、草創期はこの3種のゲームが中心となってムーブメントを生む時期だ。自分自身この頃のシーンは後追いでしか知らないのでざっくり言うと、「ディスコ→クラブ」の流れをbeatmaniaが、パラパラ・スーパーユーロビートなどを当時ヒットしてたアゲアゲ系楽曲を「Dancemania」等からDDRが引っ張り、そしてそういった物から縁遠い普通のポップス好きのためにポップンは用意された。メインキャラクターであるネコとウサギの「ミミ・ニャミ」はどう見てもPuffyを模しているとしか思えなかったし、基本的にファンシーで親しみやすいデザインを思考しており、他の音ゲー(後発の物も含む)からは異彩を放っている。

そして、音ゲーの重要要素である楽曲だが、大部分をEMIのコンピレーションであるDancemaniaから引っぱってきたDDRは別として、基本最初は殆ど内製である。いやまあゲーム会社が作るゲームの音楽だから内製するのは当たり前ではあるのだが。

ただし、beatmania初代プロデューサーであった南雲玲央が、ポップンミュージックを作るにあたって高校の同級生だった杉本清隆を呼んだあたりから様相が変わってくる。

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彼はそのままコナミに入社するのだが、その人脈等から渋谷系界隈のミュージシャンが呼ばれる、という流れが出来てくる。さらにpop'n5あたりからwacこと脇田潤(早稻田大学MMTという沖井礼二・土岐麻子を輩出した音楽サークル出身者)が加入したことによりそのポスト渋谷系ミュージシャンも含めて流れは加速。具体的には下記のミュージシャンがオリジナル曲を提供している。

そう、実は中田ヤスタカもかつてポップンミュージック楽曲を書き下ろしてたことがあるのです。

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時は2003年。Capsuleとしては「CUTIE CINEMA REPLAY」というピチカートフォロワーな感じ全開のアルバム(念のため言っときますと良い作品です)を出していた頃(なのでこの「STEREO TOKYO」もまさにそんな感じの曲)。そしてこの曲を収録したpop'n music 10が稼働開始した2003年8月6日は、Perfumeとのコンビ作品第1弾「スウィートドーナッツ」がリリースされた日でもある。つまり彼はこの頃はまだ知る人ぞ知るくらいの存在だった。因みにこの時は「polyphonic room」というアーティスト名義を使用しているが、その年の秋にリリースされたCapsuleアルバムの名前がズバリ「Poly Phonic」だったり。

人脈という要因はあったにせよ、この時期に渋谷系のシーンが縮小していた(以前も書いたけど1990年代半ばから縮小しはじめ、ポップンミュージック第1号稼働の1998年にはブームは完全に終わっていた)ことも背景としては見逃せない。最近一部声優の楽曲にポスト渋谷系人脈がコミットしているように、かつては音ゲーにコミットしてもいたわけだ。単純にお金があるところがシーンの受け皿になっていたということだが、シーンが決して断絶していたわけではなく、90年代と10年代を繋ぐ役割の一翼を音ゲーが担っていた、とも言えるのではないか。

beatmania/beatmania IIDXがクラブミュージックに果たしていた役割、というのも同様にあるみたいなんだけどそこは僕は全くテリトリー外なので割愛します。あとBEMANIシリーズの誇るマルチコンポーザーTOMOSUKEの話もしたかったんだけど字数足りないのとこの流れで上手く話せないので割愛。

 2:音ゲー出身のミュージシャン

2000年代になって音ゲーが音楽ジャンルの一つとして定着したところで、そこで使われている音楽自体を押し出しても良いんでないかという流れが出てきた。まずはサウンドトラックへのロングバージョン(音楽ゲームは回転率を考慮して1曲の長さを1分半程度にしていた。ロングバージョンというのは普通のポップス的な3〜4分の物)の収録。そして、そこで歌ってるミュージシャンの単独CD発売である。しかし実際には新谷さなえ(元々コナミの受付嬢だったが歌唱力を買われポップンの歌姫に)もBeforUbeatmaniaシリーズのためにオーディションで結成されたガールズグループ)も、セールス的にはたいしたインパクトはなかった(近年はあさきのアルバムが万単位で売れるなど、状況は変わっているけど)。一方、コナミ音ゲーに携わってた人が普通にJ-POPのシーンで活躍していたりする例が実は存在している。ここでは、そういう方を2名挙げる。

平田祥一郎

通称ヒラショー。前述の新谷さなえと組むことが結構多かったりしたけど、音ゲー界隈でみんな知っている有名曲を作ったというわけではない。どちらかというと通好み感があった。

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むしろ退社後に作った曲の方が(音ゲーマーにも)有名だったりする。一番有名なのは間違いなくSMAPの「Dear WOMAN」。

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このほかにもハロプロ楽曲の編曲にたくさん参加しており、モーニング娘。君さえ居れば何も要らない」、℃-ute「都会っ子 純情」「THE FUTURE」、スマイレージ夢見る15歳」「ショートカット」など多数楽曲の編曲を担当している、今もJ-POPの最前線で活動しているクリエイターである。

佐々木博史

2000年代前半のGUITARFREAKSdrummaniaのコンポーザーの中で最も人気があったのが彼。ピアノ主体で緻密かつ荒々しいプログレッシブロックが得意で、今でも人気のある曲が多い(楽曲特性上高難易度だから、というのもあるけど)。

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人気絶頂とも言える時期にコナミを退社ししばらく表には出てこなかったけど、現在は嵐の楽曲の編曲を主に担当している。最新シングル「Sakura」も彼の手による物だけど、2014年の作品である「誰も知らない」はイントロにかつての手癖がかなり残っている。例により動画が少ないのと当該部分を取り出しやすいため、ピアノコピーしてくれた動画を掲示する。

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もう10年以上経ってるから時効だと思うので言うけど、drummaniaの初期プロデューサーだった桜井俊郎さんがコナミを退社しソロで音楽活動を始めたときに佐々木さんがサポートで来てて、それが大学の近くのライブハウスだから何度も会ったことがあるんです(打ち上げにも顔を出していた)。なので実は退社すること自体も結構前に聞かされていたりという思い出。それもあって佐々木さんの動向は結構気にしていて、ご健勝そうで何より、という感じ。編曲だけじゃなくて色々出てきて欲しいけどもうちょいですかね。

因みに桜井俊郎さんは現在「Safety Shoes」というバンドを結成して活動している。

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というわけで、「J-POP→音ゲー」のように「音ゲー→J-POP」というルートもある。みんなコナミ辞めてるけど。

 3:音楽受容に音ゲーが果たした役割

さて、冒頭に触れた記事について沖井さんがこんなことを言っていた。

これは確かにあるなあと思うので、プレイヤーであった者としていくつか考えてみたところいくつか思い至ったところがあるので、それについて書いてみたい。具体的には、「第2のカラオケ」と「映像と音の結びつき」。

版権厨と第2のカラオケとしての音ゲー

今もあるのかよくわからないけど(多分あるとは思う)、ゼロ年代初頭の音ゲーには「版権厨」という言葉があった。版権を取得して収録した曲(要は洋邦のヒット曲なんだけど、専ら邦楽の版権楽曲を指す)ばっかりやってゲームオリジナル楽曲に見向きもしない人のことを揶揄する言葉だ。特に僕がよく遊んでいた2001年〜2005年辺りはどこのゲームセンターに行ってもdrummaniaの筐体内選曲ランキング1位はほぼ間違いなく「天体観測」だった。

ちょっとゲーム的な話をすると、「天体観測」自体は<四つ打ちエイトビートが基本の曲でゲーム的には余り面白い曲ではない。なのになぜそれをやる人が多かったのかというと、やりこんで上手くなっていろいろな曲をやっていく「ゲーマータイプ」の人とはゲームをプレイするベクトルが全く別の人達がいたということだ。ゲームセンターに友達と来て、ちょっとできるところ見せるためにみんなが知ってるヒット曲を演奏してみたりする。そんな人達は確かにたくさんいた。

ここで2013年の名著「ソーシャル化する音楽」から、第1章の「ガジェット化する音楽」において音ゲーについて記述された部分を引用する。

「ボタン操作、あるいは映された印の通りの入力によって流れる画面といかに同期するかにポイントが置かれている。あらかじめ用意された音楽にどう合体するかがテーマとなる音楽ゲームは、演奏することで初めて音が発せられ、それによって自己を表現したことになる図式とは異なるものだ。」

ここを改めて読み返して思うのは、「これ採点機能・音域ガイド付きのカラオケと同じだよね」ということ。そう、カラオケと同じような「音楽を媒介としたコミュニケーション」の一つの形として音ゲーというものがあったのではないか、ということを考えている。つまり、「第2のカラオケとしての音ゲー」だ。この流れは、当初はアニメ主題歌などの版権曲ばかり入れていたポップンミュージックが2010年代以降PerfumeサカナクションももいろクローバーZきゃりーぱみゅぱみゅ(イメージ合ってるけど)等を収録するようになったり、jubeatReflec Beatなどの新しいタイプの音ゲーの版権楽曲比率が高いことなんかからも裏付けられる。「若者のカラオケ離れ」みたいなことはよく言われるけど、それは単純に音楽を媒介にしたコミュニケーションが色々出来てて(レジャーとしてのフェスもそうだ)、その中の一つに音ゲーがある、というだけなのではないかな、とか。

 映像つき・キャラつき音楽という用意されていた道

音ゲーは基本ゲームセンターでの展開・画面などは周りの人にも見えるようになっていた、という二つの理由で、ビジュアル的にも何かしら目を引くための工夫なりをする必要があった。そこでbeatmania IIDXとGUTARFREAKS & drummaniaでは曲に必ずMVがつくようになっていた。初期は容量の制約等でFlashなどを使った簡単な繰り返し物やイラスト物が多く、そのインパクトで覚えられている物も結構多かったりする。そして、ポップンミュージックでは個別楽曲にマスコットキャラクターが割り当てられている。毎度全キャラ新規に書き下ろしされるわけではなく、同じキャラクターが次の作品で別の曲を担当する、というようなこともあるために、楽曲の中身だけでなくどのキャラクターが担当するかにも人気が左右される状況だったりもした。

今だから思うのは、こういった「映像やキャラとの結びつき」がこの後ニコニコ動画界隈が盛り上がる下地になったのでは?ということ。冒頭に挙げたブログの続きではBMS・同人界隈の話が出てたけど、音ゲーエミュレーターで楽曲を発表していた作家達はやはりその構造に慣れていたと考えられるのでは無いか。そしてユーザーもまた、映像やキャラクターと音楽が結びついた状況に慣れていたのではないか。若干飛躍している気がするけど、そんなことを考えたりする。

そうすると、やはり所謂音ゲーがある一定以下の世代の音楽受容に相当な影響を及ぼしているんじゃないかなと思えてくる。今どうなっているのかというのは全然ウォッチしていなくてわからないのだけど、誰か広げて言ってくれればなあとか思ったりしている。笑

lyrical schoolニューアルバム「SPOT」に見るアイドルラップの可能性

lyrical schoolのニューアルバム「SPOT」が3月10日に発売された。因みに今回はiTunes Store等での配信も開始されている。

前作「date course」は個々の楽曲やアルバムを通してのコンセプトメイキングが素晴らしく調和した大傑作であり、個人的にもラップ/ヒップホップへの抵抗感を和らげ聴く音楽の幅を広げてくれた大事なアルバムである。そして今作もやはりとても良いアルバムだったので、アルバムを聴いて気付いたことや感じたこと、それからあまりアピールされていない良さなんかも含めて書いていきたい。要は僕なりの推薦文です。

長いので先に結論を書いておきます。以下の理由で、今作「SPOT」はお勧めです。

  • ラップが上達して確実に表現の幅が広がっており、大きなコンセプトの下ながら1枚でヒップホップの様々なサブジャンルが味わえる。
  • 最近MVが公開されているハードコア路線だけでなく夜を感じるメロウな楽曲も盛り沢山(むしろそちらの曲が秀逸)。個々の楽曲のクオリティは引き続き高い。
  • アッパー・縦ノリ全盛の世の中だけどアゲる事だけを重視してなくて気持ちよく聴ける。

では、これからその3点について解きほぐしていきたい。

●「I.D.O.L.R.A.P」の世界の拡張

アルバムの話をする前に少しだけ昨年に行われたリキッドルームでのライブのDVDについて話をしておきたい。

ライブ自体と、それと同時に進んでいた「PRIDE」での取り組みについてはライブ直後に書いた通り。それを踏まえた上でこのライブDVDを見ると、このライブで表現したかったことはこれまでの「アイドルラップ確立」のための4年間を総括してその次の道を示す、みたいな感じだったんだろう。その辺は前述の文書の通りで、付け加えるならちょうどほぼ全曲やることで2時間ちょいくらいになった、という絶好のタイミングだった、ということだろう(この辺について「全曲ぶっ通しライブはどこかでやっておきたかった」とプロデューサーのキムヤスヒロ氏がインタビューで話している)。

ところでこのライブの本編最後にやってリリスクの第2フェーズを見せた「PRIDE」、確かにかっこいい曲であるしリリスクの表現の幅を広げたと思うんだけど、なんというかもうワンパンチ欲しいというかリリスクらしいエッセンスがほしいなあと思っていた。そこにアルバムリード曲として届けられた「I.D.O.L.R.A.P」はまさにその「欲しかったもう一歩」が付加されている曲だった。

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かっこよさとかわいさの両立されているとても良いヒップホップチューンに。ラップの難度は高まっているけどかなり歌いこなしてて彼女達の確実なる上達を感じることができる(その中でもやはりminanのラップの存在感が際立っており、個性的な声の他のメンバーのラップと上手く噛み合っている)。その一方でところどころにはさまれるキュートなフレーズ・歌い回しがアクセントになっていて、「PRIDE」以降さらにグループが先に進んでいることを実感できるで気になっている。そしてインストアライブで「I.D.O.L.R.A.Pに続き披露された「OMG」も同様な感じで冒頭でサイレンや「Make Some Noise!!!」といった男性ボイスが入ったりするなどかなりタイトな感じの音だけど、1番と2番の間の部分が最高にかわいい(動画の1:28~)。

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とはいえこういうハーコー(ハードコアヒップホップ)な感じの曲があまり好みでない人も少なからずいると思うけど、心配する必要は全く無い。確かにそういう曲が今回は先行公開されているが、既発・新曲含め様々なタイプの楽曲が収録されているし従来通りの「リリスクらしい」路線の方も強力な曲が揃っている(なので個人的にはもっとそちらの方も推して頂きたいのだけど…)。BABYMETALがメタルの傘の下で広範なサブジャンルを押さえてやっているように、lyrical schoolもヒップホップの傘の下で広範なサブジャンルを押さえてやっている。そして本人達のこれまでの経験がそれを可能にした。TV.Bros誌に掲載されていたインタビューでも「アイドルだし、ヒップホップだし」と自信の程を語っていたけど、どっちかに寄ることなく両立するというのもまた、BABYMETALのようなオンリーワン性に繋がるだろう。

実際のライブ映像を見るとわかるけど女子ラップにつきまといがちな「ゆるふわ」みたいな感じは彼女達の楽曲・パフォーマンスにはもはや存在しない。そこにあるのは輝きと瑞々しさだ。では、拡張のフェーズに入ったアイドルラップ・アルバム「SPOT」とは、どんな作品なのか。というわけで次の話に移る。

●「SPOT」というタイトルと今作のコンセプト・曲のカラー

「SPOT」というタイトル、これは「Spotlight」の「Spot」です。どっかの場所とかそういうのでは無く、辞書的な意味で言うと「出番」みたいなものも含まれている方の「Spot」。公式サイトのアルバム紹介にはこう書かれている。

アルバムの前半ではシングル曲をはじめ、勢いのある楽曲で華やかなステージ上でのlyrical schoolを描き出し、後半ではステージを降り、普通の女の子に戻ったありのままのlyrical schoolのメンバーを表現した1枚となりました。

そう、今回もまた、ひとつのストーリーをアルバムを通じて表現しようとしているし、その取り組みは成功していると言っていい。次はこの辺について細かく掘り下げていきたい。前述の説明にあるように「SPOT」を浴びている前半、そこから降りた後半、という風に分かれるのが今回のアルバムの基本構造、ではあるのだけど、実はスキット「-4years-」「-8 p.m.-」等を境界線として、もう少し細かく分けることが出来る。

  1. 「I.D.O.L.R.A.P」「PRIDE」「OMG」:ハーコー感のある楽曲で「lyrical school」として名乗りを上げる
  2. FRESH!!!」「レインボーディスコ」「brand new day」:「ラップをするのは楽しいです」なリリスクお得意のパーティーチューン
  3. 「CAR」「月下美人」「ゆめであいたいね」:ステージを降り、普通の女の子に戻ったリリスクメンバーのありのままを描いた楽曲群
  4. 「わらって.net(Album Ver.)」「S.T.A.G.E take2」:おまけ(余興?)、ボーナストラック

1・2でだいたい20分。タワーレコード社長にして所属レーベルT-Palette Recordsの社長でもある嶺脇郁夫氏に「30分くらいのステージならもうどこにも負けないんじゃないか」と言わしめたけど、それがMC挨拶込みと考えると、この前半部分がその30分のショーケースに当たる。この前半部分でリスナーをまずぐいぐい引き込んでいく。特に楽しさ満開のパーティーチューン部分である2はよく知られているリリスクの魅力的な部分が出ているだろう。

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そして普通の女の子に戻った彼女達を表現した3だが、ここが本当に素晴らしい。前作「date course」でも「でも」「P.S.」「ひとりぼっちのラビリンス」の3曲が続くメロウなパートがひんやりとした夜のような雰囲気を醸し出していて秀逸だったが、今回もそれに比肩する出来である(個人的には超えたとすら思っている)。1st 「CITY」に収録されている「bye bye」を彷彿とされる、Kenichiro Nishiharaによる美しいトラックに乗せたジャジーヒップホップトラックである「CAR」、イルリメの作曲によるリリスク史上最も静かな楽曲である「月下美人」、そしてリリスクの良きパートナーであるtofubeatsによる渾身のドリーミーヒップホップ(僕が今名付けた)「ゆめであいたいね」。この3曲が織り成す世界もまた夜なのだけど、前作のような冷たく張り詰めた夜ではなく、「ひとりの夜もさみしくない(ゆめであいたいね)」というような暖かさと幸福感に溢れた夜だ。

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因みに上の動画のBGMであるtofubeats提供曲「ゆめであいたいね」、逆回転・目覚まし時計などの効果音を拓実に使いながらドリーミーな感じを醸し出してる超かわいい系ナンバーだけど、ライブになると重低音がガンガン効いて普通に踊れるトラックになるのが驚き。振り付けも良いし今作で最高にお勧めしたい楽曲であり、tofubeatsリリスクの最高傑作と言えるのではないか。

前に「文化系のためのヒップホップ入門」を下敷きに「ヒップホップは日常に密着している」という話を書いたけど、その話に沿っていうのであれば、今回の「ステージ上と、ステージを降りたありのまま」の両面を一つのシナリオに沿って歌うのはまさに「アイドルのヒップホップ」そのものだし、後半楽曲群の幸福感は彼女達の活動が充実していることの反映だろう。そして今作収録の楽曲の過半数(11曲中6曲)のリリックに「lyrical school」の言葉が含まれているのもまた同じことで、2014年の活動を通して、自分たちの活動に胸を張れるようになってることが現れているのではないかと思える。

残りの2曲はおまけ的意味合いが強いように感じたけど、「わらって.net」のアルバムバージョンは冒頭30秒くらいが最高。これは是非聴いて確かめてみてください。因みにアコースティックアレンジです。

ユニーク過ぎて唯一無二なアイドルとラップのミュータントへ

突然話は変わるが。指原莉乃さんの「逆転力」という本にこんな一節がある。

 (総選挙1位の結果を受けて)できあがってきたのは、「恋するフォーチュンクッキー」です。 正直な話を良いですか? 最初にこの曲を聴いたときは、超イヤだったんです。スローテンポだし、疾走感がない。ぜんぜんいい曲とは思えない! 私がアイドルの曲に求める物は疾走感なんですよ。それを秋本さんに伝えたら、「おまえが好きな曲は目をつぶっても書ける」と言われました。だったらそれを書いてくれればいいのに…

このあといざ出てみたら評判が良かったので自分も好きになったというオチがつくんだけど、中学生からかなり筋金入りのハロオタだったことで知られる指原さんのこのコメントは、割と標準的なアイドルファンの態度を示しているんじゃないかという気がする。ロックフェスで体感重視の高速四つ打ちディスコビートっぽい物が一世を風靡しているのは僕も散々指摘してきたけど、アイドルでも同様の傾向がみられる。大きくブレイクしているアイドルを見てもアッパーだったりテンションの高い曲が多いし、TIFでもやはりそういう曲を選択する人達が多いのねという感想を抱いた。

もちろんそうでないアイドルはたくさんあるけど、とりわけリリスクはそういうシーンの流れからかなり離れたところにいるように感じる。曲調がヒップホップであるために縦ノリ寄りではない(全くないとは言わないけど)し、(メンバーの名前を呼ぶタイプの)コールやMIXも殆どない。ただ、縦ノリ一辺倒では無いがゆえの間口の広さもあると感じているところではある。先日アップアップガールズ(仮)・アイドルネッサンスとのスリーマンライブでは、縦ノリだけでは実現できない独特のグルーブを作り出し、他の2者に全く負けていない盛り上がりを見せていた。この「SPOT」を聴くと、lyrical schoolによる「アイドルラップ」が、EAST END × YURIやKICK THE KAN CREW以来の「ヒップホップを大衆的なポップミュージックとして受け入れてもらえる存在」になるポテンシャルを持っていると強く感じる事が出来る。リリスクには徹底的に今のコンセプトを追究して欲しい。

そして7月25日(土)にZepp DiverCityでのライブが決定。リーダーayakaは率直に「今の私達では成功は難しい」と素直な心情を吐露しているし、昨年のリキッドルームが結果的には満員になったものの当日券も出ていたことを考えるとわずか8ヶ月で3倍弱の動員は率直に難しい挑戦と言わざるを得ない。何かしら飛躍のジャンプ台として考えていることがあるのかもしれないが、あるのであればそのジャンプ台への助走としてこのアルバムが機能するだろう。それだけのポテンシャルを感じる作品である。この文章を読んだ人は是非「SPOT」を聴いて欲しいし、ライブを見に来て欲しい。幸いにして今週は都内中心でリリースイベントとしてフリーライブが行われているので、お近くの人は是非行ってみて体をゆらしてみて欲しい。(木曜日と土曜日のタワレコ新宿店は20時以降の回があるのでお仕事後等に行けてお勧めです)

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リリカルスクール WEEKEND革命 みんな揃って記念撮影 クシャクシャむちゃくちゃ変顔 おいでよわらってプチャヘンザ!

lyrical school「レインボーディスコ」